らくがき帖〜音楽編


2003年4月21日 King Crimson大阪公演 @厚生年金会館

 前回来日(2000年10月)と同じメンバーによる再度の来日公演.この間に発表された新作「The Power To Believe」もメタル路線を突っ走る現在のCrimsonの姿を明確に描き出した良い作品だと思いますが,個人的には最近の各種ライブ音源で聴くことのできた「The Construkction of Light」収録曲の進化にもっとも期待を抱いて会場に向かいました.
 今回のパンフレットは”CD付きBOX”.BOXといってもリーフレット自体はごく簡素なものなのでやや愛想なし.ただ斬新な発想という点ではKCらしい.オマケに開演前の場内BGMはカントリー&ウエスタン.斬新というか場違いというか.これがFripp流の洒落なのか痛烈な皮肉なのか...まあ,素直に「おもしろい取り合わせやな」とは感じました.

 Fripp総帥の独演から始まるという予備知識を得ていたのでかなり早めに着席.大阪公演ではキチンと開演・着席を促すアナウンスがあったため,あらかじめ聴衆が待ち受ける中をFripp翁登場.おもむろに「Soundscape」を始めるが,例のカントリー調のBGMはFrippの演奏が始まってもすぐにOFFにはならず徐々にフェードアウト.やはりBGMの選曲もかなり狙っていたんだなとは思いました.「Soundscape」が続く中,何やらでかい連中が集団で横を通り抜けたと思った瞬間,残りのメンバーが観客席を通って入場してきたことに気付きました.意表を突く心憎い演出です.

 以下来日メンバーとセットリスト.曲名は合っていると思いますが,中盤の演奏順は若干前後してるかもしれません.

Adrian Belew    Guitar And Vocals
Robert Fripp    Guitar
Trey Gunn    Warr Guitar
Pat Mastelotto    Drums


1. Soundscape
2. The Power To Believe (A Cappella)
3. Level 5
4. The Construkction of Light
5. Facts Of Life

6. One Time
7. Elektrik
8. Happy With What You Have To Be Happy With
9. Power Circle
10. Dangerous Curves
11. Larks' Tongues in Aspic - Part IV
12. Coda: I Have A Dream

E-1
13. The Deception of Thrush 
14. The World's My Oyster Soup Kitchen Floor Wax Museum
E-2
15. Elephant Talk
E-3
16. Red


 さて,アカペラの「The Power To Believe」に続いて「Level 5」が鳴り響き,いよいよ本番の幕開け.「Level 5」を聴いただけでも2000年に比べて一体感が増したと感じましたが,やはり圧巻は「The Construkction of Light」.正確無比なのに迫力満点,しかもガラスの破片が舞い散るような煌めきを感じさせる不思議なリズム.前回から飛躍的に進化した演奏は今回のライブでも1,2を争う聴き所でした.
 ニューアルバムに収録されている「Facts Of Life」や「Happy With 〜」もメチャクチャかっこよくて,生で聴きたいと切望していたのが実際に聴けて満足だったのですが,ヴォーカルの音が割れ気味で聴き取り難かったのが残念でした.終盤の「Dangerous Curves」〜「Larks'〜4」の迫力は文句なし.この曲に限らず全体にTrey GunnとPat Mastelottoの落ち着きぶりというか,腰の据わった演奏が印象的でした.前回の(落ち着きがないという訳じゃないが)かなり突っかかるような演奏ぶりとは実に対照的でした.

 異常な盛り上がりとか歴史的名演という類ではなかったと思いますが,非常にレベルの高い演奏が全編にわたって聴けたと思います.観客の反応も良く,アンコールも「Elephant Talk」と「Red」は(1階席前半は)オールスタンディングに近い状態.完成度という点では前回(2000年)をはるかに凌駕する出来でした.

 では,手放しで今回のライブを評価するかというとちょっと複雑.先ほどもちょっと触れましたが,畳みかけるような迫力のあった前回に比べ,今回は超重量級の戦車がジワジワと押し寄せるような感触でした.一体感と完成度の向上とひき換えに,危険なまでの緊張感はそぎ落とされてしまったようです.
 この話をメンバー個人に関して進めると,FrippはもちろんのことBelewはやはり別格.この二人が現在のCrimsonの屋台骨だと思います.反面,Trey Gunnはやっぱりもの足りません.さっき落ち着きが増したと書きましたが,逆に言えばそれ以上の何かを感じたわけではありません.地味なサポート役というのも必要でしょうが,Crimsonの一員である以上そこで留まって欲しくはないと感じます.さらにPat Mastelotto.彼のドラミングが現在の”Metal Crimson”に存在する感触に大きな貢献をしているのは間違いないと思います.事実,2000年のライブで彼の演奏を聴いてV-Drumの必要性を垣間見た気がしました.しかし,今回の演奏を聴く限り,安定感はあっても”ど迫力”は感じません.彼”しか”できない,と感じる面もありません.彼もやっぱりもの足りん.

 今回の完成度の高い演奏に大満足の反面,現在のCrimsonは飽和状態に達してしまったという思いが離れません.ライブの内容に関しては今回のライブに軍配を上げますが,興奮は前回の方がしましたから...そろそろ新しい起爆剤の投入が必要な時期かもしれません.Tony Levinの復帰も囁かれていますが,次回はどんなCrimsonを聴くことが出来るのか?早くも”次”が楽しみではあります.



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