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弊サイトでは初のフランス出身バンドのレビューです.
フランスのプログレ・バンドとしてはゴングとマグマが双璧というのが一般的な見方かもしれません.わたし自身の感覚でも,バンドの持つ音楽性,業績,影響力など(適切な表現かどうかはともかく,バンドの“格”みたいなもの)はこの2つが頭一つ抜けてると思います.
が,しかし...この2つがフランスらしさを代表しているかどうかは全然別問題です.途中脱退などで空白期はあるものの,やはりゴングは大英連邦出身のデビッド・アレン抜きでは語れません.純粋なフランス製バンドというより明らかに英仏合作と考えた方がしっくりきます.
また,クリスチャン・ヴァンデ率いるマグマは確かにフランス出身のバンドかもしれません.でも,その音楽性はあまりにも独特で,“マグマはマグマ”としか表現の仕様がありません.フランスを代表するバンドではあってもフランスの香を伝えるバンドではないと思います.
そこで今回登場のATOLL.実力はもちろんのこと,“フランスらしさ”を感じさせてくれるという面でもフランスを代表するのにふさわしいバンドだと思います.
オリジナル・アルバムは4枚.解散後の発掘ライブ音源や再結成後の活動もあるようですが,そこまで詳しくはフォローしていません.
日本へ紹介されたときの売り文句は「フランスのイエス」.小気味よいリズム隊と流麗なキーボード,そして何より完璧なアンサンブル.「フランスのイエス」というキャッチ・コピーはけっして誇張ではありません.もちろん彼ら独自のオリジナリティーはしっかりあるので,単なるイエスのコピーバンドと誤解されかねない売り文句はむしろ邪魔だったかもしれません.
さて,その完成度やセールス面などから一般的には2nd「組曲/夢魔」が圧倒的な評価を得ており,次いで3rd「サード」も高い評価を受けています.しかし,音楽性そのものは1st&2ndと3rd&4thでかなり違いがあります.一糸乱れぬアンサンブルが最大の目玉である1st&2ndと,より力強くストレートな魅力に溢れる3rd&4th.
どちらが上というわけではありませんが,やはり完成度の面でも“らしさ”という面でも2nd「組曲/夢魔」が最高傑作でしょう.ただ,その他のアルバムも水準以上の秀作であることは事実です.
「musiciens
magiciens」
1. L’Hymens medieval
2. Le
baladin du temps
- L’arpege philosophal
- L’incube
- L’arpege philosophal
3.
Musiciens - Magiciens
4. Au-dela
des ecrans de cristal
5. Le
secret du mage
6. Le
berger
7. Je suis
d’ailleurs
歴史的な名盤というわけではありませんが,小気味よいリズムといい,華麗なキーボードといい2ndへの飛躍を十分に予感させてくれる内容です.反面,聴いているときはいい作品だなと思っているのですが,聴き終わってしまうとなぜか強烈な印象が残りません.やはり佳作という表現がぴったりです.ただし,ヴォーカルのバルゼルの魅力がいちばん楽しめるアルバムなのかもしれません.
雑誌などの記事やライナー・ノーツなどではバルゼルもイエスのジョン・アンダーソンと比較され,“透明感溢れるヴォーカルが魅力”と評価されていることも多いのですが,この評価はいまだに疑問に思っています.バルゼルのヴォーカルはフランス語特有の語感と相まって(悪くいえば)くぐもったような,(よく言えば)ソフト・フォーカスのかかったような声質です.確かに魅力的な声なので霧にかすむ森や夜霧に濡れる街角を連想させ,そこが最大の魅力でありフランス特有の情緒を感じさせてくれる面でもあります.が,けっして透明感という感じはしないんですけどね...
「L’ARAIGNEE- MAL」
1. LE PHOTOGRAPHE
EXORCISTE
2. CAZOTTE NO 1
3. LE VOLEUR D’EXTASE
4. IMAGINEZ LE TEMPS
5. L’ARAIGNEE-MAL
6. LES ROBOTS DEBILES
7. LE CIMETIERE PLASTIQUE
ATOLLの最高傑作であると同時に,いわゆるユーロロックを代表する名作の一つでもあります.最大の魅力は前述したように完璧な調和をみせるアンサンブル.これはメンバー個々の技量が確かだからこそ.小気味よく刻まれるリズムに被さって,キーボードやヴァイオリンの音色が絡み合う様は見事です.バルゼルのヴォーカルも夢の中を彷徨うように,漠然とした不安感が漂う不思議な魅力に溢れています.
ただ,文句なしの名作であることを認めた上で...わたしにとってはPFMやLocanda delle Fate,あるいはArti + Mestieriなどのイタリア出身のバンドのほうがやっぱり好みです.
華麗なアンサンブルにしてもPFMやLocandaのほうがより生々しい煌めきや躍動感を感じるし,小気味よいリズム隊にしてもArtiのほうが断然かっこ良く感じるんですよね.結局わたしは“パリのエスプリ”より,“地中海の風”のほうが性に合ってるということでしょう(笑)
「TERTIO」
1.
2. LES DIEUX MEME… (Part 1, 2, 3)
3. CAE LOWE (Le Duel) (Part 1, 2)
4. LE CERF VOLANT
5. TUNNEL - Part 1
6. TUNNEL - Part 2
1曲目の「パリは燃えているか」.2ndの「組曲/夢魔」のイメージとは若干感触が異なりますが,彼らの代表作と呼ばれるにふさわしい良い曲です.ただ,アルバム全体で見るとこの曲だけが浮き気味かな?とも思います.やはり最大の聴かせ処は,前作までのATOLLらしさとこの作品から加わった力強さが絶妙にミックスされた「TUNNEL Part 1 & 2」です.
技術的な批評はさておき,タイトル通り3枚目にあたるこの作品では以前に色濃く漂っていた陰鬱さ・曖昧さが減少し,よりストレートな力強さが増しています.その音楽的な変化のためか,邦題や雑誌などの様々な情報に毒されたわたしの妄想のためかはわかりませんが,曖昧な夢から覚めてしっかりとした現実に立ち返ったようなイメージが感じられます.個人的な好みという点では2nd以上.
「ROCK PUZZLE」
1. L'Age d'or (dans 8000 ans)
4. Smarto Kitschy
5. Eau (H20)
6. Garces de femmes
7. La maison
de Men-Taa
8. Puzzle
bonus tracks
9.
L'Ultime rock (studio Z version)
10. Puzzle (studio Z
version)
11. Atari, that's a game ! (Smarto Kitschy -
American mix)
12. Here comes the feeling
13. No
reply
14. Eye to eye
全体の印象は3rdの延長線上.前作までの組曲/大曲がなくなり,やや小粒になった印象ですが内容は悪くありません.楽曲や演奏面の水準はそのままに,単なる迎合ではなく馴染みやすい雰囲気になったと言えるでしょう.
tracks
1~11
Andre Balzer : vocal
Christian Beya : guitar
Alain
Gozzo : drums
Michel Taillet : key
Jean-Luc
Thillot : bass
tracks 12~14
John
Wetton : vocal, bass
Michel Taillet : key
Jean-Jacques
Flety : guitar
Alain Gozzo :
drums
もしジョン・ウエットンが参加していたら...と想像するのは楽しいのですが,それが成功したかどうかは正直わかりません.バルゼルのヴォーカルもない,ベヤのギターもないATOLLがどうなったかは想像もできませんから.
1990年頃再結成,そして来日公演も実現しています.オマケに来日公演のライブ盤も発売されていますが,再結成以後の活動に関してはほとんどチェックしていません.
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