SOLO
WORKS
1.Mauro Pagani
(2005/02/01 update)
’70年代PFMの黄金期を支えた人物.音楽面での貢献度といい,思想的な影響力といい,彼がPFMに果たした役割は絶大だと思います.
しかし,プログレッシブ・ロックという流れが収束に向かい始めた頃と前後して,彼は自分の音楽のルーツを見つめ直すべくPFMを離れます.それはロックを含むポピュラー音楽から距離を置くだけでなく,コマーシャリズムとも一線を画す行動でした.
PFMを離れたPagani はキリスト教文化とイスラム教文化が渾然と融合した地中海音楽に自らのルーツを求めます.そして当時は非常に新鮮だった中近東風音楽にジャズやロックの風味が絶妙にブレンドされたファースト・ソロ・アルバム「Mauro
Pagani」を生み出しました.
一方,同時期に発表されたPFMの新作「Jet Rag」は,「Chocolate
Kings」を基本にしつつ,より洗練された滑らかさを伴っていました.ぶっちゃけて言えば”フュージョンっぽい”.で,評論家諸氏の評判は今ひとつ...
ただ,わたしはPFMの項で書いているように,「Jet
Rag」はすごくいいアルバムだと思うんですよ.Mauro Pagani のソロ・アルバムと比べれば方向性は全然違うから,Pagani
が脱退した理由もよく分かるのですが,巷で言われるほど両者の間に優劣はないと思うんです.一部で言われるような「Mauro Pagani
いてこそのPFM」ではなく,Franco MussidaやFlavio Plemoli
がいなくては「友よ」も「甦る世界」も生まれてはいなかったと思います.
だからといって,Mauro Pagani
の評価が高すぎると言うつもりはありません.文句なしの名盤「Mauro Pagani」以後も「Passa La
Bellezza」や「Domani」など,実に味わい深いソロ・アルバムを着実にリリースしています.ただ10年ごとに1作と,あまりにも寡作なのが珠に傷(サウンドトラックやセッション物は除く).
その発表間隔の長さの為なのか,1作目の「Mauro
Pagani」がプログレッシブ・ロックにジャンル分けされる一方,他のオリジナル2作品が歌物のイタリアン・ミュージックとして分類され,両者の間に断絶があるように扱われるのが少し残念.
今3枚の作品を続けて聴いていると,時代や置かれている環境,本人の年齢なども違うのですから,表現方法や音楽性に変遷はあります.しかし,「Mauro
Pagani」から「Domani」までPagani
が追い求めているものは,基本的に首尾一貫しているように感じます.
彼が追い求めているものは,自分の拠って立つ音楽文化への理解とそれに根ざした自己表現なのでしょうから,「Mauro
Pagani」も「Domani」も基本姿勢は一緒だと思うんですが...音楽性は全然違うから,同じ土俵で評価しろと云うのは個人的な暴論かもしれませんね.
「Mauro Pagani」
1. ヨーロッパの曙/EUROPA MINOR
2. アルジエント/ARGIENTO
3.
哀しみのヴァイオリン/VIOLER D'AMORES
4. 馨しき街/LA CITTA' AROMATICA
5.
木々は歌う(パート1)/L'ALBERO DI CANTO (parte 1)
6. コロン/CHORON
7. 海の調べ/da qualche
parte tra Calabria e Corfu 〜 IL BLU COMINCIA DAVVERO
8. 木々は歌う(パート2)/L'ALBERO
DI CANTO (parte 2)
上で書いたように,文句の付けようがない名盤.プログレ名盤100選とかベスト100とかのムックや特集では,必ず名を連ねている名作中の名作です.クラシックやジャズといった典型的な西洋音楽とは明らかに違い,かと言って純然たる民族音楽では決してない...その音楽性はもちろん,精神性から言っても”プログレッシブ”という名にふさわしいものでした.音楽性に対する解説は各メディアで語り尽くされていると思うので,今更つたない説明をする意味はないでしょう.ただ,自分の聴いた感触を書いておきたいと思います.
個人的な民族音楽を取り入れた楽曲の原体験といえば”Beatles”.つまりGeorge
Harrisonのインド音楽を取り入れた一連の曲という事になります.ただ,その頃はホントに幼かったし,良い悪いの判断が出来るわけもなく,一言「変な曲」と言う印象でした.それに今聴いてみても,アルバムの中で他の楽曲から浮いてしまっています.また,民族音楽の導入自体はいろいろなミュージシャンが取り組んでいましたが,やはり”中近東風のメロディー”とか”インド音楽の手法”といったスパイス的な使い方であったように思います.
ところが,このアルバムでは第一印象として中近東・イスラム文化を強く感じさせ,ジャズやロックの方がむしろスパイスとして効いているように感じます.もちろん,Pagani
自身はジャズやロックへの理解は十二分にあることは説明不要.なので,西洋文化とイスラム文化が単に「○○風」などの表面的なものではなく,根底から渾然一体となっています.やはりギリシャ〜イタリアといった地中海沿岸に生まれ育った者でないと成し遂げられなかった音楽でしょう.その点がこのアルバムを名盤たらしめている一因ではないでしょうか.今聴いてもまったく色褪せない魅力を持っています.
「Passa La Bellezza」
1. PASSA LA DE NATALE
2. LA NEVE DE NATALE
3.
AXUM
4. DAVVERO DAVVERO
5. OSSI DI LUNA
6. ABILMENTE
7. 'N DE
8.
UNO
9. SOLDATO
1990年発売のオリジナル・アルバム2作目.ジャンル分けをしてしまえば,”プログレ”とは似ても似つかぬ内容です.一聴すると地中海音楽をベースにしたヴォーカル・アルバムで,Fabricio
De Andreの「地中海の道程」と同じ感触を感じます.
「Mauro Pagani」と直接比較してしまうと隔たりがありますが,Fabricio De Andreとの交流なども彼の音楽キャリアだということを考えれば,ごく自然な流れから出来上がったアルバムという気もします.
さっきヴォーカル・アルバムと書きましたが,演奏家としても存分に活躍しており,お馴染みのヴァイオリンはもちろん,地中海地方の民族楽器ブズーキ(ギリシャが中心だったかな?うろ覚えの知識ですが...)を熱演しています.メロディー自体はモロ民族音楽という雰囲気は少ないのですが,やはり独特の薫りがあります.
Pagani のヴォーカルは特別うまいという感じはないのですが,渋く味わいがありなかなかオツなもの.ゲストとしてFabricio De Andreなどの参加もあり歌物としても良いアルバムです.
「Domani」
1.
DOMANI
2. PER SEMPRE
3. PAROLE E CASO 4. THE BIG NOTHING
5. FRONTEFREDDO 6.NESSUNO
7. FINE FEBBRAIO
8. SARA VERO
9.
ALIBUMAIE 10. GLI OCCHI
GRANDI
11.
QUIERO 12.
PSYCO P.
13. DING DING
またまた10年以上のインターバルの後,2003年に発表されたニューアルバム.オリジナル・アルバムとしてはソロ3作目.Pagani
自身はBancoのメンバーとのプロジェクトやミラノ大学での教職などいろいろ盛んに活動しているようですが,如何せん遠く日本にまで伝わってくるような表舞台での活躍とは無縁の日々.ようやく届いた新作は前作からの雰囲気を踏襲しつつも,軸足は完全にヴォーカルに移っています.
しかし,この3作品を通して聴いてみると,不思議とこの変遷が納得できます.自分の拠って立つ文化的な背景を探ることが目的の1st.文化・地域に根ざした現在のMauro
Pagani
というミュージシャンの表出が2nd.そして,知識や技巧に縛られず自分の伝えたいものを素直に表現した3rdという感じがします.
前作でも感じたのですが,ヴォーカルリストとしては特別”上手い!”という点はありません.ただ,枯れた感じの渋さに磨きが掛かって,1曲目のタイトル・ナンバー「Domani」などは素晴らしい魅力に溢れています.心に沁みるような名曲.
今回はヴォーカリストに徹している雰囲気があり,楽器面ではギターやブズーキを演奏してるだけで,マルチプレーヤの名は返上しています.かつてヴァイオリンやフルートの音色に惹かれた者にとってはその点で少し残念.また,楽曲にしても全体にシンプルで,民族色を前面に出すこともなく,前述の「Domani」以外はとくに強く印象に残る曲はありません.PFMの「Ulisse」などは変化に富み聴き所も多いので,単純に音楽面のみで比較すると少し物足りない気分です.
「Creuza de Ma 2004」
1. AL
FAJR
2. CREUZA DE MA
3.
JAMIN-A
4. SIDUN
5. SINAN CAPUDAN PASCIA 6. 'A
PITTIMA
7. QUANTAS
SABEDES 8.
A DUMENEGA
9. DA ME
RIVA 10.
MEGU MEGUN
11. NEUTTE
このページを読んで下さっている方々には説明不要でしょうが,イタリアを代表するカンタトゥーレFabricio De Andreの名作「Creuza
de Ma」(’84年)の全曲カバー+α の内容です.ただし,カバー・アルバムとは云っても「Creuza de Ma」は事実上Mauro PaganiとFabricio
De Andreの共作と言ってもいい作品なので,単なるトリビュートとかカバー作品ではありません.Paganiのセルフ・カバーと表現する方が正確かもしれません.
基本的には「Creuza de
Ma」全曲演奏で,新作が間に2,3曲はさまる構成です.録音はライブ音源とスタジオ録音のミックスで構成されており,録音そのものも非常に生々しくて素晴らしいものです.
もちろん内容は美辞麗句を並べるのも気が引けるほど素晴らしく,Fabricio De Andreを彷彿とさせるPaganiの渋いヴォーカルが魅力的です.音楽が始まると同時に地中海の薫りが溢れ出て,最後まで夢心地で聴いてしまいます.
Originalと比べるのも野暮な話ですが,De AndreとPaganiの最大の違いは色気の質でしょうか.De Andreにはよく言えば野性的な,下品な言い方をすれば猥雑な男の色気が滲み出ている気がして,そこがまた格別の魅力になっています.どちらも渋くしゃがれた低音が魅力なんですが,Paganiの方がより枯れた雰囲気で水墨画のような味わい.ですから,そこはかとない哀感を帯びた曲ではPaganiの声はベスト・マッチで,それこそ涙が出そうになるほどです.これは前作のタイトル・ナンバー「Domani」でも感じたこと.一方,やや陽性でアップ〜ミディアム・テンポの曲ではもう少し猥雑さ(卑猥さ?)が欲しいようにも思います.
まあ,上述したような感想は好みの問題でしょうし,このアルバムがイタリアのポピュラー音楽のみならず,地中海音楽の今を代表する作品だということは間違いないと思います.Mauro
Paganiの個人名義では1st以来の会心作と言って良いでしょう.
以下はセッション・アルバムやサントラ盤です.
「Rock and Roll Exibition」
1. MEAN WOMAN BLUES
2. HOUND DOG
3. BLUEBERRY
HILL
4. LONG TALL SALLY
5. BOOM BOOM
6. BAREFOOTIN'
7. 25 MILES FROM
NOWHERE
「Long Tall Sarry」や「Hound
Dog」といったロックンロールのスタンダード・ナンバーをひたすらシンプルに,パワフルに演奏しているセッション・アルバム.メンバーはDemetorio
Stratos, Paolo Tofani,Walter Calloli
などで,当時のイタリア・ロック界の交流から生まれた企画なのでしょうが詳しい経緯などは分かりません.ギターのフレーズをPaganiのヴァイオリンが演奏していたり,Demetrioのいななきヴォーカルが聴けたりと,楽しい内容ですがプログレとは全く関係なし.発展性も特になし(?)まあ,コレクター・アイテムでしょうね.
「Sogno di una notte d'estate /
真夏の夜の夢」
1. ONE / ワン
2. COCKER SPANIEL /
コッカー・スパニエル
3. NOI SIAMO IL BUIO / 我々は暗黒
4. IL LITIGIO / 口論
5. OBERON /
妖精王オベロン
6. LA FATA / 妖精
7. PUCK / パック
8. SONNO / 夢
9. GOOD MORNING /
おはよう
10. FATE CHE SCORRA / ファータ・ケ・スポルパ
’81年発表のロック・オペラのサントラ盤.昨年初めてCD化されたので,未聴だったわたしもようやく耳にすることが出来ました.劇そのものの内容は,ブックレットに収録されたモノクロ写真や収録曲の邦題から察すると,ファンタジーっぽいアングラ劇のような気がします.「シェークスピアに新しい息吹を!」みたいな感じでしょうか?
如何せん舞台を見たことがないので正確な評価は難しいのですが,音楽的には粒ぞろいの作品が並んでいると思います.ただし,視覚的な影響抜きでも耳に残るほどの名曲が含まれているかというと...残念ながらそれほど際立ったものはありません.
ロック・オペラの有名どころ「ジーザス・クライスト・スーパースター」や「トミー」などと比較すると,”文句なしの名曲!”というのがない点で苦しいのかなと思います.また,カルト系で比較しても「ロッキー・ホラー・ショー」のもつ斬新さや妖しさには(音楽面だけをみても)及びません.
PFMやPaganiのマニアックなファン以外にはお薦めは出来ないかな?Paganiの才能の奥深さや幅の広さを再確認するにはもってこいの作品なのですが,必殺の一撃には欠けるというか何というか.
「Nirvana」
1. WHATEVER IT IS - NOW 2. JOHN
BARLEYCORN (MUST DIE) - TRAFFIC
3.
EQBIROTZ
4. SODADE - CESARIA EVORA
5.
HOTELS
6. CHELSEA HOTEL
7.
NIRVANA
8. LAST DANCE
9. TOWN
HOUSE
10. TEMA DILISA
11. JIMI E
SOLO
12. LISA MOBILE
13. TOWN
HOUSE
14. WINDY CITY
15.
CHRONOTAPE
16. TOW FU
17. J. MILONGA
同名イタリア映画のサントラ盤.映画自体は低予算のサイバーパンクという雰囲気.SF好き(とくにウイリアム・ギブソンなんか)の方は興味ある内容だとは思います.全体的な雰囲気や展開は非常にいい感じなのですが...如何せん「PCウイルスに感染したゲームソフトの主人公が人格を持ってしまい...」という導入部が,個人的には”???”です(笑).この当時のSFやアニメではよくある筋書きだったのかな?
Pagani
は音楽監督という立場のようですが,楽曲はFederico De Robertisという人とほぼ半々に提供しています.Pagani
が担当する部分の曲は,「近未来のイタリアのスラムにあるアラブ街」という映画の舞台設定そのまんまのイメージ(笑).文字にするとかなり安っぽいですが,実際聴くともう少し魅力的.ただし,絶賛するほどの印象は感じません.悪くはないのですが,「サスペリア」=Goblinのような強烈なインパクトはありません.しかし,映画のBGMという点を考えればそれで十分なのでしょう.