Review

July-December

Yellowjackets - Time Squared Cover Art

Yellowjackets  “Time Squared”

Yellowjackets / Russell Ferrante:key Jimmy Haslip:b Bob Mintzer:sax,EWI.cl,b-cl Marcus Baylor:ds

前のライブ盤を出した当初は、今後の作品は自分のサイトの中でインターネットを通してのみ発表〜発売する、といっていたが、

結局は、最近、フュージョン系ではかなりメジャーになりつつあるインディレーベル「Heads Up」と契約、

今までどおり、レコード屋さんで彼らの新譜を買うことができるようになりました。

99年に、ドラマーのウィリアム・ケネディがグループから脱退、その後、ピーター・アースキンが一時、参加していたようだが、長居しなかったことを

考えると、結局は「トラ」?前作のライブ盤「ミント・ジャム」には、無名のマーカス・ベイラーという若い黒人ドラマーが参加していたが、

ちゃんとグループに定着するかは?だった。

で、今作は、そのマーカス・ベイラーも参加しており、きちんとしたレギュラードラマーが復帰しての初めの一歩のスタジオアルバム。

このグループは、歴史的に見て(聴いて?)、メンバーチェンジに伴ってサウンドに変化が生まれてる感じがする。

ポップなLAフュージョングループから、ウェザーリポートばりのコンテンポラリー・ジャズ・ユニットに生まれ変わったのは、

87年に、リッキー・ローソンが抜けてウィリアム・ケネディが参加したアルバム「フォー・コーナーズ」の時だし、

そのコンテンポラリージャズ色がより一層強くなったのが、サックスのマーク・ルッソが脱退し、ボブ・ミンツァーが参加した

91年のアルバム「グリーンハウス」の頃だと思う。

そんで、今回のアルバム、新加入となるドラマーのマーカス・ベイラーがサウンドに変化を与えているかというと、これが、「YES」。

90年代後半〜あたりからのYJは、ボブ・ミンツァーのリード&EWIやジミー・ハスリップのフレットレス・ベースが前面に出たサウンドで

彼らのキャラなのか?ややモコモコ、ボァ〜ンとしたものが多く、も少しエッジを効かせてくれれば…と感じていた。

ズバリ、若いベイラーのタイコが、そこに、欲しかった鋭いエッジをサウンドに持ち込んでくれている。

その辺は、1曲目や5曲目に収録されてるファンキーなリズムフィギアを持つ曲でよく分かるが、8曲目の3/4のジャズワルツのような

リズムをもったジャジーなトラックでの、しなやかで繊細なプレイも凄く良い。

マーカス・ベイラー君、前任者、ウィル・ケネディと同じくらい?いや、彼の年齢を考えるとウィルを超える存在になるかもしれないな。

若くて活きの良いリズムを得て、フェランテのピアノ&キーボードも楽しそうに跳ねてて気持ちよさそう。

全体的には、軽快感のある、抜けのよい「エアリー」なサウンドに生まれ変わっており、サウンドに年齢があるとすれば、10歳は若返った感じかな??。

200371日)

 

渡辺貞夫  “Wheel Of Life”

w/ Richard Bona(el-b,g,vo,perc)  George Whitty(key) Nathaniel Townsley(ds) Mike Stern(el-g) Romero Lubambo(ac-g)

前々作「SADAO2000」に続く、リチャード・ボナとのコラボ作の第2弾。

いや〜、これ、理屈抜きに良いです、気持ちいいです、ずっと聴いてたいです、ハイ。

この気持ちよさの要因は?多分、サダオさんのサウンドのベクトルとボナのベクトルが、ばっちりハマっているからに他ならないと思う。

ボナの「地球のビート」ともいえる才能を、サダオさんの今までこだわり続けているジャズをベースにアフリカ、ブラジルなどの要素を

絶妙にミックスさせたサウンドの中に、フル充填できてる感じ。

ボナのビートというのは、彼のネイティヴであるアフリカンなものだけでなく、ブラジリアンなもの、ジャズっぽいもの、ファンキーなグルーヴ系も…

どんなビートを奏でても決して「ステレオタイプ」に聴こえない。

そのボナとリズム隊を組むのが、ザヴィヌル・シンジケートのメンバーとしても来日する話題のドラマー、ナサニエル・タウンスレー。

ここでの演奏は、派手さはないものの、ボナの躍動感を品良くサポートし盛り立ててる。

貞夫さんは、「パーカー=自らのルーツ」というこだわりは当然、死ぬまで持ち続けるだろうけど、それ以外のこだわりって良い意味で

無いんだと思う。

このサウンドも、表面上は、いわゆる「フュージョン」に分類されるかもしれないけど、もはやこれは、ジャンルを超えた「サダオ・ミュージック」だと思う。

ジャズ(=アメリカ)〜アフリカ〜ブラジル・・・・と旅を続ける貞夫さんが、やっと辿りついた自らを解放できる音楽の桃源郷が、

この作品の中で展開されている。

超がつくベテランのミュージシャンである貞夫さんをここまで自由に気持ちよく演奏させることのできるリチャード・ボナも当然ながら素晴らしい。

2003.12.4

 

Ralph MacDonald “Home Grown”

w/ Dennis Collins. Nadira Shakoor:vo Robert Greenidge:steel-pan Anthony Jackson:b Tom Scott:sax

Will Lee:b Chris Parker:ds Jeffrey Mironov:g Clifford Carter, Rob Mounsey:key Lou Marini:sax

このところ日本のビデオアーツから新譜が発売されてたラルフですが、本作は、彼のウェブサイト(http://www.ralphmacdonald.com

のみで発売されてるアイテムなんで、結構、見落としてるファンも多いのではないでしょうか??

かくいう私も、Mr.Will Leeのサイトで新譜がでたのを知りました。

内容ですが、自らのルーツであるカリブ海のトリニダードトバコからマンハッタン経由で吹く心地よい浜風といった雰囲気の曲が並んでます。

このテイストは、70年代半ばに初リーダー作をリリースし、80年代初期に、グローヴァー・ワシントンJRに「ジャスト・ザ・トゥ・オブ・アス」を

提供し、グラミー賞をゲットした頃から・・・今に至るまで、普遍のものです。

その間、彼のサウンドを形成する上で重要なポジションを占めていたピアニスト、リチャード・ティー、ギタリスト、エリック・ゲイルを失うという

不幸な出来事もありましたが、ウィル氏やトム・スコット、知る人ぞ知る70年代後半の名ユニット「ライターズ」(CD化激しき希望!)の同僚

ジェフ・ミロノフ、〜アンソニー・ジャクソン、クリフ・カーター、ラルフが深く関りを持つトロピカルな?カントリーシンガーソングライター、

ジミー・バフェットのバンドの同僚でもあるロバート・グリニッジ…ら70年代来の仲間達がラルフの音楽を楽しそうに創りだしてます。

ラルフらしい、ミディアムテンポの優しいメロディ&リズムを持った1曲目、ヴォーカルにデニス・コリンズをフィーチャーした

ボサっぽいハートウォームな6曲目、84年のラルフのリーダー作「サプライズ!」(これも再CD化激しくキボンヌ!)にも入ってた

8曲目の「レイイング・イン・ヒズ・アーム」、トリニダートトバコの子守唄という優しい雰囲気な11曲目あたりが特にいい感じ。

この冬、暖かい部屋でゆったり聴きたい、手作りの感覚の心暖まる1枚です。

(ウェブサイトで、購入した人先着1000名に、直筆サイン入りのポスターを送ります、とあったんだけど、どうせアメリカ国内だけ?と

思ってたら、先月末に、円筒状の筒に入った国際郵便が到着。ラルフさんからの素晴らしい贈り物でした。多分今購入しても

1000名はオーバーしてると思うけど・・・)

2003.12.4

 

A.Ray Fuller:g “The Weeper”

w/ Jeff Lober Dave Kochanski Terry Trotter George Duke:key Larry Kimpel Alex Al:b

Ricky Lawson Teri Lynn Carrington Michael White:ds Kevin Ricard:perc Eric Marienthal Kirk Whalum

Jinny Reid Everette Harp Branford Marsalis:sax Walt Fawler:tp Phil Perry:vo etc…

この作品も、上のラルフ・マクドナルド同様、ミュージシャン自身のウェブサイトオンリーの発売ものです。

http://www.arayartists.com/

この種の音楽は、メジャーなルートで売ってくのはやっぱりキツいのかなぁ・・・少々寂しいもんがありますが・・・。

西海岸のスタジオシーンを代表するギタリスト、レイ・フラーの初リーダーアルバム。

10年くらいまえから、いろんなミュージシャンのバックでドライでリズミカルなリズムギターを聴かせてくれていて、

ポスト・ポール・ジャクソンJr的存在でした。

そんな彼の初リーダー作は、日頃のスタジオワークやセッションワークのお仲間たちが、初の晴れ舞台に「ギャラ度外視」?で馳せ参じたような

豪華なメンツに囲まれて作られてます。

スムースジャズというより、あえて「フュージョン」と呼びたくなるような生のリズムにこだわったナチュラルなグルーヴはかなり気持ち良いです。

彼のギターは、正直あんまりインパクトなし、よくありがちな「線の細いベンソン」といった感じですが、

ライブのナチュラルなリズムをバックにした演奏は、まさに70年代の「ブリージン」〜「リヴィン・インサイド・ユア・ラヴ」あたりのベンソンのようなテイストです。

ギターそのものを取り出して聴くと、少々退屈な感じもしますが、トリッキーなところがなく、メロディアスでスムースに流れるフレーズは、

メロウなフュージョンテイストなサウンドにはいい感じで溶け込んでるよう。

70年代後半の同じギタリスト、デビット・スピノザのバージョンのような(古いなぁ〜おっさんやなぁ・・・)レオン・ラッセル〜カーペンターズのカバー「スーパースター」、

テリ・リン・キャリントンやブランフォード・マーサリスの参加も嬉しいフュージョン・タッチのトレーンの名バラッド「ネイマ」、

フィル・ペリーのソウルフルな歌とリズミカルでグルーヴィーなフラーのギターが光るアイズレーブラザースのオリジナルで、AWBなんかでも有名な「ワーク・トゥ・ドゥ」、

12曲目に収録されてるグルーヴィーなラテンナンバーで、元ラリー・カールトンの懐刀テリー・トロッターのピアノソロ、アレックス・アルのキレのいいベースソロも

カッコいい、J. ベルトラミのペンによるアジムスのナンバーあたりが特に気持ち良い。

スムースジャズファンはもちろん、70年代からの筋金入りのおっさんフュージョン〜クロスオーヴァーファンも納得できる高品質な「フュージョン」の佳作。

2003.12.4

 

Miles Davis “Black Album” (2CDR ※Bootreg)

噂の「ブラックアルバム」とうとう耳にすることが出来ました!!

が…。

 

1.MAZE

ライブで超お馴染み、既出曲のレコーディング版?

といっても、バンドによる一発録りのような感じで、ライブのような迫力はないんで

なんだかなぁ…という印象。

「デコイ」〜「ユア・アンダー・アレスト」の頃のような演奏。

御大のTPは、陰影感がなくなぜかご陽気?

 

2.RUBBER BAND

ブートのライブ盤「アンイシュード85」にも収録されてた曲のレコーディング版。

リズムのブレイク部分の「ダダダダダ」という部分はハンコックの「ロックイット」みたい。

ミディアムテンポのテクノっぽいファンクナンバーだが、今の耳には少々古いというかダサい。

「ベロベロバァ〜」に聴こえるコーラスというか掛け声のようなパートもなんだかなぁ。

御大のTP、こちらも、明朗で元気。

 

3.SEE I SEE

TUTU」を軽くしたような感じのダークなミディアムナンバー。シンセの音も打ち込みの

音も「TUTU」と較べるまでもないほどチープ。

 

4.DIGG THAT

チャカポコ、チャカポコしたワウワウリズムギターが印象的なファンクナンバー。

同じコード進行が延々と続く一発モノ。

打ち込みもシンセの音使いもチープだが、これはまぁまぁカッコいいかな?

御大、饒舌にミュートで吹きまくる。

 

5.STREET SMART

ダークなミディアムナンバー。

こちらはシンセのオーケストレーションが結構効いてる。

ウッドベースをサンプリングしたようなシンセのベースが印象的。

2分ちょいの小曲。

 

6.TIME SQUARE

スラップベースが効いたミデァムテンポのグルーヴィーな曲。

「アマンドラ」の余りテイクのような雰囲気。

シンセが結構厚めにかぶしてある。

 

7.PUNCHY'S

ミディアムテンポのモーダルでクールな曲。

カッコいいぞ!と思ったのもつかの間、1分半ちょいで終わりです…。

 

8.IT GETS BETTER

(UNEDITING LONG VERSION)

「スターピープル」収録のスローブルース曲の未編集ものらしいが…。

テープのヒスノイズがシャーシャーと煩い。

 

9.RED RIDDING HOOD

(NON VOCAL OVERDUB VERSION)

プリンス絡みのものらしいが…。他の曲と較べて明らかに音質が悪い。

正直、正規盤でだせるレベルの音じゃない。AMのエアチェックみたい。

ギターはプリンスだろうか?曲そのものは陽気なパーティーみたいなファンキーチューンで

まぁカッコいいが…2分半ちょいであっさり終了。

 

てな感じで、まぁ、どの曲もリハーサルの域を出るものではなく、

今までお蔵入りしてたのも当然で、できることなら、ずっとお蔵入りしてても全然問題ないような…そんなもんです。

ライノのから出る予定だったワーナー時代の5枚組みボックス「ザ・ラスト・ワード」の目玉音源だったようですが…本当に

こんな音源を正規モノとして出すつもりだったんでしょうか。

リリース中止の原因は、プリンスからクレームが付いたとか?(もしこんな音源をだされりゃ、

私がプリンスでもクレーム出しますわ!)マイルスの財産を管理する弁護士団体のマイルス・エステートが高額な音源使用料を要求した?とかいろいろ言われてますが…

単純にこんな音源、発表するに値しない!?という判断かもしれません??

「ラバーバンド」が収録されたセッションの音源はもっとまともなもので、

正式リリースの予定もあったらしい…という噂もあったんで期待したんですが…、この状態じゃあ、まぁ、

出せませんわな。

80年代後半を中心にしたマイルスのリハの一部を垣間見れるという意義のほかは、

ほとんど音楽的には内容の無いものです。

発表された80年代後半の自らの作品のほぼすべての制作を、マーカス・ミラーに委ねたのは

やっぱり大正解だったということを、これらの「しょっぱい」音源を耳にして、改めて感じずにはいらせません。

2枚目は、ライブ音源なので詳細なレビューは割愛します。

モントルー箱などで既出になったソースもあります。と思ったんですが、

このブートの製作者が、「スターピープル」収録の「COME GET IT〜U ' I 'N」の未編集バージョンなどの

音源を別のところから持ってきてここに入れているようです。正規盤ではカットされた「COME〜」のビル・エヴァンスのサックスソロは

結構カッコいいよ。後、この2曲、正規盤では泣き別れになっちゃってるけど、実際は、メドレーでやってたんですね。

でもこれらの演奏、確か、どっかのブートで既出だったような気が…。

発売中止になった箱に収録されるはずだった曲目とこの2枚組みに入ってるものと見比べてみると、

入ってるはずのものが無かったり、別のところからとって来たようなものが入ってたりする?。なんでだろう??。

カットされているのは、どっかで既出のものなんだろうか?。

結局は、例の箱に入る予定だった未発ものの曲が、CD2枚にするほどのボリュームが無かったために、

嵩上げしたのかな?

ま、どちみち、期待を大きく裏切るものだったんで、ど〜でもええですけど…。

2003.12.5 ※12.6加筆)

 

Onaje Allan Gumbs(pf) "Return to Form"

w/Marcus McLaurine:b Payton Crossley:ds Gary Fritz:perc

Special guest:Rene McLean:ts ss

80年代初期〜中期にかけて渡辺貞夫さんとよくツアーを回っていたピアノ/キーボード奏者

オナージェ・アラン・グームス、久々の新作。

(ビクター・ベイリー:b プージー・ベル:ds ボビー・ブルーム:g スティーヴ・ソーントン:per にオナージェ+貞夫さん

という面子のライブを85年くらいに見たけど、カッコ良かったなぁ、といってもビックのベースしか見てなかった気もする…。)

デビュー作が、スティープルチェイス盤のピアノソロ作というなかなかの兵で、ゼブラ、MCAにソロアルバムを残す。

前作のMCA盤「Dare to Dream」は、フュージョンスタイルの作品だったが、今作は、アコースティック・ジャズで

NYのブルーノートでのライブ録音。

フュージョン〜リアル・ジャズ、どちらもヒップにこなせるNYの逸材としてのキャラは、

亡きケニー・カークランドともかぶるが、ケニーはハンコックの系譜とするれば、このオナージェは

どちらかと言うとマッコイ・タイナーの流れという感じがする。

アコースティックな楽器によるジャズだけど、4ビートで延々チーチキ、チーチキじゃなくて

ラテンパーカッションを効果的に使ったクールなNYスタイルのラテンジャズ的ムードがメイン。

そんなやや軽めな雰囲気の中、ハイライトは、ルネ・マクリーンのテナーが吠えるコルトレーンのナンバー「エクイノックス」。

12分以上に及ぶ熱の入った演奏、特に、ルネ・マクリーンのテナーが、かなりコルトレーンが憑依してる感じでイイ。

熱いルネ・マクリーンに対し、オナージェのピアノもマッコイ・ライクなゴツゴツとした演奏を展開するも

ガムシャラな熱さはなく、あくまでも冷静、クールなパフォーマンスに終始する。

そのあたりが、スタジオ屋さんとしてのキャリアも長いオナージェの他人を立てる謙虚なスタイルなのか?

個人的にはこの手のスタイルのミュージシャンはクールな仕事人ぽくて好きなんだけど、

冷めてて淡白?と敬遠する人もいるんだろなぁ…。

録音は今年の3月ということで、今のNYのジャズ・シーンの日常をさらりとキャプチャーした感じの作品として

地味にカッコいいジャズ。

2003年12月12日)

 

Children on the Corner “Rebirth”

Michael Henderson:b Ndugu Chancler:ds  Barry Finnerty:g Sonny Fortune:sax flute Badal Roy:tables  Michael Wolff :key,p.,org

70年代前半〜中期、マイルス・デイヴィスのグループへ参加していた人に、

80年代初期にちょこっとレコーディングに参加したものの御大に馬鹿呼ばわりされたフィナティー(理由は御大の誘いを蹴ってクルセイダースへ走ったことが

原因のよう)、それに関係の無いウォルフを加えたグループのライブ盤。

グループの名前にもなってる「オン・ザ・コーナー」から「ブラックサテン」「ニューヨーク・ガール」、

その頃の重要なレパートリーの「ディレクションズ」、加えてウォルフのペンによる「その頃の音」にインスパイアされたオリジナルが演奏されている。

ヘンダーソンとンドゥーグと言えば、71年の秋ごろのマイルスバンドのリズムセクション、怪しげ?にタブラを叩くロイは、

「オン・ザ・コーナー」「イン・コンサート」でお馴染み、フォーチュンは、「アガ/パン」のサックスと、まず、これだけの面子が一同に集いライブやって

おまけにCDにまでしてくれたということで、70年代マイルスファンの私としては、それだけで拍手喝采をしておきたい。

特にベースのマイケル・ヘンダーソン。

マイルスが活動休止した70年代中期以降は、シンガーとしてそれなりに成功したものの、80年代以降、あまりその名前を耳にすることのなかった

彼が健在なのが嬉しかった。

マイルスバンド時代と同じボコボコ、ドコドコしたベースを弾いているのには苦笑…相変わらず、この人、上手いのか下手なのかよく分からない、

ただ、リハ不足なのか、ところどころで間違えてるのはご愛嬌…。

このグループは、「あの頃」の音を「今風」にやるというよりも、「あの頃」の音を同窓会のように、「楽しかったなぁ」「かっこよかったなぁ」という感じで

懐かしむように、わきあいあいと演っているように感じた。

なんで「あの頃」の勢いやテンションを期待すると、正直、コケる。

また作品の中盤に登場する2分弱のマイルスの「ニューヨーク・ガール・パートU」をはさんで4曲続く、ウォルフのスロウなオリジナルが

メドレーで続くパートは、これまた正直、ダルい。

「イン・ア・サイレント・ウェイ」あたりでザヴィヌルがやったようなことをやりたかったんだろうけど、ウォルフの実力が伴わず企画倒れ。

ウォルフに文句をつけたついでに、もう一言、彼の演奏は非常に「スクエア」で「アウト」な感じが全然無いので、

リズムやフォーチュンのサックスがよくても、何か「あの頃」の雰囲気がせず、「フュージョン」的な臭いが終始漂う。

「あの頃」の音は、やっぱり「イン」じゃなくて「アウト」、「スクエア」じゃなくて「ヒップ」でしょ。

やはり、本作の聴き所は、トップの「ディレクションズ」とラストの「ブラックサテン」。

リズムとフォーチュン、フィナティーの頑張りで、まずまず、カッコいい、特に、フィナティーは予想外の健闘、いつもの端正なプレイではなく、

カッコよく崩してグシャングシャンしてるのが良い、が、マクラフリンだったらもっとよかったのに…という声も聞こえてきそうだけど…これ、言いっこなしね・・・。

フォーチュンのサックスも、良い意味で落ち着きの無いフリーキーな感じで、あの頃を思わせる演奏を披露。

が、しかし、ここでも、またウォルフのキーボードのソロになると、フュージョンになってしまうのは、他の面子のパフォーマンスがそこそこイイだけに、

やっぱり残念というか辛い。

よく考えると、「あの頃」にもキーボード奏者はいたけど、ハンコック、コリア、キース・ジャレット…それに御大自身のオルガンと、

みんな天才型、キースが辞めた後は、彼らと同等の鍵盤弾きが見つからず、結局、御大自らが弾いていた、という事実を考えると、

この種の音楽にキーボードを入れるということは結構、難しいのかも?。

所々ではそれなりにカッコいい部分は無いわけではないんだけど、全体的には、何回聴いても、何か食い足りないというか退屈というか何と言うか…

う〜ん…餡子の入らない大福餅、クリームの無いショートケーキ、天ぷらののってない天丼、エンジンの無いクルマ・・・。

やっぱりこの音は、マイルスのサウンドと存在がないと、上に挙げたようなマヌケなものと同じようになってしまうんだなぁ…残念ながら。

最後は、至極、当たり前のことしか書けなかったけど、これが、本作を聴いての、正直で偽らざる感想でした、ちゃんちゃん。

2003.12.20)

 

 

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