Swingroove Review
December 2000
Title/Musicians/Revel |
Jazz Crusaders "Power Of Our Music The Endangered Species" (Indigo Blue Entertament) |
Who? |
クルセイダースのオリジナル・メンバーの一人であるトロンボーン奏者、ウィエイン・ヘンダーソンが90年代初めに結成したユニット「ネクスト・クルセイド」をベースに、クルセイダース時代の同僚ウィルトン・フェルダーを加えたユニット。オリジナルのクルセイダースは、最後は、ジョー・サンプルとウィルトン・フェルダーのユニットだったが、ヘンダーソンが、ウィルトンを引き抜いたことで、ジョー・サンプルとは遺恨が生じていて、オリジナルのクルセイダースのリユニオンは、生涯ありえないという噂。一説には、不仲の原因の一つは、お互いの宗教の違いとも言われている。新生「ジャズ・クルセイダース」には、ジョー・サンプル役に、ボビー・ライルを起用。 |
With? |
ウェイン・ヘンダーソン(tb) ウィルトン・フェルダー(ts) ボビー・ライル(key) アレン・ハインズ モーリス・オコーナー ダレル・クルックス(g) デリック・マードック ラリー・キンペル(b) トニー・セント・ジェームス トニー・ムーア(ds) パトリー・バンクス(Vo) ヒュー・マサケラ(tp) |
Reflection? |
ジョー・サンプル側から、名門フュージョン・バンド「クルセイダース」の跡目を奪い取った?ウェイン・ヘンダーソンとウィルトン・フェルダーのユニット「ジャズ・クルセイダース」の新譜は、南アフリカでのライブ・レコーディング作。ライブ盤と言うことで、過去のクルセイダースの名曲のオンパレード。「ソー・ファー・ア・ウェイ」(もちろん原曲はキャロル・キングだけど…インスト・バージョンは、もうクルの十八番か。)「キープ・ザット・セイム・オールド・フィーリング」「スクラッチ」「ウェイ・バック・ホーム」…それにフェルダーの「インヘリット・ザ・ウィンド」やロニー・ロウズの「オールウェイズ・ゼア」まで…。70年代からのフュージョン・ファンにはたまらない選曲です。そんなタダでさえ懐かしくいい曲を、初期クルと同じボントロとサックスのユニゾンで聴かせてくれるんですから、もう悪かろうはずはありません。新生ジャズ・クルセイダースやネクスト・クルセイドなどでは、アレンジがヒップ・ホップ風になってたりして、「オジンが無理やり若作りしてる」みたいな違和感も感じましたが、このライブでは、いたって普通。アレンジ自体は、70年代のものを踏襲してる感じです。改めて感じたのは、サックスのウィルトン・フェルダーのメロウ&ファンキーなサックスの素晴らしさです。グローヴァー・ワシントンJr亡き今、個性派のソウル系サックス奏者として、ジャズ・クルとして活動だけでなく、よりアクティヴなソロ活動も期待したいです。またジョー・サンプル役のボビー ・ライルも、サンプルの物真似ではないフレッシュなアプローチによるキーボード・ワークを聴かせてくれており、バンドに新しい色彩感をプラスしている感じです。 |
etc… |
いや〜こんなファンキー&メロウなフュージョンには弱いです。それもライブとなると…どうしても評価が甘くなります。70年代といえば、スタッフ、リー・リトナーのジェントル・ソウツを初め、多くのフュージョン・バンド/ユニットがありましたが、そのほとんどは、無くなるか、芸風が変わってしまいました。このジャズ・クルのように、当時と同じようなことを21世紀を目前にした現在においても、シコシコやってるのは、ある意味大変貴重だと思います。20世紀型フュージョンの標本的存在の1枚。 |
Points? |
★★★★ |
Title/Musicians/Revel |
"TRIO→LIVE" Pat Metheny (Warner Bros.) |
Who? |
言わずと知れたコンテンポラリー・ジャズ・ギタリストの神様。パット・メセニー・グループで、「青空」サウンドを聴かせたかと思えば、オーネット・コールマンとの共演したり、ジム・ホールやチャーリー・ヘイデンなんかと、超ストイックなデュオもやる…などアーティスト・バリューを100%活かした、ある意味「わがまま」なギタリスト??。個人的には、やっぱりボーダーのTシャツを着て、ポップでフォーキーなサウンドを聴かせてくれていた70年代のパット・メセニー・グループが一番好き。 |
With? |
ラリー・グレナディアー(b) ビル・スチュワート(ds) |
Reflection? |
昨年暮れから今年の初めにかけて、アメリカ〜日本〜欧州とサーキットしたトリオのライブ演奏の中から、ベスト・バウトをピック・アップして2枚組としてまとめられたのが、この新作。基本的には、今年の頭に発売された「TRIO 99→00」のライヴ・バージョンという作品ながら、ECMからのファースト・アルバムのタイトル曲「ブライト・サイズ・ライフ」や「オフ・ランプ」収録のパット・メセニー・グループでお馴染みの「ジェイムス」、ディヴ・ホランド(b)=ロイ・ヘインズ(ds)というトリオで録音された作品「クエスチョン&アンサー」なども演奏されており、様々な曲を、この新しいトリオで試してみたいというパットの意気込みも感じられます。このトリオの演奏なんですが、レコーディング作の「TRIO 99→00」を聴いた時にも感じたのですが、どうも音が薄い感じがしてしまいます。グレナディアー=スチュワートというリズムも、深みは無いものの、4ビートから8ビートまで、古いジャズのビート感とは違う新しさを感じさせるもので、悪くはないと思います。パットのギターなんですが、このトリオでは、すごく内省的に感じます。音楽のベクトルが、我々聴衆である「外」へ向かず、「内」に向いている感じでしょうか。ですから、内包している音楽の力は、かつての名トリオ(ジャコ=ボブ・モーゼス、チャーリー・ヘイデン=ビリー・ヒギンズ、ディヴ・ホランド=ロイ・ヘイン…)や、PMGと比較しても遜色無いと思いますが、そのパワーが、リスナーに伝わってこないんです。CD2のラスト2曲は、ノイズ系入ったみたいなアグレッシヴな演奏で、完成度としては…なパフォーマンスながら、新しい音楽のベクトルを見つけようと、苦悩しているパットの葛藤を表現してるように感じました。 |
etc… |
パット・メセニーの音楽を完成させるには、どうも、そこに「触媒」のようなものが必要みたいです。例えば、PMGには、ライル・メイズがいますし、
かつてのトリオにも、「触媒」以上の活躍をした名プレイヤー達がいました。残念ながら、この新しいトリオには、「触媒」が無いため、トリオでありながら、そこには、孤独なパット・メセニーの姿しか見えません。何かをやりたいのでしょうが、このトリオから、その「何か?」が見えてきません。ひょっとしたら、パット自身にも見えてないのかも…。個人的には、このトリオの演奏は、1枚モノの「Trio 99→00」で十分で、わざわざライブ盤を出すほどのものではなかった、というのが、率直な感想です。 |
Points? |
★★☆ |
Title/Musicians/Revel |
Vladimir Shafranov Trio "Movin' Vova !" (Atelier Sawano) |
Who? |
ロシアに生まれ、イスラエル〜ノルウェーと渡り、1983年からNYをベースに活動しているピアニスト。1992年(1990年録音)に、アメリカのジャズ・レーベル「ジャズ・アライアンス」に吹きこんだ素晴らしいトリオ作「ホワイト・ナイツ」が、特に日本のピアノ・ファンの琴線に触れ、澤野商会が、近年リ・イシューを果たし、にわかに、「シャフラノフ・ブーム」も。軽妙にスウィングするケレン味の無さが魅力。 |
With? |
ペル‐オラ・ガッド(b) ユキス・ウイトラ(ds) |
Reflection? |
今、欧州系ピアノ・ファンの間で、常に話題となっている「澤野商会」モノの新作です。思えば、澤野さんのとこの新譜を買うのは(再発モノを含む)実は、これが初めてなんです。別に避けていた訳ではないのですが、ジャズ・マニアの悪いクセのひとつである、「マイナーもの探し」に乗じたような商売のしかたに、少しあざとさみたいなものを感じてました。それと、ピアノものでは、「やや辛」から「辛口」を好む私にとっては、澤野さんのラインナップは、やや甘口な感じもしました。しかし、シャフラノフの新譜の新作とあってはチェックしない訳にはいきません。近年、澤野さんが、リ・イシューをして、話題となった、ジャズ・アライアンス原盤の「ホワイト・ナイツ」は、92年のリリース当時から、ゲットして聴いており、別段のインパクトは無かったものの、趣味の良い軽妙なプレイに好感をもってました。またアル・フォスター=ジョージ・ムラーツというリズム・セクションの「地味凄」なサポートも光る作品でした。今作は、その「ホワイト・ナイツ」以来の新作で、前作の「スタンダード大全集」みたいな雰囲気ではなく、「やや渋」の選曲による趣味の良いジャズ・ピアノ作となっています。「やや渋」とは言っても、「貴方と夜と音楽と」や「バット・ビューティフル」あたりもやってますから、スタンダード・ファンにも十分楽しめる内容となってます。音数の多さで勝負するタイプではなく、一音一音を大切にしながら、原曲の良さを上手く引き出すようなシャフラノフのピアノの素晴らしさは、今作でも健在です。2曲目のアップテンポで演奏された「貴方と〜」での、前作では感じられなかった力強さも良いですが、3曲目の「フォー・ヘヴンズ・セイク」やソロで演奏される7曲目の「バット・ビューティフル」でのバラード演奏の素晴らしさは、感動ものです。キース・ジャレットのモノマネみたいな「仏作って魂入れず」みたいな無味乾燥としたバラードではなく、「心」がピアノを演奏しているような感じです。またラストに収録されてるパーカーの「デキスタリティ」での演奏では、正統派バッパーとしての魅力を改めてアピールしています。リズム・セクションですが、派手なプレイはないですが、シャフラノフの控えめな芸風を引きたてる安心できるサポートぶりです。 |
etc… |
数回さらっと聴いただけでは、「ホワイト・ナイツ」の方が…と思いました。しかし、何度も、特にバラード・ナンバーをじっくりと聴きこむと、この作品の素晴らしさが分かってきます。これほど温かみを感じさせるバラードを演奏できるピアニストは、現在においてはそういないと思います。バッパーとしての確かなテクニックを持ち、かつ、良い意味での分かりやすさとバラード演奏の素晴らしさという点で、ジョージ・シアリングの後継者という印象を持ちました。名盤「ホワイト・ナイツ」にも勝るとも劣らない素晴らしいピアノ・トリオ作です。寒い冬に、こんな温かいジャズ・ピアノで、ほっこりとしてみてはどうですか。 |
Points? |
★★★☆ |
★は1(最悪)〜5(最高)です。
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