「靖国神社散策オフ会」レポート

オフレポ前半に戻る


◆◆ 靖国神社散策 ◆◆

 坪内祐三さんの『靖国』によれば、彼が靖国神社に興味をもったのは、その一番奥にある「招魂斎庭」が駐車場に変わったことを示す、小さな看板を偶然目にしたことが始まりだったという。

 日も少しずつ暮れ始め、空が淡い夕焼け色に染まりはじめた頃、逆光でシルエットの形に浮かび上がる巨大な第一鳥居の前にたどり着いたとき、私は『靖国』のプロローグで坪内祐三さんがかつて歩いた散策の順路をそのままたどることこそが、今回のオフ会の趣旨としてふさわしいのではないか、と考えていた。

 靖国神社の参道は、以前の下見の際にも訪れていた。そのときはちょうど桜の真っ盛りだった頃もあってか、けっこう人手があり、出店も並んでいたりして、『靖国』に書かれているような静けさとは無縁の場所のように思ってしまったのだが、今はそのにぎわいも落ち着きを取り戻していた。
 私たちは第一鳥居をくぐり、大村益次郎の像の脇を抜け、つづく青銅製の第二鳥居をくぐりぬけていく。もちろん、時間がなくて『靖国』を読めなかった方のために、それぞれのエピソードについて私の記憶の範囲で説明することを忘れない。なぜ大村益次郎が九段坂という場所に靖国神社を建てることに決めたのか、兵器機材が不足していた戦時中に、第二鳥居が献納されずに残ったことの不思議――「ツアーコンダクターみたい」とみちるさんはおっしゃったが、あるいはそのとおりだったかもしれない。

 『靖国』によると、この後まっすぐ進むと境内に入るのだが、坪内祐三さんはそこから右へと折れて、遊就館のほうへと向かうことになっている。だが、私たちは逆に、左に曲がってしまった。理由は今もってよくわからない。いったい、どのような力がはたらいたのか――暮れなずむ夕暮れのなか、ますます人気のなくなっていくうら寂しい通りを抜けて、私たちは神池と呼ばれる池にたどりついた。
 その池には信じられないほど大きな鯉が何匹も住んでいた。立て看板によると、上越新幹線が開通したときに、新潟県産の鯉を献納した、とある。これまで歩いてきた道にもたくさんの献木が植わっていたが、こんなものも献納されるのか、と思いながら、近くにあった鯉のエサの自動販売機(コインを入れると、一定量のエサが皿の上に落ちてくる、というしくみである)でエサを買い、何気なくみんなで鯉にエサをやった。

 そして、問題の駐車場――かつては「招魂斎庭」だったはずの場所に到着。坪内さんの言うとおり、看板は申し訳程度の小さなもので、たしかによほど注意して見ないと誰もが見過ごしてしまうに違いない。

「坪内さんはよくこんなの見つけられたものですよね」というきなさんの言葉どおり、たしかにこの看板から『靖国』という1冊の本を書き上げてしまった、坪内祐三という人の非凡さに感服せずにはいられない。

 かつて力道山が奉納プロレスをやったという相撲場をしばらく眺め、帰りはみちるさんの、坪内祐三さんのトークショーに行ったときの話を聞きながら、今は工事中の遊就館を左手に見ながら境内のほうへと戻っていく。かつて競馬が行なわれていたことを示す馬の銅像や、宇野浩二『苦の世界』の主人公が寝転がったという大砲などをひととおり眺め、最後に境内で「靖国神社」の近代性――ただの一兵卒を神として奉る、という、これまでにない考えを取り込んだ靖国神社が、いかに近代の合理性を内包したものであるか、という『靖国』の内容を説明し、周囲を囲んでいる生け花を眺めてから、境内を離れた。
 誰が参拝をして、誰が参拝しなかったかは、ここでは語らない。


◆◆ 熱く語る! 飲み会 ◆◆

 九段坂あたりにある店が、土日は営業していないことが多い、ということは、私の手許にある『おいしいケーキの店』をチェックしたときからわかっていた。
 事前に下見に来た最大の目的は、じつはどこで飲み会を実施するかを決定することにあったのだ。
 幸いなことに、私はすでに、土曜日もやっている居酒屋を見つけていた。さっそく携帯で電話をし、席の予約を入れておく。その際に名前を聞かれたのだが、思わず本名を名乗ってしまったのは失敗だった。ここはウケ狙いで「八方美人男」と名乗るべき場面だったのに……。気をとりなおして、店まで案内する。

 時間が早かったこともあって、店内はがら空きだった。とりあえず飲み物を頼み、ちょっと長めの挨拶を私が述べて、一同乾杯。メニューを開き、最近料理にはまりつつある私の「春巻きの皮のつくりかた」エピソードなどまじえつつ、おのおの注文していく。最初、席がふたつに分かれていたのだが、せっかくこうして集まったのだから、ということで席をくっつけ、あらためてトークタイムへ。

 くらさんをはじめ、以前も何度か掲示板で話題になった「ロード・オブ・ザ・リング」の話から、映画、ファンタジー関係の話題へと話はつづく。「ロード・オブ・ザ・リング」はトールキンの古典的名作『指輪物語』の映画版。現代の日本ファンタジーにおけるエルフやドワーフ像を決定づけた、という意味では重要な作品だが、評判は上々のようだ。字幕版と日本語吹き替え版版のどちらが良いのか、という話では、原作を知っている人にとって字幕版は「愛が感じられない」という、きなさんの友人(「生きるファンタジー辞典」と呼ばれているそうな)ということらしい。翻訳の難しさ、とくにファンタジーものの翻訳の難しさというものを、つくづくと実感した瞬間である。

 このあたりからだんだんアルコールがまわりつつあった私だが、「なんでも褒める」という私のサイトの方針の話、リクエスト書評の話、ベスト入りした作品の話などへと話が移って、これまで印象に残った作品について、けっこう熱く語った覚えがある。作品の内容はたいしたことがなくとも、印象的なシーンを残すことでいつまでも心に残る作品もある、ということで、佐藤賢一さんの『王妃の離婚』を挙げ、主人公のフランソワ・ベトゥーラスが、法廷でひどい辱めを受けようとしているフランス王妃ジャンヌ・ドゥ・フランスの弁護に立つことを決意した瞬間のシーンのカッコ良さについて語り、つづいてきなさんからリクエストされていたリチャード・アダムズの『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』における、巣穴を死守するビグウィグの、人間顔負けのカッコ良さについて、まさに熱弁をふるっていた。
 作品選びとしては定評のある新潮社のクレストブックスの話から、外国作家の話になったときには、レベッカ・ブラウンの『体の贈り物』についてみちるさんが、人間の生と死という重い事実を、あくまでさりげない描写で書かれていることの凄さについて語る。『体の贈り物』は、エイズ患者のホームケア・ワーカーとして働く女性の話なのだが、Leさんがかつて病院で、お年寄りのお世話をしていたことがある、という話の流れから、きなさんが大学の頃に受講していた児童学入門・概論講座の初日で先生から聞いたという、健常者と障害者の認識についてのこの一言は、非常に深い感慨を覚えた。

「あなたの肘は内側には曲がるけど外側には曲がらない。そのことをなぜ障害だと思わないのですか?」

 みちるさんが語ってくれた、三浦哲郎さんの『白夜を旅する人々』のこと、私が熱弁をふるった、雨森零さんの『首飾り』のこと――本の話は尽きないが、話題が微妙にマッキントッシュの話になったり、インターネット接続の話になったりするのは、あるいはオフ会ならではのものかもしれない。yuiさんもマックユーザーのひとりだが、当初ホームページを開設したときは、OSの違いやブラウザソフトのバージョンの違いによって見え方が相当変わってしまったり、中には表示できないこともあったりと、いろいろ苦労なさっている。
 トップページは公衆電話回線接続を意識した、軽いもののほうがいい、というみちるさんの意見には、私も賛成だ。もっとも今はADSLや光ケーブルなど、高速接続も増えているので、もうしばらくもすれば、そうした認識も変わっていくのかもしれないが・・・。

 きなさんの、かつて柳美里さんが「青春五月党」という劇団を主宰していた頃に見にいこうと思っていた「幻の公演」についてのお話や、スウさんの主催している読書会についての話、みちるさんときなさんの「純文学」談義など、いろいろな話を聞かせていただいたのだが、9時を過ぎた頃になってきなさんがこれから用事がある、とのことで一足早く席を立ったのを機に勘定を済ませ、残った6人はしばらく雑談してから、店を出ることにした。


◆◆ そして喫茶店でまったり ◆◆

 時刻は9時半前。もう一件、というには微妙な時間だったが、九段坂を降りたあたりにあった喫茶店でもう少しだけまったりすることになった。

 かつて「読書日記」のほうでも公開した、長年愛用の手帳や、そのとき読んでいた本が、たくさんの付箋で「剣山状態」になったもの(ちなみに、ジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』である)を見せたり、スウさんからのリクエストである山本周五郎さんの『柳橋物語・むかしも今も』をいただいたり、リクエスト書評にばかり応えて自分の読みたい本を読む時間がないのでは? と心配していただいたり、そこからどういう姿勢で本の感想に取り組んだり、本を読んだりするべきなのか、ということについて語ったりした覚えがある。
 みちるさんから「本の批判しかしない裏サイトをつくって日頃のうっぷんをはらしましょう」というご提案を受けたときは、一瞬心が動いたが、じっさいにやりはじめると、表サイトのほうをほったらかして、裏サイトの更新ばかりやってしまいそうで、怖いと言えば怖いものがあるなあ、とふと思った。もし本当にやるとすれば、書評400冊突破記念あたりになるのだが……。

 どうも夜が苦手な私は、このあたりで少しずつ「地蔵モード」に入っていたみたいで、ほかにもいろいろお話しながらも、残念ながらあまり覚えていなかったりするのだが、どうかご了承いただきたい。最後に、店を出てからLeさんから「どんな本の話題が出ても、必ず誰かが知っている、というのはすごいことだ」とおっしゃったことと、みちるさんと『向田邦子の手料理』という料理本の話をしながら飯田橋駅に向かい、名残を惜しみながら皆さんと別れ、電車のなかでひとり、今回のオフレポをどうやってまとめるべきか、思案に暮れるのだった……。

 




八方美人なイベントに戻る

ホームへ