『咽頭結膜熱について(プール熱)』        
                                  小児科医  浅古 和弘 

@ 起因するウィルスについて
 風邪様症状を起こすウィルスは数多く知られていますが特に高熱・目の充血・喉の痛みを主な所見とするアデノウィルスによる疾患を『咽頭結膜熱(プール熱)』と呼びます。 アデノウィルス感染については聞きなれない言葉と思いますが子どもは良く罹患するウィルスです。またアデノウィルスは50種類近くの血清型が在りますが、特に3型に拠る『咽頭結膜熱(プール熱)』が知られています。他にも1・4・7・14型も『咽頭結膜熱(プール熱)』を発症します。

A 感染経路について
 アデノウィルス感染が大きな流行を見せるのは大抵、夏の暑い時期が多いのですがアデノウィルス自体は通年認められています。                      何故、夏に発症が多いのかは様々な原因が考えられますが理由の特定には至っていません。 しかし、ウィルスの活動が活発になることや患者からの感染は、飛沫感染・経結膜や経口感染が主であること、また幼児や学童に罹患者が多いことなどから、水泳学習や林間学校など集団活動が増える時期であることから感染経路の拡大が要因ではないかと考えられます。
B 症状について
 まずは発熱から始まり咽頭の発赤や扁桃腺炎などが見られます。そして3〜5日間39〜40℃の高熱が続き結膜炎(白目の充血)などの症状が見られます。このような所見(参考1)から当該疾患を診断します。また,上記の症状が全て認められない場合でもアデノウィルス感染が疑われるときには迅速検査キットで咽頭ぬぐい液などからウィルス抗原を検出し、診断の確定をします。初期の症状は一般的な風邪様症状で嘔吐や下痢を伴う胃腸炎や尿路感染症罹患者もいます。診断の過程では溶連菌感染症、EBウィルス(伝染性単核球症)、川崎病などと鑑別診断します。アデノウィルス感染はインフルエンザウィルス感染と同様に全身移行(ウィルス血症)が認められ時に重い全身症状をもたらすことがあります。特にアデノウィルス7型の場合は乳幼児では急性肺炎や急性肝炎・脳炎・などを併発し重症に成りやすいのが特徴です。まれに髄膜炎、ウィルス関連血球貧食症候群(VAHS)も引き起こす場合もあります。
(参考1)
感 染 源 患者からの飛沫・糞便
潜伏期間 約5〜7日間
発  熱 約3〜7日間つづく
諸 症 状 約2週間以内
眼 所 見 結膜充血(一方から発赤やがて両眼へ)目脂(目ヤニ)
そ の 他 後頚部リンパ節腫脹咽頭発赤 嘔吐 下痢 食欲不振倦怠感 など
    
C 治療
 残念ながら抗ウィルス剤はヘルペスウィルス感染及びインフルエンザウィルス感染などの限られた疾患にしか有りません。アデノウィルスにはまだそれは無いので対症療法(吐き気止めや解熱鎮痛剤・点眼薬などの服用)が主なものとなります。しかし肺炎や嘔吐や発熱などによる脱水など重篤な症状があるときは抗生剤や電解質液などの点滴をし、様子を見ます。慎重な全身管理が必要となります。
D 対策
 感染しないための対策の第一は予防です。感染者に近づかない(注1)もちろん、流行の兆しが見えたらうがいや手洗いを励行することは大事です。各家庭ではお子さんやご家族が感染したら外出は避け病気の勢いが治まるまでは静養させましょう。(注1)〔学校保健法第2種伝染病に指定されており主要症状が消退後2日間は登校・登園停止です。] 咽頭結膜熱は新生児からお年寄りまで誰でも罹る可能性がありますが生後6ヶ月から2歳の間・学童年齢に達した子どもにかかる場合が多いようです。これは米国ではサマーキャンプでの流行が多く報告されていますが日本では別名にプール熱とあるようにプールでの水泳学習を介しての流行が多くみられました。感染から回避するためには水泳前後のシャワーやうがい、目を洗うことはもちろんですがタオルやプール自体の衛生管理もきちんとすることが大事となってきます。 しかし最近は学校や幼稚園でプールを介さない集団生活だけで感染するケースも多くみられます。
E おわりに
 最近の傾向としてウィルスによる固有の症状に変化が出てきたように感じます。全く目の充血の所見は無いが他の所見がアデノウィルスによる症状と酷似しているため迅速検査をし、診断の確定に至る場合があります。    また、アデノウィルスに限らず季節性の有ったウィルスの流行期の変動も以前より顕著ではなくなりました。その時期には通常流行っていないようなウィルスに罹患する子どもが年間を通じて見られますから小児科医は思わぬ時期にやって来るウィルス来襲を常に念頭に置き診断しなければなりません。インフルエンザウィルスも今シーズンは数年ぶりに型を変えてきました。異常気象や住環境の変化、人そのものの免疫力の低下など様々な要因が考えられます。 感染症に罹らないためには予防対策は重要ですがワクチンや抗ウィルス(菌)剤なども無い感染症に罹ってしまったら、現在では身体管理や対症療法しかありません。しかし重症化させないためにも簡易検査キット(参考2)などの普及でより確実に原因ウィルスの特定をしてその病気に沿った早期治療が可能となってきました。
(参考2)
院内で検査可能なウィルス等 検出時間
アデノウィルス 15分
インフルエンザウィルス 17分
ロタウィルス 06分
溶血性連鎖球菌 10分
マイコプラズマIgM抗体 15分