歩幅





「(・・とりあえず2時間待ってみるか。)」
 で、来なかったら、帰ろうと、和谷は決めた。
 改札が見通せそうな席に目星をつけて、駅構内のファーストフードカウンターでジンジャーエールを頼む。
 戻ると、目的の伊角さんが、ガラス窓をコンと叩いた。
「(やっぱ伊角さんでもだめだったのか・・?。)」
 でも嬉しそうに自動ドアを回りこんでくる彼を見て、あれ?、とも思った。
「どうしたんだ和谷?。」
「やっぱ心配でさ。」
 戻って追いかけたと言うと、伊角さんは肩をすくめた。
「進藤の家までくれば良かったじゃないか。」
「俺は前、ぶっちぎりで逃げられたんだよ。」
「そっか。」
 あ、と伊角さんの様子で気がついた。
 笑ってるから、もしかしたら進藤は、
「なんか吹っ切れたみたいだ。走ってこなかった?。一緒に家を出たんだけど、すごい勢いでさ。置いてかれたんだ。」
「俺は今ついたとこだから・・・、てゆーか、ちゃんと手合いに出るって?。」
「それを言いに行ったみたいだよ。」
  
 塔矢にね、と伊角さんが笑う。
 ほら、と思った。
「・・・・・ちぇー。なんだ。最初から伊角さんが行けばよかったんだな。」
 毒づいても嬉しくて思わず顔がゆがんでしまう。
「はは。」
 伊角さんは荷物を和谷に見てもらって、和谷と同じものを頼みにいった。
 その姿を見送りながら、ふふっと笑った。相変わらずで嬉しい。
「(さすが伊角さん。)」


   ***


 待ち合わせしたわけでもないのによく会えたなというので、そっちこそよく見つけたよなと和谷は言い返す。
「2時間たったら帰ろうと思ったんだよ。長居してるなら検討でもしてるかもってことで進藤が復活したってことになるだろ。早く来たら追い返されたと言うことで2時間以内くらいだったら会えるだろうと思ってさ。そんで二人がかりで奴を引きずり出そうと思ったわけだ。」
 電車を乗り継いで今は和谷の一人暮し先に向かって歩いていた。
 それはお邪魔しないとなと伊角が言ったからだ。
「検討はまた後日にしたよ。」
「そっか。・・よかったら並べて見せてよ。復活の碁をさ。」
「いいよ。」
 日も暮れてしまった夜道は涼しくて心地よくて、そして和谷は上機嫌だった。
 そう、伊角さんも進藤も戻ってくるのだ。
 通り抜けの公園の自販機でジュースを買って、また歩き出す。階段になっているスロープを行く。
「歩く幅って一緒じゃねーんだよな。」
「?、和谷。」
 先を歩いていた和谷は振り返って笑った。
「なんかそれも『有り』って感じ。でもつまるところおんなじ道なのさ。」
「・・ああ。・・・俺もそう思う。」
「一緒に歩いていこうよ。別に並んでなくていいからさ。」
 伊角さんは俺を見上げて、少し目を見開いた。
 寂しすぎたとかそういう感傷では心は凍りつかない。寂しいと言うのはそれだけの熱さを持っているからだ。
 だけど・・去っていかれることを慣れていると思うことは、それに等しい。
 それが今、溶けていく。
「(察してくれるかな・・。)」
 伊角さんを励ましてるとかでなく、進藤のことをでもなく、自分が寂しかったということを少しでも。
 じっと少し期待の混じった目をしてしまう。
 伊角さんは顔をほころばさせた。
「いいよ。」
「・・・。」
「でもスタンドプレイは有りってことでよろしくな。」
「おお。それいいかも。」
 答えると、「なっ」と伊角さんは肩を竦めた。
 そして俺の段の一段下まで間合いを詰めたのだ。
 とんと胸を打つ。
 そしてやおら真面目な面持ちになって呟いた。
「自分のことばっかりで、ごめん。」
「・・・。」
「でも、俺はおまえのところに行くよ。」
 この差から。

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