吸血鬼ケミンティーリ:セトの呪いの目、カマリリャの恥辱


「ケミンティーリはカマリリャに悪意を持つ、個人の敵対する意思としては最悪の存在である。すでにカマリリャを指導する立場としては取返しのつかない損害をこの「セトのしもべ」は物質と精神双方の面で我々ヴェントルーに与えた。いかなる犠牲を払っても我々はこのメトセラの真の死を確認せねばならない。さもなければ我々の究極的な威信は画餅と化し、サバトを始めとする敵対勢力の嘲笑の的となるであろう。」・・・・・アラストールの長。ヴェントルー氏族の護法官リュサンドの講話。彼女がサメディの幼児、ジェニーナを自ら滅ぼした直後に行われた。ケミンティーリは今なおカマリリャ「緋色の名簿」の筆頭である。



トレメールやノスフェラトゥならもっとうまくやっただろうね・・・・ある皮肉屋の感想。


 イシスは死んだが、彼女の教団は連綿と不老不死の存在を創造する「生命の呪文Spell of Life」を伝承してきた。それは人間の魂に冥界から戻ってくる導きを与え、至福に満ちた地であるといわれるエジプトの真の死後の世界に入ることの出来ない者に、かわりにオシリスとホルスの聖戦に加わって魂を浄化する機会を与えるものであった。彼らはマミーと呼ばれ、中でもホルスによって創られ、ホルスのために忠実に戦う者はシェムス・へ―ル族Shemsu Heruと呼ばれた。彼らはその候補を「言葉の正しい者」から選び、外見が美しいだけの者は除外された。

 血族の血は呪いであり、彼らの内に抱擁で生まれたもの…「獣」が、生前の愛したもの、美しいものを徐々に萎えしぼむ残骸へと変えてしまう…これがエジプト人の考えるアペプ(しばしば変身種族達の考えるワームと同視される)、「太陽の敵たる蛇」が血族達に植え込んだ呪いである。彼らの中であくまでも人間性にこだわる者は獣に悩まされないマミーとしての不老不死をこいねがい、またセト自身も、生命の呪文がどれほど有用な僕を作り出せるか知った時点でそれを絶え間なく追求した。

 オシリスは謎の人物テュフォンTyphonによって抱擁され、彼は他の血族と同じく呪いを共有するがより力の劣る「継嗣」たちを「抱擁」で創造した…彼らが「オシリスの子供達Children of Osiris」と呼ばれる血脈で、彼らは自分達の境遇を呪い、オシリスが彼らを見捨てて冥界に去ってしまったことを怨んだ。彼らは「獣」を克服する道を独自に探し出さなければならなかったのだ。彼らの多くはセトとホルスの戦いを忌避してインドに去り、オシリスの最後の子であるケタモンKhetamonはバルドウBardoの訓えを開発した。それはある程度獣を制御し、喪われた人間性を回復する術であった。

 ケミンティーリはエジプト新王国、第十九王朝のセティ一世の元に生まれた。おりしもセティは長い間遺棄されていたセトの神殿を自らの名に因んだ神を尊ぶ意味で再建し、自らの後継ぎであるラムセスの良き治世を祈った。彼女は臨機応変の才能と処世術に長け、類まれな美貌を武器に、急速にセト神殿を管理する神官団の最高位へと上り詰めた。ある夜、彼女は赤毛の美丈夫と出会い、魅せられて神自身に忠誠を誓った。セトは彼女を用いてイシスの奥義を盗み取ることを企んだ。

 彼女はセト神殿同様の手管を用いて愚かな神官達を欺き、イシス教団の枢要にまで入り込んだ。そしてついに「生命の呪文」を学び取ったが、ここでホルス自身と出会い、その美しさとその純粋さはセトに優るものであったため、彼に感動した彼女はセトの謀略を明かし、死罰を乞い願った。しかしホルスは寛大にも彼女の罪を許したのであった。しかし謀略がうまくいかなかったと見るや、セトの僕達が彼女を引きさらい、セトの面前まで彼女を連行した。 

 セトは彼女の裏切りに赫怒し、今やホルスの僕としてマミーとなることを望んでいるケミンティーリを、罰として暴力的に「抱擁」した。(一説によるとケミンティーリはセトの最後の「子」であるらしい。)セトはケミンティーリを骨の髄まで責め立て、彼女がイシス神殿で学んだ「生命の呪文」を奪い取ろうとした。しかし彼女はみずからの生命を保つ最後の術である「呪文」をどうしても教えることを拒んだ。《支配》も血の呪縛も、彼女のイシス教団での研鑽により効果を発揮しなかったのである。彼女は持てる力をすべて振り絞って牢獄を破り、正気を喪ったまま世界へとさまよい出た。

 セトはあくまでも「生命の呪文」を記憶の底に沈めるケミンティーリを追ったが、美女の姿をした獣の噂が聞こえてくるばかりで追っ手は全て皆殺しにされた。数世紀の狂気の彷徨の後、ケタモンがインドで彼女を捕獲し《訓え》を施したため、彼女は人間性を徐々に取り戻していった。「オシリスの子供」達は彼女の境遇に同情したが、彼女は正気を取り戻してもセトへの憎悪と真の不老不死への渇望に駆り立てられていた。そして呪文は長年の狂気の内に記憶から喪われていたのである。

 彼女はケタモンを欺いて自らが完全に激情から解放されたように見せかけ、彼はエジプトの多くの者がかつてそうなったように彼女の演技に騙された。ケミンティーリは「オシリスの子」らの何人かを殺害してエジプトへと帰還した。(そして今やオシリスの子らにも付け狙われる身となった。)しかしすでにその時イシス教団はセトによって滅ぼされており、生命の呪文はそこからも失われていた。

 今や彼女はオシリスの子らの信条を歪め、全ての血族は「獣」から救済されるべきであるという説を、彼らを皆殺しにすることで実現しようとしている。彼女は全ての生命あるものを自分の喪ったもののゆえに憎んでおり、どんなサバトの悪鬼よりも危険である。彼女はしばしば忘我状態に陥り、その時には彼女は最悪の凶器になる。彼女をセト教団、カマリリャ、オシリスの子ら全てが別の理由から追っている。

 ケミンティーリはエジプトの遺跡をがむしゃらに発掘して呪文を取り戻そうとしたが、資金が足りないと見るや、1932年、ヴェントルーの護法官ミカエリスMichaelisを殺して《隠惑》の訓えで成り代わり、彼の恋人であった執行官リュサンドLucindeを血で呪縛し、彼女を奴隷として使い、エジプト発掘のためにヴェントルーの資産を蕩尽した。それはトレメールの者達が彼女の行動を不審に思い、《魔術》で調査するまで続いた。(今やリュサンドはかつてのミカエリスに捧げた献身を全て「緋色のリスト」の撲滅に、護法官兼緋色のアラストールとしてすりかえている。)


第四世代セト信徒 本性:生き残るためにはなんでもする 振る舞い:変人

主だった能力:容貌8、先覚6、バルドウ7、隠惑8、蛇道9、威厳6、魔術6、意志力10、その他多数

特徴:淡い色の緑の目(蛇の瞳孔)、黒髪、古典的な長衣もしくは外套
弱点?:狂乱しやすい。

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