Swingroove Review

September 2000



Dave Strayker "Shade Of Miles" (Steeple Chase)

 ディジー・カレスピーやスタンリー・タレンタインなどとの共演を経て、90年の初リーダー作「ストライク・ゾーン」以来、スティープル・チェイスを拠点に、順調なリーダー作発表を続けるギタリスト、デイヴ・ストライカーの新作がリリースされました。
 ジョン・コルトレーンやジョージ・ベンソンに強い影響を受けたということですが、スタイル的には、ウェス〜ベンソン路線というよりも、ジャック・ウィルキンスやジョン・スコフィールドといった70年代にデビューしたジャズ系ギタリストに近い気がします。ブルースの影響を強く感じさせる線の太いサウンドで、ジョン・スコほどではないですが、ややよじれたラインで演奏する彼のギターは、ネームバリュー以上の魅力が確実に感じられるはずです。秀才型のジャズメンが幅を利かす昨今では、珍しい存在とも言える「ヤ」行のムードを持ったミュージシャンです。
 さて今回の新作ですが、タイトルからも想像できるとおり、テーマは「マイルス・ディヴィス」です。それも60年代後半〜70年代初期のマイルス、作品的には「イン・ア・サイレント・ウェイ」〜「ビッチェズ・ブリュー」あたりにインスパイアされたもののようです。この時代のサウンドは、マイルス以外がやると、胡散臭いサウンドになりがちなもので、この作品も、実際に聴くまでは、懐疑的な印象でした。
 参加ミュージシャンですが、マイルス役?に、ジャズ・メッセンジャーズの最後のトランペッター、ブライアン・リンチ、アルト&ソプラノにストライカーの盟友、スティーヴ・スレイグル、テナー/ソプラノ/バス・クラリネットにビリー・ドリュース、この時代のサウンドを極めるには、2人のキーボードが不可欠?と見たか、フェンダー・ローズに、マーク・コープランド(元マーク・コーヘン)、オルガンにラリー・ゴールディングスのツイン・キーボード、テリー・バーンズのエレクトリック・ベース、ビリー・ハートのドラム、マノロ・バドレーナのパーカッションという面子。録音は98年の11月。全6曲中、1曲を除いてストライカーのオリジナルです。(1曲はブライアン・リンチ作)
 この時代のマイルスのサウンドといえば、ミステリアスというかおどろおどろしい雰囲気が特徴ですが、ここでのストライカーのサウンドは、えらくすっきりとしている印象です。あの時代の特徴的な8ビートのリズムや、オルガン&ローズ、それにバス・クラリネットなどが醸し出す「モワッ〜」っとしたサウンドはなかなか上手く表現しているとは思いますが、「あの時代のマイルス」の音楽の本質をつくまでには至っていません。まぁその要因のひとつに、ここでの演奏が、グループ全体のコレクティヴ・パフォーマンスではなく、従来のジャズ/フュージョンの普通の形である「テーマ〜ソロ〜テーマ」という感じの展開になっているからだと思います。じゃ〜つまらない作品か?と聞かれれば、そうではなく、意外にカッコ良いサウンドなんです。
 「あの時代」のマイルスのスパイスをふりかけた、ストライカー初のコンテンポラリー作として聴けば、なかなかの作品だと思います。4ビートの演奏よりも、力強さやファンキーさを増したストライカーのギターや、年齢を感じさせないビリー・ハートのシャープなリズム、浮遊感あふれる2人のキーボードなど…聴き所もたくさんです。まぁ「あの時代」のジョン・マクラフリンとは、正直勝負にはならないとは思いますが、同じマイルス・スクールの優等生のジョン・スコフィールドとは、「タメ」を張れる実力は十分にもったギタリストだということが、この作品から感じとれるはずです。
 最後に蛇足ながら、この作品のライナー・ノーツを「あの時代」にマイルスのサウンドをサックスで支えたディヴ・リーヴマンが担当してることをお知らせしておきましょう。このことからも、この作品が、いかに真面目に作られたものであることが分かるでしょう。
9.7 Update

★★★☆

Rachel Z Trio "On The Milky Way Express" (Tone Center)

 ステップス・アヘッドやウェイン・ショーターなどのサポート・メンバーとして知られる女性ピアニスト、レイチェルZことレイチェル・ニコラッツォの新しい作品が、ロック系ハード・フュージョンを多くリリースするインディ・レーベル「トーン・センター」から発売されました。
 「ト−ン・センター」からのリリースということで、ステップス・アヘッド的なコンテンポラリー作かな?と思いきや、これが彼女初のピアノ・トリオ作。それもウェイン・ショーター集ということで、少々びっくりしてしまいました。
 コロンビアからリリースされた1枚目は、トラディショナルなジャズとコンテンポラリー調のものの折衷作、2枚目のNYC/GRP作が、スムース・ジャズ作ということで、正直な所、彼女のピアノの印象がほとんど無く、今作を聴いて初めて、レイチェルZというピアニストがどんな感じなのか、分かった感じです。
 ウェイン・ショーター集ということで、マイルス時代の「ピノキオ」「フットプリンツ」「フォール」をはじめ、「ブラック・ナイル」…など結構有名曲が多く収録されてます。サポート・メンバーは、ミリアム・サリバン(b)=アリソン・ミラー(ds)という女性!のリズム・セクションです。女性ということを意識させない、なかなかのリズム・セクションではありますが、取りたててどうこう言う部分もなく、平凡な普通のミュージシャンといった所です。「女性ジャズ・ミュージシャン」というだけで、馬鹿騒ぎするどこかの国のメジャーなジャズ雑誌は喜びそうな感じですが…。
 内容ですが、ショーターの曲といえば、ジャズらしさと微妙な色彩感というか陰影感を ミックスした素晴らしい曲が多く、当然、多くのジャズ・ミュージシャンが取り上げていますが、マイルスやショーターのオリジナル・バージョンの魅力には、程遠いものが目立ちますが、今作も、どちらかと言えば、残念ながら「いまいち」のレベルに終わってる感じです。これは自分の個人的な意見ですが、ショーターの曲を上手くパフォームするには、そのミュージシャンの演奏の中にも、微妙な陰影感や良い意味でのよどみみたいなものが必要だと思います。その点で、このレイチェルZのピアノからは、クリアな綺麗さは感じられるものの、「ジャズらしい」スモーキーな魅力はほとんど感じされません。ですから、このショーター集でも、曲の解釈が単純で、そのメロディーだけをトレースしただけに終わってる印象です。
 だからと言って、レイチェルZというピアニストがダメかと言うと、そうではなく、今作はテーマ選びに失敗したのであって、もっと別のアプローチであれば、彼女のピアノの魅力をもっと引き出せるはずです。チック・コリア的な綺麗さや、フットワークの軽さを持ったピアニストなので、この女性トリオのまとまりの良さを生かした、ライトな作品を作れば、レイチェルZのピアノとこのトリオの魅力が、よりクロース・アップされると思います。とても難しいテーマであるショーター集は、もう少し経験を積んでから、満を持して取り組んだほうが、良かったのではないでしょうか?。
9.7 Update

★★★

は1(最悪)〜5(最高)です。
感想を書きこんでいただければ幸いです。

Home