この文章はニック・ブルーク氏のオリジナルで、原文はこちらにあります。zebrafaceその他の翻訳による不都合、不具合は全て当方にありますし、個人使用を除いた剽窃、盗用などは許されていません。
カルマニアのカルト

土着文化
すべてのサトラップ領をばらばらの個体として扱うのは過度な単純化であり、あたかもそれらの間に交流関係が全くないかのようである。実際には、それぞれの境界の枠組みを超えた領土の影響を現代カルマニアは受けている。(「先陣」サイランティール自身が「青の城」のカーマインと結婚することで先例となったように、)カルマニア貴族階級は帝国の全時代を通して土着の民と通婚した。今日では、カルマニア正統教会と並立する、「西域」の土着宗教から派生した宗教的側面にもカルマニア「高家」は信仰を捧げている。
ペーランダ文化はカルマニア低地地方において主流となっている;スポルとウォリオンの文化は深い影響をカルマニア貴族階級(この面においては、ダラ・ハッパ人も同じである)に及ぼしていた。高地地方と「伝統的」カルマニア文化の真価はジョールにおいて発揮され、河川流域と海岸地域はバインドル的であった。一方さまよう民であるハラングヴァット族はカルマニア地域の内部及び周辺で見掛ける者達である。
この事はつまり、カルマニア文化の影響は四つの現代サトラップ領に導き出されだ境界線に沿って吟味することが出来るということである。(Nick Brooke:サトラップの称号はジェナーテラブックでは「伯爵」と翻訳されている)。記憶している限りの知識では、

・ 全ての文化的な境界はこれらのサトラップ領の限界を超えて延び広がっている。
・ したがって土着文化の領域は相応しい形で重なり合っている。
・ 多くのカルマニア高家がこれらの文化における特質を誇示している。

もちろん、以下に述べる「信仰」と「ステレオタイプ」は極端に単純でかたよったレッテル貼りで、大抵はカルマニア人の価値観に従っている。以下の文章で名を挙げられているカルトは似た例を示しているに過ぎない:他のグローランサ地域のどこにもこれら地方カルトと全く同一のものは「ありえない」
文化 居住地 信仰 ステレオタイプ:類型
ペーランダ人 農奴 豊穣 芸術的だが軟弱
ダラ・ハッパ人 貴族 太陽、獅子 旧時代貴族階級
スポル人 暗黒 冷酷な魔女達
ジョール 山岳 厳格、禁欲的
ウォリオン 雄牛 粗野な蛮族
バインドル 西 器用、人を欺く
ハラングワット 異邦人 民族神話 泥棒の漂泊者

カルマニアのほぼ全ての地域がペーランダ文化の影響を受けている:文化の開けた「女の国」(不当な類型化である。ペーランダは偉大な将軍達や政治家達の故郷でもあるのだ。)はスポル人の抑圧から、数世紀の間カルマニア人の統治に従うことによってのみ救われたからである。「カルマニア人」の芸術、彫刻、詩歌(宗教的韻文に他ならないが、アナバシスAnabasisやアルコス戦記Alkothiadなどの民族的叙事詩も含んでいる。)は全てペーランダ人によって創られた。
「女性的な」ペーランダの文化の影響は、特に神秘主義カルトにあり、ルナー帝国の教条に深く浸透している。ペーランダ文化が真鍮山脈(訳注・カイトール等、現代西方領の総督府)でなく、オローニン峡谷を中心としているということを銘記されたい。重要な影響を現代オローニン地方の、カラサルとドブリアン君主領に与えている。カルマニア農奴階級の大部分がペーランダ人の末裔である。(原注1)
唯一にしてもっとも重要なペーランダのカルトは(同人誌White Wolfによれば)その地方名であるテュロスという名の元に礼拝されているロウドリルのものであり、その妻の(より多産で、飼い慣らされていない形のアーナールダもしくはアイリーサ)「大いなる母」オリアである。双方が無数の各地方に応じて変化した姿を有している。数多くの都市の神々が見い出せるし、重装歩兵(ホプライト)戦法を編み出した(Tales誌#12の花崗岩方陣連隊を幾分修正した形の)この地方固有である戦神ダクスダリウスがいる。女神ユーレーリアはオローニン流域で広く知られており、愛されている。ジェルノティウス山の「六柱の高神」に対する信仰は専門的な司祭階級に統轄されている。以前は曖昧模糊としたカルトであった、ゲーラGerra(苦痛)とナーサNatha(報復と均衡)信仰は「赤の女神」の先触れとして彼らが認識されて以来、それらが信者に極端な戒律を課すことから、少数派のカルトに止まっているにしても、重要性を帯びて台頭してきた。
グレッグ・スタフォードは最近ペーランダ神話の多くを「エンテコスの物語Entekosiad」として出版しているが、この本に目を通すのなら、(Glorious ReAscent of Yelmイェルムの輝かしい再昇天に起こったのと同じように、)多くの昔の神話が最近のバージョンに将来置き換えられるか、現代の信者に軽くあしらわれていたりすることを記憶に留めておくべきだ。
ダラ・ハッパ人はここに叙述されるのは相応しくないように見えるかもしれないが、実際は大きな影響をカルマニア貴族階級の慣習に与えている。カルマニア帝国の全盛期、十世紀と十一世紀の「獅子王Lion Shahs」朝期のもとでダラ・ハッパの影響はシャー達と後代のパディシャーPadishah達の宮廷で大いなる重要性を持っていた。極端に宗教的史観の傾向を持ったある種の歴史家達は、雄牛により獅子が放逐されたのをオーランスのイェルム殺害を政治的に再演する出来事だと見たのである。)カルマニア宗教における−儀礼的清浄と「光明」の優越、「真実」の統合−という鍵となる多くの関心事項が、マルキオン教徒の祖先と同じくらい、ダラ・ハッパのいとこたちから得ているという事実があるのだ。いくつかのカルマニア貴族の家がイェルムを信仰しているが、彼らはしばしば自分達の「太陽神」にライオンの属性を付与しており、これはダラ・ハッパ人の信仰には馴染まない。
スポルSpolite文化は「第二期」初頭のスポル帝国に由来している。その全盛期にはダラ・ハッパのライバルとして、ペーランダの地盤から支配力を強めていったが、ナイサロールの「異端(つまり、道徳を超越して恣意的にデザインされた宗教)信仰」から大きな影響を受けていた。この信仰はダラ・ハッパの太陽帝国をより首尾良く打ち負かすために「暗黒」に目をむけていた。
歴史上、スポル人はペーランダの大部分を転向させるか征服したが、偶発的な「先陣」サイランティールと「千人」の兵士達の到来に打倒された。この時代は「スポルによる抑圧」もしくは「薄闇の帝国」として一般に知られる。しかし公平に見て、彼らを支配したカルマニア征服者達は、ペーランダにおける自分達の以前の同盟者をうまくおさえるためにスポル人の「抑圧的」やり方の多くを実利的に取り入れたのである。
スポル人との通婚で血を得たカルマニアの二人のシャーが「暗黒面」へと転向し、いまだにその非人間的冷酷さから記憶されている。
今日では、スポル人は魔女の術、黒魔術、死人返しNecromancy、そして冷たい計算された冷徹性から悪名高い。大部分のスポルの男性は今日では典型的なカルマニアの神性を信仰している。主要な女性の女神は「夜の女神」ネッタであり、このカルトは(トロウルの神々に載っている)ゼンサやジオーラ・ウンバーのものに類似している。多くのスポル人女性が身を覆う黒い衣装にすっぽり身を包み、目だけが隠されずにいる。(悪名高いヨラネラ女伯爵は着ていないが、彼女は自分の娘達にそのような衣装を強制する。)(原注2)
荒涼たるジョールの高地、真鍮山脈の東域はペーランダ人達によって「先陣」サイランティール(彼はこの土地を彼の故郷、ロスカルムのジョリJorri地方にちなんで名づけた)に認められた最初の居住地であった。常にペーランダ文化圏の一部として、ジョールの価値判断は今や類型的に「カルマニア人」のものになっている。その支配者の傾向として、ペーランダ平原に住み着くために降りていくよりも、先祖伝来の城郭の中で隔離された、禁欲主義の生活を好む。彼らが選んだやり方は自分達をがんじょうで硬質なものに保ち、低地の柔弱な民を圧倒することが出来るようにしていると言うのだ。地方的な、男性的なバージョンのマーラン・ゴアカルト(「グローランサの神々」もしくはTales#6に掲載)に人気がある。しかしこのカルトは過酷な土地で生活することによって生じる個人的、文化的な美徳以上に、大地を揺るがし、爆破するタイプの魔術を重視することはない。
南方においては、ウォリオン地方は高地で、「岩の森山脈」蛮族ベルト地帯の一部である。この地は最後の、雄牛信仰を行うシャーの王朝の故地であり、その支配はルナー帝国の誕生によって消え去った。彼らの宗教はバイソスとエセス、「雄牛の父」と「雌牛の母」に由来する。(その神話は「エンテコスの物語」に見ることが出来る。そのカルトは簡単に言って、ストーム・ブル/オーランスとアイリーサ/アーナールダのものに、強く農耕と豊穣に重点を置いたカルトが基礎となっていると見ることができる。「ゆりかご川」やTales#14を見ること)
「淡水海」に面したバインドル地方は、古代にヤー=ガン(Tales#13)信者の中心地であった。この歴史が現代のバインドルに目に明らかになることは稀である。しかし人肉嗜食する水棲の民族が「雄牛の神」バイソスに放逐されて水中におり、いまだに生存している。(そしていまだに夜に現われ、あえて湖岸に必要以上に近づいた子供たちを攫って行く可能性もある。)一方、ある種の住民は「インスマス顔」としか表現しようがない姿をしている。秘密主義的なカルトのならわしは、ひょっとするとそれについて話さない方が良いような、半水棲「存在」に対する信仰を内包している。
しかし、概して見て、彼らのカルトは微妙なものである:その象徴主義と世界観は鏡、映った像と幻影、全体的に言って(伝統的なカルマニア人の観点からすれば)気持ちが悪くなるようなレベルへの変身と移り変わりの過程についてを含んでいる。彼らはカルマニアのほとんどの歴史を通じて、ずる賢く、当てにならず、理解しがたい民と描かれており、「隠された深淵」を持つことが認められている。(「グローランサの神々」の)トリオリーナ・カルトや、もしくは漁夫、操船、川と交易の神々(「ゆりかご川」のゾーラ・フェルやイサリーズ)について読もう。
ハラングワットHarangvatの民はカルマニア人の全ての日常を通じてその構成体の外側を放浪している。気ままな放浪者であり、盗人の蛮族であり、物乞いの鋳掛け屋や行商人や語り部、森守りや渡し守である。彼らはカルマニアの北や西や南を流離う、自分達固有の文化を持つ土着の民族である。彼らは農奴ではなく、ほとんどカルマニア貴族社会の慣行に影響を与えなかったし、歴史を通して、大方変わらずにきたように見える。(Paul ReillyとFinula McCaulはハラングワット社会、文化、宗教について私の今までよりもはるかに良く知っている。)
さらに言うなら、カルマニア人達自体に目をはやく向けてみよう。あなた達の多くが知っている通り、「一般的な」カルマニア人というのはほとんどいない。「先陣」サイランティール指揮下の「千人」の侵略者達はその固有の明確な司祭階級を伴った戦士貴族階級を作り上げた。そして多くのカルマニア流のやり口がそのマルキオン教徒の祖先まで源流をたどることが出来る。(原註3)
階級カーストの宗教的役割は限定的なもののように見える。しかしそれは実際場合による。カーストはむしろ「平均的カルマニア人」(あたかもそのような個人が存在するかのように!)の類型的なカーストの役割と関心という、カルマニア人のキャリアにおけるひろい目安を提示するものにすぎない。カルマニア人の大多数が一つもしくはそれ以上のほかの「カルト」(それらは神秘主義的なカルトかもしれないし、英雄カルト、対立し合う二元論的カルトかも、祖霊崇拝カルト、取り込まれた異国のカルトかもしれないし、限定された地方的精霊カルトかもしれない)を自分のカーストの定めるところのカルトと同じように、信じて従っている。
より旧来のカルトにおける素地がいまだにカルマニア「高家」の間に見出されることをも記憶に留めておくこと。唯一の例外が「創始者」にして最初のシャー、「法の制定者」にして「正義への案内者」、カルマノスのカルトである。このカルトは「四本の光の矢の戦い」で崩壊し、ルナーの政策における計画的な作戦活動の上で、「血王の戦役」に滅亡した。
カースト 現代カルト 旧来のカルト 役割
カルマノス階級 赤の皇帝、エティーリーズ イェルム(獅子)、バイソス(雄牛)、
ポラーリス、イサリーズ、
ロカーノウス、アーガン・アーガー
君主
ヴィジール階級 イリピー・オントール、
赤の女神、
魔道
ランカー・マイ、アトヤー、
イーカズ、スビーリー、
ヴァリンド、ダーゼイター
魔道師
ハザール階級 ヤーナファル・ターニルズ フマクト、
ゾラーク・ゾラーン、
マーラン・ゴア
騎士
全カースト 七母神、他のルナーカルト 祖霊崇拝、英雄カルト、
精霊カルト、地方カルト、
神秘主義カルト、その他

この大要はもちろん決定的なものでなければ、全ての例外を許すわけでもない。しかし、カルマニア人は意図的に神知者のものから身を遠ざけたことを思い出して欲しい。カルマニアの「カルト」はグローランサ全てに知られている同じ力の源を利用している。しかし彼らは自分達独自の定められた文化的見方に応じて行動する。秘密主義で筋の通った偏執狂的傾向を持ち、近親交配を行い、また分断された貴族階級の宗教的慣行を規定するのは困難であろう。彼らは、神学的熱情を、異界の力に対する実利的でものをいじくり回す「妖術的sorcerous」なアプローチの様式と結合させている。そして数世紀の間、支配的な教条ドグマの変化に応じて、柔軟な適応を見せることで生き残ってきたのである。
カルマニアのマギ達はヴィジール階級の頂点に立つ孤立した補助的集団sub-groupである。彼ら、すなわち彼らのみがイドヴァヌス、「賢き君主」にして「善と光明の源」に対し、唯一なる神への信仰として身を捧げることを許されている。その啓示から彼らは彼の許可の元に、カルマニアの他の宗教を定めるのである。マギ達が善に近づいたり、遠ざかったりするのに応じて、イドヴァヌスは加護を与えたり、行動を抑えたりする。神々は完璧ではなく、世界が変化するに応じて変わる(また変えられる。)全てを見通すイドヴァヌスのみが永遠に純粋で、「欺く者」、「虚言の父」、「汚染」と「腐敗」、邪悪なるガネサタルスの策略に対して警戒を怠らない。ガネサタルスは永遠に「真実の宗教」を堕落させようと試みつづけるのである。(原註4)
原註1:「現代」カルマニアは決して古代の王国や帝国と完全に重なり合うことを意味しない。これらは常にオローニン流域を中心としていた。ルナー帝国の西に位置する君主領Sultanate全域、また、さらに遠く範囲を超えて、あなたはカルマニア帝国の生き残りを見出せる。その現在の「残党」、「西域」領土は第二期にカルマニアの領域にかろうじて含まれていた部分の土地に過ぎない。バインドルやウォリオンのように、しばしばシャー達の臣下というよりも独立した同盟者だったのである。この意味では、ルナーのオローニン・スルタネートはカルマニア人が支配的であると言える。
原註2:このカルトはスポルの魔女の技Witcheryにおける好ましい側面である。彼らは情勢が悪い時の、これよりはるかに忌まわしい女神達に対する信仰を持っている。(「神々の壁Gods Wall」の最下層もしくはインスピレーションに応じて「トロウルの神々」における「暗黒」カルトに目を通しなさい。)以下の原註4も見てください。
原註3:実際のところ、ある学者達の研究結果では、「神知者」による「見えざる神のカルト」の有害な影響を受けていないので、カルマニア正統教会ははるかに今日西方で見られるいかなる神知者の遺産、つまり「主流」教派よりも上代の「第一期」マルキオン教に近しいものを持っているということである。
原註4:ガネサタルスはスポル帝国の主神であったが、ルナー時代のいつでも、彼を信仰していると公言することは全くとてつもない異端であろう。すなわち(訳注・現実世界の)サタン信仰に匹敵する。彼らが大っぴらにガネサタルスを礼拝することは、カルマニア社会のわくの中に留まる限り「不可能」である。
言葉を変えれば、明らかに何人かのスポル人貴族は潜在的なガネサタルスの信者である。(中世におけるキリスト教徒のキャンペーンでと)同じように、あなたが会う貴族の何人かはサタン信者かもしれない。しかしこれは公然たる知識ではなく、最悪の黒い噂である。どんなスポル人に耳が利く範囲内でも、また仄めかすことの出来る種類の発言ではない。「ああ、それでは君はスポルから来たの!君の先祖は「蝿の闇の領主」、「忌まわしい者の主君」を崇拝していなかったのかい」
ザクッ!バシャッ!*

*関心の平明さから、我々の質問者は実際、いかなる階級の高貴なカルマニア人を侮辱したときに出来るよりも長く、発言を続けることが出来た。彼らは極めて健全な自分達の尊厳に関するセンスを持っていて、それが傷つけられた時には速やかにかつ無慈悲に反応する。
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