らくがき帖〜音楽編


オペラ座の怪人/ Phantom of the Opera 劇団四季 2002年12月17日 京都劇場


 実はわたし,純粋に音楽を聴くだけでなく,ミュージカルも大好きだったりします.もう十年以上前の話ですが,数年間「劇団四季友の会」(要するにファンクラブ.チケットの優先予約などの特典あり)の会員だったこともあるぐらいです.
 

 ただし,演劇はからっきしダメだったので,ミュージカル限定でした.「コーラス・ライン」「キャッツ」「エビータ」...などなど,新作が発表されるたびに1回は,時には2回,3回と観に出かけたものです.
 

 しかし,ある時ロンドンで「レ・ミゼラブル」を観てあまりの素晴らしさに感動し,かつ衝撃を受け,しばらくミュージカルを観ずに過ごすうちに,自然と「友の会」もやめてしまいミュージカルとは疎遠になってしまいました.
 

 この時期が劇団四季による「オペラ座の怪人」の国内初演と前後しています.そう言うわけで,現在まで「オペラ座の怪人」を観ることなく過ごしてしまいましたが,今回ようやくチャンスに恵まれたことになります.
 

 一言断っておくと,ロンドンで観た「レ・ミゼラブル」が素晴らしかったことに疑問の余地はありませんが,決して日本のミュージカルが海外のものに劣ると力説するつもりはありません.「レ・ミゼラブル」の余韻に浸っているうちに,私的な環境が変化してミュージカルに足繁く通う暇がなくなった,というのが真相でしょうか.
 

 さて,今回の公演に関して. 「オペラ座の怪人」が初演の頃,噂で伝え聞いた話では「とにかく大仕掛け」,「観客席の頭の上を??が通過して...」などなど.とにかく舞台装置に関する評判が先行していたように思います.
 

 で,今回京都劇場に初めて足を踏み入れてみると,意外なほど舞台もホール全体も狭い.「これでどうやって大仕掛けをするんだろう?」というのが第一印象. シャンパンなど飲み気分を出しつつ開演を待つ.パンフレットを買い込み,「本日のキャスト」をチェックするが,さすがに10数年ぶりの劇団四季.馴染みのある方は一人も見つけることはできませんでした.
 

 以下,ネタばれを含む感想です.あらすじを書いているわけではないですが,「ストーリーを知っている」という前提で書いています.これから観る予定で,観劇前にストーリーを知りたくない方は読まないほうがよろしいかと.
 


 いよいよ開演. 冒頭の意味深長なオークションの場面から暗転して,物語の舞台である数十年前のオペラ座に場面転換するあたりはさすがの演出. 舞台はやや手狭ながら巧みな配置で,いざ始まってみると狭いという感覚はほとんど感じませんでした. 

 役者さんの演技や歌唱もかなりの水準だし,(歓声を上げるほどの大仕掛けではありませんでしたが)舞台装置もなかなか楽しい仕掛けがあり,劇団四季の実力を十分堪能させていただきました.
 

 が,しかし.....何か物足りないんですよね.
 

 “ああっ,歌うまいなぁ〜”ってほんとに感じたのは怪人役の方だけだし,ダンス・シーンにしても以前ほどワクワクというか興奮できなかったし... シナリオ(演出)にしろ,どうも釈然としません.冒頭オークションの場面でシャニュイ子爵(ラウル;ヒロインの恋人)がつぶやく,“このオルゴールだけは今も変わらず音楽を奏でているが...”という寂しげで意味深なセリフ.
 

 てっきり結末の暗示or伏線だと思っていたんですが,最後は何か肩透かし.ラストとのつながりは,単なる時間的な経過を説明しただけ. 怪人と恋人の最後の対決シーンも,ヒロインの複雑な心境を表現してはいるのでしょうが,ヒロインの行動の真意が“???”のまま. 

 怪人の歪んだ性格に愛想を尽かす>でも,かつては心底慕った相手>でも,今好きなのはラウル...と心は揺れて,最後にラウルと2人で逃げたのはいいが,わざわざ思わせぶりに怪人の元に戻ってきます.そのくせ最後の最後はやっぱり恋人と逃げていく...
 

 結局ハッピーエンド風のラストなんですけど,その後の行く末を暗示することもなく,冒頭のセリフから推察すると,後につらい別離があったのでは?と考えさせられている分,素直にハッピーエンドと解釈する心境になれない.
最後まで解明されない謎めいた部分が多いのは,「観るものに想像の余地を残した」と好意的に解釈することもできますが,大事な部分での謎が多すぎて,単なる“説明不足&消化不良の演出”という思いも拭い切れませんでした.  

 十数年ぶりの劇団四季.正直,以前ほどの輝きは感じられませんでしたが,十分楽しめる舞台だったことも事実です. 
 やはり長年のブランクでわたしの“ミュージカル勘”が鈍っていたのでしょうか? ただ,一つ気になったのは,現在の劇団四季ってあまりにもたくさんの演目をほぼ同時進行で全国展開しているので,やはり力が分散しているのでは?と感じてしまったことです.
 

 この辺はずっと変わらず劇団四季の公演を見続けている方の判断は如何なのでしょうか?

back to list

top