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小説  太古幻想

著作者: 西  倉  紀  一

All rights reserved. (C) Kiichi Nisikura 1999 


27.新たな挑戦       

                    
  当時、出雲の国は、今の島根県安来市辺りから松江市にかけての中海(当時の

「入海」)沿いにつくられた小さな村落国家でしたが、他の近隣諸国と同様、急激な

時代の変化にさらされ、早急な対応をせまられていました。その時代とは、中国に

於ける殷 (いん)王朝の滅亡や、その跡を受けた周(しゅう)王朝の凋落が中国各

地の強国による覇権争奪の戦乱を生み、それによって生じた大量の難民が海を渡

り、現在「日本列島」と呼ばれている島々に続々と押しかけて部族単位の村落を造

り、中には、土着の部族や他の外来部族を制圧して覇権を獲得しようと果敢な挑戦

を試みていた時期でした。

   その頃、出雲の国のまわりには、出雲族と同じく殷の末裔といわれる渡来者の集

落や、朝鮮半島からの移住者の部落がばらばらに点在し、はるか東南の大きな島

(今でいう九州)には、肥人(くまびと)、隼人(はやと)等の部族達が幾つもの集団に

分かれて国を建てていました。また、出雲の国の東北には古代中国の越(えつ)の

国からの渡来人達がつくったといわれ、後に越前、越中、越後に統合されてゆく高

志(こし)の人々の集落が存在し、さらに、その北には蝦夷(えみし)の部落群、それ

に、出雲から南に山を越えた今の瀬戸内海の周辺には、牽達よりも先に中国の呉

(ご)やその周辺の国々から来た人々の村落などがあって、たがいにより豊かな土

地や漁場を自分達一族のものにしたいと、虎視眈々と狙っていて、なにかきっかけ

があれば一触即発の緊張状態にありました。    
 
   しかし、シコオノミコトの目から見れば、そのような事態は、木を見て森を見ぬ小

国どうしの自縄自縛の罠でした。なぜなら、彼の耳には、当時の中国の領域より遥

か北の黒竜江(こくりゅうこう)の辺りから、馬に乗った遊牧民の大集団が、獲物を

追い、ゆく先々で掠奪や殺戮を繰り返しながら、今の朝鮮半島方面に向かって南下

中であるという噂が届いていました。もし、彼等遊牧民が対馬海峡を渡り、多数の

馬や武器と共に日本列島に上陸してきら、漁撈や農耕に明け暮れている部族の国

々なぞあっという間に席巻されてしまうこと火を見るよりも明らかです。                
 
  なんとかしてそうした事態を避けたいと、ミコトは日夜心を砕き、思いを廻らして、

ついに一つの方策を案出していました。すなわち、地域的に隣接した小国がそれぞ

れの利益だけを求めて争うのは止めて、たがいに独立を保ったまま協力し、外から

来る強力な敵に対抗しようという一種の地域共同防衛構想でした。ミコトは、まずこ

の構想を同じく殷の末裔といわれている周辺の国々に理解し、同調してもらおうと、

次々に説得を試みましたが、誰も耳貸さず、しまいには、                 

 「あいつは、うまいことをいって我々を騙し、この地一帯の主となろうとしている」 

という噂さえ立って、他の国主達から仲間はずれにされ、遂には手酷い意地悪をさ

れるようになり、孤立無援の窮地に立たされてしまいました。牽が、出雲にきて、こ

の国の副主に任ぜられたのは、そのような時であったのです。                
 
   牽一行に対する歓迎の宴もおわり、倭の人達に対する当面の宿舎の割当てや

衣食の配給も一通りおわると、シコオノミコトは、このような状況をすべて牽に話し、

 「どう、対策を立てたら良いと思うか?」

と、彼の意見を求めました。しばらく考えた後、牽はいいました。

 「近隣の国々が団結して外敵にあたろうというミコトのお考えは、ご達見だと思いま

す。その点については、同じ危惧を感じておられるまわりの国の国主の方々も、耳

を貸さぬふりをされていても、お心の中では私と同じように評価されていると思いま

す。ですが、人は将来起こるかも知れぬ危険よりは、目の前の利益に心を奪われが

ちす。ですから、近隣の国主の方々にミコトのご構想を支持していただき、それにご

協力いただくためには、将来の危険についてのご説得だけでは不十分で、協力する

ことが国主の方々ご自身やそれぞれのお国にとってすぐに利益となることを、目に見

える方法でお示しになることが必要かと思います。その示し方には、いろいろありまし

ょうが、私は、まず、この出雲を豊かなお国にすることが一番だと考えます。お国がま

わりの国々が欲しがるような物を沢山作り、交易によってそれらを近隣の国々にわか

ち与えれば、おおかたの国は出雲との間に親密な関係を持ちたいと思うようになるで

しょう。そうなればミコトのご構想は、自然に実現されてゆくでしょう。」              

 「では、この出雲が、他国が欲しがるような物を多く作るためには、どうしたらよいか」                 

と、ミコトはかさねて牽に質問しました。牽は、                  

 「まずは、よい食べ物をたくさん作ることからとりかかるべきでしょう。『百聞は一見に

如かず』 という諺もありますので、我々が或る実験をしてご覧にいれます。それには土

地が必要ですので、私や倭の者達が西の入海(いりうみ=外海とつながった湖)の東

の野に入植し、里(さと)をつくることを、お許しください」  

といいましたので、ミコトは即座にその願いを聞き入れました。           
                   

※次回は、「28. 錦繍の里」です。


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