Live report + α


IL BALETTO DI プログレッシャー 〜 プログレ者が観るバレエ (ボレロ編 #2)

まず,何はなくても上野水香さんが踊る「ボレロ」について語らずにはこの項は進みません.
ちなみに,上野水香”さん”と”さん”付けにするのはそれだけ惚れたから.
ルネッサンスのアニー・ハズラムを”アニーさん”と書いているのと同じ心境ですね(笑)

2006年4月18日 ベジャール・ガラ by チャイコフスキー記念東京バレエ団 (於:大阪国際フェスティバル)

演目:
1.ペトルーシュカ
2.ギリシャの踊り
3.ボレロ


全体的な鑑賞レポートはまた別の項目で.

ここでは「ボレロ」に絞って書いていこうと思います.

東京バレエ団のお陰で再び「ボレロ」に巡り逢えたのですが...
やはり最初のジョルジュ・ドンによる「ボレロ」があまりにも強烈だったため,それ以降の「ボレロ」ではどうしても完全な満足が得られません.
その原因がジョルジュ・ドンその人の技量があまりにも優れていたせいなのか,多感な青春時代に初めて接した本物のバレエがたまたま「ボレロ」だったせいなのか,単純に思い出が美しすぎるのか...どこにその本質があるのかはわかりません.技術的・芸術的なことはさっぱり分かりませんし.
でも,東京バレエ団の公演が感動を与えてくれることは事実.
「やっぱり自分にとってのベストはジョルジュ・ドンのボレロだな」という思いは抱きつつ,東京バレエ団と「ボレロ」が新しいキーワードとしてしっかりわたしの心に根付くようになりました.

そして,迎えた今年の大阪国際フェスティバル.

結論から書きます.

上野水香さんの「ボレロ」,文句なく最高でした.

ジョルジュ・ドンと比較して...という意味ではありません.
ぜんぜん別の次元で,まったく違う魅力で,誰の真似でも誰の延長線上でもない 上野水香(だけ)の「ボレロ」でした.

ボレロという曲を思い浮かべてもらえば分かるように,舞台の上でも最初のピアニッシモから徐々にテンションが上がっていき,最後のクライマックスが訪れます.
もちろん最大の見所は,一般的に言えば終盤部.それはこの公演でもその通り.
でも,わたしは序盤の上野さんの舞に痺れてしまいました.

彼女の腕がしなるたびに,その指先は空気の中に,風の中に溶けていきそうな錯覚を感じさせて...
まるで,大空に羽が舞っているような軽やかさ.
でも,単に軽やかなだけではないのです.儚げと言う意味でもありません.
だからといって,翼をはためかすような動きでは決してありません.躍動感という単語では明らかに描写不足です.

まるで彼女の指先から次々と羽毛が紡ぎ出され,風に舞い,そして大気に溶けていく...そんな幻影が見えそうな雰囲気.

そして,曲が盛り上がってくるにつれ,舞い踊るような感覚に力強さが一小節毎に加わっていきます.
気がつくと漲るような躍動感と感情の爆発が迸るような動きへと変化しているのです.
しなやかさと躍動感,その移行がいつ起こったのか気がつかなかったのに,ある瞬間ハッと目が覚めたように変化に心を奪われる.
このあたりのメリハリもお見事としか表現のしようがありません.

クライマックスのカタルシスも文句なし!
上野さんはスラッとした細身.まさにバレリーナ体型.
でも,終盤フォルテシモの部分における迫力はそんな外見とは一切関係なし.圧倒的な力感でした.

ちなみに,最後はステンディング・オベーションの嵐.
もう少し派手に”ブラボー!”とでも叫びたいとは思いましたが,あまり下品なヤツはバレエには相応しくないので自粛しました.



いやぁ,これぐらい新鮮な気持ちで感動したライブ(??)は久しぶり.
感激したのは良いが,東京バレエ団の公演に今まで以上の興味がでるのは間違いないのが...正直不安.
川崎(要はクラブ・チッタのプログレ・ライブね)まで遠征するクセが付いてしまった昨今.
これ以上のめり込む対象を増やすのは危険きわまりないのですが...これからも上野さんの公演をこまめにチェックしようとは思っています.



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