吸血鬼ミトラス
(World Of Darkness 2nd Editionより)
彼は王に仕える軍の兵士であり、叛乱を鎮圧するために山々の元に送られた。叛徒は魔術に支援されており、首魁たちの首級を持って帰還の用意をするまで長い年月と多くの人命を要した― 逃げ出した一人の首を除いて全ての首が集められた。遠征軍が帰還することになる前の夜、彼は訪問を受けた。大声をあげようとしたが、動くことも喋ることもできなかった。彼ができたのはその異邦人が話しかけるのを聞くことだけだった。
彼にはすぐに分かったが、その異邦人は逃げ出した叛乱軍の頭目だった。しかし復讐を望んだりするつもりは全くなく、彼はミトラスに感嘆したし、彼に提供したいものがあった。彼が言うには、戦闘で死んだ者は劣っている―より大いなる目的のためには捨てられるべきものであるというのだ。しかし彼にはミトラスに永世の贈り物を与えることができるし、彼が夢にも見たことのない軍団で栄誉の地位を与えることができるのだ。それとも、彼には今ミトラスが横たわっている場所で殺すこともできるということも。
ミトラスは数年の間その丘陵地帯で過ごし、力を集め、彼の新たな生命について学んだ。そしてある仲間とともに彼は自分が仕えていた王のいる都市に向った。その都の住民に自分たちが喜びを与える神々であると理解させるのは簡単で、すぐに古い神殿は崩されて新たに来た者たちの前に、望む全てのものが積
み上げられた。
数世紀がめぐり、王国たちが興亡していった。勢力の均衡は西方へと移動し、二つの大いなる川の間にはさまれて勃興してくる一つの都市へと結実して行くところを目の当たりにした。彼らの知恵に導かれて、その都は大いなる帝国の首都となったが、数世紀がたつと、他の帝国が西方の蛮族達の中からもう一つ生まれ、その兵士たちが合戦を持ちこんだ。
ミトラスはこの蛮人たちに感心した。その指導者たちは有能で、その兵士たちは自分の役目を疑問を持つことなく、まるで蟻たちが自分たちの巣の繁栄に努力するように全力を尽くした。彼らの軍隊はほとんどが生き物であった。彼らの装備もまた興味深く―各部が大いなる細心さと哲学をもって設計されていて、軍隊が統合された恐ろしく効率的な総体とするのを助けた。その蛮族たちが世界を征服するのを阻止で
きるものはなかった。
ミトラスはひそかに自分の仲間を置き去りにして、その蛮族の軍隊に加わった。彼自身兵士として、彼は兵士たちが自分の神々に望んでいるものが何であるのか知っていたし、すぐにローマの支配圏(インペリウム・ロマーヌム)中の全ての従軍キャンプに彼の肖像が置かれるようになった。彼が支配した兵士たちが帝国を支配していたし、このように定命の者の間に力を有していることで彼自身の他の仲間たちから大いなる敬意を、得ることができるということを―ミトラスは知っていた。
彼は帝国中を旅したし、行くところ自分の望むままに物事を変えた。白昼の光が彼に害を与えるがゆえに、彼は昼休んで夜起きたものだった。彼の信者たちはこのことについて説明するまで疑問に思うのだった。彼は昼間には天界で太陽の道案内をしているのだと言った。この皮肉は彼を喜ばせたし、定命の者たちは彼の言葉を何でも信じた。
ついには彼は世界の果てにある小さく薄暗い、揉め事の多い島に来た。ここに派遣されてきた兵士たちはこの島を征服するために来たのだが、その戦闘は過酷なものだった。ミトラスは彼らを鼓舞し助言を与え、彼の好みに非常に合った場所を見つけた。そこには小さな太陽しかなかったし、戦闘があるところから遠く離れた場所にあって、何よりも彼は帝国の支配権を掌握し始めた宿敵達から離れたところにいた。いくつもの岩で建てられた辺境の砦のあるところで、彼は自分が利用する神殿をいくつか建てさせた―半ば地中にあり、そこには陽光が届かなかった。彼の信者はあやまちの死と再誕の儀式をもよおして彼に仕え、このことは彼を喜ばせた。彼はこれらの辺境にいる軍隊に自分の勢力を構築するつもりだったし、時間をそのことに費やした。これらの儀式はまた彼が自らの性質にそぐう環境に留まることを許した。ひとりの神は、その信者と同じことを信じるべきではないのだった。
帝国が崩壊したが、ミトラスは北部辺境地帯の安全なところにとどまった。兵士達は呼び戻されたし、彼は彼らを引き止めようとはしなかった。時はいまだに満ちておらず、世界にはあまりにも大きな混乱があった。ミトラスは土と岩の中に潜って休息した。
軍隊の衝突が彼の夢を妨げた。そして彼は再び目覚めた。海を越えて蛮族たちがこの東部へと船に乗ってきた。彼らは殺し、焼いて自らの農場を作った。ある一人の強い男がこの島の大部分に自らの支配権を押しつけることができるようになるまでには、弱い王達が現れては消えていった。彼の子孫の一人はさらに遠くまで征服に向かい、古い国境を越えて北部へと軍が行軍をはじめた。
覚醒するや、ミトラスはこの島最大の都市で使っていたある神殿へと進路を取った。あった都市はひどく異なるものだった。しかし彼は十分簡単に水の流れによりその神殿を見つけ出すことができた。彼は時代のことを学び、彼が知っていた諸帝国が永久に消滅したことを発見した。蛮族の兵士たちは新たな諸王国を鍛え上げていて、古の栄光を取り戻そうと努力していた。
その都市には彼のたぐいの者が他にもいた。彼が自分の神殿を再開しようとした時、彼らは自分のしもべたちを動かして焼き討ちさせた。今や一つの種類の神殿と一人の神のみが存在していたのだ。
ミトラスはこの国を巡歴し、これら他の者が自分を破壊するかも知れないという恐れから、一つの場所には長い間とどまらなかった。彼は定命の人間の貴族たちが玉座を求めて争い合うのを助長することで彼らの追跡をまくことに努めた。ひとりひとり、彼は自分の敵を孤立させて滅ぼしていった。
彼がかの都市に戻っていった時が、人間の彼のしもべを玉座につける運びになった。彼に逆らうだけの力や気質を保てる者は誰もいなかったし、外国から来た訪問者たちは彼のことをプリンスと呼んだ。しばらくの間、彼は平和に統治し、この島国は着実に力をつけていった。この国は外国の僧侶たちの支配を取り除き、自分自身の君主としておさまった。
彼が見出したのは同族の他の者だったが、その者たちは神々になろうとする野望を持っていた。彼らは兵士ではなく学者で、愚にもつかない蕃神たち(mumbo-jumbo)で満ちた本に頼っていた。彼らは無慈悲だったが、それはそのやり口で凶暴なツィミースィ族と柔和なサルブリ族双方を等しく打ち負かし、自分たちの道を切り開いてきたからであった。彼らはまたよく組織されてもいて、情報を交換し合い、世界にまたがって同盟を結成していた。これらのなり上がりが自称する呼び名でいうところのトレメール族は、あらゆるものを支配したいという意思を持っているようであった。彼らを弾圧し、彼らと彼らのしもべを火で破壊するのは、他の者がミトラスにしようとしたのと同様に必要であったが、魔女狩りたちには彼ら全員を根絶することはできなかった。
戦争は長引いて、時には定命の人間やまったく血族にはえたいの知れない存在を巻き込んだ。炎と火薬、反乱と陰謀があり、のろのろと戦の情勢は変わっていった。科学と交通の発達はトレメール族が迷信深い者たちの間に確立していた支援態勢の力を削いだ。強力な副官の一団と抜け目のない政治操作によって、ミトラスはヴィクトリア朝の栄華の間、ロンドンを統治した。
第二次世界大戦の爆撃は多くの棲家を破壊し、多くのロンドン血族を「真の死」へと向かわせた。ミトラスはそれ以来目撃されず、噂されたこともない。そして血族のいくたりかは彼は破壊されてしまったと信じている。他の者はトレメールの擁護者をあぶりだすためにとった策略だと主張している。
実際のところは、ミトラスは1941年のドイツ軍の落とした焼夷弾によりねぐらを破壊されて休眠状態に入ることを強いられた。忠実な僕たちが彼を予備の棲家へと動かした。オックスフォード通りとトッテンハム裁判所通りの交叉点ちかく、今ではセンターポイント事務所の地盤の一部となっている忘れられた地下室にその棲家はあった。この建物はいろいろな微妙な手段で空のままにされていて、ミトラスが力を回復していく間に彼の信頼された駒たちが情報を中継し、命令が受け渡しされていた。ミトラスは1991年に再び目覚めたが、ブリテイン島の最近の状況を調べている間、世界の目には自分を滅ぼされたと信じさせておくことに決めた。
しかし、他の集団がミトラスの覚醒を知った。このメトセラが起き出したことはブリテイン島の人狼達の共同体に警戒を喚起させることにつながった。「蛇Wyrmの」眷属が目覚めたことを危惧して、フィアンナ族と「骨しゃぶりBone-Gnawer」族の一時的につくられた群れがミトラスのねぐらへと集まった。的確なワーム感知能力に導かれて、狼憑きたちはミトラスの交渉の要求を無視して、オックスフォード通りの夜に戦闘の音が吹き荒れた。 しまいには、ミトラスは一人で立ちつくしていた。彼の従者たちとまるまる一つの狼憑き達が死んで横たわり、足元が血の海になっていた。このメトセラ自身ひどい重傷を負っていて、戦いの終わりには休眠状態に入りかけていた。そしてアサマイト叛逆氏族のモンティ・コーブンが彼を見つけた。この古の吸血鬼が誰なのかも知らずに、それでも近くで触って感じ取れるほどの波動で力が放射されるのを感じとって、コーブンはミトラスに飛びかかり、メトセラの首に牙を埋め、彼の生命、力、そして魂を奪った。
モンティ・コーブンの現在の状況については定かではない。
彼のことは近年発売されたヴィクトリア朝のVictorian Age Vampire とその時代のロンドンを扱うLondon
by Nightに詳しい。(2002年冬)
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