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David Garfield & The Cats "I Am The Cat,Man"(Cool Sounds) |
ジョージ・ベンソン(g,vo)のバンドのミュージカル・ディレクターや自己のフュージョン・ユニット「カリズマ」、またスティーヴ・ルカサー(g,vo)のセッション・ユニット「ロス・ロボトミーズ」などでの活躍で知られるLAのキーボード奏者、デヴィッド・ガーフィールドの98年発売のリーダーアルバムが、AOR〜フュージョンファンが涙するような70年代後半〜80年代の作品のリ・イシューを続ける「クール・サウンド」から初めて国内リリースされました。この作品は、ガーフィールドのWEBサイトで販売されていたもので、タワレコやCD Nowなどでは流通していなかったので、今回日本オンリーとはいえ、きちんとした流通経路でリリースされることになったのは、ホントめでたいことです。 97年に日本のポニー・キャニオンの「スイーカ」レーベルからリリースされたジェフ・ポーカロのトリビュート作「トリビュート・トゥ・ジェフ・ポーカロ」(アメリカではZEBRAレーベルから発売。)では、ボズ・スキャッグス、マイケル・マクドナルド、スティーヴ・ルカサー、ラリー・カールトン…からエディ・ヴァン・ヘイレンまで参加した超豪華セッションを仕切り、高い評価を集めたデヴィッド・ガーフィールドですが、それに続くこの作品でも、LAのセッション・シーンの顔役らしく、なかなか豪華な面子が参加しています。 デヴィッド・ガーフィールドのキーボードを中心に、スティーヴ・ルカサー(g,vo)マイク・ランドゥ、マイク・ミラー、リカルド・シルヴェイラ(g)ジョン・ペイニャ、ジミー・ジョンソン、ネイザン・イースト(b)グレッグ・ビソネット、サイモン・フィリップス、カルロス・ヴェガ(ds)ブランダン・フィールズ、ラリー・クライマス、アーニー・ワッツ(sax)ウォルト・ファウラー(tp)ルイス・コンテ、レニー・カストロ(perc)フィル・ペリー(vo)らが参加したこの作品は、LAの超一流スタジオ・ミュージシャンのカタログを見ている(聴いている?)ような凄さです。 実際の演奏もその面子の凄さが証明するようなハイ・クォーリティーなもので、その凄さも、これ見よがしのアクロバティックなものではなく、シュアなプレイの中にキラッと光るものを聴かせてくれるという、野球で言えば、上手い2番打者のような感じでしょうか?。 収録曲ですが、ビートルズの「ストロベリー・フィールズ」とクラプトンの「レイラ」以外は、ガーフィールドのオリジナルが中心ですが、ややロック・テイストな魅力的なナンバーが、適所適材のミュージシャンによってパフォームされています。レコメンド曲は…、2曲目のルカサーのヴォーカル&ギターをフルにフィーチャーし「ロス・ロボトミーズ」名義でライブ収録されたブルージーなロック・ナンバー「ダウン・オン・マイ・ラック」、4曲目のジミー・ジョンソン=
ヴィニー・カリウタのテクニカルなリズムセクションと、ブランダン・フィールズ、アーニー・ワッツ、ウォルト・ファウラーという3人のホーン隊が光るファンキーなトラック「ブルース・フォー・Mr J」、7曲目のルカサー全開のシャッフル・ナンバー「ナイト・オブ・ザ・フロッシング・コマス」8曲目のもともとフレディ・ハバードに提供した曲というモロLAフュージョンなミディアムなメロウ・ナンバー「フローム・アバブ」…あたりが特に気にいったナンバーたちです。 主人公のガーフィールドのピアノ/キーボードですが、そのプレイ自体は、ややラテンテイストを感じさせるものの、カリズマ時代と同じやや凡庸なものですが、ソロは大したこと無いかわりに、バッキングでは絶妙な所を聴かせてくれており、豪華なセッションを取りし切るには適任なキャラといえるキーボード奏者だと思います。 特に70年代後半あたりから、どっぷりとLAフュージョンにハマってた人には、涙ものの作品です。クレジットを見ながら「やっぱりルカサーカッコえぇなぁ…」「ヴィニー・カリウタのタイコ渋い…」「ジミー・ジョンソンのベースどなして弾いてんの…」…みたいにブツブツ?言いながら楽しめる人向きのフュージョン作なので、最近ケニーGやボニー・ジェイムスあたりの「スムース・ジャズ」でこの手のジャンルに開眼したファンには、「ちょっと違う」サウンドだと思います。人の体温を実感できる手作りのLAフュージョン作は久しぶりに聴いたので、ちょっと嬉しくなった一枚です。 2000 4.3 Update |
★★★☆ |
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Peter Erskine's American Trio "Live ar Rocco"(Fuzzy Music/MA Recordings) |
スタン・ケントンやメイナード・ファーガスン(tp)バンドを経て、70年代後半の「絶頂期」のウェザー・リポートで、ジャコ・パストリアス(b)とリズムを組み、その地位と人気を確立させたドラマー、ピーター・アースキン。 彼の新作が、自己のレーベル「ファジー・ミュージック」からリリースされました。(国内でのディストリビューションはMA
レコーディングが行っています。) 今回の新作は、タイトル通り、トリオによる2枚組みのライブ作で、メンバーは、ピーター・アースキン(ds)アラン・パスクァ(p)ディヴ・カーペンター(b)、収録は、99年10月、ウェスト・コーストのジャズ・クラブ「ロッコ」となっています。 アースキンのピアノ・トリオと言えば、ECMから作品をリリースしている、パレ・ダニエルソン(b)ジョン・テイラ−(p)のトリオが有名ですが、今回の「アメリカン・トリオ」では、モロ寒色系のECMでの「ヨーロピアン・トリオ」と比較して、ややホットな印象です。ピーター自身もライナー・ノーツの中で語っているように、「アメリカン・トリオ」は、アカデミックな「ヨーロピアン・トリオ」に対し、ややエンターティメント性を重視したピアノ・トリオという位置付けがなされているようです。ただエンターテイメントといっても、作為的に何かやってやろう的なわざとらしいものではなく、より幅の広いリスナーが心地よく楽しめるジャズという意味合いでしょう。全体的には、黒っぽいバピッシュな雰囲気とは対極的な白いクールなピアノ・トリオです。トリオの位置関係も、3人がお互いにインタープレイを繰り広げるというより、アースキンとパスクァの絡みをベースのカーペンターが支えてるといった印象です。 選曲は、パスクァとアースキンのオリジナルが中心で、ややラテン的なリズムの遊びがある曲が多く、有名なスタンダードものは、コール・ポーター作の「オール・オブ・ユー」がCD‐2に収録されてるのみです。良い意味でもそうでない意味でも、ジャズらしい雰囲気の少ない楽曲が中心で、ちょうどパット・メセニーのサウンドに通じる感覚とでもいえばよいのでしょうか。ただサウンド全体に流れるリリシズムのようなものは、ビル・エヴァンスから多大な影響を受けていることは間違いないでしょう。 しかしまぁ、いつ聴いてもアースキンのドラムの音の良さと、空間の使い方の絶妙さは、ほんと関心させられます。シンバルの音ひとつで自分の世界を作ることのできる、アースキンの個性は、ワン&オンリーなものです。この「アメリカン・トリオ」にせよECMでの「ヨーロピアン・トリオ」にせよ、アースキンのトリオでは、リズムをハードにキープするとか、派手なソロを聴かせるとか、激しいインタープレイを繰り広げる…みたいなことを目標にしたものではなく、センシティヴなドラムで微妙な色彩を描きながら、ジャズという閉鎖的なフィールドから超越した新しい音楽をクリエイトしようとしている感じを受けます。このことは、ピアノ・トリオに限らず、ジョン・アバークロムビー(g)=マーク・ジョンソン(b)=ピーター・アースキン(ds)のギター・トリオでも感じる所です。 したがってコンベンショナルなピアノ・トリオ・ファンにはあまりお勧めできる作品ではありません。リッチ−・バイラークやケニー・ワーナーなどの白人系のピアノ・トリオが好きな人には、このトリオのクリエイティヴさや面白さを実感してもらえると思います。ただライブ盤ということで2枚組みの構成となってますが、この雰囲気で2枚通しで聴くのは少々退屈な感じもしましたが…ハイ・クォーリティーなコンテンポラリー・ピアノ・トリオとしては高く評価できる作品だと思います。ECMでの作品の少し現代音楽的な展開に敬遠していたアースキン・ファンにも、お勧めできる「普及版」アースキン・トリオ作だと思います。 2000 4.5 Update |
★★★☆ |
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Joshua Redman "Beyond" (Warner Bros.) |
93年のデビュー作「ジョシュア・レッドマン」以来、早や7作目となる新作「ビヨンド」がリリースされました。近年の若手ジャズメンがエスタブリッシュするための登竜門的存在とも言える「モンク・コンペティション」優勝という輝かしい栄光を手に、デビューを果たし(ちなみに次点は、エリック・アレキサンダー、3位はクリス・ポッターだった。)、メジャー・レーベルのワーナーの手厚いケアの下、今や若手テナー奏者ナンバー・ワンの地位を強固なものとしたジョシュア・レッドマン。さてさて今回の新作なんですが…。 前作「タイムレス・テイルズ」同様、カルテット編成ながら、メンバーはがらっと入れ替わってます。今作のジョシュア・レッドマン・カルテットのメンバーは、ジョシュアのサックスに、アーロン・ゴールドバーグ(p)リューベン・ロジャース(b)グレゴリー・ハッチンソン(ds)、1曲にジョシュア弟分とも言えるマーク・ターナー(ts)も参加しています。前作が、スタンダード中心の作品に対し、今作は、全曲ジョシュアのオリジナルで固めています。 さてその内容ですが、最初に結論から言えば、正直「ピン」とこないジャズです、というか私には「ピント」のズレた写真のようなぼやけた感じがしました。このことは、別に今作だけではなく、彼のすべての作品でも感じたことですが、ここで特に感じたのは、全曲オリジナルということが災いしているのではないでしょうか。ジャズ的なスリルも無い、かといってポップでも無い、アグレッシヴさもあんまり無い…中途半端なオリジナル曲10曲も聴き続けるのは、結構辛いものがあります。 ジョシュアは、テナー、アルト、ソプラノを弾き分けてますが、正直、「これはっ!」と思ったのは6曲目のナンバーの後半部分での、コルトレーン調のアグレッシヴなソプラノぐらいで、後はボヤボヤとした演奏が続き、特にテナーなどはうんざりさせられます。楽器のコントロール力=テクニックは確かに天才的なものがありますが、ジャズにとってもっと大切な楽曲の「表現力」には疑問を持たざるえません。また「ジャズをやりたい!」「いいジャズを創りたい!」という情熱というか熱さのようなものも感じません。もし「クール」に行くということなら、もっともっと楽曲やサウンド全体を上手く活かす微妙なニュアンスを出せる表現力を身に付けないとダメでしょう。これには無味乾燥なオリジナルをいくらやってもダメで、やはり正統派スタンダードをべテラン・ミュージシャンとの共演でやったりして身に付けないといけないことでしょう。はっきり言って、ここ数作のジョシュアのソロ作は、自己満足、オ○ニーと言わざる得ないつまらなさで、残念ながら今作も同じ結果に終わっています。 まぁそんな感じで、かなり辛口となってしまいましたが、そんな中、光っているのが、ピアノのアーロン・ゴールドバーグで、ジャズの伝統と新しさが同居した良い感じのプレイを聴かせてくれます。ソロもさることながら、モーダルなバッキングにおいて個性を発揮しているように感じました。ジョシュアのグループから羽ばたいたブラッド・メルドーみたいに今後ブレイクする可能性を秘めたピアニストだと思います。 しかしジョシュア・レッドマンというサックス奏者は何を目指してるのでしょうか?。そしてまた何をやりたいんでしょうか?。ソロ・デビュー以来、ワーナーの庇護で過保護に育ったジョシュアには、ハングリーさに欠けているおり、そこが彼のジャズに迫力や熱さを感じない原因のような気がします。同じような境遇のサックス奏者ブランフォード・マーサリスも当初はそうでしたが、スティング、マイルス、ロリンズ、ディズ、それにブルースマンのジョン・リー・フッカーとの共演で大きく成長しました。ジョシュアもいまこそ、自分のグループなんかよりも、サックス1本持って武者修行に出て、名実ともに若手ナンバーワンの存在に成長してほしいものです。現在では、知名度では勝っているものの、残念ながら実力では、「モンク・コンペティション」で2位3位となったエリック・アレキサンダーやクリス・ポッターに完全に負けてます。ガンバレ!ジョシュア!。ファンだからこそここまで厳しく書くんですから…ネ。 2000 4.13 Update |
★★☆ |
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Jim Rotondi Sextet "Excursions" (Criss Cross Jazz) |
エリック・アレキサンダー(ts)との共演で知られるトランペット奏者ジム・ロトンディの新作が、クリス・クロス・ジャズからリリースされました。 この新作の録音は1998年の12月。参加メンバーは、ジム・ロトンディ(tp)エリック・アレキサンダー(ts)スティーヴ・ディヴィス(tb)デヴィッド・ヘイゼルタイン(p)ピーター・ワシントン(b)ケニー・ワシントン(ds)というセクステット。そうなんです。ドラムをジョン・ファーンスワースにチェンジすると、人気ユニット「ワン・フォー・オール」そのままです。従ってサウンドのおおよそや、ユニットとしてのまとまりの良さは、保証済みといった感じでしょう。 「ワン・フォー・オール」を聴いたことがある方ならお分かりかと思いますが、この面子でのジャズはホント痛快です。ウィントンみたいにお勉強的な「ジャズの伝統」みたいなものを大袈裟に振りかざすのでは無く、コンベンショナルなジャズのスタイルを守りつつ、「俺らはこんなジャズが好きなんや!」みたいな意気の良さと楽しさに溢れています。「こんなの聴く位なら、50年代、60年代のハード・バップの方が…」みたいな意見もあろうかと思いますが、私はそうは思いません。表面上は、コンベンショナルな4ビートながら、それぞれのミュージシャンの感覚では、「16ビート→4ビート」で演奏している感じなんです。50年代〜60年代のハードバップは「2ビート→4ビート」なので、ソロのスペースが窮屈な感じですが、現代のハードバップでは、そこの自由度が大きくなり、ソロやハーモニーの展開もコンテンポラリーなものとなっています。好き嫌いは別にして、60年代のリー・モーガンあたりの作品と直接聴き比べればその違いがよく分かると思います。 収録曲ですが、1曲目の60年代ハードバップの影響をモロに受けたロトンディのオリジナル「ショートケーキ」から魅力炸裂です。3管編成のハードバップはやはりカッコ良いです。「いや〜ジャズってええなぁ〜」と実感する曲?です。ロトンディのペットもリー・モーガンを意識している感じです。2曲目には、ハッチャーソンの60年代のモーダル・バップの名曲「リトル・Bs・ポエム」登場。エリ・アレのテナーがいいニュアンスだしてます。この人もどちらかと言うと最近はサイドメンの時の方が良い仕事する感じですが、エリ・アレは全編で良いテナー吹いてますので、エリ・アレ・ファンは必聴です。ヘイゼルタインの男性的で硬派なソロ&バッキングも渋いですが、聴き逃せません。4曲目のバーノン・デュークのバラッド「ホワット・イズ・ゼア・トゥデイ」でのロトンディのプレイも歌心たっぷりです。いやいや…そんな感じで8曲目のウェス作のミディアム・ブルース「フライド・パイズ」まで、ジャズの魅力を凝縮したようないい演奏が詰まった1枚です。 とにかくクリス・クロスらしい1枚です。レビュー半ばでコメントした「60年代ハードバップのカーボン・コピーだ!」という批判もあろうかと思いますが、私の一番好きなスタイルのジャズのひとつです。歴史的な意義や価値などの評価を抜きにすれば、5つ星アイテムなんですが、そこんとこの新しさがちょっと欲しいな…という気もするのでマイナス半星ということで、4つ星半献上の上質なコンテンポラリー・ハード・バップ作です。 2000 4.19 Update |
★★★★☆ |
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Eric Alexander "The First Milestones" (Milestone) |
制作中から、話題を集めていたエリック・アレキサンダーのマイルストーン専属第一弾(アルファ・ジャズ原盤の「マン・ウィズ・ア・ホーン」などはアメリカではマイルストーンからのリリースだったが。)の新作、その名も「ザ・ファースト・マイルストーン」が発売されました。 参加メンバーは、エリ・アレ(ts)ハロルド・メイバーン(p)ピーター・ワシントン(b)ジョー・ファーンスワース(ds)というレギュラーカルテットを基本に、「新生ジョイアス・レイク」への参加のお返し的に4曲パット・マルティーノがギターで参加したすっきりしたメンバー構成となっています。プロデュースは、昨年リリースの超絶?ライブ盤「ザ・ライブ・アット・ザ・キーノート」でもプロデュースをつとめたトッド・バルカン。録音は昨年の11月、NYレコーディングとなっています。 メジャー移籍第一弾の作品といえば、得てして、ネームバリューを高める為だけに、筋違いの有名ミュージシャンを起用したり、ミュージシャンの個性を殺した妙に媚びたような作品になることが多いですが、このエリ・アレの作品に至ってはその心配はほとんどありません。専属契約のかなり前から、エリ・アレの日常的演奏の素晴らしさを知り尽くしているトッド・バルカンの、妙な化粧を施さず、素顔のエリ・アレを前面に押しだし、プラス・アルファのサムシングな魅力の部分で、パット・マルティーノを起用するというプロデュース姿勢が功を奏しているようです。またCriss Cross時代では、アーティストの意向が尊重されすぎ、演奏スタイルやその方向付けがバラバラになりがちで、1本キチンと筋の通った作品が少なく、また1本調子で正直アルバム1枚通しで聴くには少々キツい作品もありましたが、今作では、そのあたりのネガティヴな要素が、トッド・バルカンのプロデュースによりデリートされている感じです。 エリ・アレのテナーも、前作のトレーン・ライクな火を吹くような荒々しいスタイルよりも、どちらかと言うとデビュー当初のデックス・スタイルに戻ったような印象です。ただ初期のような勢いにまかせたような1本調子な感じではなく、ここ数年トライしてきたトレーン・スタイルをキチンと踏まえたもので、アドリブにより一層の深みがプラスされています。まぁ今回のスタイルが、エリ・アレ自身の意思によるものなのか、はたまたプロデュース・サイドの意向なのか?良く分かりませんが、メジャー1作目の名刺代わりの作品としては、こんな感じが妥当な所でしょうか。このレコーディング後、今年の初めの大阪でのライブでは、コルトレーン・スタイル・バリバリだったみたいなので、次作あたりでは、再びやってくるのでは無いでしょうか。 収録曲は、全8曲中、3曲がアレキサンダーのオリジナルで、1曲がメイバーンのオリジナル、その他の曲はすべてスタンダードで固められています。1曲目と3曲目のパット・マルティーノ参加のエリ・アレのオリジナルが少しモーダルな感じがする以外は、結構コンサバな雰囲気の曲が多い感じです。ゲストのマルティーノですが、正直に言うと「いてもいなくても、どっちでも良い感じ」。まぁ作品の中のチェンジ・オブ・ペースの役割として、それなりの役割を果たしてる感じは無いわけじゃないですが…。8曲目の「アイム・グラッド・ゼア・イズ・ユー」での8ビート調の演奏は、故チャールス・アーランド(org)のグループでの経験が活かされた歌心溢れるファンキーな感じで、このジャズ・ファン以外にもアピール出来るポップな要素は、今後の個性のひとつにしてもいいんじゃないでしょうか。そうそうエリ・アレの後見人的なメイバーンのピアノもいつもながらファンキー&スィンギーでご機嫌です。 メジャー第一弾ということで、妙に肩の力の入りすぎた作品だったらイヤだな…と思いながら聴きましたが、全く杞憂に終わりました。エリ・アレの魅力の側面のひとつである、豪快なデックス・スタイルにスポットを当てた作品なので、近年のアグレッシヴなトレーン・スタイルを聴きたい人にはやや物足りないかもしれませんが、この辺は、次作でピックアップしてくれるのではないでしょうか。何はともあれエリ・アレの名実ともに「マイルストーン」となったこの新作は、すべてのジャズファンにお勧めできる定番ものの1枚です。 2000 4.19 Update |
★★★★☆ |
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Jay Beckenstein "Eye Contact" (Windam Hill Jazz) |
人気フュージョン・グループ、スパイロ・ジャイラのリーダー/サックス奏者、ジェイ・ベッケンシュタインの初リーダーアルバムがウィンダム・ヒル・ジャズからリリースされました。ジェイのリーダー作は、スパイロ・ジャイラがGRPと契約している時から計画されていたものですが、GRPの所有者がコロコロと変わる中、先延ばしとなり、スパイロ・ジャイラがGRPの次に専属契約を結んだWindam Hill Jazzから満を持して発表されることとなりました。 ジェイは、自分がリーダーをつとめるスパイロ・ジャイラとレコード会社が専属契約を結ぶ際に、必ず自らのリーダー作を製作できること、という文言を契約書に入れさせていたとかで、いかに彼が長年に渡って自分のソロ・アルバムに対する大きな夢を抱いていたのかが、分かるエピソードのひとつです。 さてこの初リーダー作ですが、そんなジェイの大きな思い入れのようなものを微塵も感じさせない?普通のスムース・ジャズとなっています。チャック・ローブ(g)ジェイソン・マイルス(key)キエリ・ミヌッチ(g)ら、コ・プロデューサーをつとめている人による打ち込みのリズム・トラックをベースにサックスやベース、ドラムなどがオーバーダヴィングされているような感じで、ジェイのサックスが無ければ誰のリーダー作なのか正直、分かりかねるサウンドです。参加ミュージシャンはその他に、ウィル・リー、マーク・イーガン、マーカス・ミラー、ジョン・パティトゥッチ(b)オマー・ハキム(ds)ミノ・シネル、デヴィッド・チャールス(perc)らが参加していますが、取り立ててどうこう言うほどの活躍をしてるミュージシャンはいません。残念ながらみんな「お仕事」状態です。 さて収録曲は、ミンガスの「グッドバイ・ポーク・パイ・ハット」とウェザー・リポート(ジョー・ザヴィヌル作)の「ブラック・マーケット」以外はベッケンシュタインやキエリ・ミヌッチ、チャック・ローブなどのオリジナルです。事前の情報では、マーカス=オマーのリズムであの「ブラック・マーケット」をやってるということで、たいそう期待していましたが…中途半端なアフリカン・テイストなイントロ入りの腑抜けな演奏にがっかり…ジェイのサックスも言うに及ばず、オマーやマーカスにも「お前ら何やってんの?」と言いたいような感じです。また「グッド・バイ〜」も「ブラック・マーケット」同様の中途半端さです。逆にアルバム前半に収録されているスムース・グルーヴな爽やか系のトラック、特にスパイロ・ジャイラの当り曲「モーニング・ダンス」を髣髴とさせる1曲目などは、スムース・ジャズとしてはまぁまぁの出来ですが、これなら別にソロでやらなくても、スパイロ・ジャイラでやれば?と思ってしまいます。後半に収録されてる「ブラックマーケット」を含む、妙に軽いワールドミュージックみたいなトラックは、ほんと退屈でつまらないです。こんな曲がやりたくてソロ作を作ったのだとすれば、正直がっかり…です。 1年ほど前の制作中から、「凄い作品みたい!」という噂から、期待していた作品ですが、すっかり肩すかしを食らった感じです。また透明でキラキラした感じのサックスが魅力だったベッケンシュタインですが、こちらも、何か音色が濁った感じでがっかりでした。これだけのベテランがこの手の作品でお茶を濁すのは返す返す残念でなりません。この作品を聴くと「スムース・ジャズ」と呼ばれるサウンドの限界を感じずにはいられません。 2000 4.24 Update |
★★☆ |