PFM -11
1.P.F.M. その(11)
「Dracula」/PFM
2002年の来日直後から噂されていたオリジナル・アルバムの新作がようやく発売となりました.
来春(2006年)イタリア国内で上演予定のロック・オペラ「Dracula」のサウンド・トラックですが,内容的には完全な新作オリジナル・アルバムといって良いと思います.
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1. OUVERTURE
2. IL CONFINE DELL' AMORE
3. NON E UN INCUBO E REALTA
4. IL MIO NOME E DRACULA
5. IL CASTELLO DEI PERCHE
6. NON GUARDARMI
7. HO MANGIATO GLI UCCELLI
8. TERRA MADRE
9. MALE D'AMORE
10. LA MORTE NON MUORE
11. UN DESTINO DI RONDINE
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まず,一聴した感想は ”力作!” の一語.
最近のスタジオ作品(「Ulisse」〜「:Serendipity」)から感じた〜
「耳あたりが良く変化に富んだ多彩な楽曲を,卓越した演奏とすばらしいアレンジでじっくり聴かせる」
〜良質のアダルト・ロックというイメージとは大きな方向転換です.
”プログレ色の濃い”作品になるだろうとの噂は当初からありましたが,基本的にはその通りの仕上がりです.
しかし,この作品が従来の('70年代の)PFMの再現かというとまるで違います.
確かに'70年代の”いわゆるプログレ”的な薫りがするのも事実.
・「Dracula」という明確なテーマをもったコンセプト・アルバム.
・アルバム全編にわたるオーケストラの導入や混声合唱団の参加.
・個々の楽曲も耳あたりの良いポップなものではなく,どちらかと言えば重厚長大路線...etc.
PFMのメンバー自身の演奏も力の入ったもので,最近になく演奏面を重視しています.
まさしくかつて一世を風靡した”progressive rock”そのものです.
が...ここで演奏される楽曲の数々は,今までのPFMが持っていた雰囲気とは一変しています.
流麗なキーボードワーク,いつも以上にクラシカルなギターなどにオーケストラや混声合唱団が加わり,まさにクラシックとロックの融合”ロック・オペラ”の王道.
強いて言えば,Plemoliのキーボードがいつもより前面に出てきてはいますが,個々の演奏自体は特別今までのPFMと変化してるわけではありません.
しかし,作品全体を支配する色彩感が従来のPFMのイメージとはかけ離れているのです.
個人的には,'70年代のPFMから受ける印象の一つに”情感豊か”という面はありましたが,華やかというか極彩色をイメージするような感覚はありませんでした.
ところが,今回の「Dracula」は鮮血を思わせる深紅のジャケット・デザインからも想像できるように全編を明瞭な色彩感が覆っているように思います.
また,舞台で上演することを前提としたオペラ風のヴォーカル・スタイルが違和感を感じる要因の一つでもありますが,わたしはヴォーカル・パートのみが主な原因とは思えません.
(オペラ風の歌い方がPFMのアキレス腱”ヴォーカル”をいっそう浮き彫りにしている点は否めませんが...)
新生PFMらしさは演奏面すべてにもしっかりと感じることが出来ます.
上で「色彩感」...と書きましたが,この言葉が適切か否かは自分でも自信なし.
ただ,アルバムの印象を”華やかさ”・”力強さ”といった言葉で表現しても的はずれとは思いませんが,「Dracula」というテーマの持つ凄惨なイメージとは相容れない気がして,あえて色彩感という単語を使ってみました.
以上,以前のPFMとの違いを強調しましたが,作品自身の仕上がり具合はというと...
やはり”素晴らしい内容”だと思います.
違和感と書いた部分も,裏を返せば新鮮な魅力に溢れていると言うこと.
それにこれほどのベテラン・グループ(本国では大御所と言っていいでしょう)にもかかわらず,さらに新しいことに挑戦し続ける気概には素直に頭が下がります.
わたしは「Chocolate Kings」を初めて聴いたときにも「以前とガラッと違う!」と感じたくちなので,実は今回のイメージ・チェンジにもあまりショックはありません.
「おおっ,かなりイメージ変わった!なかなかおもしろい!」というのが一番わかりやすい表現でしょうか(笑)
何よりイメージや雰囲気はともかく,演奏内容や楽曲のレベルなどは素晴らしいので素直にPFMの実力を感じることが出来ます.
失望しないで安心して聞ける,というのがファンにとっては何よりの贈り物です.
ただ,これが新生PFMの音だと断定するのは少し気が早いと思います.
また,単純にプログレ回帰/原点回帰と決めつけるのも間違いかもしれません.
まず,今回は”ロック・オペラ”に正面から取り組んだという新しい動きなのですが,
逆に言えば,”ロック・オペラ”という制約の範囲で作り上げた作品でもあるということです.
今回の作品はオペラという特性上,舞台を観ないと正確な評価は出来ないでしょうし,PFM以外の人々が作品に影響を与える部分も普通のアルバム以上でしょう.
それはPFMのメンバーも当然承知で,視覚と音楽合わせて完成作と意識しているでしょう.
来年以降のライブが「Dracula tour」のようなロック・オペラ再現を意図したステージになるとしたら,これからもこの路線が続くのかもしれません.
しかし,今後のツアーが従来の延長線上で行われるのなら,今回の作品はあくまで新しい一面を示したものであり,”野心作”ではあっても”方向性”ではないような気がします.
わたしは後者ではないかと想像しているのですが...
今後もこの路線を突っ走るとしたら”恐いもの見たさ”というか,ある面楽しみでもありますね.
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