以下はTales of the Reaching Moon誌18号の記事の翻訳です。できればこの翻訳で現代人と古代人、オーランス人やエスロリア人、ルナーの法律についての論議を終わりにしたい。(無理かもしれませんけどね(笑)。)
法律とオーランスの民
Jeff Richard著
成文法や「一般的な法」の制度を欠いているため、サーター人の法律は我々のものとは全く異なる。法律がないように見えるが、オーランス人は洗練された弁護士であり、彼らの法律上の論議はその文化やサーガの中で中心的な役割を占めている。(原注1)いかなるオーランス人の農夫(カルル)もアマチュアの法律家であり、自分や親族の権利を猛烈なまでに主張することができるのである。
サーターの法廷の手続きは「グローランサ年代記」(原注2:原題はKing of Sartar)ですでに詳しく描写されている。そしてその精妙な複雑さの感触をつかむためにも一読にあたいする。しかし、オーランス人の社会でオーランス人の法がどのように働くかについての、そして―願わくば君のグローランサのキャンペーンに使うための大まかな外観を提供するのがここでの私の目的である。核心となる、オーランス人の正義は三つの社会慣習の相互作用で成立している:「血の抗争Blood Feud」、「口頭での訴訟のしきたりOral Legal Tradition」、「寄り合いによる取り決めの強制Community Enforcement of Agreement」である。
「血の抗争Blood Feud」
オーランス人の社会は「報復社会」であり―その構成民は貪欲さと暴力を、警察や監獄のような「国家保安機関」抜きに許容し得る範囲内に収めている社会である。(原注3)その代わりに、貪欲さと暴力に対して欠くことのできない抑制は、攻撃の潜在的犠牲者による暴力の脅威であり―「血の抗争」の脅威なのである。
信頼し得る抑止力としては、血の抗争の脅威には犠牲者が同盟者を持っている必要性があるのであり、「さもなければ人殺しを思いとどまらせるものはないことになる。」(原注4)これがオーランス人の血族というものの役割であり、もしある人が他人を傷つけたら、犠牲者の親族は犠牲者に対して義務を負い、その義務は加害者かあるいは加害者の親族を傷つけることでのみ解放されうるのである。簡単に言うなら、ひとりのオーランス人への攻撃は、その者の血族全員に対する攻撃なのである。
<<「偏平足の」スカプティは「灰色犬」の氏族のオスゴシ血族の小作農(コッター)である。「海の季」に、「とがった丘」の近くで羊を放牧していると、スカプティはポス氏族の「黒い一撃の」ゴラルフに傷つけられた。オスゴシ血族の家長の、「生を見つける者」コルナードは、オスゴシ家の者の前でスカプティの傷の復讐をすると誓った。後の「火の季」に、コルナードと彼の仲間は「黒い一撃の」ゴラルフの親族として名の知られた、「車輪の足の」イルミンリグを見つけた。彼は仲間と共に、旅の途中だった。名乗りをあげた後、挑戦の言葉を述べて、コルナードはイルミンリグを剣のふた振りで斬り殺した。イルミンリグの仲間はポス氏族の領地に逃げ込んだ。>>
<< コルナードの手によるイルミンリグの死を聞いて、「黒い一撃の」ゴラルフは仕返しを誓った。しかし、ゴラルフはオスゴシ家門の誰かを襲うのを恐れた。なぜなら「もしコルナードがイルミンリグを殺したのは、単に自分が彼の親族を傷つけたからなら、もし自分が彼の親族のひとりを殺したら、彼の怒りの激しさは考えるだけでも恐ろしい!」のであった。>>
<< ゴラルフの妻、ヒンダーラが、彼が親族の復讐をするためにオスゴシ家を襲うのを拒んでいることを知ると、ヒンダーラはゴラルフと寝るのをやめた。ポス氏族の族長が宴会のため、ゴラルフのステッド(長屋)を訪れると、彼女は夫のために食事を準備しようとしなかった。ゴラルフが彼女に、彼女が自分の妻であることを思い出せようとすると、ヒンダーラはゴラルフに唾を吐きかけて、族長の前で自分は不能の臆病者にたいしていかなる義務も負わないことを告げた。怒り狂って、ゴラルフは危険を顧みずにオスゴシ家を襲うと宣言し、族長に、もし族長が彼を援護するならば、彼に自分の忠誠の誓いと、五つの刻み目のある銀を贈ると告げた。>>
<< ゴラルフは、ポス氏族の族長と彼の槍近侍(セイン)とともに、農夫(カルル)のオールケンソールとその家族が住んでいる最寄りのオスゴシ家のステッドに向かった。夜討ちをかけ、ポスたちは広間の出口をふさいでわらぶきの屋根に火をかけた。 オールケンソールと彼の家族が燃える広間を逃れようとすると、ゴラルフとポス氏族の戦士たちは彼らを斬殺した。男の子ひとりを起きたことの証人として残し、ポスたちはオールケンソールの家畜全てを奪って、自分の氏族の領地に戻った。>>
<< オールケンソールの広間の焼き討ちが「生を見つける者」コルナードの耳に入った時、彼が気づいたことは、「この抗争は手に余るものになった。私にはポス氏族全部に対して復讐を行う力はない。」ということだった。コルナードはこの一件を裁いてもらうための最善の方法について、「灰色の男」オルナールに助言を頼んでみると自分の家族に話した。オルナールに気前の良い友情の贈り物をあげたあと、コルナードはポス氏族に対する訴訟について彼に話した。オルナールは注意深く聞き、話の内容を吟味した後で、正義を守ることを名誉と魂にかけて誓い、オーランス神とランカー・マイ神、ヒョルト王とサーター王に陪審員となりうるよう自分を導きたまえと祈念した。
オルナールはその後、裁定を下し、法は明らかにポス氏族がオールケンソールとその家族の殺害に賠償を支払わねばならないと言っていると告げた。加えて、ポス氏族は明らかにスカプティの負傷にも償わなければならない。さらに、ポス氏族は一つの広間を焼き払い、六人を殺害したのだから、参加者全員が「大きい方の法的追放」を受けねばならない。しかし、コルナードはイルミンリグ殺害の償いをせねばならない。これら全ての上での彼の裁定は、ポス氏族は44頭の牛を支払わなければならない。20頭はオールケンソールの殺害に、40頭はコッター5人分の賠償額、そして4頭はスカプティの負傷に、しかし20頭はイルミンリグの殺害に支払われなければならない。>>
<< コルナードは季ごと[quarterly]に行われる部族集会において、サノス王の前に告訴を持ち込んだ。コルナードとオルナールに選ばれたポス氏族の陪審、「真実を話す」ヘンダノールは、この訴訟について述べ、彼の裁定は、ポス氏族はいっさい牛を支払う義務は負わないというものであった。その後、コルナードは陳述をし、「黒い一撃の」ゴラルフがその後に陳述した。
サノス王は「灰色の男」オルナールに助言を求め、オルナールは法と判例を朗誦して、それらによれば、ポス氏族はコルナードに44頭牛を支払わねばならず、ポス氏族の焼き討ちをかけた者たちは「大きいほうの法的追放」を受けるべきであるとした。サノス王は「真実を話す」ヘンダノールに助言を求め、ヘンダノールはいくつかのあいまいな先例を朗誦して、ポス氏族はなんら償いをするいわれはなく、コルナードはイルミンリグを殺したことで、「小さい方の法的追放」を受けなければならないと提案した。サノス王はその後で、自分のおかかえの法官たちに助言を求め、彼らはおおむねオルナールに同意したが、法的追放の程度と、誰が追放されるべきかについては異議を示した。>>
<< 法官たちとの相談ののち、サノス王は裁定を下した。ポス氏族はオスゴシ家に40頭の牛を支払わねばならない。スカプティの傷害については補償がないが―それはスカプティが傷を負った時、彼はポスのトゥーラ(領土)にいた証拠をゴラルフが出したからである。ゴラルフはオールケンソールのステッドの焼き討ちを計画したことで大きい方の法的追放がされるべきであり、コルナードはイルミンリグ殺害のとがで小さい方の法的追放。この追放は「嵐の季」の終わりから宣告され、該当者は「聖祝季」の儀式の参加を許されない。そしてサノス王は陪審員たちにこの裁定の言葉を広め、記憶に留めておくように命じた。>>
Online Classic Library
http://sunsite.berkeley.edu/OMACL/Njal/
おそらく日本語で読めるもっとも有名なサガ文学
「ニャールのサガ」 朝日出版社 訳者:植田兼義
「アイスランドサガ」 新潮社版 訳者:谷口幸男 (1979年刊)