タタの絶妙な体験

〜 第3日 手の内にある平和 〜

【1〜動き出した時間】
・・・ピ・・・ピ・・・ピピ・・・ピピ・・・ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピッ(ガチャッ!)
(5分後)・・・ピ・・・ピ・・・ピピ・・・ピピ・・・ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピッ(ガチャッ!)
目覚まし時計のアラームを止めるこの動作が、無意識に数回繰り返された。Tataはまだ眠っている、そして・・・
『・・・・・・ん〜〜〜』 伸びをしながら、やっと目を覚ました Tataは、寝過ぎで頭がクラクラしていた。
『さてと・・・また、新しい一週間の始まりだな・・・』 そう思いながら、一服しようと 小っちゃな丸テーブルに手をやった。
『・・・ふんッ、覚えているさ、煙草がなかったことは・・・・・・』 誰かに勝ち誇ったかのようにつぶやきながら、時計に目を向けた。
『な、なっにィ〜ッ?!』 愕然とした Tataの目に映る時間は、7時30分を少し回っていた。慌てて支度を始めた。
平日は6時30分にアラームをセットしているが、休み明けの月曜日は毎週寝坊している。家を出る時間は、7時45分だ。
手に荷物を持つのが嫌いな Tataは、着ている服のポケットというポケットにいつものように物を入れていく。
ズボンの左ポケットには小銭入れ、右ポケットには携帯電話・・・『あれ?携帯電話がない・・・ぞ??』
ズボンの右ポケットに入れるはずの携帯電話がない。Tataは、静かに考えた・・・。
『・・・わかったぞ、先週の大阪日帰り出張から会社に戻った時だ』 Tata は思い出した。
先方の課長から送られてきたFAXの商品を、無事に手配できたかの確認の電話が 田所主任からあったことを・・・
『あの時か・・・疲れてたから、ファクシミリ横のテーブルの上に置きっぱなしにして、そのまま忘れたんだな・・・』
時間もないので気にせず支度を続けた。
『・・・何か、いつもと違うな・・・・・・?』 何か違和感がある Tata だったが、『携帯電話がないからかな・・・』 と勝手に納得すると
台所から1本のバナナをとり、ほおばった。『月曜日の朝は、いつもバナナ 1本だな・・・やれやれ』
身支度も整ったので慌てて家を出た。目覚まし時計の針は 7時50分を回っていた。
【2〜翻弄される時間】
最寄り駅に向かう Tataは走りながら考える。『途中にコンビニがある。自販機もある・・・どうするか』 思考をめぐらせる。
『また、買いそびれるかもしれない・・・時間いっぱいだが、煙草を買おうッ!』 そう思っているうちに、自販機が見えてきた。
腕時計に目をやる。『よし、間違いなく販売時間内だッ!』 時計は、7時55分を示していた。
自販機のコイン投入口に硬貨を持っていきかけて気がついた。『何だってェエエーーーッ!!』 Tataのお気に入りの煙草が
売り切れていたのだった。売り切れを確認するや、『考えている暇はないッ!』 すぐさまコンビニに向かって走り出した。
『まさか、今日も煙草を買えないんじゃあないだろうな・・・』 焦りを感じつつ、コンビニ`オーソン´ へ飛び込む Tataであった。
『ニヤリ・・・さすがはコンビニ`オーソン´ だ・・・』 2箱の煙草が満面の笑みを浮かべた顔の Tataの手の中にあった。
ひとつを所定のシャツの胸ポケットへ入れ、残りをどこに入れようかと考えていると、左足に衝撃を受けた。
『イテッ・・・』 子供が コンビニ`オーソン´ から飛び出してきて、Tataの左足に後ろから ぶつかったのだ。
振り返ると 4〜5才くらいの男の子が尻もちをついていた。Tataは慌てて、起こしてやった。
『大丈夫かい? ケガはないようだけど・・・』 子供の目線に合わせて、中腰で優しく語りかける Tataであった。
『大丈夫だいッ』 小生意気な態度で言うその子供を見て、『なんだ、このクソガキ・・・』と思っていると コンビニ`オーソン´ から
子供の父親らしい男がでてきた。『どうもすいません』 本当に申し訳なさそうに Tataに頭を下げてきた。
『こらッ、すすむッ!ちゃんと謝りなさいッ!』 父親に言われ、渋々謝る子供。『ごめんなさい、おじちゃん・・・』
『いえいえ、ケガがなくて何よりです』 と言うと Tataは時間がないので、駅に向かった。
階段を駆け上がり、自動改札を抜けると、ちょうど電車が入ってきた。
『いつも乗る電車の 2本あとだが、会議の時間にはギリギリ間に合うかな・・・』 と思いながら、その電車に乗り」込んだ。
ドア際から、窓の外に目を向けると さっきの少年が Tataに向かって手を振っている。
『なんだ、可愛いところもあるじゃな・・・アッ!?』 その少年を見て、Tataは愕然とした。なんと少年の手に煙草が握られていた。
中腰になったときに、シャツの胸ポケットから滑り落ちたらしい。
『はぁ〜、買ってすぐ煙草は落とすし、おじちゃんと言われるし・・・今日もやっぱり辛い一日の始まりか・・・・・・』
満員電車で身動きがとれないが、胸ポケットに煙草がないことはすぐに確認できた Tataであった。
【3〜密室の空間 3】
寝坊とコンビニに立ち寄ったことで、8時45分からの朝礼に送れてしまった Tataであったが、急いで資料をコピーし 何とか
9時からの会議にはギリギリ間に合った。
会議室へ行きメンバーに資料を配り終えると、Tataも席についた。ホッとして、シャツの胸ポケットに手をやった。
『ぬぅ〜、煙草落したんだっけ・・・』 煙草はなかった。
『確か 2箱買ったんだよな〜』 各ポケットの上から確認をするが、残りの 1箱が見つからない・・・そして、会議は始まった。
会議は、9時〜12時まで。メンバーは、全部で 9人。内 7人が喫煙者だ。Tataもこの喫煙者 7人の内の一人だった。
部長も課長も煙草に火をつけた。『いっそ、このまま禁煙しちゃおうかな・・・』 Tataは自分が壊れ始めたことに気がついた。
淡々と会議は進行している。この会議は、資料の説明が終われば Tataはあとはどうでもよかった。
『この会議が終ればお昼だ・・・メシ食って煙草買って一服できる』 それが Tataの精神力を支えていた・・・。
Tataは、午後に外出の予定があり、昼食後 1時には、後輩の相楽と会社を出なければならなかった。
長い会議が終った。会議室の時計は、12時50分を示していた。
『はぁ〜・・・またも、時間いっぱいなのかぁ〜』 Tataは深い ため息をついた。
『タタ先輩、正面玄関横の駐車場に営業車を回しておきました。急ぎましょうッ!』 メガネのフレームをキラリと光らせながら
相楽が呼びに来た。『やっぱり、こうなるのか・・・』 そう つぶやきながら、営業車に乗り込む Tata だった
走り出して、しばらくすると 相楽が言った。『タタ先輩、会議が長引いてメシ食ってないでしょ、後ろのヤツ食ってください』
後部座席を見ると、ファーストフードの`マーク・ドナルゾ´ の袋が置いてあった。
『おおッ、マクゾのハンバーガーかぁ〜、遠慮なく貰うぞッ!』 相楽に感謝しながら、Tataは空腹を満たすことができた。
会社を出てから約1時間30分・・・やっとお客さんのところに到着した。お客さんとのアポは、2時30分。
『2時25分・・・ギリギリ間に合いましたね、タタ先輩』 相楽はホッとしたように言った。
『そうだな』 Tataも安心した。そして、すぐに建物へ入って行った。
【4〜拘束された時間 2】
受付から通された応接室の時計の針は、3時20分を知らせていた。
『タタ先輩、先方さん来ませんねぇ〜』 そう言いながら、出されたお茶をすする相楽。
『何だよ〜、これじゃあ先週の大阪の課長と同じパターンじゃあないか・・・』 Tataはそう思っていた。
イライラしながら、シャツの胸ポケットに手をやった。『煙草落したんだっけ・・・』 煙草はなかった。
今回の打合せは、実は Tataは直接関係はなかった。
後輩の相楽が入社して 初めて飛び込み(売り込み)でアポ取りをした お客さんなので、付き添いということでの同行なのだ。
そういう意味では、後輩の指導を課長に任されている Tataの仕事ではある。
時計の針が 3時30分を示した頃、お客さんが応接室に入ってきた。
『いやぁ〜、申し訳ありません。午後の会議が 1時間ほど延びてしまいまして・・・』 お客さんは まず詫びてきた。
『いえいえ、よくあることです。私共も今日 午前中に会議がありましたが、やはり延びましてね』 Tataは笑いなが言った。
『挨拶が前後しましたが ・・・ 』 すかさず 相楽は名刺交換に入った。
ちゃんと Tataを紹介し、名刺交換もスムーズに行なわれた。『やるじゃあないか ・・・ ニヤリ』 Tataは相楽を見直した。
椅子に腰掛け、お客さんが煙草に火を着けると、相楽は緊張しながらも、早速 売り込みを始める。
Tataも、シャツの胸ポケットに手をやった。『・・・煙草・・・落したんだな、そうだ、ウン、落したんだ・・・』 煙草はなかった。
Tataは冷えたお茶をすすりながら、相楽の説明の要所要所で補足した。
応接室の時計の針が、4時50分を知らせる頃、打合せも終りを迎えようとしていた。
『それじゃあ、サンプルと見積を今週中にいただけますか?』 好感触のお客さんだ。
『はいッ!明後日には、お持ちできると思います。』 元気よく、相楽は答えた。Tataは静かに微笑んでいた。
挨拶をすると、2人はお客さんの建物を出た。
【5〜密室の空間 4】
相楽は、6時から会社で打合せがあったので、慌てて営業車に乗り込んだ。
Tataは煙草を買いたかったが、相楽の急いでいる姿を見ると、我慢して助手席に乗り込んだ。
『ひゃあ〜、6時の打合せに間に合わねぇ〜ッ!』 そう叫びながら、相楽は営業車を出した。
今の時刻は 5時。会社までは 1時間30分なので、早くても到着は 6時30分。渋滞に巻き込まれたら最悪だ。
相楽は赤信号での停車中の合間に、携帯電話から打合せ相手に 1時間ほど遅れることを連絡した。
明日 出張予定の相楽は、今日しか打合せをする時間がなかったので、時間が遅くなろうとも会社に戻る必要があったのだ。
『ふぅ〜、タタ先輩 同行ありがとうございました』 落着いた頃、相楽は Tataに礼を言った。
『いいお客さんで良かったな』 Tataは微笑みながら言った。
そしてニコニコしながら、シャツの胸ポケットに手をやった。『煙草落したんだっけ・・・』 煙草はなかった。
営業車は渋滞に巻き込まれることなく、順調に進んだ。
『この調子なら・・・6時20分には会社に着けるかな』 相楽は時計を見ながらそう思った。
『だけど・・・打合せ時間を、1時間遅らせたんで時間があまるな・・・』 相楽はメガネのフレームをキラリと光らせながら、
『タタ先輩、今日は直帰でしょ? 結構早く着けそうなんで家の近くまで行きますよ』 と Tataに言った。
『そうだな・・・じゃあ、悪いがそうさせてもらおうかな・・・(ラッキーッ、この時間なら煙草が買えるッ!)』 Tataは思った。
時刻が 6時30分を回った頃、営業車は Tataの住むマンションの前に到着した。
『タタ先輩・・・いやッ、勝又さん、本当に今日はありがとうございました』 嬉しそうに 相楽は礼を言う。
『あのお客さん、契約してくれるといいな』 Tataは優しく、相楽に言った。
『じゃあ、俺は先に失礼させてもらうぜ・・・運転、気をつけてな』 Tataは相楽に そう言うと、営業車を降りた。
『それじゃあ、おつかれさまでした』 相楽は挨拶をすると、会社に向かっていった。
Tataは、マンションに向かって歩き出した。

TO BE CONTINUED...

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