らくがき帖〜音楽編


「題名のない音楽会」 2001年3月11日放送
21ST CENTURY SCHIZOID MAN by モルゴーア・カルテット&Kokoo

 3月11日放送の「題名のない音楽会」でKing Crimson の「21ST CENTURY SCHIZOID MAN」のカヴァーが放送されました.ヴァイオリン2本,ビオラ,チェロ各1本という弦楽カルテット(モルゴーア・カルテット)と琴2,尺八1という邦楽ユニット(kokoo)の共演によるものでした.
 個人的には絶賛するデキというほどではありませんでしたが,とても興味深い演奏ではありました.ものめずらしさだけでなく,和楽器の可能性を再認識した気分です.
 全体の評価は,興味深いという語に尽きますが,個々の楽器に関してはいろいろな感想をもちました.

大雑把に言うと,

ヴァイオリン,ビオラ:平均点.ある面予想通り.
チェロ:物足りない.もう少しチェロの良さを前面に出しても良かったのでは.
尺八:Good!けっしてSaxの代用品としてのポジションにとどまらない.
琴:期待ハズレ.存在意義が感じられない.琴の真価を発揮できる演奏形態はもっとあるはず.

といったところです.

 琴に対する評価はかなり辛くなっています.正直な第1印象であるとともに,かなり本格的な演奏(身近に生田流免許皆伝直前の人がいる)を聴く機会に恵まれている点もあり,この楽器に対する期待の大きさも反映されています.

 まず,ヴァイオリンとビオラは,ソリストとしてDavid Cross のヴァイオリンをフューチャーした本家のバージョンがある以上,それとの比較は避けられません.結果は予想通りのパフォーマンスでした.即興性,破壊衝動などはDavid Cross と比ぶべくもありませんが,本家の真似をする必要は毛頭ないわけで,より統制・制御された中で表現しようとした一定の形を聴くことが出来ました.ただ,予想の範囲を一歩も超えることはなく面白みには欠けました.

 チェロは物足りなかったですね.この楽器はある面ヴァイオリン以上に表現力に富んでいる楽器だと思っているのですが,今回は裏方に徹するような演奏でした.この楽器もJohn Wetton のベースとの比較は避け難いでしょうが,彼ほどの存在感を示すことはできなかったようです.チェロはAnekdoten などでも使われていて,ロックとの相性も悪くないはずですから,もっとがんばって欲しかったですね.

 今回の演奏で一番光っていたのは尺八でした.Saxの代用品として無理やりロックするのではなく,あたらしい音楽表現として演奏しているように感じました.その一種枯れたような音はSaxのようなラッパ系の音では真似の出来ない味わいがあり,曲のもつ荒涼とした雰囲気の表現には有効ですし,想像以上にパワフルで緊張感のある音を出していました.イメージとしてあか抜けない印象のある楽器ですが,大きな可能性を感じます.

 さて琴ですが,これはまったく期待ハズレ.琴は正月番組などで演奏されている純和風のイメージだけでなく,調弦次第でクラシックはもちろんジャズ,ロックにおいても十二分に通用する音を出すことが可能です.しかし,今回の演奏は琴独自の良さが表現されていなかったように思います.せっかく琴で「21ST CENTURY.....」を弾くのですから,”琴でも弾けますよ”ではなく,琴独自の表現で曲のもつ混沌,破壊・暴力性,無情感・荒涼感を表現して欲しかったと思います.各人曲の解釈はいろいろでしょうが,その奏法,弦を引く位置等技術面だけをとってもより適切と思われる表現法が思いつくだけに歯がゆさが残ります.”
プロとしてわたしの解釈はコレだ”,と言われればそれまでですが,この曲はわたしにとって特別な思い入れのある曲だけに中途半端な解釈ではやってほしくないですね.それではキワモノで終わってしまいますから.
 けっこう辛辣な書きかたでしたが,それは琴のもつ可能性を信じているからです.その独特のbodyの共鳴による音はギターともヴァイオリンとも違う独自の響きをもっています.また,堅苦しいイメージが付きまといますが,他の楽器に一歩も引けを取らないパワフルな(ある種暴力的な)表現も可能です.なにもロック調の曲を演奏する場合だけでなく,純邦楽でも凄まじい迫力をもった曲もあります.

 自分自身の反省も含めてですが,プログレ・ファンは過去のプログレの固定された様式に固執するあまり,そのリスニング態度は頑迷なまでに保守的になり,ちっともプログレッシブではなくなりがちです.もっと聴く音楽のレパートリーを広げてみると面白い曲がありそうな気がします.そういう面で筝曲(琴用の曲)は魅力的な分野で,その新しい試みは十分プログレッシブです.


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