「月を憎むもの」ミチューイン、英雄の伝記

Martin Laurie筆





以下の文書はEnclosure #2より原著者の許可のもとに翻訳したものです。
英語版はWesley Quadros氏のサイト内にあります。
http://www.celtic-webs.com/glorantha/middle/tarsh/people/mitchuinn.html




1301年に生まれたミチューインはダラ・ニ連盟の「フルヤンダーの子ら」部族、ヴェルヴォーニ氏族から出た。父親の「鉄の盾の」コルロックは1314年に絶望的な川下りのクエストに加わった。ダラ・ハッパのトライポリスをルナー帝国にたいして蜂起させようとしたのである。この計画はフワーレン・ダールシッパの包囲網からの救いを求めるためのものだった。恐るべき月の魔術と対決することになり、参加したオーランス人とダラ・ハッパ人の小さなグループはやすやすと撃破され、大いなる損失をこうむって退いた。

コルロックはこの襲撃で殺された。友人をルナーの妖魔どもの手から逃がすために戦ったのである。ミチューインは父を喪ったことを嘆き、帝国に復讐を誓った。14歳のときに、ミチューインは戦場に出て、シリーラ人に手ひどい被害を与えた。この若さで、彼の猛々しさと容赦のなさは有名になった。

1318年にダラ・ニ連盟はシリーラ軍の侵攻の脅威、勝つ望みのない戦いの前に屈した。数多くの勇猛な氏族の戦士が残りの民を救うために、重い心の族長たちに氏族から追放された。ダラ・ニの都市民は沈黙によって懲罰をのがれ、もっとも重い貢物の義務は伝統的な氏族に負わせられた。ヴェルヴォーニ氏族は他の氏族によってほとんど滅んでしまい、ルナーの絨毯商人たちに土地は押さえられてしまった。生存者は南のセアード地方に逃れたが、ミチューインもその中にいた。

ミチューインはセアードに住居を構え、帝国と長いこと戦った。彼は高名な戦士となり、まもなく数多くの襲撃を指導するようになって甚大な被害を与えた。1324年には、彼の地位と富は自分の氏族を創立するのに十分なまでになった。1329年にミチューインの氏族は好戦的なキンネルフ同盟に加入した。この同盟は「悟るに早いLongwise」英雄グウィサールによって結成され、指導されていた。グウィサールはオスリル川と黒ウナギ川の合流地、セアードの古代都市、ミリンズ・クロスのあったキンネルフィング(「黒い拍車」を意味する)大城砦に居を構えていた。

「悟るに早い」グウィサールは抜け目のない軍略家で、ルナーの強みの鍵はフワーレン・ダールシッパがオスリル川を押さえていることから来ているのだということをわきまえていた。1330年には、数多くの土地を追われた川の民や、怒った精霊たちに援護されて、グウィサールはアガーを通ってシリーラを強襲した。

グウィサール軍に向かって派遣された軍は撃破された。報復をもとめるグウィサール軍がジラーロの城門まで達するのを防いだのはルナーの川の守護精霊だけだった。ミチューインと彼の氏族はその日に莫大な戦利品を得た。そしてグウィサールと家門を破れかぶれに襲おうとしたオピリ遊牧民の傭兵隊を妨げたことでグウィサールから褒美を得た。

続く三年間は、キンネルフ同盟にとってシリーラとの戦いの日々であり、勝利もあれば敗北もあった。戦いがもっとも激しいところには、ミチューインがいつも先陣をつとめていた。高名な赤の月の神官戦士であった「串刺しの」ノロモラックスを歌にうたわれる剣と魔道の戦いで倒し、「月を憎むもの」の通り名を得た。 

1333年にフワーレンとイングコットの息子のファーマックスが、川の民の王、「肝の太い」ヴァレリウスが率いる襲撃隊に討たれた。数多くの好戦的なキンネルフ同盟の戦士が、略奪と報復のためヴァレリウスと同行した。ミチューインもいて、ファーマックスを守り、襲撃隊を橋で防ごうとした、輝くよろいを着た護衛の多くを殺した。ファーマックスが「悟るに速い」グウィサールに討たれると、ミチューインは輪のはまった指を死んだ王子の手から切り取って、若者の誕生祝いの指輪を奪った。「戦の風」を呼び出したときの父親のイングコットからの贈り物だった。ミチューインは「征服の娘」にたいする侮辱としてこの指輪を身につけた。

この襲撃は多くの意味で成功だったが、「征服の娘」の注意を完全にキンネルフ同盟に引きつけることになった。シリーラの大規模な兵力増強によって、襲撃の数は減った。シリーラの軍事力は「征服の娘」の復讐を求める心により、大いなるものに強化された。ハートランドからの援助と数多くの傭兵隊の雇用でフワーレンの力は圧倒的なまでになった。

1347年、息子の死の十四年後に彼女は出陣した。フワーレンの軍は向かうところ敵はなく、「悟るに早い」グウィサールにはフワーレンが水晶化した魔力の橋をまっすぐ自分の城砦まで架けることを防げなかった。グウィサールがフワーレンに一騎討ちを挑むと、彼は倒されて、帝国に対するいかなる襲撃も防ぐ、橋の永久の番人として呪縛されてしまった。

ミチューインはこの戦いで南に追われ、多くの財産を諦めることになったが、多くの他の氏族と避難する家門が彼にしたがった。この時に、離れずに追撃してくるシリーラ軍を目の当たりにして、彼らは「死線」(訳注:グバージ戦争中にドラゴニュートに引かれたパスの北の境界)を越えることを決めた。ミチューインの一行は強力な戦団で、数多くの牛を伴っていた。

「死線」を越える前に、ミチューインは北を向いて、強力な誓言をした。彼の子供たちも彼に続いて誓った。ミチューインは「一族を戦と襲撃に導くだろう。たとえ自分が傷で身がかがまり、魔術に打ち倒され、死が自分を襲おうとも。ミチューインの氏族のあるかぎり、帝国が休むことはありえない!」

1348年にミチューイン氏族は死線を越えた。彼らが最初に遭遇したのは強力なブレアガロス氏族で、「娘の戦役」で南に逃れてきた避難民からの貢ぎ物の取立てで潤い、豊かになっていた。(訳注:ターシュの諸氏族についてはUnspoken Word: Tarsh in Flamesもしくはぴろき氏のサイトを参照のこと。)彼らの族長、ブレアガルはミチューイン氏族にもおなじことをしようとしたが、短気なフマクト信徒、「ミチューインの息子」ボルクは「貪欲な」ブレアガルを面と向かって侮辱し、剣が抜かれることになった。

ミチューイン氏族は、情の強い「戦の氏族」で(訳注:「平和の氏族」の反語。豊穣の魔術を犠牲にして戦の魔力を高めている氏族)、ひとりの強い戦士と全員が偉大な戦近侍(セイン)として知られる彼の一族に統率されていた。ブレアガロス氏族は二倍の人数がいたのにも関わらず、ミチューイン氏族が勝った。ミチューインは近衛の戦士たちの列に道を切り開いて、立派なよろいぐるみ、ブレアガロスを斬り殺した。ミチューインの血族は血筋を恐るべき戦意で示し、ひとりひとりが20人もの敵を自ら殺した。

ブレアガロス氏族は敗北し、その土地は奪われた。多くのブレアガロス氏族の者は新たなミチューイン部族に加入し、自分の財産を保ったが、彼らの族長はミチューインによって任命され、貢物の義務が彼らには課せられた。

ミチューインは戦好きだったが、愚かではなく、帝国に戦をしかけるには大きな力が必要であることを知っていた。王になることを決めて、自分の財産と勢力を増やすために、彼は支持者たちにいくつか新しい氏族をつくることを認めた。四人が彼の申し出を受けて、氏族の長になる資格を得る儀式に取りかかった。

ミチューインの息子たちとひとりの娘が、新たなミチューインの部族の輪のメンバーになったのは、多くの部族民の不評を買ったが、それはこれほど高い位につくには、「ミチューインの子ら」があまりにも無慈悲で、無責任で、若かったからである。

しかしミチューインは部族民の不平を無視し、ボルク、グンナル、ブラニックたち三人の年長で、粗暴な息子をあたらしい土地を探索し、友情を結び、敵を倒してミチューイン部族の境界を定めるべく派遣した。

旅の途中でリーダー役を務めていたボルクは、最年長できっての大ぼら吹きだったが、多くの自由民の農夫を部族につれて来た。しかし彼の野心はメルムール部族によって邪魔された。

同じく北からの難民の部族であったメルムール部族もまた、段階をたどってダラ・ニ地方からはるばる氏族とルナーとのもめ事をのがれて駆りたてられターシュの奥地までやってきた民だった。彼らは「奴隷のわざわいの」メルムールという粗暴で冷酷な男に率いられていた。この男はおいしい料理とビールに目がなかったが、人の苦しみにはほとんどかかずらわなかった。

ミチューインの死
帝国が常に霊的に強力であり、したがって戦争にも強いということが分かると、ミチューインは自分の神と英雄の道をたどることに決めた。ヴィングコットの儀式のために準備を整えたのである。ミチューインは英雄の賢い言葉について聞き、強力な魔術を呼び出して、自分の目的のためにそれを用いた。ヴィングコットは常に抑圧と悪の支配と戦った英雄であり、ヴィングコットの性格はミチューインによく馴染んだ。

ミチューインはヴィングコットの儀式について、民のだれにも話さなかったが、それは儀式がそうすることを禁じていたからである。準備がすむと、ミチューインは帝国に向かって出発した。彼は自分に従う氏族同士の連絡を利用して、守備隊をフィリチェットからミリンズ・クロスへと移動させ、そこでミチューインは「征服の娘」と対決した。

フワーレンはその地域の氏族を従えるためにやってきた。魔力とファーマックスの輪の助けを借りて、ミチューインは「娘の道」のヒーロークエストの道へと飛び上がった。(訳注:「娘の道」は二層になっていて、下の道は一般の用途に、上の道はヒーロークエストなど、特殊な目的にのみ用いられる。)そこでミチューインは雲から強力な雷を呼び出して、道を砕き、魔術を破ってより多くのミチューインの戦士たちが上の道まで飛べるようにした。そこにフワーレン・ダールシッパと彼女の家門、司祭たちと客人たち、同盟者たちが進軍してきた。

ミチューインは大青で身を塗り、強力な魔術で防護されて護衛の列を攻撃し、戦士たちを左右にはね飛ばした。祖母を守ろうとして、「ファーマックスの息子」ファリマックスはフワーレンをかばったが、ミチューインは真っ二つに彼を斬り倒した。ミチューインはオーランス神の力に満たされていた。悲しみに打たれたフワーレンがみずからミチューインに怒って向かっていったが、ミチューインは彼女以上に強い怒りをもってフワーレンを迎え、反撃した。ミチューインはフワーレン・ダールシッパを打撃で地面に打ち倒したのだった。

この日の英雄としての力はかくのごときものだった。英雄ヴィングコットの力が彼の中には満ちていて、わずかの間にルナーの女英雄の楯は引き裂かれ、兜には割れ目ができた。落命を恐れて、フワーレンは自分の父、赤の皇帝の贈り物を呼び出した。恐るべき混沌の妖魔が彼女を助けるために呼び出され、胆汁をこぼす触手を向けてミチューインのほうに突進した。ミチューインはこの一撃で致命傷を負ったが、彼は自分が倒れるのと共に妖魔をも打ち倒した。そうすることで暗黒の中で孤独に「怪物」と戦い、傷を負ったヴィングコットの道をたどることとなった。ミチューインの英雄の道のこの部分は完成した。

妖魔の死と共に、ミチューインは凄まじい大声で叫び、その声は道の下に広がる都全てに響き渡った。「見よ、シェペルカートの真の顔を!美の下には混沌がのたうち、もだえている。奴らはワクボスの眷属なのだから!」彼とともにやって来た戦士たちはミチューインがクエストを完遂させるまで後に退いていた。それから戦士たちはフワーレンを助け出そうとする護衛たちと戦いはじめた。ミチューインの遺骸のそばで戦いは展開し、オーランスの信徒たちが勝利を収めた。

混沌にたいする多くの戦いがこの日に行われた。戦陣に加わっていた者たちの中には、シリーラの「ダルジャルンの災い」ヘリングヴァットや、ジラーロの「女房殺しの」マサカールや、ヨルプの「闇歩きの」アルガンカールや、ブローリアのヴァルステーラや、ビリーニの「ブルーに噛みつく」グノッチなどがいた。強力なマスターコス神の魔術を用いて、これらの勇敢な戦士たちはミチューインをまだ生きたままで戦場から彼の部族と血族の元に連れ戻した。そこでミチューインは混沌の傷を受けて亡くなった英雄ヴィングコットの死を得た。彼はヴィングコットの儀式で火葬になり、自分の部族の英雄となり、帝国に対しての戦を導く戦霊と化した。

「月を憎むもの」ミチューインの死後に起こった出来事
ミチューインは常に帝国に対しての戦で先陣を切っていた。キンネルフ同盟やその他の部族や氏族が帝国の支配に耐えられずに南に向かい、避難民が増えれば増えるほど、ミチューインに対する援護は増していった。ターシュのアリム王は戦いに積極的に関わらないように努めたが、「ミチューインの子ら」は父の死に対する報復に渇き、ミチューインの記憶と霊に駆り立てられていた。いつもミチューインの霊は帝国に敵対しようとする彼らに助言を与え、加護を与えた。

ついには、ミチューイン族は強大な連合体になった。大規模な儀式の完遂で、それぞれが始祖ミチューインの霊を体現したミチューイン族は大いなる力をもって帝国へと進軍した。「娘の道」になだれ込み、足止めされるまでにミリンズ・クロスまでの全てを踏破した。彼らは略奪と殺戮を帝国全土の怒りが彼らに向かって降りかかるまで行った。

ルナー帝国は問題の根源に逆襲することを決定した。帝国は強力な軍と多くの魔術師を急襲とミチューインの永眠の場を冒涜するために派遣した。その場所は死線の付近の魔力のある森の中で、数多くの英雄的なルナー殺しの戦霊や戦士たちが住んでいるところだった。ミチューイン族の敗北が後には自分の敗北につながることを恐れたアリム王はミチューイン族に与し、1362年、「落ちる丘の戦い」でルナー軍を撃破した。この勝利の後、ミチューイン族はターシュ王国とアリム王に忠誠を誓った。

ターシュ王国の勢威の絶頂の時代、ミチューイン族は強大だった。彼らは常に王が召集するフュルド(民兵団)の主要な部分を占めていた。シェン・セレリスの統治時代、ミチューイン族は帝国深部まで襲撃を行い、一ダースもの氏族からの貢ぎ物で富裕になった。

ターシュ内戦が始まると、ミチューイン族は帝国に対しての戦を追求する陣営ならどれでも援助した。ルナーの支配が始まると、ミチューイン族は昔の借りを返そうとする数多くの敵の手で、決定的なまでに打撃をこうむった。彼らの残党は氏族とほとんど同然程度のまとまりを作ってターシュ流民に合流した。

現代でも彼らは自分たちの英雄の創始者を支持し、あらゆる機会をとらえて月の敵と戦っている。

ミチューインの英雄カルト
ミチューインは自分の信者にシェペルカートに対抗する強力な魔術を提供するが、その信者は何らかの方法で帝国を破壊したり損害をあたえたりする場合を除いて決して帝国と関わってはならない。いかなる時でも、彼らは帝国と戦争する機会を与えてくれる支配者なら誰でも支持する。

・ミリンズ・クロスの陥落

Enclosure #1, p24.
太陽暦1347年、「俊足の」ゲラード、「悟るに早い」グウィサール配下の「灰色の賢者」筆


フワーレン・ダールシッパはついに川岸までたどり着いた。女を留めようとした我々の全ての努力は失敗した。彼女は止められない。容赦ない意志をもって、フワーレンは道を敷き、キンネルフ連盟の心臓へと伸びる槍のように「娘の道」を進めていった。砦でもあり首府でもあるミリンズ・クロスは数十年もの間、我々の心であり、魂であった。ミリンズ・クロスからグウィサールは我々の帝国に対する戦争を指揮し、大いなる狡猾さと力でもって何度も何度も帝国を撃破した。しかしそれでも充分ではなかった。今や我々の首府は攻撃の元にあり、大いなる破滅が我々に降りかかることがわたしには判っていた。

グウィサールはわたしの懸念を笑い飛ばした。彼は我々とフワーレンの大軍のあいだを隔てる黒ウナギ川の大きな広がりを指差した。「どうやってあの女が我らの槍の並びと川の民の戦船をかいくぐってここまで渡ってくるというのだ?大いに喜んで迎え入れてやろう!」心強い言葉、しかしわたしは「征服の娘」の力についての我らの知識に限りがあることを感じていた。

わたしの考えが正しいことは確かめられた。配備の触れで驚愕し、眺めに怯えてわたしは目覚めた。フワーレンはまっすぐ川岸まで敷いた威容を誇る道の上に立っていた。フワーレンと彼女の家門の後ろには大軍が布陣し、その数の多さは目に届く道のおしまいまで続いていた。わたしはフワーレンが川から自分の力を呼び起こすにしたがい、空気のなかに脈動する魔力を感じ取ることができた。グウィサールは戦士たちを集めて戦支度をさせた。彼だけが彼女の力の誇示の凄まじさを無視できた。

突然、川の水そのものが巨大なかたまりとなって持ち上がった。それは「娘の道」の幅と作りと調和していた。そして奇妙な砕けるような音が、水が水晶に固まるに従い始まった。ほんのしばらくの間に、橋が造られて我らの砦の中心にまで伸びていた―結晶化した水の橋であった。

グウィサールは愕然として吠え、この新たな橋に自分の家門と共にフワーレンに立ち向かうべく乗り込んだ。この日、多くの勇敢な戦士がグウィサールに従ったが、彼らの大義は望みのないものだった。わたしは彼の最期を見なかった。逃げた。わたしが逃げたのはフワーレンが復讐の叫びを上げるのを聞いたからだった。わたしはシリーラ人たちは我らのふくれあがった死骸が火葬場まで引きずられ、燃えかすをよろこびながら蹴るまで虐殺を続けるということを知っていた。

そしてこれがミリンズ・クロスの陥落であり、我らの望みが絶え、いまやターシュの地が我らの国である理由である。

Enclosure #2, p.22.
太陽暦1352年、ミチューインの口述、ターシュのミチューイン部族の賢者、スカルドゥール筆


わたしはその日、「悟るに早い」グウィサールの家門とともにいた。わたしはグウィサールを良く覚えている。彼は偉大な王であり、贈り物の輪の贈り手、鉄と黄金に輝き、容貌は貴く、声は力強く、戦では恐れを知らず、勝利においては物惜しみなく、敗北に恐れを覚えなかった。

そう、王にあるべきもの全てがグウィサール王にはあった。彼以外の誰がそれほどまで長く連盟をまとめていることができただろうか?彼以外の誰が、氏族の民、戦団と川の民をまとめてシェペルカートの淫売と私生児ども、フワーレン・ダールシッパの呪われし一統に立ち向かわせることができただろうか?

彼以外の誰がシリーラと二十年近くものあいだ戦争することができただろうか?彼以外の誰が、「裏切り者」ヴィングコットとその息子(訳注:ヘンガルか?)の死にたとえられることがあっただろうか?(訳注:ここの訳、不明)

わたしはファーマックスがオスリルの船団の最後の指導者、「豪胆の」ヴァレリウスに殺されたその日、橋に立っていた。そう、わたしは奴の指と誕生祝の指輪を奪った。

わたしはヴィングコットの英雄にふさわしく、「串刺しの」ノロモラックスを奴自身の槍で殺した。

わたしは「悟るに早い」グウィサールとともに水晶の橋に立ち、その創造者の家門に立ち向かった。わたしの唇まで飛び散った奴らの血は熱をもって燃え、塩辛かった。

わたしは敗走の場、わたしの君が悪しき混沌の魔術によって倒れた場から、わたしを自分の戦団が引きずりだしたときに、彼らに呪いの言葉をぶつけた。わたしは復讐を望んでやまない。わたしの心はこの痛みで張り裂けてしまった。わたしはまだ復讐を成し遂げていない。


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