Review

2004

 

Average White Band “Living In Colour

A.W.B / Alan Gorrie :b,key,vo Onnie McIntyre:g,vo Fred Vigdor:sax Klyde Jones:g,b,vo Brian Dunne:ds

Add.musicians / Elliot Lewis:key Rob Aries:key  etc…

オリジナルアルバムとしては、前世紀?の97年「ソウル・タトゥー」以来、5年ぶりとなる新作が登場。

公式サイトhttp://www.averagewhiteband.com/では、サイトオンリーの先行リリースと書かれてますが、

梅田のタワレコで発見しました。なんで、全国のタワレコでも入手可能だと思います。価格は1枚2500円ちょっとと輸入盤としては

高めですが、サイトでの販売価格が18ドルなんで、送料等を入れたりすると、昨今の円高を考慮しても、どっちで買ってもトントンでしょうから

早く聴きたい人はタワレコで見つけたらゲットOKです。

全体の雰囲気は、AOR〜スムースジャズ的なサウンドで、前作「ソウル・タトゥー」からの流れを引き継いでます。

なんで、70年代のグループ名の「平均的な白人バンド」から想像もできないような粘ってうねる黒いグルーヴを期待すると、・・・ですが。

ま、全盛期のオリジナルメンバーが、アラン・ゴーリーとオニー・マッキンタイヤーの2人だけになってしまってるんで、しょうがないんですが・・・ねぇ・・・。

ザックリしたホーンセクションのサウンドや、オニーのファンキーなリズムギター、それに、アランのヴォーカルがかろうじて

A.W.Bのアイデンティティを守っている感じ。

そんな中、新しい試みで面白かったのは、ニューオリンズの伝統的なビート「セカンド・ライン」を取り入れたややダウン・トゥ・アースなファンキーチューンの

6曲目、チャック・ローブなんかのスムース・ジャズで活躍するブライアン・ダーンのドラムもいい感じでハネててなかなか。

こういう感じのファンキーさを、もっとグループのサウンドに取り入れていけば、面白くなると思う。

7曲目のややレイドバックした作品唯一のインストナンバーでの、フレッド・ヴィグドーのいたないサックスソロもまぁまぁの雰囲気。

あと、作品最後に2曲収録されてるシュープリームス&テンプテーションズの「アイム・ゴナ・メイク・ユー・ラブ・ミー」

デルフォニックス〜メイジャー・ハリスの「ラブ・ウォント・レット・ミー・ウェイト」というソウルクラシックスのカヴァーは良い、

特に、「アイム〜」の70年代のAORやMORっぽい軽快なアレンジは気持ち良い。

ライブやっても結局は、彼らの唯一の当たり曲で、30年も前の曲「ピック・アップ・ザ・ピーセズ」が一番盛り上がってしまう・・・という悲しい現状の中、

グループのモティベーションを保ち、新作を出し続けるというのは、結構、難しいのかな?

いくら自分達で納得できる音をライブやスタジオで作っても、過去と比較され、「昔の方がいいや」という一言で切り捨てられてしまうのはやっぱり気の毒。

このレビューでも、前半では、かなり厳しいことをコメントしてしまいましたが、過去の全盛期と比較せず、本作単体で評価すれば、

まだまだ黒っぽいグルーヴは健在だし、ザックリしたリズムやホーンも気持ち良い、なかなかカッコいいサウンドなんですけどねぇ〜。

2004年1月10日)

 

Cornell Dupree “Mr.2500 Live at Birdland

w/ Niles Gessinger:key Ralph Reichert:ts Roger Cicero Katja Berg:vo Dieter Heinsohn:b Eckhard Stromer:ds

Mr.2500」って何のこっちゃ〜??と思ってチロチロとライナーを眺めてると、2500枚以上のアルバムに参加してるからだと、

う〜んなるほどねぇ〜、でもデュプリーのことをそんな風に呼ばれてるなんぞ、聞いたことないけどなぁ…。

のっけから、「しょっぱい」つっこみで恐縮ですが、中身も、デュプリーのギター以外は、結構、「しょっぱい」・・・。

デュプリーのライブ盤ということで、ベースはウィル・リーかチャック・レイニー?ドラムは、ガッド?バーナード・パーディー??

かと思って期待すれど、無名のミュージシャンばかり、みんなドイツ人のようです。

どうやら、単身でドイツに乗りこんだデュプリーの「営業ライブ」を録音しCDにしたのが本作というのが実情。

収録曲は、バディ・マイルスの「ゼム・チャンジズ」、デュプリーも参加してたライブ盤での熱い演奏で知られるダニー・ハサウェイの「ザ・ゲットー」

マービン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイング・オン」、これまたデュプリーが参加していた「キング・ピン」のフィルモアでのライブ盤が有名なキング・カーティスの

「メンフィス・ソウル・シチュー」それに、ガッド・ギャングでのブルージーな演奏も渋かったディランの「ウォッチング・ザ・リバー・フロー」など・・・

かなり、デュプリーのファンとしては「そそられる」ラインナップですが・・・。

デュプリーのギターは、どんな場所であろうとどんなバックであろうと「ワン&オンリー」・・・パイプを燻らせながら、ブルージーにレイドバックするあの音なんですが、

サポートメンバーが凡庸で安物のフュージョンのよう・・・デュプリーの素晴らしいギターをよりカッコよく聴かせる深みやうねりがまったく感じられません。

ミュージカルディレクターもつとめているキーボードのニルス・ゲイシンガーは、5~6年前にGRPよりリーダー作をワールドワイドに発売していた人なんで、

他の面子も実力的にはそんなに酷い人達とは思えないのですが・・・ブルースやR&Bの「わびさび」の全く感じられないバッキングはやっぱり興ざめです。

そんな中、まぁまぁなのが、マービン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイング・オン」ジョージ・ハリソンの「サムシング」といったあたりで、サポートが軽くても

曲の良さや、デュプリーの絶妙なメロディの崩し方でなんとか聴けますが、

キング・カーティスの「メンフィス〜」や、ディランの「ウォッチング〜」などのリアルにグルーヴする深いリズムがないと成立しない曲での

薄っぺらい演奏はもうトホホの世界、特に、ここの「ウォッチング〜」を聴いたあとは、ガッドギャングのバージョンで口直しならぬ耳直しをしたくなるよう。

録音自体は新しそうなので、最近のデュプリーのギターを聴いてみたいという人以外には、正直、あんまし、お薦めできるような作品じゃないですね。

2004110日)

 

Bromberg, Brian - Choices Cover Art

Brian Bromberg:b “Choices” (A440 Music)

w/ Jeff Lorber David Benoit Brian Culbertson Dave Kochanski:key,p Eric Marienthal Gary Meek:sax Joel Taylor:ds

Alex Acuna:perc etc

昨年発表された神保彰とのユニット「ブロンボ」では、コントラバスオンリーで「手数王」神保彰のドラムと渡り合ったブロンバーグの新作は、

「ブロンボ」とは正反対?のエレクトリックなスムースジャズ作となった。

ちなみに「ブロンボ」、この種のジャンルのCDとしては、かなり売れたらしい。

「ブロンボ」の相方?神保選手に負けず劣らずの、こちらも「手数王」のベース弾きのブロンバーグだが、

この作品でも当然ながら、弾き倒しているが・・・そうはあまり聴こえない?・・・ブロンバーグのフュージョン作を1枚でも聴いたことのある人なら

知ってると思うが、ボトムのリズムはもちろん、メロディー、果ては、カッティングのリズムまで、ベースでやってのける人なんです。

当然、普通のベースでは全部こなせる訳はなく、ボトムのリズムは、コントラバスやソリッドのベースギターで、メロディやリズムのカッティングなどは、

ピッコロベースやホロウボディでセミアコタイプのピッコロベースを使っているようです。

また、それぞれのベースも、金属弦、ナイロン弦、フレッティッド、フレットレスを使い分けており、セミアコタイプのピッコロベースと思われるメロディーなどは、

リー・リトナーのギター?と思わせるほど。

本作のライナーにも、いつも同様「本作には一切ギターは使用してません」のクレジットが入ってます・・・(苦笑)。

なんで、無理やり全部ベースでやってるような不自然さはなく、普通のスムースジャズとして何の違和感もなく耳に入ってきます。

本作には、ジェフ・ローバーやブライアン・カルバートソンといった「売れる」スムースジャズを手堅くまとめられる大物が多数の曲に参加しているので

サウンドの完成度はかなり高い。

コントラバスによるボトムのリズムがカッコいいヴォーカル入りのR&Bタッチな1曲目、カルバートソンのピアノが心地いい快走感のある爽やかな6曲目、

ベノワのピアノが参加したミディアムテンポの少し叙情的な10曲目、ブロンバーグの作品としてはやや珍しいフォーキーな雰囲気の12曲目などが

特にいい感じ。

スムースジャズとしては、かなり完成度が高く、それなりに面白く気持ちいいサウンドだけど、まとまりが良すぎてBGMに終わってしまいそうな気も・・・。

ま、演奏法そのものは、やや好き嫌いのでそうなミュージシャンですが、エレキベースの「ベースギター」とは全く奏法の異なるコントラバスから、

様々なスタイルのエレクトリック・ベースを弾きこなしているのは、やはり凄いの一言。

その「凄さ」をもっと分かり易くするには、本作のように何でもかんでも全部詰め込むんじゃなく、「ブロンボ」のようにコントラバス1本で勝負するなど、

それぞれの「凄さ」に焦点を絞った作品にしたほうがいいと思う。

例えば、ピッコロベースでメロディを聴かす作品なら、やや線の細さを感じるボトムのリズムのベースは、歌伴を得意とするような堅いベーシストに任すとか、

そういうプロデュースもありではないか。

何でも出来ることは確かに凄いが、そのことがそろそろ逆に、ブライアン・ブロンバーグというミュージシャンの実像がぼやけて、

良いところを見え難くしているのではないか?ということを、この心地よいスムースジャズを聞きながら強く感じたのでした。

2004123日)

 

James, Bob - Double Vision Cover Art

Bob James:p,key David Sanborn:as “Double Vision”  (WEA Europe)

w/ Marcus Miller:b Steve Gadd:ds Paul Jackson,Jr. Eric Gale:g Paulinho da Costa:perc Al Jarreau:vo

ワーナー〜ライノから、リイシューされていたボブ・ジェイムス&デヴィッド・サンボーンの「ダブル・ビジョン」を発見。

といっても、この作品、リリース当初、アナログで購入、その後、CD化された際にも購入、なんで、本来であれば、ど〜でもえ〜ことなんですが・・・。

実は、今回のリ・イシューでは、なんと、2曲、未発表曲が追加されてるという情報があり、実際に商品を確認してみると、やはり追加されてる!

そのうちの1曲は、個人的に大好きな、キャロル・キング=ゲリー・ゴフィンの名曲「ヘイ・ガール」!

かつて日本のビデオアーツが、ボブ・ジェイムスのCTI〜CBSタッパンジー時代のカタログを

リ・イシューした時に、追加曲があったんですが、いつの録音かよ〜わからんようなクズ曲ばかりで

おまけにセッションのクレジットもなし、というトホホがあったんで警戒はしたのですが、

サンボーンのアルトによる「ヘイ・ガール」をどうしても聴きたくて、我がライブラリー通算?3枚目となる「ダブル・ビジョン」を購入しました。

で、その追加曲ですが、ひとつが「Luther」の間違いのような「Luthor」という名前で、ポール・ジャクソンJRのリズムギターが

かなり前面にファンキーなもので、もろ80年代のフュージョンといった感じの「ドン・シャリ」系サウンド。

ガッドの手弾きのドラムにかけられたエフェクターがやや時代を感じさせられるが、

最近、このようなファンキーに泣くサンボーンはあんまり聴けないんで、ま、これはこれでよしかな?

でもやっぱり、こちらは、やや、「デモテープ」的な感じも・・・サンボーンの「チェンジ・オブ・ハート」に入ってたほうが良さげな雰囲気。

ボブ・ジェイムスはバッキングに徹し、ソロはなし、本当にボブが参加してるの?という感じさえします。

お目当ての「ヘイ・ガール」は、ボブ・ジェイムスのキーボードも大きくフィーチャー、サンボーンとのデュエット風に静かにはじまるいい雰囲気。

あのメロディーをサンボーンとジェイムスが、会話するかのごとく、歌い上げる演出はかなりいい感じ。

あまりメロディをフェイクせず、原曲のよさを大切にしたアレンジも好感。

いや〜、こちらはめっけモン、かなり素晴らしい出来です。

ま、未発表の2曲は、既出のダブルビジョンの中に収録するとすれば、この作品の持つトータルなバランスを崩してしまう恐れもあるんで、

「お蔵」になっていたかと思いますが、それぞれ単品で聴けば、なぜ「お蔵」?と思うクオリティではあります。

特に、「ヘイ・ガール」は、サンボーンのファンなら、聴いて損はないトラックでしょう。

ちなみに、この企画は、欧州のWEAのようで、欧州盤のみです。

なんで、以前からあるアメリカ盤や国内盤には、追加収録はありませんので、ゲットする際には、ジャケ裏の収録曲をよく確かめましょう。

2004123日)

 

Complete Wednesday Miles at Fillmore

 / Saturday Miles at Fillmore (So What) 

w/ Chick Corea:el-p perc  Keith Jarrett:org fl Steve Grossman:ts ss Dave Holland:b el-b Jack DeJohnnette :ds Airto:perc voices

「マイルス変態」の間で、今、もっとも熱いブートがこれです。

正規盤「アット・フィルモア」に編集される前のソースが、各曜日ごと、コンプリートで出てきました。

200422日現在、「土曜日」〜「水曜日」の順で発売されており、間もなく、次には「金曜日」が発売されるとのこと。

いずれは、「木曜日」も発売されて、その全貌のすべてが明らかになることでしょう。

ちなみに上のジャケットは、「土曜日」のもの。

正規盤は、各曜日の演奏を「水曜日マイルス」〜「木曜日マイルス」〜「金曜日マイルス」〜「土曜日マイルス」の4トラックに編集して

2枚組みのLPにしたもので、今回出てきたのは、その編集前のライブソースそのまんま。

なんで、その内容は、もう悪かろうはずはなく、興奮、興奮、興奮、興奮の嵐、嵐、大嵐です!!!!。

中山康樹さんの「マイルスを聴け」では、テオ・マセロの編集を褒めちぎってましたが、編集前のソースを耳にした今となっては、

強引に切り貼りした「アット・フィルモア」なんぞ、今回の完全版の「予告編」でしか無くなったと断言します!!

正規盤でも、ドラッグから起因してると思われる「グシャングシャン」具合や「猪突猛進」具合なんかは、よく分かりますが、

編集されているせいか、面白いシチュエーションの出方が唐突なんで、ライブ作には絶対必要な臨場感、そこからくる聴き手との一体感は

かなり欠落していたと思います。

「アット・フィルモア」をライブ盤として聴かずに、ライブソースを使ってテオ・マセロが切り貼りして作った「ジャックジョンソン」のような作品として

楽しめば、当時の空気や雰囲気を上手くまとめたカッコいい作品という既存の評価でいいかと思いますが、

やはりこのライブ演奏の真髄を味わうには、今回のブートには、正規盤とて太刀打ち出来ないでしょう。

「アット・フィルモア」支持者は、無編集バージョンでは、ダレる所があり、きちんとそこをカットして聴き所を集めて編集されている正規盤のほうがいい、

というのがその理由らしいですが・・・無編集版と比較してみると、継ぎ接ぎの仕方が唐突で、無理やり、緊張と緩和のシチュエーションを作り出そうとしてる

感じがして仕方ありません。

正規盤支持者が、「ダルい」とする部分は、リアルなライブでの「緩和」の部分であり熱い部分と熱い部分を結ぶ「リエゾン」だと思うんです。

熱く、カッコいい部分は、その「リエゾン」部分があってこそ、より、活きてくるんではないでしょうか。

ジャズの面白みは、やはり、即興演奏が生み出す未知のストーリー性のようなものであり、その演奏にも「起承転結」が絶対に必要です。

今回で言えば、テオの編集によって「起承転結」の「結」ばかりを継ぎ接ぎした「アット・フィルモア」よりも、

このブートの方が、激しく暴力的でありながら、なぜかえもしれぬ無限の包容力のようなものも感じるNYの「フィルモア・イースト」で繰り広げられた

パフォーマンスの「物語」の実態を疑似体験できるはず。

また特に、即興演奏家として評価の高いキース・ジャレットやチック・コリアの天才的なパフォーマンスの真髄は、切り貼りして作り出された架空の音空間よりも、

音の流れとその継続性を正確に伝える無編集のバージョンから、よりリアルに聴き手に伝わるのではないかと思う。

最後に、中山さんの「聴け」では、「小柳トムの警官コントのホイッスル」(個人的にかなりウケました)と揶揄されていたアイアートについて・・・。

この録音では、この人の打楽器やそのサンバホイッスル、奇声(苦笑??)を強めに拾ってますが、マイルスが意外?にも、

これらに煽られてたり、リアクションしてるパートが少なからずあることを再発見。

これまで、このバンドでは、アイアートは、正直「おまけ」みたいな扱いでしたが、このサウンドを作り出す上で、結構、重要な役割を果たしていたようです。

いや〜こんなソースが耳に出来るとは…「マイルス変態」には、素晴らしい時代になりました、いや〜素晴らしい!素晴らしい!。

200422日)

 

Jazz Crusaders.jpg (9590 bytes) 

 

 

 

 

 

Jazz Crusaders featuring Wayne Henderson "Soul Axess" (True Life Jazz)

w/ Wayne Hederson(tb) Everette Harp Witon Felder Ronnie Laws(sax) Roy Ayers(vib)

Norman Brown Allan Hinds Dwight Sills (g) Larry Kinpel Nathan East(b) Bobby Lyle(key)

Tony Moore(ds) Phillip Ingram Jean Carne(vo) etc

ジョー・サンプルが主導権を握る「The Crusaders」と、今回の主人公、ヘンダーソンがリーダーの

Jazz Crusaders」とは、宗教上の問題なのか個人的な付き合い上の問題なのか、なんかねじれてますなぁ…

両方に参加してるフェルダーを巡る「三角関係」のような・・・んな訳はないわな・・・。

久々にサンプル=フェルダー=スティックス・フーパーがリユニオンした「Jazz」が付かない

Crusaders」の新作にも一人オリジナルメンバーにも関らず不参加だったウェイン・ヘンダーソン

率いる「Jazz」がつくもうひとつの「Crusaders」の新譜が出ました。

70年代中期までの、「Crusaders」のサウンドといえば、ヘンダーソンのTBとフェルダーのSAX

とのユニゾンによるメロディがトレードマークでしたが、

今作では、サックスの相方を曲ごとにチェンジ、14曲中、9曲をロニー・ロウズが担当、

残りのトラックに、エヴァレット・ハープが1曲、フェルダーが3曲、参加しています

1曲はサックス参加なしでフィリップ・イングラムのアカペラ風多重ヴォーカルとヘンダーソン+キーボードによるスタンダードの「虹の彼方」)

多くの曲でコンビネーションを組むロニー・ロウズとヘンダーソンとのコンビネーションですが、これがなかなかいい感じ。

ロウズの作品の多くをプロデュースしてきたヘンダーソンだけに、彼のよさは当然知り尽くしていて、

ここぞという所でサックスをフィーチャー、トロンボーンだけでは、正直、少々、もっちゃりしがちなサウンドにキレとグルーヴを与えてます。

ここまで、ロニー・ロウズとのマッチングが良いとなると、今後のフェルダーの処遇は??などという大きなお世話も考えたくなります。

全体のサウンドは、復活後の「ジャズ・クルセイダース」の流れをそのまま継承、程よく、ヴォーカルやヒップ・ホップ風のラップなども

フィーチャーしながらのグルーヴィー&メロディアスなフュージョン。

この種のサウンドではお約束のカヴァーものは、スティーヴィー・ワンダーの「オーヴァージョイド」、レノンの「イマジン」、

それに、ボブ・ディランの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」。

特に、エヴァレット・ハープのサックスとノーマン・ブラウンのギターをフィーチャーしたちょっぴりラテン風の

軽やかな「オーヴァージョイド」が気持ち良い。

他のヘンダーソンのオリジナルも、都会的なグルーヴをもった気持ち良いメロディーの曲が多く、70分以上のランニングタイムを

持つ大作でありながら、最後まで飽きずに聴けて、なおかつ、何度かリピートしても楽しめた。

やはり、ロイ・エアーズのヴァイブや、フィリーソウルでお馴染みの私のフェイヴァリット・シンガー、ジーン・カーンや

フィリップ・イングラムの歌、それに、ストリートっぽさを出す演出としてちょこっと登場するラップなどが

スパイス的にピリッとフィーチャーされて作品全体の流れにメリハリをつけているからか。

ウェイン・ヘンダーソンのプロデューサーとしての感覚の良さがうかがえます。

何か回顧趣味的でダルくいまいち入りこめなかった「Jazz」の付かない「Crusaders」の新作よりも、

Jazz」のつくこちらのほうが、理屈抜きに楽しめた。

ジャズのエッセンスをアップトゥディトなR&Bのグルーヴとメロディで沢山の人に楽しんでもらうというコンセプトが

Crusaders」サウンドの真髄だとすると、むしろ、ヘンダーソンひとりで取り仕切る(仕切らざる得なくなった?)

こちらのほうが、正統な「Crusaders」サウンドのような気がします。

200429日)

 

Jaco Pastorius & Maucus Miller “New Year Session” (boot )

Jaco Pastorius:key,b Marcus Miller:b Bernard Wright:key Lenny White:ds + Unknown g & ts

8416日、マイク・スターンやウェイン・クランツなんかのレギュラーギグでも知られるNYのジャズバー「55GRAND」での

オーディエンス録音によるソースで、2枚組み。

収録曲は、

1枚目が、1.LIVERTY CITY 2.JAM SESSION I 3.PEOPLE MAKE THE WORLD GO ROUND 4.INVITATION

2枚目が、1.FANNIE MAE / WHY I SING THE BLUES 2.STORMY MANDAY 3.JAM SESSION II 4.JAM SESSION III

オーディエンス録音ということで、テーブルの上に、デンスケ(若い人にはわからんわな・・・ソニーのプロ用のカセットレコーダーの商品名で

いつしか、取材用のポータブル録音機材を、業界ではそう呼ぶようになりました)をポンと置いて録音しただけ?それにしては、音のバランスも

まぁまぁで、聴けない音質ではない。

かつて、DIWから出た「ジャコ=ハイラム・ブロック=ケンウッド・デナード」のブートまがいのソースは、デンスケの位置が悪く、

ジャコのベースが聴こえないという超トホホだったが、こちらはそんなことはない。

が、しかし!!こちらでは、ジャコがベースそのものをあんまり弾いていないという、これもまた致命的な要素があるんだけど・・・。

具体的にはどんな感じかと言うと、1枚目はほぼジャコはベースを弾かず、キーボードオンリーな様子。

2枚目の3トラック目、「Jam Session U」というあたりから、ジャコもベースを弾き出してる感じ。

マーカスのスラップベースの背後で、弱々しく聴こえるフレットレスは、間違いなくジャコだろう。

トム・ブラウンの大ヒット曲「ファンキン・フォー・ジャマイカ」からスタートするジャムセッション。

デンスケの位置が、ややジャコの音を拾いにくいところにあったのかもしれないが、とにかく、ここでのジャコのベースはなんか寂しいというか生気が感じられない。

「薬(=ドラッグ)」の関係だろうか??この頃すでに「死神に追いかけられていた」ような時期なんでまぁ仕方ないんだけど・・・。

「ファンキン〜」の後、ジャコは「ティーン・タウン」のアドリブ部分の「あの」ベースパターンを弾いたりはしてるが・・・それだけ・・・。

マーカスはジャコのコンディションなどは完全に無視して、背後で、楽しそうに、スラップでバッキング。

とにかく、ここで、ジャコのベースに期待する人は、本作は無視していいと思う。

マーカス・ミラーの半分遊び、半分冗談のようなプライベートなギグをこっそり聴いていると思えば、それなりには面白い。

几帳面な性格なのか、自分のバンドでも、熱くなっても演奏に破綻を見せることのないマーカスが、ここでは、ガムシャラというか単純というか

ぶっちゃけてるというか・・・10代の頃のレニー・ホワイトのバンドでの演奏のよう・・・。

マーカス自身は、自分のアイドルだったジャコと一緒に同じ場所で演奏できてかなり嬉しかったんだろう。

本作の聴き所は、ズバリ、そこ、というか、これしかない。

マーカスは、自分が大きな影響を受けたベース弾きとして、ここで競演してるジャコとスタンリー・クラークの名前をよく挙げているが、

自分の恩師に、「先生っ!僕もここまで弾けるようになりましたっ!聴いてくださいっ!」みたいにフレットレスをジャコばりに弾きまくってる

マーカスの純粋さが微笑ましい。

Jam Session T」〜「Jam Session U」へと徐々に熱く盛り上がってゆくが、残念ながら、「U」の途中で、テープストップ、ジ・エンド。

多分、この後も、「燃料(=ドラッグ)」が続く限り、延々と続いていったんだろな・・・怖いもの見たさ半分でその先も聴いてみたい気もしますが・・・

同じような演奏が無限ループしてるだけでしょうね。

ま、なんだかんだ言っても、マーカスとジャコの共演という貴重なソースには違いないだろう。

ネタとしてマーカスとジャコが共演してたということを耳にしても、正直、あんまり、実感がわかないけど、

こうして、実際のソースを耳にすると、そのネタと現実が確実にリンクし、自分の「音楽経験値」がランクアップしたような気にさせてくれる。

そう考えると、やっぱり、「ブートっていいですねぇ〜」。

2004217日)

 

Bennie Wallace “The Nearness of You” (Enja~Justin Time)

Bennie Wallace:ts Kenny Barron:p Eddie Gomez:b

99年のEnja盤のガーシュイン集「Someone to Watch Over Me」のジャケ写の下で寝転んでいたお娘ちゃんが、

今度は、ウォレスにぴったりと寄り添ってます・・・この人、ウォレスの彼女?カミさん?行きつけの飲み屋の娘ちゃん?ま〜ど〜でもえ〜ですけど・・・。

若い頃、アルバート・アイラーやアーチー・シェップ、コルトレーンらの強い影響を受けたというベニー・ウォレス。

70年代のEnja盤なんかでの硬派なパフォーマンスや

80年代のブルーノート時代、スティーヴィー・レイ・ヴォーンとやりあったブルージーで豪快なブロウなどで、

「野武士」のようなイメージがあったウォレスの作品のジャケットとしては、正直、ちと違和感、あります。

さて、本作、例のお娘ちゃんがジャケ写に初登場したバラード作の続編のような雰囲気。

そのガーシュイン集は、マルグリュー・ミラーを中心としたピアノトリオをバックにしたカルテットでしたが、こちらは、ドラムレスのトリオ。

通常、ドラムレスの作品といえば、室内楽的な雰囲気で退屈、つまらないといったイメージですが、ここでは、そんな心配は杞憂でした。

これぞテナーサックスといった豪快な音色、シンガーの「こぶし」の如くウネりまくるフレーズ、絶大な個性を持つウォレスと、

サポートの名手バロン、70年代からの付き合いでウォレスの個性や良さを知り尽くすゴメスという3人が集えば、

もう物足りなさなど微塵も感じさせられません。

もの足りないどころか、かえって、ドラムレスの方が、3人の名手の演奏を際立たせてる感じさえします。

3人によるインタープレイというよりも、ウォレスのテナーを、ある場面ではバロンが、また別の場面ではゴメスが、という感じで、

あくまでも、ウォレスの「テナーサックス=歌」を邪魔しないよう、極力シンプルにサポート、まさに「包み込む」ような雰囲気です。

「降っても晴れても」「柳を泣いておくれ」「ニアネス・オブ・ユー」「彼女の顔に慣れてきた」「アイム・オールド・ファッションド」・・・などの

有名曲を、シンプルでクラシカルなスタイルで演奏してますが、とにかく渋い。

スタイル的には、一歩間違うと、カクテル風?なんだけど、名手3人よる演奏になると、渋いの一言で片付けられない深みと味のあるパフォーマンス。

骨太で無頼派の男たちが醸し出す「大人の色気」とでも言いましょうか・・・。

いや〜地味ですが、久々に素晴らしいアコースティック・ジャズに出逢いました。

寝酒のお供?として、当分の間、大活躍してくれそうな、私的名盤ですね。

2004217日)

 

Miles Davis “Double Ecstasy” (boot)

Miles Davis:tp Gary Bartz:sax Keith Jarrette:el-p org Michael Henderson:el-b Jack DeJohnette:ds Airto Moreira:perc

まずは、データから。

正規盤「ライブ・イーヴル=Live Evil」の「ライブ=Live」部分、197016日〜19日、ワシントンD.Cの「セラードア・クラブ」でのライブソースから、

CD11216日」(1.DIRECTIONS 2.YESTERNOW 3.WHAT I SAY 4.INAMORTAFUNKY TONK

CD2「1218日の半分」(1.DIRECTIONS 2.HONKY TONK 3.WHAT I SAY 4.SANCTUARY 5.INAMORTAFUNKY TONK 6.SANCTURYTHEME

の形で抜粋し2枚組みブートとして発売したもの。

このライブソース、フルサイズでは、16日=1枚 17日=1枚 18日〜19日=各2枚の計6枚組みのヴォリュームを持つもの。

ここ2年ほど、幾度となくリリース予定がいろんなソースから出てくるものの、何故か一向に、正規盤リリースが実現しないんで、

結局、渋谷の「マザーズ」系列から、2枚組み×3タイトルの形で、ブート先行リリースとなってしまっている。

ちなみに、こちらの抜粋版は、名古屋の「サイバーシーカーズ」系のものだが、元のソースは同じだろう。

みんなが期待するジョン・マクラフリンのギターだが、19日オンリーの参戦(プロレスの興行かっ!つ〜の)だったため、こちらのブートには当然、入ってない。

音質は、本来正規盤で出る予定の流出マスターがソースなんで、ちゃんとした製品レベル。

上でも紹介してる「アット・フィルモア」のノン・エディット・バージョンが、感謝!感激!!超感動!!!だったんで、

こちらもかなり期待をしていたんだけど・・・なんかいまいち印象薄いです・・・「なんでだろう???」(もうちと古いわな)。

「アット・フィルモア」よりも、随分、演奏が、薄味?淡白?単調??。

美味しいところをテオ・マセロが切り貼り、継ぎ接ぎし、作品全体の雰囲気や流れに「ある種の異様さ」を演出にするエルメート・パスコアールなんかが作った

小曲を挟んだ正規盤の方が、迫力というかインパクトを強く感じるんです。

演奏の密度がかなり濃い「アット・フィルモア」のライブソースは、編集なしだと、当たり前ながら、もっと濃くなって楽しめますが、

このソースは、それほどの濃さを感じないんで、上手く編集して煮詰めてゆかないと、上でもコメントしてるように、何か薄くぼやけた印象になるんだと思います。

この要因なんですが、具体的には、ベースがR&B出身のヘンダーソンに変わり、ドラムは、「フィルモア」と同じデジョネットながら、リズムがより

R&Bに接近しシンプルになった分、単調になったせいと思われます。

また、みんなは、キース・ジャレットを褒めますが、この時代のキーボード奏者としては、ローズが歪んでディストーションギターのようなサイケなカラーとフレーズを発した

チック・コリアがいないとどうもしっくりきません。

リズムがR&B的にシンプルになった分、あんまりジャズ的にうねったり、捩れたりしなくなったんで、

その上にのっかかるマイルスのトランペットを初めとするその他の楽器のノリも、いまいちハプニングしてないんですね、実際のところ。

この問題点をプロデューサー、テオ・マセロが、上手く編集したり、単独で聴くと意味不明な小曲をインサートするなどして、流れを盛り上げたり、盛り下げたり?

しながら解決させ、ライブアルバムという枠を超えた大作「ライブ・イーブル」を創りだしたんですね。

「ジャズ=マイルス」のある種のエイペックスが、「ロストクインテット」(今では、これだけ、ブートや正規盤でもいろんなソースが出てきてるんで、

もう「ロスト」じゃないですが)〜「アット・フィルモア」の時期で、それ以降は、R&Bやロック、サイケ、アフロなどの要素をより強く取り入れるために、

あえて古いジャズ的な要素やそれにまつわるミュージシャンを切っていったんだと思います。

事実、「ロストクインテット」では、「マイルストーンズ」なんかの古いジャズナンバーも演奏してましたが、このソースのライブ以降は、古いジャズ曲を

自分のバンドのレパートリーにすることは無かったので、やはり、そういうことなんでしょう。

このソースは、「パンゲア/アガルタ」(正規盤での歴史上の流れとして)でひとつの完成を見る70年代の「電気マイルス」の出発点的存在です。

ここから4日たった19日には、早くも「ロックギタリスト」ジョン・マクラフリンを加えて、自分のバンドのサウンドを一歩ステップアップさせて行く訳です。

(ゲイリー・バーツの回想によりと、マクラフリンの参加は急に決まったことで、リハもほとんどない、ぶっつけ本番だったらしい)

ソース自体の内容は別にして、70年代の「電気マイルス」を正規盤や続々と発掘されるブートを通じて、いろいろとアナライズする上では、

「出発点」となる本作は貴重な存在ですが、普通のリスナーには、正規盤の「ライブ・イーヴル」の方を、強くお薦めしますね。

また、どうしてもライブの全貌を聴きたいという人も、いずれは、ブートよりも安価で、正規盤として発売されることと思いますので、

それを気長に待った方が絶対にお得、正直、高価なお金を投じるほどの内容ではないと思います。

また正規盤は、ボックスとしてのリリースではなく、昨年出た「ブラックホーク」のように、

16日/17日」「18日」「19日」がそれぞれ2枚組で3タイトル別売もされる予定なので、マクラフリン入りだけ欲しいという人には「19日」だけ買うということも

可能になりそうですが・・・ま、それも、正規盤として「出たら」の話ですが・・・。

2004218日)

 

Greg Mathieson “West Coast Groove” (Lmnop Music)

Greg Mathieson:key Abe Laboriel:b Michael Landau:g Vinnie Colaiuta  Abe Laboriel,Jr.:ds Louis Conte:perc

Bill Camplin:vo

メジャーでのリリースが無いため余り知られてはいないけど、通の間では「裏フォープレイ」?の呼び声も高い

マシソン=ランドゥ=エイブ,Sr.=ヴィニーという面子によるユニット「Dyna Four」のリーダー、グレッグ・マシソンの新作。

80年代は、シーナ・イーストンなどのポップ系のプロデュースも手がけていたマシソンだが、90年代以降は、

地味にジャズ〜フュージョンのフィールドで自分の好きなラテンテイストなサウンドをリラックスして演ってる感じ。

今回の新譜も、前作の「Dyna Four」によるベイクドポテトでの2枚組みライブ盤同様、自主制作モノながら、

プロデュースしていたシカゴのビル・チャンプリンが2曲参加、ビルの歌モノは、AORファンが喜びそうなミディアムメロウな雰囲気。

この人の曲は、80年代フュージョンの超名盤のひとつで、TOTOのルークと故ジェフ・ポーカロのパワフルなプレイが炸裂した

「ベイクド・ポテト・スーパーライブ」からほとんど芸風が変わらない、悪く言えば「ワン・パターン」、でもカッコよくて気持ちいい、好きだなぁ・・・やっぱりこれ。

90年代初頭の作品「フォー・マイ・フレンズ」でも演ってた「アイ・ドント・ノウ」みたいな感じの

1曲目(2年程前に出たグレッグのアコピとエイブのベースのデュオCDにも収録されてた曲)や、

キューバ出身のルイス・コンテの打楽器が効果的でラテングルーヴな3曲目、ちょいと前のLAフュージョンといった感じのリラックスした7曲目が特に気持ちいい。

ちと、物足りないのは、参加してるエイブやランドゥ、ヴィニーの演奏がサポートレベルに終わっていること、ベースも何曲かはプログラムだし、

ランドゥはユニゾンのメロとリズムギターのみで、ソロは残念ながらゼロ。

せっかく「Dyna〜」でユニット組んでいるんだから、エイブやランドゥのいい感じのフュージョンセットでの豪快で熱いソロやヴィニーの暴れ太鼓も聴きたかったけど、

これは、LAのベイクドポテトでのライブか、次の「Dyna〜」のライブアルバムででも聴いてちょうだいっつ〜ことなのかな?。

フュージョンは好きだけど、スムースジャズは嫌という「オヤジ系フュージョンファン」にはたまらなく気持ちいいアルバム。

200431日)

 

Melvin Lee Davis “Nature’s Serenade” (自主制作)

Melvin Lee Davis, 4, 5 & 7 string contrabasses,key Gannin Arnold, Grecco Buratto, Russ Chan:guitar Mark Stephens, Jeff Babko, John Beasley,

Noriko Olling:key Eric Marienthal, Brandon Fields, Albert Wing Jeff Kashiwa:sax,fl Walt Fowler:tp David Haynes, Chad Wright, Rogerio Jardim,

Simon Phillips-(one track):ds Cassio Duarte Munyungo Jackson:perc Natali Rene,Gene Moore:vo

最近のリー・リトナー・バンドやスティーヴ・ルカサー=ジェフ・バブコ=サイモン・フィリップスとのハードフュージョンユニット「Doves of Fire」、

少し前のチャカ・カーンのバックバンドでディレクターを務めるなど、

西海岸のフュージョン〜R&Bシーンで活躍するベース奏者メルヴィン・ディヴィスのリーダー作。

すでに2枚(だったと思う?)ほどリーダー作を出しているようですが、ちゃんとこの人のリーダー作を聴いたのは今回が初めて。

彼の活動のフィールドを考えると、R&Bテイストな打ちこみをバックに多弦ベースでメロディをポロポロ・・・みたいなスムースジャズを想像しがちですが、

これが全然ハズレ、スムースジャズ色ゼロ、結構マジメなコンテンポラリージャズ〜フュージョンといった感じです。

マジメといっても、ハードコアな展開やアブストラクトな曲の雰囲気、といったものじゃなく、ラテンやR&B、ジャズ、フュージョンなどの要素を

バランスよく取り込んだフュージョンで、GRP時代のフュージョン作品をリリースしてた頃のジョン・パティトゥッチのソロワークに近い風合いのサウンド。

メルヴィンの使う6弦ベースは、パティトゥッチがヤマハを使う前のファーストソロアルバムなんか頃に使っていた「ケンスミス製」なんで、

ますますそんな感じを強く持つ。

その6弦ベースで弾くメロディも、少しラフなパティトゥッチといった感じで、リトナーのバックでの、ペキペキスラップからすると、少し意外?。

カヴァー曲以外のほとんどの曲を自作しているが、ポップすぎず適度にテンションを効かせたコンテンポラリージャズ〜フュージョンで、その方の腕もなかなか、

また、自分のソロワークだからといって、過剰に弾きまくらず、サックス、キーボード、打楽器などを上手く使ったサウンドメイクのセンスもいい。

その辺は、バッキングやサポートといった裏方をきっちりとこなせるマジメなキャラが功を奏しているよう。

収録されてるカヴァー曲がまた面白い。

通常なら、耳タコのR&Bクラシックでお茶を濁しそうだが・・・そ〜じゃないんだぁ・・・これが。

ウェイン・ショーターの「Footprints」は、まぁ、ありそうですが・・・、

サンボーンの「As We Speak」収録でマイケル・センベロのヴォーカルをフィーチャーしてた「Love Will Come Sunday」、

ドン・グローニックの「Heart and Numbers」収録で、ステップスアヘッドの演奏でも知られる「The Four Sleepers」、

おまけに、スティーヴ・カーンの78年の作品「The Blue Man」収録のランディ・ブレッカーのナンバー「The Little One」という珍らしい曲もカヴァー。

その聴きどころは・・・。

ムニュンゴ・ジャクソンの打楽器によるアフリカンなリズムとクールなジョン・ビーズリーのピアノソロがカッコいい「Footprints」。

サンボーンの作品収録の「Love~」とグローニックの「The Four~」、ランディ・ブレッカーの「The Little~」というフュージョン時代のカヴァーは、

かなりオリジナルに近い雰囲気、オリジナルのマイケル・ブレッカー役をアルバート・ウィングが上手くこなし、

都会的なフュージョングルーヴに再生させた「The Four~」とブランダン・フィールズらによるブレッカーズのようなホーンセクションと

サイモン・フィリップス=メルヴィンの切れのあるリズムがご機嫌な「The Little~」あたりがとくにカッコいい。

地味ながら、なかなか聴き応えのあるコンテンポラリージャズ〜フュージョンです。

リトナーのサポートベーシストというだけでなく、トータルなコンテンポラリー・ジャズ・ミュージシャンとして、

メルヴィン・ディヴィスという名前を覚えておいて損はない、そう断言できるくらい、ここでのサウンドはよく出来ていますね。

200431日)

 

Bob Baldwin “Brazil Chill” (A440 music)

Bob Baldwin:p,key Dennis Johnson Ivan Conte:ds Phil Hamilton:g Ron Jenkins Alex Malhieros:b Leo Gandleman Jeff Kashiwa:sax

Café Armando Marcal:perc  Marcos Ariel:fl ・・・

ウィル・ダウニングなんかを手がけたNYのブラコン系キーボード奏者〜アレンジャー〜プロデューサーから、

今やスムースジャズ界の中堅ピアニストといった感じとなったボブ・ボールドウィンの新譜は、ブラジル風味のなかなか気持ちのいいサウンド。

「ブラジル風味」といっても、それ風の曲を打ち込みで作ってポロポロとピアノ重ねて、はい、一丁上がり的な安易なものじゃなく、

全部じゃないけど、ちゃんとリオに行って現地のミュージシャンと一緒に録音するという結構な凝り様。

ブラジルからは、ブラジリアン・ジャズ界を代表するサックス奏者レオ・ギャンドルマンや、アジムスのリズムセクションであるイヴァン・コンチ=

アレク・マルエイロスも1曲に参加、パット・メセニー・グループにも参加してたアルマンド・マーサルや、

ロバータ・フラックのツアーにブラジルから参加し、その後、故郷に帰らずN.Yに居ついてしまったというカフェことエドソン・カフェ・ダ・シルヴァも打楽器で参加。

ベースなんかはほとんどが打ち込みだし、プログラムのリズムも結構使われているようなんだけど、

打楽器を中心にしたブラジル録音の素材が使われてるせいか、すごく爽快な空気感のあるサウンドになっている。

1曲、レオン・ウェアのものがあるほかは、全部、ボールドウィンのオリジナルだけど、アメリカのスムースジャズ的な心地よいメロディに

ブラジル音楽のちょいマイナーでフローティングした感覚を上手くミックスさせた「ブラジリアン・フュージョン」(「スムースジャズ」にあらず)な雰囲気はかなりいい。

曲作りの際に、ブラジリアン・フュージョンだけでなく、MPB(ムジカ・ポピュラー・ブラジレイラ)あたりもじっくりと研究したことが強くうかがえる。

アジムスのリズムをバックに「ブラジル賛歌」なコーラスが入る最近のアジムスみたいな5曲目や、

レイドバックした感じフィル・ハミルトンのギターも心地よい8曲目のアルバムタイトル曲から、9曲目、10曲目にかけてのブラジリアン・ブリーズな流れも実に気持ちいい。

一頃の「ニューエイジ・ミュージック」並みにテンションが低く退屈で、金太郎飴状態になってしまった昨今の「スムースジャズ」には、

正直、全く、興味はないんだけど、この作品のように、「フュージョン」の良さを上手く受け継いだサウンドには、「フュージョン歴20年弱」を誇る

古株の人間はやっぱり反応してしまうんだよなぁ・・・。

アジムスのファンなんかにもお薦めできる、最近少なくなった「ブラジリアン・フュージョン」の佳作。

2004321日)

 

Brad Mehldau Trio "Anything Goes" (WEA)

Brad Mehldau:p Larry Grenader:b Jorge Rossy:ds

前作は、ロックミュージックへの接近を図ったアグレッシヴな作品だったが、

新作は、いつものトリオでの録音となった。

「ゲット・ハッピー」「ドリームスヴィル」タイトル曲の「エニシング・ゴーズ」

「ニアネス・オブ・ユー」「彼女の顔に慣れてきた」ポール・サイモンのカヴァー「時の流れに」など…収録曲のすべてがスタンダード。

それらをどのようにこの「アート・オブ・トリオ」が料理してるか?聴く前から興味深々。

まずは1曲目、曲を一端バラバラにしたのはいいけど、組み立て間違えた?ような違和感を感じる「ゲット・ハッピー」を聴いて、いや〜な予感、

何が「ゲット・ハッピー」や・・・とツッコみつつ、2曲目のリリカルなバラードの「ドリームスヴィル」に突入。

やっぱりこの人、バラードというかスロウテンポな曲での、楽曲の解釈や音使い、リズム感は天才的です。

和音の重ね方なんかのお手本は、リバーサイド時代やマイルスの「カインド・オブ・ブルー」時代のビル・エヴァンスなんだろうけど、

他のエヴァンス派といわれる人と比較すると、風合いが「寒色系」で「ドライ」、クールで、叙情的な部分が希薄。

メロディそのものが、かなり「ベタ」で、それなりに弾くだけで、叙情的なムードが出やすい「時の流れに」でも、同様の雰囲気。

これは、彼のピアノの良さというか個性である反面、常に、もう一人の自分が自分自身の演奏をコントロールしているが如きピアノには、

聴いてる方も、なんか距離感を感じて、心底、演奏に入り込めないんだなぁ・・・。

同じエヴァンスの影響下にあって「ピアノの化身」と言われた故ミシェール・ペトルチアーニとまさに正反対。

硬質でロジカルなピアノは、近年のポール・ブレイを思わせるものでもある。

全体的には、バラード作で、彼のソロピアノを聴いてるような雰囲気なんで、今作でのグレネイダー=ロッシーのリズムの印象は薄い。

演奏のエネルギーが「内向き」な感じで、正直、なんか閉塞感を覚える作品。

もうメルドゥーは、このトリオでやれることは既にやり尽くした感じで、かつての「余熱」でかろうじて演奏を成立させてるかのよう。

ただ、前作やチャーリー・ヘイデン&マイケル・ブレッカーとの共演作「アメリカン・ドリームス」なんかでは、まだまだ「外向き」にエネルギーを

発したエネルギッシュな演奏を聴かせてくれてるんで、メルドゥーというミュージシャンの限界じゃなく、あくまでこのトリオとしての限界だと思う。

前作のように、「ジャズ」という偏狭な枠を飛び越えた作品もよし、チャーリー・ヘイデン=ポール・モチアンといったベテランかつアグレッシブな

ミュージシャンとのトリオによるガチンコ勝負もまたよし・・・メルドゥーの類稀な才能が腐らないうちに、

「アート・オブ・トリオ」を乗り越えた第二幕を早く聴かせて欲しいですね。

2004323日)

 

Maximum Grooves “Coast To Coast” (Telarc)

Jason Miles:key Dean Brown Hiram Bullock Jeff Goulb Jeff Mironov Buzz Feiten Russ Freeman Romero Lubambo :g

Will Lee Wayman Tisdale:el-b James Genus:ac-b Jay Beckenstein Jeff Kashiwa Walter Beasley Andy Snitzer Michael Brecker:sax

Herb Alpert:tp Tom Schuman:key Gene Lake Steve Ferrone Zach Danziger Steven Wolf:ds Cassandora Reed Amanda Homi:vo

Marc Quinones:per ・・・

ウェザー・リポート、イヴァン・リンス、グローヴァー・ワシントン・ジュニアのトリビュートアルバムや、ブラジル人ギタリスト、ホメロ・ロバンボを

フィーチャーしたブラジル発NY経由のフュージョン「リオ・ウェイブ」なんかの制作やプロデュースで、NYのフュージョン〜スムース・ジャズのブレーンとも

言うべき存在になったジェイソン・マイルスの新作というか新プロジェクトが発表された。

「マキシマム・グルーヴス」なるユニット名での作品だが、当然ながら、ジェイソン・マイルスのソロワークといってよい。

今作のテーマは、彼がNYに出てきた70年代当時、一世を風靡していたフュージョン〜クロスオーヴァー。

NYに出てきてすぐ、当時のフュージョンのメッカ的ライブハウスだった「ミッケルス」で見た、ジョー・ベック=サンボーン=ウィル・リー=ドン・グローニック

=ガッドの面子による「カクタス」の演奏が忘れられない・・・ということで、この曲のカヴァーも入ってる。

ウィル・リー=スティーヴ・フェローンのリズムに、ジョー・ベック役、バジー・フェイトン、サンボーン役、アンディ・スニッツァーをフィーチャーして

「あの頃」風にカッコよくカヴァー、バジーのドライにロックするギターが結構ハマってる。

そんな感じで、収録曲すべて、「あの頃」のフュージョン〜クロスオーヴァーを意識させるようなメロディーラインを持ったもので、

そこに豪華なスムース・ジャズ・スターたちのソロがちょろっとのっかかるというもの。

正直、アルバム全体の雰囲気や流れは悪くはないんだけど、1曲、1曲の印象は・・・・どれもいまいち薄味。

そんな中、上でも紹介した「カクタス」や、アマンダ・ホミ(昔、GRPからホミ&ジャーヴィスというユニットでデビューしてたな。この中に入ってた

I’m In Love Again」という曲が、AORの裏名曲ともいうべき名曲!)の中近東風ヴォーカルとマイケル・ブレッカーのクロマチカルなテナーソロが

微妙に溶け合い、そこに、ハイラム・ブーロックの歪んだギターが絡むファンキーな「Krazy Eyes」という曲あたりは、何回かリピートして聴きたくなったが、

その他は・・・やっぱり…普通のスムース・ジャズだな・・・。

せっかく、これだけの面子がこのプロジェクトに参加したんだから、70年代のサウンドやグルーヴがテーマというのなら、

もすこし打ち込みの部分を減らして、オーヴァーダビングでも構わないんで、「擬似ライブ」風の演出がされてれば、もっとカッコよかったと思うけど・・・

ま、金太郎飴状態のスムース・ジャズの中では、まずまずの出来の作品か?。

200442日)

 

Peter White “Confidential” (CBS)

Peter White:g,key Brian Culbertson Rex Rideout:key Paul Brown:g Mindi Abair:sax Chris Botti:tp Christopher Cross:vo

Paulinho da Costa Lenny Castro:per Roberto Vally:b Jerry Hey:horn ・・・

80年代に「お洒落系」フェイクポップユニットとして活躍した英国のグループ「マット・ビアンコ」のオリジナルメンバー、

ダニー・ホワイトの兄貴であるギタリスト、ピーター・ホワイトの新作。

また、そのマット・ビアンコ結成時のメンバーだったバーシアのソロワークのサポートでも有名。

本作ですが、多くの曲を、「スムースジャズ職人」ポール・ブラウンが制作を手がけた、まぁよくありがちなサウンドなんだけど・・・

この人のギターと彼の書くメロディーが、なぜか凄く好きなんだなぁ・・・。

彼は、すべての曲のメロディーをアコースティック・ギターで奏でるという意味では、アール・クルーなんかと共通するけど、

クルーに感じられる「もっちゃりした田舎臭さ」のようなものが皆無でクール、それでいて、歌モノを聴いているような錯覚に陥るほど

彼のメロディーには歌がちゃんとある。

ソングライトに関しても、マイナー調のメロディーやAOR的なコードチェンジを上手く使った気持ちイイ曲が多く、バックトラックそのままで

誰かの歌を入れれば、上質なAORになりそうな雰囲気。

この辺は、楽器の演奏や作曲なんかの技術的な問題じゃなくて、「センス」の問題なんだろな。

やはり、ジャズやソウルミュージックなんかに対し、アメリカ人以上に、理解し大切にし、また尊敬している英国人(正確には父:英国=母:仏のハーフのようですが)

という側面が大きく関係してると思う。

今作での「大当たり曲」は、「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」で有名なクリストファー・クロスをフィーチャーした「シーズ・イン・ラブ」という曲。

作曲は、ブレンダ・ラッセル=マーク・ポートマン=ジェイ・グレイドン!。

「カヴァー?」と思って、ネットのAMGで検索すると・・・ブレンダ・ラッセルの「パリス・レイン」という曲に入ってる曲らしい・・・ありゃ〜これうちにあるCD?

探して聴いてみると、やっぱり、同じ曲でした。

ブレンダのアルバムでは、ほとんど印象になかった曲だったんですが、ピーター・ホワイト=クリストファー・クロスのバージョンで、見直しました。

いや〜イイ曲です。

ケニー・ランキンなんかが歌いそうな、アコースティックなボサ・ノヴァ風の曲で、

ブレンダのオリジナルよりも若干テンポを上げてカヴァーしてますが、そこが良かったんだと思います。

さりげなくバックで聴こえる、ピーターの弾くアコーディオンやネイティヴ・ブラジリアン、ポーリーニョの打楽器も、いい雰囲気。

小太り&ハゲ頭(苦笑)なルックスから想像もできないソフトで甘いクリストファーのヴォーカルとのマッチングも見事。

AORの定番曲となり得る素晴らしい出来の曲です。

スムース・ジャズそのものの作品ではあるんですが、インストのAOR作として楽しめば、これからの季節、ドライブのお供なんかに重宝する気持ちイイ

CDだと思います。

また、AORファンは、クリストファー・クロスのヴォーカルもの1曲のために購入しても、損はないと思いますね。

(2004年4月16日)

 

Bobby Lyle “Straight and Smooth” (Three Keys Music)

“Smooth” / Bobby Lyle:key David Dyson:b Jay Williams:ds Stan Cooper Marlon McClain:g Abe Laboriel:b Ricky Lawson:ds 

Marcus Johnson:syn ・・・

“Straight” / Bobby Lyle:p Mark Simmons:ds Brennen Nase:b

70年代からクルセイダースのウェイン・ヘンダーソンと交流があり、そのつながりで、ロニー・ロウズのサポートや

ウェインの主宰する「ジャズ・クルセイダース」なんかにも参加しているボビー・ライルの新作は、タイトル通り、スムースジャズ〜フュージョン系のサウンドと

ピアノ・トリオによるストレートアヘッドなジャズとの2本立て(=2枚組み)という凝ったものとなった。

「スムース」の方は、ダイソン=ウィリアムスというベース&ドラムのリズムによるシンプルなサポートをバックに、ライルの粒立ちが良くコロコロと跳ねる感じの

ピアノがメロディーを歌い、曲によっては、ホーンやヴォーカルが入るという感じ。

「ストレート」は、「ソング・イズ・ユー」「波」「イエスタディズ」「ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラブ」「ネフェルティティ」といった有名曲中心に、ライルのオリジナルを

ミックスさせたナンバーをピアノトリオで聴かせるというもの。

この人、80年代には、日本のキングレコードに、スタンリー・クラーク=アレックス・アクーニャ(+曲によって打楽器にレニー・カストロが入る)をバックにした

ピアノトリオ作(現在は米エヴィデンス盤で入手可能)や女性ヴォーカルをフィーチャーした企画モノ、

90年代には、アトランティック・ジャズから、ソロピアノ作なんかの「ジャズモノ」もいろいろ出してるけど、「ジャズピアニスト」としての魅力は、薄味だと思う。

スタン=アレックスのトリオ作は、チックの名曲「スペイン」や、ライル作のフュージョンの名曲「ナイト・ブリーズ」なんかでは、

スタンがベンベンしたエレベを弾いたりしてて、半分、フュージョンみたいな作品なんで、結構、カッコいいけど、ピアノソロ作なんかは、正直、退屈。

これは、多分、粒立ち良く跳ねすぎるピアノのタッチが、4ビートのノリに合わないのと、トラディショナルなジャズのアドリブのボキャブラリーが

若干、貧弱なことに起因してるのではないかな。

今作も同様で、ライブ感のあるフュージョンサイドの「スムース」の方が、断然、楽しいしカッコいい。

70年代〜80年代のソウル系フュージョンのグルーヴ感やメロディを持ったライルのオリジナルもいいけど、

.ケリーの「ステップ・イン・ザ・ネイム・オブ・ラブ」と「アイム・ゴーング・トゥ・ラブ・ユー・ジャスト・ア・リトル・モア・ベイビー」「バック・ドア」という

故バリー・ホワイトの曲のカヴァーもグルーヴィーでいい感じ。

特に、オリジナルの曲の良さを活かした、R.ケリーのミディアム・グルーヴなカヴァーが気持ちイイ。

2枚組みという体裁ながら、アメリカの通販サイトでは、1枚組みとほとんど同じ13ドル前後の値付けなんで、

「スムース」に、「ストレート」というフルサイズのボーナスCDが付いていると思えば、これはこれで「お得」なCDなんじゃないかな?。

ちなみに、国内の輸入盤店では、原価は1枚ものと同じなのに、2枚組みということで、きっちりと3000円前後という2枚組み価格をつけて

ボッタくっているので注意しましょう。

(2004年4月16日)

 

Veloso, Caetano - A Foreign Sound  Cover Art

Caetano Veloso “A Foreign Sound”  (Nonesuch)

Caetano Veloso:vo

60年代のトロピカリア・ムーブメント(ビートルズを中心にした欧米音楽の影響と反軍事政権というコミュニスト的な政治運動が結びついたムーブメント)

をカエターノとともに推し進めたベテラン・アーティスト、ジョルジ・マウチネルとのコラボ作から約1年半ぶりの新作は

全曲英語によるアメリカン・スタンダード集となった。

「ソー・イン・ラブ」「オールウェイズ」「ラブ・フォー・セール」「煙が目にしみる」「さらばジャマイカ」「ボディ&ソウル」「ネイチャー・ボーイ」「サマータイム」などの

ジャズ系スタンダードだけでなく、スティーヴィーの「イフ・イッツ・マジック」、日本でもハイ・ファイ・セットがカヴァーしヒットさせたモーリス・アルバートの「フィーリングス」、

ディヴィット・バーンの「ナッシング・バット・フラワーズ」、ボブ・ディランの「イッツ・オールライト・マ」、エルヴィスの「ラブ・ミー・テンダー」!

それに、わが国のGSブームでもお馴染み、ポール・アンカの「オー・ダイアナ」!?なんかもカヴァーしている。

オーケストラをバックにしたりしたようなジャジーで流麗な感じや、ギター中心のボサっぽいシンプルなバッキング、

アート・リンゼイがプロデュースしていた「エストランジャイロ」や「シルクラドー」なんかの頃のようなアレンジなど・・・

曲ごとに、サウンドが練られており、2275分以上収録という、結構なボリュームだけど十分、退屈せずに楽しめた。

この人の歌や声は、ありきたりの表現で恐縮だけど「ワン&オンリー」そのもの、聴くものの感性を「覚醒」させるような魅力がある。

なんで、アメリカン・ポップスであろうとジャズであろうと、カエターノが歌えば、もう、それは、カヴァーではなく、カエターノの音楽そのものになる。

音的に面白かったのは、20曲目に入ってるアート・リンゼイが在籍してたNYのパンクバンド「DNA」のカヴァー「デタッチド」。

1分半弱という短いものながら、アートの打楽器のように無調で掻き鳴らすギターのパートをオーケストラを使ってアレンジ、テンションの高いリズムを

バックに、カエターノもアートのように、言葉を吐き捨てる、アートと再び組んで、このような現代社会を痛烈に批判するようなパンキーでアグレッシヴなサウンドを

やってもまた面白いかも。

とはいえやっぱり、母国語ではない英語の歌、全曲カヴァーなんで、オリジナルアルバムと較べると、カエターノの歌もやや小さくなった感は否めず、

カエターノの音楽の作りだす微妙な陰影感も薄らいでるので、コアなファンには少々物足りないかもしれないが、

その分、カエターノ・ヴェローソというブラジルを代表する天才の歌の魅力を分かりやすく楽しめるという側面もあると思う。

しかし、今、カエターノがアメリカン・ポップス集を作るという意図はどこにあるんだろうか。

60年代の「トロピカリア」の頃、アメリカは、自由の象徴だったが、今はといえば・・・イラク、アルカイダ、テロ、パレスチナなどの問題をかかえ、

かつてカエターノ達が否定し戦った軍事政権のように、世界を軍事力で制圧しようとする愚かな国に成り下がってしまった・・・。

その辺の批判をシニカルなアイロニーをこめて、これを作ったのでは??と勝手に想像してるんですが・・・。

2004419日)

 

John Scofield Trio “EnRoute” (verve)

John Scofield:g Steve Swallow:el-b Bill Stewart:ds

最近、「ジャム」づいてる?ジョン・スコですが、久しぶりの「ジャズ」作となる新作。

80年代初期のアリスタ/ノーバス盤「バートーク」(80年)エンヤ盤「シノーラ」「アウト・ライク・ア・ライト」(81年)

のトリオでお馴染み、また、特に日本のファンの評価の高いグラマヴィジョン時代の名盤「スティル・ウォーム」を

初めとする多くのジョン・スコの作品のプロデュースしたベーシスト、スティーヴ・スワロウと、

90年代のブルーノート時代のアコースティック・ジャズ時代のリズムを支えたドラマー、ビル・スチュワートを従えたトリオ。

また、パット・メセニーとの共演作「アイ・キャン・シー・ユア・ハウス・フロム・ヒアー」(93年)のリズムセクションとも言えますね。

そんなジョン・スコを知り尽くしたミュージシャンとの共演によるトリオで、ライブ盤とくれば、もう悪かろうはずはありません。

70年代〜80年代初期にかけての、4ビート系演奏で聴かれた、前ノリで「つんのめる」感じや、

マイルスバンド在籍〜脱退直後に感じた、リズム重視からくるトリッキーで不自然なフレーズが、上手く消化され、演奏がすごく、ナチュラルになっているよう。

もちろん、それらは、彼の演奏の大きな個性でもある訳で、ここでは、個性を殺して凡庸になることなく、

ジョン・スコフィールドというジャズ・ミュージシャンの才能が、懐の大きいスティーヴ・スワロウ=ビル・スチュワートが作りだす空間で

気持ちよく泳いでいる感じ。

何か新しいことをやってやろうという強い意気込みが、時として、力みや閉塞感につながっていなくもない?「ジャム」系では感じられない、

オープンなジョン・スコのパフォーマンスは、ほんとうにカッコいいし気持ちいい。

収録曲は、バカラックナンバー「アルフィー」を除いて、オリジナルばかりだけど、バピッシュなテーマをもったジャズらしいものから、

グラマヴィジョン時代の隠れ名盤?「フラット・アウト」的雰囲気をもったアーシーなR&Bテイストなものまで、

バラエティ豊かなので、飽きることなく、CDを通して楽しめる。

そんな中、すごいのが、唯一のスタンダードナンバー「アルフィー」。

ほとんど、そのメロディーを弾いているだけのようなシンプルな演奏なんだけど、これが物凄く心に染み入るんだなぁ。

マイルスが80年代にやったシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」の如く、少ない音数で、その曲の持つ魅力を最大限アピールしてる。

これができるようになれば、本物の「ジャズ・ジャイアンツ」の仲間入りといってもいいでしょう。

本作のタイトルは、航空用語で「途中通過地点」の意味だけど、このユニットは、ジョン・スコにとっての「ライフワーク」のようなもので、

ここで終わりという到着点はなく、生きて演奏をしている限り永遠に「途中通過地点」なんだろうな・・・多分。

2004521日)

 

Lovano, Joe - I'm All For You Cover Art

Joe Lovano “I’m All For You” (Blue Note)

Joe Lovano:ts Hank Jones:p George Mraz:b Paul Motian:ds

ロヴァーノ・ファン待望のワンホーン作による新作。

それもオールスタンダード(1曲、サド・ジョーンズのオリジナルあり)のバラード〜ミディアムスウィング作。

いや〜久しぶりに、「ジャズ」な雰囲気に浸りました・・・これ、いいすっよっ!、マジで・・・。

ジョー・ヘンダーソン亡き今、テナーサックスを一音吹くだけで、聴くものの周囲を「ジャズ」な空気で充満させられるプレーヤーは

もうこのロヴァーノしかいないと思います。

芳醇なハンク・ジョーンズのピアノに導かれるように、ロヴァーノは、いつもみたいにあんまり「ウネウネ」せず、

ドッシリと腰を据えて、タイトル曲を初め、「モンクス・ムード」「星影のステラ」「ライク・サムワン・イン・ラブ」「アーリー・オータム」

また、トレーンの「カウントダウン」などのメロディを慈しむようにテナー一本で歌いこんでます。

バラード〜ミディアム中心ということで、通常ならダルさの懸念もありますが、モチアンのシンバルが作り出すクールでエッジの効いたリズムにより

そんな感じは微塵にも感じられません。

もちろん、リズムの屋台骨をしっかり支えるムラーツの職人技も素晴らしい。

2004521日)

 

マイルス・デイヴィス 

「マイルス・エレクトリック〜パフォーマンス・アット・ザ・アイル・オブ・ワイト」 (ビデオアーツ)

1070829日、

キース=コリア=ディジョネット=バーツ=ホランド=アイアートを従えての壮絶な音絵巻、伝説のワイト島ライブのコンプリート。

とにかく、さすが正規盤、画質と音質が超素晴らしい。

このライブには、理屈も薀蓄も不要、聴くよりも感じろ!。

ロックの精神とブラックの心を、ジャズの言葉で、オープンな心を持っていた当時の純粋な若者たちへ、

マイルスが語り尽くす約40分の幻像と喧騒のストーリー。

このライブの前振りには、本編のライブに参加していたメンバー全員のほか、

カルロス・サンタナ、ディヴ・リーヴマン、ハービー・ハンコック、ジョニ・ミッチェル、

ピート・コージーらのインタビューで綴ったドキュメンタリー風の演出がなされていて、

楽器を手にしての彼らのマイルスに関するコメントが、本編と同じくらいまた素晴らしい。

ただし、ボーナス映像扱いのマーカス・ミラーのそれはやや蛇足?。

2004129日)

 

Weather Report 「Young & Fine Live!

19789月ドイツで行われたライブをDVD化したもの。

一応、大手輸入盤店で売られてるので

ブートではなさそうだが、極めてそれに近い作品ながら、ジャコ・パストリアスの絶頂期を捉えた

貴重な映像作品。現代のデジタル映像のレベルで見ると、画質がイマイチとの声もあるが、

それは贅沢というもの、ブートのVTRで出回っていたレベルを考えると、十分に満足。

ザヴィヌル=ショーター=ジャコ=アースキンという極めてシンプルな編成なので、個々のメンバーの力量がフルに活かされたこれまた超絶な120分。

ジャコの才能は、ザヴィヌルという「マエストロ」の存在があってこそ発揮されたもの、という事実を再認識。

無邪気にベースと戯れながら、非凡なグルーブを生み出しているジャコを見ていると、あっという間に2時間が過ぎてしまう。

(2004129)

 

Branford Marsalis "Cortrane's A Love Supreme Live" (Marsalis Music

昨年のオランダはアムステルダムでブランのカルテットが「至上の愛」をカヴァーしたライブをDVD化した作品。

とにかく、ブランのテナーの熟成ぶりが素晴らしい。

体型がやや横に大きくなった分、そのパフォーマンスのスケールが大きくなり、

彼に大きな影響を与えたトレーンとロリンズという2大要素が、ここにきてやっと彼自身の中で一体化した印象を強く持った。

無機質で鋭角的なブロウや無駄な音数が減り、少ない音数と芳醇な音で、ジャズを語れるようになっている。

正直、多くの作品を出してるブランだが、その割りには、決定打を欠いていたが、やっとそれが現れたよう。

ケニー・カークランドの影を振り払うかのようなジョーイ・カルデラッツォの瑞々しいピアノをはじめ、

ジェフ・ワッツ、エリック・リーヴスのリズムセクションもまた素晴らしい。

DVDには、約50分弱の本編ライブの他、ブランとアリス・コルトレーンの対談やツアーの映像なども収録されている。

また、輸入盤には、本編ライブのみをCD化したものも付いた2枚組みになっているので、絶対輸入盤のほうがお得。ちなみに、リージョンコードはゼロなので、問題ない。

対談などにどうしても字幕が欲しいという人には、近いうちに国内盤リリースも予定されているが、

CDはつかず1枚のDVDだけの仕様となっているようです。

2004129日)

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