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Jeff Lorber "The Difintime Collection" (Arista) |
ベテラン・フュージョン・キーボード奏者ジェフ・ローバーの、ジェフ・ローバー・フュージョン時代を含むArista時代のベスト・アルバムがリリースされました。 ジェフ・ローバーといえば、70年代後半にジェフ・ローバー・フュージョンで人気を集め、そこで当時全く無名のサックス奏者ケニー・ゴーリックを起用し、後にケニーGという名前で大スターになったことで、キーボード奏者としてのみならず、新人発掘の才能でも高く評価されています。またR&Bシンガーのエリック・ベネイ(当時はエリック”ベネイ”ジョーダンと名乗っていたが。)やキャリン・ホワイト(「スーパーウーマン」の大ヒットで有名。)を育てたことでも知られています。また90年代以降では、ディヴ・コーズ(sax)や故アート・ポーター(sax)も彼の手を経てデビューしたアーティスト達です。 さてこのベスト・アルバムには、1979年のジェフ・ローバー・フュージョンとしてのアルバム「ウォーター・サイン」から1985年のソロ作「ステップ・バイ・ステップ」までの合計6枚の作品の中から、ジェフ・ローバー自身の選曲による16曲のナンバーが収録されています。選曲の傾向ですが、最近のスムース・ジャズ人気を反映するように、ミディアム・テンポのグルーヴ‐&メロウなナンバーを中心にセレクトされているようです。ジェフ・ローバー・フュージョン名義の「ウォーターサイン」と80年の「ウィザード・アイランド」は一度CD化されていますが(81年の「ギャラクシアン」は未CD化のはず。)、それ以外のアリスタ盤のジェフ・ローバーは未CD化ということで、82年の「イッツ・ザ・ファクト」84年の「イン・ザ・ヒート・オブ・ザ・ナイト」85年の「ステップ・バイ・ステップ」の音源
はすべて初CD化となります。 さてジェフ・ローバーのサウンドですが、70年代後半〜80年代初期までのジェフ・ローバー・フュージョン時代と、ソロ活動初期の80年代中期まで、それにヴァーヴ・フォーキャスト時代の90年代以降という、大まかに分けると3つの時代に区別できると思います。このベスト盤には、フュージョンの歴史に残る大ヒットを記録した86年のワーナー盤「プライヴェイト・パッション」直前の85年の作品までの中からセレクトされていますが、正直、70年代後半〜80年代初期のジェフ・ローバー・フュージョンの時代のサウンドは、安物のスーパーのBGMみたいな感じで、結構気恥ずかしいものがありますが、82年のソロ名義による「イッツ・ザ・ファクト」以降のサウンドは、大方15年以上も前のサウンドながら結構カッコ良いんです。シンセの音色や音使い、ネイザン・イーストのベースの音(特に「カチャカチャ」いうスラップ系の音)などはさすがに時代を感じるものの、グルーヴィーなスムース・サウンドや、ケニーGのスウィートなソプラノをフィーチャーしたメロウなサウンドなど、コンポーズやアレンジは、フュージョン職人ジェフ・ローバーならではの素晴らしさを実感できるはずです。特に、私の好きな「イッツ・ザ・ファクト」からの「テラ・ヴェルデ」「ザ・マジシャン」(この2曲はむか〜し、FM東京のFMステーション提供の番組のテーマに使われてました!)「イン・ザ・ヒート・オブ・ザ・ナイト」からの「トロピカル」それに、ミック・マーフィー&デビット・フランクのザ・システムがプロデュースした「ステップ・バイ・ステップ」からのタイトル・トラックなどは、現在のスムース・ジャズ的な視点で聴いても結構カッコいいサウンドではないでしょうか。 サポート・ミュージシャンですが、ジェフ・ローバー・フュージョン時代には、後のケニーG、ケニー・ゴーリックやフレディ・ハバード、ソロ作には、ネイザン・イースト、ジョン・ロビンソン、ポーリーニョ・ダ・コスタ、ジェリー・ヘイ、ケニーGなんかも参加していますが、ベスト盤には珍しく出展アルバムや参加ミュージシャンの詳しいクレジットなども充実してますので、聴きながらゆっくり見ればまた面白いと思います。 90年代以降は,フュージョン/スムース・ジャズ系だけでなく、マンハッタン・トランスファーやマイケル・フランクスなんかのプロデュースでも高い評価を集めたジェフ・ローバーですが、この作品では、フュージョン職人時代の素晴らしい功績が、コンパクトにまとめられてます。個人的には懐かしくて結構ハマってしまった1枚です。次は「イッツ・ザ・ファクト」〜「ステップ・バイ・ステップ」までのオリジナル・アルバムのCD化を熱望します。 2000 3.1 update |
★★★☆ |
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Greg Osby "The Invisible Hand"(Blue Note) |
80年代中期、スティーヴ・コールマン一派のM‐Base(懐かしい…)シーンからデビューしたアルト奏者グレッグ・オズビーの新作がブルーノートからリリースされました。 M-Baseの総帥だったコールマンは、最近シーンからもあまり注目されず、少々不遇な状態にあるようですが、このオズビーは、ゲイリー・トーマスとともに、ジャック・ディジョネットのスペシャル・エディションに参加したり、ハービー・ハンコックのグループに参加したり、長期にわたって名門レーベルブルーノートとの専属契約を維持しているなど、結構「つき」のあるミュージシャンだと思います。しかし、この新作を聴くと、確かに「つき」だけではない、ワン&オンリーな個性と実力のあるミュージシャンだからこそ、ここまでの人気を確立しているということが、良く分かるはずです。 ブルーノート時代のオズビーは、ヒップホップをやったり、ライブ盤作ったり、ジョー・ロヴァーノとシリアスなジャズやったりと、結構好き勝手やらせてもらっている印象がありますが、それぞれのレコーディング毎に確実に実力をつけていっている感じはします。 さて今回の新作ですが、まず、参加メンバーのユニークさに驚かされます。アンドリュー・ヒル(p)ジム・ホール(g)テリ・リン・キャリントン(ds)スコット・コーリー(b)ゲイリー・トーマス(ts,fl)、この面子で一体どんな音になってるのか?。聴く前から興味深々でした。オズビーといえば、かつてはスティーヴ・コールマンなんかと同様、自分の音楽コンセプトを全面に押し出す芸風だったようですが、ジョー・ロヴァーノとの共演あたりからか、他の個性的なミュージシャンの空間を上手く利用し、自分の個性を際立たせる技を身につけたようです。まぁベタに言えば、人の話を聞いて、上手くツッコミが入れられるようになった感じでしょうか。オズビーのアルトも、アルトのコルトレーンといった貫禄を感じさせてくれ、フレーズの柔軟性や陰影の付けかたの進歩には、驚かされるほどです。 この新作でのポイントは、やはり超個性派のピアニスト、アンドリュー・ヒルと、何度か共演歴のあるギターの巨匠ジム・ホールの存在でしょう。60年代のブルーノートでもお馴染みのベテラン、アンドリュー・ヒルのモーダルなピアノと、ジム・ホールの浮遊したギターが織り成す、深いサウンド・テクスチャーに、ダークで陰影感のあるオズビーのアルトが漂うサウンドは、聴く者を何か覚醒させるような魅力があります。またオズビーのソロの後ろで、絶妙のハーモニーをアルト・フルートで演奏しているゲイリー・トーマスや、いつになくセンシティヴなドラムで、この独特な音楽空間の一翼を担うテリ・リン・キャリントンも目立ちませんが、素晴らしい仕事をしています。 収録曲は、オズビーのオリジナルを中心に、アンドリュー・ヒルの曲やジム・ホールの曲、それに
ファッツ・ワーラーの「ジター・バグ・ワルツ」や「ネイチャー・ボーイ」なんかのスタンダードあります。その中で特に印象深いのは、3曲目のオズビーのオリジナル「ザ・ワッチャー」でのアンドリュー・ヒルとの深淵なデュオと、この面子で敢えてこんなクラシカル・ナンバーにトライしたことが吉とでた4曲目の「ジター・バグ・ワルツ」でしょうか。いやいや1曲目のヒルのオリジナル「アッシェズ」も、この作品を象徴するようなフローティングした雰囲気でよかったぞ…。とにかく、全編スロー〜ミディアムでありながら、退屈することは全く無く、この深くダークな音空間に引き込まれていきます。 とにかくこの作品でグレッグ・オズビーというアルト奏者を再評価いたしました。こんな素晴らしいアルト吹きだったんでしょうか。60年代のブルーノートの名盤チックな渋いジャケットで飾られたこの作品は、オズビーのブルーノート時代を代表する作品となって行くこと必至の名盤といえるのではないでしょうか。 2000 3.1 update |
★★★★☆ |
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Paul Taylor "Undercover" (Peak/N-Coded Music) |
ジェフ・カシワの後任としてラス・フリーマン(g)率いるリッピントンズに参加し、注目を集めるようになったスムース系黒人サックス奏者ポール・テイラーの新作が、ラス・フリーマンのレーベルである「ピーク・レーベル」からリリースされました。 98年のカウントダウン盤がファースト作だと思うので、今回の新作で2枚目のアルバムとなるはずのポール・テイラーですが、メインの楽器は、ソプラノとアルトのようです。アルトにせよ、ソプラノにせよ、リッピントンズに在籍していたことが証明するとおり、テイストはメロウ&グルーヴなスムース・ジャズ路線です。アルトに関しては、若干モソモソした感じがありクリア感に欠ける気もしますが、彼の本領は、ソプラノにあるようです。少ししゃくりあげるようにメロディー・ラインをフェイクしながらプレイする、そのソプラノ・サックスは、故ジョージ・ハワードを髣髴とさせるものです。 さてこの新作ですが、制作陣には、EW&Fのモーリス・ホワイトや、EW&Fのブレーン的存在の白人キーボード奏者ビル・メイヤーズ、それに現在のボス、ラス・フリーマンら豪華な面子が顔を揃えています。サポート・ミュージシャンですが、マイク・トンプソン、ラス・フリーマン(g)マニュンゴ・ジャクソン(perc)コーラス・グループ、ポートレイトのカート・ジャクソン(vo)らが参加していますが、基本的には、ポール・テイラー自身と彼周辺のミュージシャンが作った打ちこみのトラックにサックス・ソロがのっかかる形のサウンドがメインです。まぁ正直な所、豪華のプロデューサー陣の割には、チープな印象が強いサウンドですが、曲やアレンジは良く練られたものなので、深く聴きこまなければ、そこそこ楽しめる作品には仕上がっていると思います。お勧めトラックは、ジョージ・ハワードがやりそうなミディアム・グルーヴ・ナンバーの1曲目をピック・アップしておきます。 この作品自体は、サックス系スムース・ジャズのサンプルみたいな没個性なものなので、とりたててどうこう言う必要もない平均的な作品ですが、ポール・テイラーというサックス奏者の実力や、彼の持つ人脈の良さを考えると、次作あたりには、「大化け」しそうな気配が濃厚です。ポスト・ボニー・ジェイムス、ポスト・キム・ウォーターズを狙う最右翼として、「先物買い」を狙うスムース系のファンには、要チェックな存在といえるでしょう。 2000 3.3 Update |
★★★ |
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Alex Riel "Rielatin'" (Stunt) |
デンマークを代表するというか、もはや欧州のジャズ・シーンを代表するジャズ・メンといっても過言ではない素晴らしいドラマー、アレックス・リールの最新作が、リリースされました。彼は60年代より、ヨーロッパへと移住したデクスター・ゴードン(ts)やケニー・ドリュー(p)と共演し、アメリカをはじめ世界のジャズ・シーンから注目を集めるようになりました。 65年にケニー・ドリュー(p)やニールス・ペデルセン(b)と初リーダー作「Alex Riel Trio」(Fona)を発表して以来、リーダー作としては5枚ほどの作品しかリリースしていないという寡作家ですが、近年はリーダー・セッションにも力を入れている様子で、この新作も、ロジャー・ケラウェイ(p)や故ハリー・スウィーツ・エディソン(tp)らが参加した前作「Dsb Kino」(Stunt)から約2年振りというという比較的短いスパンでリリースされたものです。 昨年の10月にNYで録音されたこの作品には、マイケル・ブレッカー、ジェリー・バーガンジ(ts)マイク・スターン(g)ケニー・ワーナー(p)クリス・ミン・ドーキー(b)という超豪華なメンバーが参加しています。またプロデュースは、ベースのクリス・ミン・ドーキーが担当しています。 これらのメンバーで、録音がジェイムス・ファーバーとくれば、上質なNY産のコンテンポラリー・アコーステック・ジャズであることは、容易に想像がつくはずですが、実際にも期待以上の素晴らしい内容となっています。96年の作品「The Rial Deal」にも参加していたバーガンジ、ブレッカー、スターンが再び加わっているというこで、その続編的な雰囲気の作品となっています。基本的には、リール(ds)=ワーナー(p)=ドーキー(b)のトリオに、バーガンジ(ts:6曲)スターン(g:3曲)ブレッカー(ts:2曲)が、それぞれの曲ごとに参加する構成になっています。 選曲は、ベン・ウェブスターの「ディド・ユー・コール・ハー・トゥディ」やトレーンの「ベッシーズ・ブルース」、サミー・カーンの「アイ・フォール・イン・ラブ・トゥ・イージリー」パーカーの「デキスタリティ」などのスタンダードものと、バーガンジやリールのオリジナルが半分づつくらいというバランスのとれたものとなっています。 それぞれの収録曲ごとに編成が変わるので、66分というやや長めの収録時間の作品ながら、聴く者を飽きさせません。聴き所ですが、1曲目のウェブスターの曲「ディド・ユー〜」でのバーガンジとブレッカーのテナー・バトルや、2曲目の「ベッシーズ・ブルース」でのブレッカーの久々のキレたハードな演奏やスターンのディストーション・ギターによるソロ、4曲目のパーカーのナンバー「デキスタリティ」でのバーガンジーのデックスへのオマージュを感じさせる豪快なテナー・ソロやスウィンギーなワーナーのピアノ・ソロ、そしてピアノ・トリオで演奏される5曲目の「アイ・フォール〜」でのワーナーの繊細なリリシズムを感じさせる素晴らしいピアノ、7曲目のマイク・スターンがリーダー作でやりそうなバーガンジーのオリジナルでの、ウネウネとしたバーガンジーのソロやスターンのブルージーなソロ、ラストのバーガンジー=リール=ドーキーのサックストリオの曲でのバーガンジのアグレゥシヴなプレイなどなど…とにかく聴き所は全編にわたって満載です。もちろんその演奏は、ジャック・ディジョネットとピーター・アースキンの良い所を合わせたような、リールの粒立ちのいいキレイでシュアなタイコがあってこそであることは、言うまでもありません。 伝統的なジャズの良さと、NYのコンテンポラリーな要素を絶妙なバランスでミックスさせた素晴らしい作品です。参加したミュージシャンのベスト・リザルトを上手く引き出している、リールのリーダーシップには、改めて深い感銘を受けざるえません。やはりジャズはリズム、それもタイコなんですね。「タイコ良ければ、すべて良し」〜ジャズの世界ではこれが「定説」です。という訳で2000年最初の5つ星作品第一号として、すべてのジャズ・ファンに強くレコメンドしたい素晴らしい作品です。 2000 3.4 Update |
★★★★★ |
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Larry Carlton "Fingerprints"(WEA) |
昨年秋から「出るぞ!出るぞ!」と狼少年のように言われながら、リリース延期が続いていたラリー・カールトンのWEA移籍第一弾となる新作「フィンガープリンツ」がやっと発売されました。 もともとは、ラリー自身のプロデュースによる楽曲と、現在のスムース・ジャズ・マイスター、ポール・ブラウンの楽曲、それにハーヴィー・メイソンと息子のハーヴィー・メイソンJr.の楽曲という3つのプロジェクトで進んでいたそうですが、制作途中にハーヴィー系のトラックが、新作のコンセプトに合わなくなり、その不足分を作り直していたのが、リリースが延期になった原因のようです。 という訳で、この新作には、収録曲全10曲のうち、ラリー自身がプロデュースしたトラックが6曲、ポール・ブラウンのプロデュースしたトラックが4曲、収められています。端的な印象では、「スムース・ジャズ」系のトラックをポール・ブラウンが、また「ジャズ/フュージョン」的なトラックをラリー自身が手掛けている感じです。ラリーのギターは、アコギは「ヴァリーアーツ」、エレクトリックは、伝説の「ギブソンES‐335」をメインに演奏していますが、どちらも上品でジェントルなもので、バリバリ弾いているトラックは残念ながら1曲もありません。 1曲目〜2曲目のポール・ブラウン制作のフォープレイのサウンドを打ち込みでやったみたいな曲を聴くと、「…まずいなぁ〜」みたいな感じがしました。これなら、ポール・ブラウン・プロデュースの代表的ミュージシャンのボニー・ジェイムス(sax)がやってもいいようなもので、カールトンがやる必要のまったく感じられない曲です。「いや〜な予感」を感じながらも、3曲目にやっとカールトン自身プロデュースのアコギ フィーチャーのナンバー登場。「アローン・バット・ネヴァー・アローン」テイストな優しい感じのメロディアスなナンバーにひと安心しました。次に、ポール・ブラウンのトラックながら、ヴォーカルにマイケル・マクドナルドをフィーチャーしたミディアム・テンポのモロAORなナンバー登場に、「安心」を通り越して「やっぱりこれはいいかも…」という感想に変わりつつありました。カールトンの絶妙な歌伴ギターとマイクのリードヴォーカルと美しいコーラス・ワーク、それに名人芸的なジェリー・ヘイのホーンアレンジが絶妙に絡み、もうハマリまくりの1曲です。 何かレビューというよりも、安物の実況中継みたいになってしまいましたが、5曲目以降は、6曲目にポールブラウンのスムース系トラックが登場するものの、カールトン主導によるGRP時代の「キッド・グローヴス」以降の芸風のミディアム〜スロウなナンバーが続いてゆきますが、この作品の中で一番気に入ったトラックが9曲目に登場します。ラリー自身のプロデュースによるナンバーで、カントリー・シーンの超大物ミュージシャン、ヴィンス・ギルをゲストに迎えた「グラシアス」というナンバーです。タイトルからは、ラテンっぽい感じがしますが、サンバのテイストを少々感じさせるミディアム・テンポのジェントルなフュージョン・ナンバーなんですが、カールトンとヴィンスの名人芸的なアコギの競演が堪能できます。カントリー・ヴォーカリストとして有名なヴィンス・ギルですが、ギターの腕前も凄いものがありますが、ここはより少ない音数で、存在感を見せつけたカールトンの「判定勝ち」という個人的な感想を持ちましたが…。アコギと生楽器の演奏だけの素朴な演奏ながら、この曲が一番、ラリー・カールトンというギタリストの今を伝えるトラックだと思います。ファンは多分、今のカールトンにはこんな演奏を期待しているのでは?と思います。 参加ミュージシャンですが、ポール・ブラウンのトラックは、基本的には、マイケル・エギージ(key)という人の打ち込みに、スティーヴ・コール(sax)ルイス・コンテ(perc)サム・ライニー(fl)などがオーヴァーダブされた感じです。またカールトン自身プロデュースのトラックは、ヴィニー・カリウタ(ds)=エイブ・ラボリエル(b)のリズムと、マット・ローリングス、リック・ジャクソン(key)カーク・ウェイラム(sax)エリック・ダーカン(perc)によるバンド形式でレコーディングされています。 70年代のクルセイダース時代〜「ルーム335」〜「ストライク・トゥワイス」あたりの時代からファンである私的には、80年代後期のGRP時代以降のカールトンのソロ作品は、正直あまり好きなものはありません。新作を聴くたびに「イヤ〜カールトンはこんなもんじゃねぇ〜!」と言い続けてきましたが、この作品でもやっぱり同じ気持ちの方が強いです。残念ながら…。ただ、いつまでも髪振り乱して(振り乱す髪が無い…)「Room335」やる訳にもいかないはずで、やはりミュージシャンとて年をとってゆく訳ですから、これからは、年とともに感じさせる「円熟味」を味わってゆかなければいけないのでしょう。そんな観点から聴きなおせば、まぁ悪くないな…いや良い作品なのかも…と思えるようになりました。「バリバリ」弾きまくりのカールトンが好きな私のようなファンは、今年の6月以降にリリースが予定されている98年のスティーヴ・ルカサーとのジョイント・ライブ作(私も見に行った大阪ブルーノートでのライブ。ルカサーに「先生!先生!」とおだてられ結構弾きまくってました。)を待とうではないですか!。 2000 3.6 Update |
★★★☆ |
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John Scofield "Bump" (Verve) |
「キーワードは、全米を席巻するロック・ムーヴメント<ジャム・バンド>シーン。」 ジョン・スコフィールドの新作「バンプ」の国内盤の帯に、こんなコメントが太字で記させています。何やら胡散臭いコメントですが、この「ジャム・バンド」とは、70年代初期のヒッピー・ムーヴメントと最近のヒップ・ホップやグランジ/オルタナなどのロックを合わせたような音楽ムーヴメントで、「ジャム・バンド」シーンのカリスマが、故アンディ・ガルシアのグレートフル・デッドだそうです。う〜ん、なんだか、分かったような、分からんような…。どちらにせよ、一般のジャズ/フュージョン・ファンには無縁の世界であることは間違いありません。 前作「A Go Go」から約2年振りにリリースされた新作は、前作のメデスキ・マーティン&ウッドとの共演作の延長線上のジャズ・ロック・スタイル・アルバムとなっています。聴く前は、CDの帯には「NYリアル・アンダーグラウンド〜」という過激なコメントも踊っていたので、かなりキテるサウンドかと思いましたが、「A Go Go」とほとんど変わりの無い音にヒ拍子抜けしてしまいました。前作に参加していたジョン・メデスキの変な音のキーボードが無かったり、ややリズムが強くなった分だけ、少しサウンドがソリッドになった感じもしますが、基本的にはやっぱり「A Go Go」です。 テーマである「ジャム・バンド」というのが、同じリズムをバックに延々とアドリブ的な演奏をするらしいので、仕方ないといえば仕方ないですが、ジャズや本物のR&Bを聴く私には、平板で抑揚のないこの手のドラムには正直堪えられません。曲間がほとんど無い形で全13曲(13曲目は国内盤オンリーのボーナス・トラック。)収録されてるこの作品ですが、ドラムやベースなどの他の楽器は、延々と同じようなジャズ・ロックのリズムをマシンのように演奏しているだけなので、印象に残るのは、ジョン・スコのソロだけです。何かジョン・スコのソロ・ギター作を聴いているような気分にさえなります。 ジャズの殻にこもることを拒み、常に新しいサウンドを求め続けたマイルス・ディヴィスの門下生だけに、新しい音楽ムーヴメントにチャレンジする姿勢は高く評価できるものです。リスナーを喜ばせるだけなら、70年代の「ラフ・ハウス」みたいなリアル・ジャズや、80年代のグラマヴィジョン時代のマイルス・ライクなハード・フュージョンを演るほうが簡単なはずですが、あえてそんなファンが離れて行きそうな難しい道に進んでゆく、ジョン・スコの生真面目でストイックな性格を垣間見た感じです。(一度仕事で、彼と話をしたことがありますが、ほんと真面目でいいおっちゃんという印象でした。あなたのギター・ソロの組み立ては、マイルスのトランペットみたいだ、というとえらく喜んでました。)しかし、作品の面白さや完成度は、新しいテーマにチャレンジする姿勢を考慮しても、お世辞にも高いとはいえないのが、辛い所です。まぁジョン・スコのギター・ソロは、結構グルーヴしており、そのよじれ具合は、80年代のグラマヴィジョン時代を髣髴させる部分もありますが。 車の中、電車の中、仕事場で、そしてまた家で、何回となくこの作品を聴きましたが、正直いまだに良く分からない作品なのですが、唯一気がついたのは、彼の師匠マイルスの70年代の名作「オン・ザ・コーナー」との類似点です。この作品も同じ8ビートによるファンク・リズムが延々と続くなか、マイルスのトランペットやジョン・マクラフリンのギターなんかが、サウンドに陰影や色彩をつけて行きながら、2度と繰り返せないオリジナルの音楽をリアルタイムに創造してゆく…、ジョン・スコの新作「バンプ」も、その手法を取り入れてる感じがしました。 とはいっても、最終的にはやっぱり…な感想が残る1枚です。前作と今作で思考錯誤した中で得られたものを、いかにジョン・スコ本来のポジションである「ジャズ」に活かしてゆくかが、今後の課題となりそうです。現在の所は、厳しいようですが、「試作品」の段階を超えるクオリティーは持ち得ない作品だと思います。 2000 3.8 Update |
★★★ |
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Hudson Project (Stretch〜Concord) |
ジョン・アバークロムビー(g)ピーター・アースキン(ds)ボブ・ミンツァー(ts)ジョン・パティトゥッチ(b)の4人によるユニット「ザ・ハドソン・プロジェクト」のアルバムが、チック・コリア・プロデュースのレーベル「ストレッチ」からリリースされました。 このユニット、実はギターのストリングス・メーカーである"D'Addario"主催の楽器のクリニック・ツアーの為に結成されたもので、レギュラーグループではありません。しかし、それぞれのミュージシャンは、別々な形では共演歴があるため、パートタイムのユニットながら、演奏のまとまりは悪くない感じです。 レコーディングは1998年の10月、NYの「マンハッタン・センター」でライブ収録されたものですが、楽器のクリニック・ビデオシューティングも同時に行われていたこともあってか、ライブ作ながら、ラフな印象は無く、レコーディング作に近い丁寧でシュアなサウンドとなっています。 さてこのメンバーだと、ストレートなジャズから、コンテンポラリーなものまで、何でもこなせる面子ですが、演奏されている楽曲も、それぞれのメンバーがかつて演奏した曲を持ち寄った感じで、ストレートなものから、フュージョン的なものまで、いろいろなスタイルの「ジャズ」が収録されています。このあたりは、やはり楽器を演奏する人のために見せるライブという側面があったからなのでしょう。 持ちこまれた曲ですが、イエロージャケッツの94年の同名作(GRP)で演奏されたボブ・ミンツァーの「ランフォーユアライフ」やミンツァーやアバークロムビーなどによるプロジェクト作「Hymm」で演奏された「モダン・ディ・チューバ」、ベース・ディザイアーズのファースト作で演奏されたアースキン作の「ベース・ディザイアーズ」、それにアバークロンビーやパティトゥッチのオリジナルを加えた全8曲となっています。 このライブのMCをミンツァーが担当していることから想像できるように、メンバーの中心はボブ・ミンツァーのようです。ミンツァーとアースキンといえば、現在のイエロージャケッツの同僚ですが、サウンドの方も、全体のイメージは、コンテンンポラリー・ジャズ色が一番強かったGRP時代のイエロージャケッツを思わせるものです。特に、「両刀使い」のパティトゥッチがエレベを弾いているトラックで、そのイメージが強い感じです。そんな感じのトラックと、アバークロムビー色の強い少しシリアス系のジャズが、同時に収録されているので、作品としての統一感はいまいちです。 メンバーの中で、印象に残ったのは、ベースのパティトゥッチで、最近リリースされたソロ作では、相変わらず内省的で地味なサウンドでしたが、ここでは、コントラバスから6弦のエレベまで弾きまくっている印象で、特に6弦のエレベによる力のこもった超絶ソロは久々に聴いた感じです。またアースキンのバーサイタルなドラムも地味ながらキラリと光るものがあります。それ以外のメンバーの演奏は、正直「お仕事」といった感じで、「並」のレベルに終わっています。もちろん、これだけのメンバーですから、決して悪いものではないのですが、ライブのインタープレイから生まれるプラスαの魅力が生まれるまでには至っていません。 まぁクリニック・ビデオ収録がメインのライブの音声のみを切り売りしたような作品なので、参加メンバーの中に、気に入ったミュージシャンがあれば買いですが、それ以外の人には、中途半端なサウンドかもしれません。コンテンポラリーなジャズを志向するミュージシャンのための1枚といえる作品です。 2000 3.8 Update |
★★★ |
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Grover Washington,Jr "Aria"(sony) |
昨年12月に急逝したサックス奏者グローヴァー・ワシントン,Jrの遺作が、「ソニー・クラシカル」!からリリースされました。 「ソニー・クラシカル」からのリリースから、ということからも想像のとおり、クラシック音楽、特にオペラの代表的な歌曲をオーケストラをバックに演奏した作品となっています。情報としては、急逝した直後から、「グローヴァーの遺作はクラシック作になる…」と入っていたので、驚きはしませんでしたが、正直「嫌〜な予感」がしていました。あのソウルフルなグローヴァーのラスト作がクラシックなんて…寂しすぎるぅ…。いにしえのジョン・ルイスの「サード・ストリーム」なんか以来、クラシックとジャズをミックスさせた作品にはロクなものは無かったからです。クラシックとジャズは「水と油」なんです、結局は…。 さて聴く前から、こんなネガティヴな印象しか無かった、このグローヴァーの遺作ですが、曲のテーマがクラシック音楽というだけで、全体的には、キチンとジャズのテイストでまとめられたバラード集といった感じだったので、まずホッしました。アコースティック作の「オール・マイ・トゥモローズ」あたりと同じマインドで作られたような印象です。ウィントンなんかのやってるマジもののクラシック作とは違いますので…ご安心を。 このジャズのテイストを保っているのは、ベースのロン・カーターとピアノのビリー・チャイルズの功績が大きいと思います。ドラムがいない編成のため、ジャズのビートを維持する役目は、ロン・カーターしかいない訳ですが、リーダー作では、でしゃばりなロンもサポートに回ると「縁の下の力持ち」的な素晴らしい演奏を聴かせてくれる、というセオリー通り、重みのある4ビートをキープしてくれています。またビリー・チャイルズのピアノも、ケニー・カークランドを思わせる黒光りしたソリッドなバッキングや、演奏の端々で聴かせてくれるキラッとひかる短いソロもまた素晴らしいものです。グローヴァーのサックスですが、良い意味で、いつもと全く同じ。特にソプラノでの演奏スタイルは、「ワインライト」以降、どんなフォーマットでも同じテイストで、このクラシックをテーマにした作品においても、そのワン&オンリーな魅力は十二分に発揮されています。 クラシックをテーマにした作品に限らず、「ウィズ・ストリングス/オーケストラ」ものは、仰々しい作品が多く、ソロとバックのオーケストラなどと完全に遊離してしまってる作品が目立ちますが、この作品では、ウィントン・マーサリスのウィズ・ストンリング作「スターダスト(邦題)」の弦のアレンジを手掛けたロバート・フリードマンがアレンジとコ・プロデュースを担当しているので、絶妙にバックのオーケストラをアレンジし、グローヴァーのメロウで美しいサックスを殺すことなく、上手くオーケストラ・サウンドの中に溶け込ませてる印象です。その上、ジャズのテイストが十分残っているのは大したものです。ちょうど、マイルスがギルとやった「ポーギーとベス」や「アランフェス」みたいな感じです。 収録曲ですが、クラシックにはあんまり明るくないので、詳しくはコメントできませんが、ビゼーやプッチーニの歌曲がメインのようで1曲、ガーシュインの「ポーギーとベス」から「マイ・マンズ・ゴーン・ナウ」が演奏されています。 聴く前のネガティヴな印象から、聴いたあとには、なかなか素晴らしい作品だな、という印象に変わった1枚です。とにかく、グローヴァーの「ワインライト」や「クリスタルな恋人達」で聴かせてくれた、あのシルキーでメロウなサックスが、どんなフォーマットでも変わることなく、輝き続けていたことが、証明されたようで、彼の死が本当に残念でなりません。でも最後にこんな素晴らしい作品を残してくれたことに改めて感謝したいと思います。 2000 3.11 Update |
★★★★ |
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Urban Knights "Urban Knights V" (Narada Jazz) |
シカゴ・ジャズの巨匠、ラムゼイ・ルイス(p)が主宰するコンテンポラリー・ジャズ・ユニット「アーバン・ナイツ」の3枚目のアルバムが、現在ラムゼイが所属する「ナラダ・ジャズ」からリリースされました。 このアーバン・ナイツは、1995年のラムゼイ・ルイス(p)グローヴァー・ワシントン,Jr(sax)ヴィクター・ベイリー(b)オマー・ハキム(ds)のメンバーで結成されたフュージョン・ユニットで、プロデュースにラムゼイの愛弟子ともいえるEW&Fのモーリス・ホワイトを迎え、アルバム「アーバン・ナイツ」を発表。豪華メンバーによる、ファンキーなフュージョン・セッション作として人気を集めました。97年発表のセカンド・アルバム「アーバン・ナイツU」では、メンバーをジェラルド・アルブライト(sax)ジョナサン・バトラー(g,vo)ナジー(sax)ソニー・エモリー(ds)にチェンジ。ファースト作では、バンド指向だったサウンドも、セカンド作では、EW&Fのモーリス・ホワイト(vo)やヴァーディン・ホワイト(b)ビル・メイヤーズ(key)らをゲストに迎えたセッション的な作品となりましたが、グルーヴ感を大切にしたザックリとしたフュージョンサウンドはファースト作からキチンと受け継がれていました。 さて約3年振りの新作となったサードアルバム「アーバンナイツV」ですが、基本的には、ファースト作からの流れである、ちょっと”いなたい”感じのソウル系フュージョンという路線に変更はありません。最近のスムース・ジャズとは一線を画す、ゴツゴツ感のあるサウンドは、トレンドである「スムース・ジャズ」と呼ばずに敢えて「フュージョン」と呼びたくなるような感じです。特に、アーバンナイツお得意といった、ファンクとラテンをミックスさせたようなミディアム・グルーヴ・ナンバーの1曲目やラムゼイのピアノがさえる、スラップ・ベースによる16ビートの古典的なフュージョン・ナンバーの9曲目などを聴くと、古き佳きフュージョンのテイストを強く感じさせます。またこれもファースト作からの流れである、ヴォーカルものもちゃんと収録されており、特に8曲目収録の女性ヴォーカルをフィーチャーした10CCのロック・クラシック・ナンバー「アイム・ノット・イン・ラヴ」が印象的でした。 今回のレギュラー・メンバーは、ラムゼイ(p)ケヴィン・ランドルフ(key)シャーリー・リード(b)カルヴィン・ロジャース(ds)Stereo(Drum Programming)という面子で、ゲストに、ファリード・ハーク(g)アール・クルー(g)ディヴ・コーズ(sax)ザ・ステイプルス(vo)らが参加しています。 GRP時代のアーバンナイツは、ラムゼイ個人のソロ活動と、このアーバン・ナイツとの区別が付けにくく、敢えてこんなユニットでやらなくてもソロでやった方が…と思わせましたが、ナラダ・ジャズ移籍後は、昨年リリースした「アパッショナータ」のようなアコースティックなジャズをラムゼイ個人名義で、またフュージョン/ファンク系のサウンドをこのアーバン・ナイツ名義でやる予定のようです。 正直にいうと、別段何ということも無いフュージョン作です。ラムゼイ・ルイスがピアノを弾いてるだけみたいなアルバムです。でも70年代の「サン・ゴッデス」〜「テキーラ・モッキンバード」…あたりからラムゼイのファンである私には、ラムゼイはこれでイイんです。ちょっぴりイナタイ、メロディアスでグルーヴィーなサウンドである70年代以来のラムゼイ・ルイスのフュージョンを守り続ける存在として、活動が続く限り応援したいユニットです。 2000 3.13 Update |
★★★☆ |
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Ralph Peterson Jr & The Fo'tet "Back To Stay"(Sirocco Jazz) |
80年代に新生ブルーノートの「若手秀才バンド」"OTB"のメンバーとして彗星の如くジャズ・シーンに登場したドラマー、ラルフ・ピーターソンJr。(デビュー当時は"Jr"はついてませんでした。)彼の80年代後半から温め続けているユニットである"Fo'tet"名義による新作が、イギリスのレーベルからリリースされました。 89年に日本の東芝EMI(サムシン・エルス第一回新譜!)より、ソロ・デビュー作「V」を発表し、大ヒットを収め、その後ポンポンっと何作かアルバムをリリースした後、90年代後半には、急にNYのジャズ・シーンから遠ざかった為、90年代初めのあのブームは一体何だったの?といったイメージをもっている人も多いでしょう。90年代後半は、大学でジャズの指導にあたっていたらしく、99年前後から、再びNYのジャズ・シーンのフロントラインにカムバックしたようです。 さて久々の新作となった今回の新作のメンバーは、ラルフ(ds)をリーダーにOTB時代の同僚ラルフ・ボウエン(ss)グループ初期からのメンバーであるブライアン・キャロット(vib)とベルデン・ブーロック(b)となっており、2曲にスペシャル・ゲストとしてマイケル・ブレッカーも顔をのぞかせています。 90年代初期の"Fo'tet"のサウンドといえば、ブライアン・キャロットのヴィヴラォンと、今やオルタナ・ジャズの中心人物であるドン・バイロンのクラリネットによるユニークなハーモニーとラルフの複雑なリズムが融合した好き嫌いがはっきりと分かれる個性的なものでしたが、今回は、リードにドン・バイロンではなく、「普通」のジャズ・メンであるラルフ・ボウエンが参加していることで、サウンドも普通のジャズに近くなっています。まぁ逆に以前のサウンドが好みの人なら、少々物足りないかも知れません。 グループ・サウンドを重視していた初期のサウンドと比べて、ラルフのパワフルで豪快なドラムを軸にした、ハード・バップ色の濃いスタイルのジャズとなっています。特に1曲目のブレッカー参加のアルバム・タイトル・ナンバーや5曲目のトレーンの曲「マイルス・モード」などは、デビュー作「V」時代を思わせる、痛快なハード・バップ・ナンバーです。またブライアン・キャロットがマリンバを弾くトラックなどでは、ラルフのポリリズムと相まってアフリカンなイメージを感じさせるナンバーもあります。パワフルで豪快、で、少し「ヤ行」な凄みもあるラルフのタイコですが、"Fo'tet"では、トータルなグループ・サウンドを重視するあまり、そのスケールが小さくなった感じがしていたのですが、この新作では「V」を聴いて「うぅ〜かっこええぇ〜」と感動したときの記憶が蘇ってくるようです。まさにラルフに「おかえりなさ〜い」と大声で言いたくなるような作品です。 とにかく、このアルバムは、ラルフのタイコを聴く作品です。ゲストのブレッカーもアップ・テンポの1曲目と、7曲目のスタンダート・バラッド「ソウル・アイズ」(この曲にはオーヴァーダブでラルフのトランペットもフィーチャーされてます。)の2曲に参加してますが、可もなく不可もなく…といったいつもの調子。ラルフ・ボウエンも、ここでは、ソプラノ1本での勝負ですが、テナーの時同様、何か焦点の定まらない中途半端なサウンド。まぁテナーほどは気になりませんが…。でもラルフ=ブーロック=キャロットのトリオ+オマケみたいに聴けばそんなに気になりません。ラルフの「ドカドカ♪バタバタ♪ドスドス♪」のリズムがボトムをしめてるんで、サウンドにタイト感が生まれ、とにかくカッコイいいジャズに仕上がってます。 トニー・ウィリアムス亡き今、私は、トニーの後継者の最右翼として、このラルフに大きな期待を持っています。パワフルでカリスマ感のあるドラムのみならず、グループのリーダーとして力量やコンポーズ力など、次世代のトニーになれる才能を秘めたミュージシャンだと思います。後は、いかに自分と自分のサウンドを上手くプロデュースし、プロモートしてゆく「ソフト的」な才能を身につければ、21世紀のトニーに、いや彼をも凌駕するミュージシャンになれるかもしれません。 2000 3.19 Update |
★★★★ |
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Rhythm Logic "Sweet Talk" (Video Arts Music) |
フランキー・ヴィバリー率いるR&Bグループ、メイズやディヴィッド・サンボーン(as)ジョージ・ベンソン(g)などとの共演で知られる、LAのセッション・ドラマー、マイケル・ホワイトのユニット、リズム・ロジックの新作がリリースされました。 リズム・ロジックとしては、2作目、マイケル・ホワイトのソロ名義の作品を含めると、早7作目となる今回の新作「スウィート・トーク」ですが、最近のある意味でかつての「ニューエイジ・ミュージック」にも通じるノン・テンションさを感じるスムース・ジャズとは一線を画した骨のあるグルーヴ感が魅力の作品となっています。ここは、やはりドラマーがリーダーのグループとしての意地というか意気込みを感じさせる所です。 「リズム・ロジック」のメンバーは、前作同様、マイケル・ホワイト(ds)ロン・スミス(g)ブライアン・シンプソン(p,Key)ドゥウェイン・スミティ・スミス(b)のカルテット。ゲストには、元タワー・オブ・パワーのシンガー、エリス・ホールや、「水色の雨」のヒットで知られる日本人シンガー・ソング・ライター、八神純子、打楽器のブライアン・キルゴアなども参加しています。 マイケル・ホワイト個人では、「マイケル・ホワイト・プロジェクト」として、マーカス・ミラーやディヴ・サンボーン、ジェラルド・アルブライト、カーク・ウェイラムなど豪華なミュージシャンが参加したセッション的な作品をリリースしていますが、この「リズム・ロジック」では、ユニットとしてのまとまりを重視したグループサウンドを追求しているようです。そのため、「〜プロジェクト」に比べ、サウンドがやや大人しめな感じがしますが、それでも、生のドラムとエレベによる16ビート系のハネるリズム・セクションは、打ち込みによる凡庸なスムース・ジャズとは比較にならないほど、グルーヴィーでヒップなものです。ホワイトのタイコですが、とにかく「鬼のリハーサル」で知られるメイズで鍛えられただけあって正確さと全体のサウンドを考えたグルーヴ重視のもので、個性は薄いものの、「スコン、スコン」とキマるシュアなプレイは結構快感です。 今回、歌ものは、八神純子の歌うバーシアのヒットナンバー「ドランク・オン・ラブ」(ほとんど原曲と同じテンポ/アレンジながら、なかなかカッコイイ。ロン・スミスのショート・ソロも渋い。八神のヴォーカルもバーシアと同系列の雰囲気で違和感もありません。)とエリス・ホールをフィーチャーした「イフ・オンリー・ユー・ニュウ」の2曲だけですが、全編を通して歌心を感じさせるブラコン的な雰囲気を感じさせる内容となっています。 レコメンド・ナンバーですが、八神純子のヴォーカルが意外やハマってる1曲目の「ドランク〜」、ジョージ・ベンソンが自分の作品に収録したいとの申し出があったというロン・スミスのベンソン・ライクなギターをフィーチャーした2曲目、3曲目のブライアン・シンプソンのクールなピアノが光るブルージー&ジャジーなナンバー、ドゥウェイン・スミスのスラップ・ベースが聴く者の腰を揺するミディアム・ファンク・ナンバーの4曲目、ブライアンのピアノがシャカタクみたいな6曲目などなど…。全編に渡って夕暮れ〜夜にぴったりのグルーヴ&メロウなエアーが漂う気持ちの良い作品です。 いやいやここまで素直なフュージョンは久々に聴いた感じです。上でもコメントしましたが、最近のスムース・ジャズは、サウンドが平板で退屈きわまりない作品が多い中、良い意味で、70年代後半〜80年代初期にかけてのフュージョンやブラコンのグルーヴ感やテンションを受け継いでるようなサウンドなので、その筋のファンには、たまらない作品だと思います。まぁ逆に、その系統のサウンドにはあんまり興味ない人には、…なものだと思いますが、やや甘めの採点ながら、個人的趣味には勝てず4つ星を献上したい、なかなかの好作です。 2000 3.26 Update |
★★★★ |