『アラビアの夜の種族』

− 用 語 事 典 −


●「あ」行(a)
アイユーブ イスマーイール・ベイに仕える、美しき容貌をもつ筆頭マムルーク(奴隷)。コーカサス地方チェルケス人の貧農の生まれで、11歳のときに奴隷として買いあげられる。その後、文武において並外れた才能を発揮し、主人の寵愛を受けて現在の地位に到る。フランス革命軍の侵攻に対して「災厄の書」を用いた壊滅作戦を勧めたのも彼であるが、実際には存在しない書物をいかにも手中に収めたかのように進言し、その裏でズールムッドの語る年代記を「災厄の書」として書家に書きとらせるという工作をしているところから、彼が主人を陥れようと画策していたことがわかってくる。だが、それはけっして本人の自覚するところではない。アイユーブがズームルッドの物語に触れるとき、彼の心の奥深くに秘められた真実の年代記が甦ることになる。

青目の分隊長 ゾハルの守備隊のひとりで、金髪碧眼の異国人。ゾハルへの侵入をはたすため自らを傷つけ、夜盗に襲われた隊商のなかにもぐりこんだアーダムを弟のようにかわいがっていたが、アーダムによって殺害される。だが、彼の眼球は、アーダムの裏切り行為をゾハムの魔女に伝えるという役割を果たした。

アーダム 稀代の妖術師。かつては広大な土地を支配していた帝国の王子であるが、九番目の嫡男であるうえに醜い容貌、武芸はからきし苦手とあって、誰からも注目されない存在だった。それゆえに性格は歪みきっており、ときには仲間を平気で皆殺しにしてしまうほどの冷酷さを見せるが、その非道さ、執念深さ、そしてあらゆる苦痛を意志の力で克服する強靭な精神力によって、誰も成しえなかったゾハル攻略を成功させたばかりか、蛇のジンニーアから得た強大な妖術をもちいて、自分の国を滅ぼしゾハルの帝王として帝国全土を恐怖で支配してしまう。
一千年の後に迷宮の「魔王」として復活するところから、典型的な悪役、邪悪な心の持ち主として書かれるアーダムだが、邪悪ななりに強大な力をもつジンニーアに対しては純な想いを心に抱いており、また純であるがゆえに彼女の裏切りをけっして許さなかった、とんでもなく嫉妬深い性格でもある。

アーダムの魔法書 アーダムが自らに「不眠」を課しているときに、睡魔を追い払うために編纂した、人間の皮を表紙に、人血で綴られた魔法書。アーダムが取得したすべての魔術の奥義が記されているが、その書が発する呪術によって、魔法の心得のない者には災いしかもたらさない。一千年の時間ののち、その書物は奇人都市の図書館に流れ着き、最終的にはファラーの手に渡ることになる。

アブドゥラー ゾハルの大迷宮におけるサフィアーンの怒涛の快進撃に刺激され、伴をするようになった三人衆のひとり。通称「槍奉行」。

阿房宮 「蛇のジンニーア」に絶え間なく生け贄を提供するためにアーダムがゾハムの地下に作らせた、けっして完成することのない大迷宮。もともとは地上部の宮殿も含めたすべてを呼び現わす名前だったが、次第に地下迷宮のみを指すようになる。「夢の建造化」を目的にしただけあって、人間の方向感覚を狂わせる構造を成しており、いたるところに極悪な罠を仕掛けられている。アーダムは神殿の地下にある四つの石室を最下層とするこの迷宮に関するまことしやかな噂を広げることで冒険者たちを迷宮に誘い込み、その犠牲者の魂をジンニーアに捧げることで、自身の魔力を保ちつづけることに成功した。
一千年の後、地震によって偶然その入り口が開かれ、数多くの魔物が跋扈するこの阿房宮は「ゾハル」と名を変え、ジンニーアの憑依したドゥドゥ姫の策略によって、アーダムこと「魔王」退治にやってきた冒険者たちや痴者たちが住まう地下都市としておおいに賑わうことになる。

アリー・アル・タラーブルシー エジプトを実質的に支配している23人のベイ(知事)のひとり。ムラード・ベイとともにフランス革命軍を迎え撃つ。

イスマーイール・ベイ エジプトを実質的に支配している23人のベイ(知事)のひとり。先見の明を持ち、芸術をこよなく愛する彼は、フランス革命軍の近代兵器の脅威に真っ先に気づき、フランス領事と密かに会談を設けたりするが、彼もけっきょく、エジプト支配を巡る権力争いを演じる役からは逃れられなかった。無類の読書好きで、7人の専属司書を抱える私設図書館を有するが、まさにこの性格のために、アイユーブから送られてくる「災厄の書」と「特別な関係」におちいってしまう。

糸杉 ズームルッドの娘。母親同様、神秘的な美しさをたたえた、妖艶でさえある幼子。そして物語の次の語り手となる者。フランス革命軍の侵攻によって暴徒と化したムスリムの凶手から彼女を守るため、ズームルッドの語りは二晩中断されることになる。糸杉の登場は、ズームルッドの年代記が終盤に差しかかっていることを意味し、彼女が口を開いたとき、『アラビアの夜の種族』はとりあえず幕を閉じることになる。

イブラーヒーム・ベイ エジプトを実質的に支配している23人のベイ(知事)のひとりで、エジプト内閣での首位。「長身痩躯の卑劣漢」とあるように、アイユーブの記憶に細工をほどこし、無自覚な刺客に仕立て上げたのは彼の策略によるが、その彼が本来、どういった目的があってそんなことをしたのかは不明。フランス革命軍の侵攻のさいはムラード・ベイに先陣を譲り、ムラード・ベイが敗走するや、オスマン帝国の総督をつれてとっととカイロから逃亡してしまう。

ウマル ゾハルの大迷宮におけるサフィアーンの怒涛の快進撃に刺激され、伴をするようになった三人衆のひとり。通称「弓大将」。

蒙眼球(おめめないない) ゾハルの地下都市を流れる河川で獲れる白い川魚。その名のとおり、地底に生息しつづけたゆえに目が退化した魚だと思われる。ゾハルにおける一般的な魚料理の材料。
●「か」行(ka)
奇人都市 サブルのあちこちから集められ、ゾハルの地下迷宮に移住させられた8888人の奇人たちによって、迷宮の奥深くにつくられた、奇人たちのための桃源郷。魔王サフィアーンに一度破れたファラーが、地下迷宮の彷徨っているうちにたどり着いた場所でもある。

空白 アイユーブの心を満たしているもの。あるいはアイユーブの年代記を覆い隠しているもの。そして、記憶のいっさいを奪われたときに、最後に残っているもの。

クルド人の三兄弟 「森のものの夢の石室」の守護者となった魔王サフィアーンと対決するために、ファラーが選出した武術家。長男は大剣を扱う身の丈七尺を超える巨人、次男は弩を操る侏儒、三男は「鉄腕のアフマッド」と呼ばれる豪傑無双の山賊。

コプト エジプト国内のキリスト教徒のこと。使途マルコの布教に端を発する歴史ある一派であるが、ヨーロッパの教会からは異端扱いされている。アラビア語が国家に制定されたとき、古代エジプト語のほとんどが駆逐されてしまったが、その残滓はコプト語としてかろうじて残されている。
●「さ」行(sa)
サイプレス オンラインブックショップ「bk1」が過去に行なっていたフェア(古川日出男が選ぶ「僕と脳構造がおなじ本」 )で、購入者へのプレゼントとして書かれた、『アラビアの夜の種族』の後日談のタイトル。
特別書き下ろしで、かつメール配布という形でのみの提供だったが、現在、学研M文庫の『ゴシック名訳集成 暴夜(アラビア)幻想譚』に収録されていることがあきらかになっている。

サフィアーン 頬にふたつの黒子をもつ、麗しい面ざしをたたえた剣士。第四代目サブル王の嫡男であるが、弟の陰謀によって父たる王は殺害され、王宮を逃れた王妃もまた都を目前にして死んでしまったため、彼は自身の出自を知らないまま、サブルの都でいかさま師集団の稼ぎ頭として育てられる。闊達にして鷹揚、忠義に厚く度胸もあるという、人間の鏡のような性格だが、むしろ根っからの楽観主義者といったほうがしっくりくるものがあるように思える。生まれついての機才によって、詐欺や盗みの技術に天才的な才能を発揮するが、霊剣を手に入れたからは剣術においても同様の才能を開花させる。
霊剣に地の果てまで飛ばされてしまったり、アーダムに肉体をのっとられたり、「森のものの夢の石室」の守護者たる竜の肉を食べて自らが守護者となってしまったりと、かなりさんざんな目に遭うのだが、最終的には従妹たるドゥドゥ姫をジンニーアから救い出して結ばれるという、典型的な貴種流離譚の流れをたどる、おいしいキャラクターでもある。

サブル あるいはサッバラーと呼ばれる緑野都市で、アラブ人の王家によって統治されている。サブルとは「忍耐」の意。第一級の商業都市として栄えていたが、第五代目サブル王が簒奪者であるうえに、地震によって出現した阿房宮から漏れ出す瘴気によってその治安は一気に悪化してしまう。

The Arabian Nightbreeds 古川日出男氏によると、『アラビアの夜の種族』は英訳版「The Arabian Nightbreeds」(無著名 発行所不明)の日本語版だということになっている。いかにも古川氏らしい演出であるが、ネットで検索してみると、この本の存在を信じてしまっている人がけっこういるみたいで驚かされる。『アラビアの夜の種族』の物語としての完成度がいかに高いか、ということのひとつの例だろう。

ジャッカル牛 「左利き族」の森に住む、精霊の血をひく不思議な生き物。吠え声がジャッカルのようであるところからこの名がつけられた。白い体毛と水牛のような角を持ち、日ごろは群れをつくって行動しているが、その群れを率いる利発な数頭(じつは魔術師の変化した姿)が、「左利き族」との共生を教える教師役となっている。

書家 アイユーブに雇われて、ズームルッドの語る年代記を1冊の本にまとめる役割を受け持つカイロ屈指の能書家。清書技術の高さはもちろんのこと、口述筆記の技術にもすぐれた達人で、第一夜ではじつに11時間にわたって浄書をおこなうだけの集中力を有するが、時が経つにつれて、たんなる浄書の技を越え、まさに「災厄の書」にふさわしい魔力的装飾性がその文章に加えられていくことになる。

ジンニーア 蛇族の女魔神。使い魔が蛇であるところから「蛇のジンニーア」と称されることが多い。強大な魔力の持ち主だが、その力を維持するためには人間の生け贄が必要で、そのためにゾハルの守護神として君臨したり、アーダムに妖術を授け、ゾハムの帝王に仕立て上げたり、ドゥドゥ姫にとり憑いて魔王退治を奨励したりと、なかなか手の込んだ策略を巡らせる。そうした策略、誘惑のすべては、かつてスライマーンによって神殿の地下深くに施された封印を解き、再び地上に出るためのものである。若い女性の体を憑り代にして、とんでもない暴政ぶりを発揮したりしたが、最後には魔王サフィアーンによって本体を叩かれ、消滅する。

ジンニスタン スライマーンの聖なる印璽によって封印されていた異形の時空間にして、ジンニーアの本体がいる領域。とてつもなく巨大な神蛇の口のなかにある世界で、蛇族に属する魔神、魔霊たちが蠢く世界でもある。

ズームルッド 非公式の歴史を語ると云われる「夜の種族」の語り部。あるいは「夜(ライラ)」と呼ばれ、あるいは「夜のズームルッド(エメラルドの意)」とも呼ばれる。物語り師たちの間でのみ語り継がれ、畏怖されてきた伝説的な存在だったが、アイユーブの必死の捜索によって、カイロのバーブリューンで失われたコプト語を学び、その言語で物語を語っているという情報を得て、邂逅を果たす(あるいはあえて姿を現わした、というべきか)。アラブ人種とその他の有色人種の混血を思わせる栗色の肌をした、年齢不詳の女性。『アラビアの夜の種族』の大半は、彼女によって語られた年代記によって構成される。そしてその年代記は、夜のあいだにしか語られることはない。

スライマーン 「旧約聖書」に登場するソロモン賢王のこと。「コーラン」ではダーウド(ダビテ)の御子スライマーンと呼ばれ、精霊軍団を統べ、魔神を凌駕するほどの魔力を有していたと言われている。「蛇のジンニーア」を封印したのも彼の技による。

ゾハル アーダムの時代に帝国の辺境にあった、邪神を崇める小国家で、毎年12月には非公開の祭儀を行なう神聖月間となる。ゾハルとは「土星」の意。交易都市として独自の軍隊を有するほどの繁栄ぶりを見せ、アーダムが帝王となってからは一大帝国にまでのし上がったが、彼がジンニーアへの復讐を誓い、統治を怠けるようになってから、ゾハルは急速に没落していく。ファラーとサフィアーンの時代では、その地下に作られた阿房宮のことを呼びあらわす名前となった。
●「た」行(ta)
冷たい手 ファラーが魔王アーダムを倒すのに用いた高等な秘術。その手に触れられたものはどんな生き物も生命を奪われるという邪悪な術で、いったんその手につかまれたら脱出は不可能とされている。

ドゥドゥ姫 正式名称はドゥドゥ・アル・ジャミーラ。第五代目サブル王の娘で、血縁的にはサフィアーンの従妹にあたる王女。あのサフィアーンが一目惚れしてしまうほどの絶世の佳人だが、ジンニーアに体をのっとられてからはその妖艶度、淫乱度が五割増しくらいに跳ね上がった。
●「な」行(na)
ナーシフ・ベイ エジプトを実質的に支配している23人のベイ(知事)のひとり。ムラード・ベイとともにフランス革命軍を迎え撃つ。

ナポレオン・ボナパルト 言わずと知れたフランス第一帝政の皇帝にしてフランス革命の実質的な立役者だが、『アラビアの夜の種族』の時代ではまだ将軍の身分。ヨーロッパでは「英雄」である彼も、あくまでイスラーム世界の価値観で成り立つ本書においては、とても軍隊の長とは思えない痩せて背の低い体躯、ぼさぼさの髪、蒼白い顔をした男として描写される。「東方に、おのれの一大帝国を樹立したい」という妄想に取りつかれた彼が起こしたエジプト遠征は、その歴史どおり近代兵器をもちいたフランス革命軍の圧勝に終わるが、ナポレオンが書物愛好家であるという情報がなければ、「災厄の書」が世に生まれてくることもなかったかもしれない、という意味で、出番は少ないもののすべての物語の引き金になった重要人物である。

ヌビア人の奴隷 正式な名前はついに明かされなかった書家の助手。書家とともにズームルッドの年代記を「災厄の書」として生み出す役目をはたす。助手としての有能さばかりでなく、それ以外の私生活の面でも主人を楽しませる陽気さを持っているようで、コーヒー占いで「大吉ですぞ!」などと言ったりする。最初は中背中肉の下僕だったにもかかわらず、連日の飽食によって「肥満公」と渾名されるまでにまるまると太ってしまった。
●「は」行(ha)
バステト ファラーが異界から呼び出した魔物。ファラーの前では白い牝猫の姿をとった。彼女の情報によって、ファラーは魔神に匹敵する魔術師アーダムの存在を知ることになる。語尾に「マイ、マイ、ミアオ!」とつける。

ハマド ゾハルの大迷宮におけるサフィアーンの怒涛の快進撃に刺激され、伴をするようになった三人衆のひとり。二天一流のハマドという通称からわかるように、二刀流の使い手。

麺麭焼き窯 奇人都市にある唯一の図書館の閲覧室となっている場所。「恐ろしい麺麭ができるぞ!」の台詞は秀逸(笑)。

左利き族 そもそもはアル・ヒンドの地を出自とする白人系の一族。白い膚に茶褐色系の毛髪を持つ。アビシニアの辺境地にある、濃い霧に包まれた森の中に住み、魔法の力で森の環境を維持し、ジャッカル牛を育てて生計を立てている。「左利き」という名称は、イスラーム世界では不浄を意味するが、それは彼らの魔術の力の大きさを物語るものでもある。全部で百ほどの部族があり、魔術師が最高地位。

ファラー 破格の美貌を持つアルビノの魔術師。色彩のない皮膚を守るため、常に魔法のオーラをその身に宿しているが、そのオーラが他人を蠱惑する妖力を秘めている。もともとはアビシニア高原に住む黒い肌の一族だったが、生来のアルビノのため「左利き族」の森に捨てられ、それ以降「混血児」として育てられる。だが、この「混血」という優しい嘘が、ファラーの人生を大きく変えた。アビシニア軍の突然の襲撃、そして自身がその襲撃者たるアビシニア人であり、「左利き族」の指導者たる魔術師にはなれないという事実を知ったファラーは、同族殺しの罪を犯し、以後最強の魔術師となるため流浪の旅に出る。
けっして赦せない自分の黒い血筋のため、歪んだ野望を目指すようになったファラーは、そのためにサフィアーンを犠牲にして「魔王」を打ち倒す卑劣ぶりを発揮するが、その心の内にあるのは、おそらく「自分の存在を認めてほしい」という強い思いである。そういう意味では、同じ捨て子であるサフィアーンの対極に位置するキャラクターである。

放心 「蛇のジンニーア」が最後に魔王サフィアーンを迎え撃った場所。黄金色をした大地で、常に回転しつづけている。
●「ま」行(ma)
魔王サフィアーン ファラーの策略によってサフィアーンもろとも葬られたのち、精神だけとなったアーダムがサフィアーンの肉体に乗り移ることによって誕生した超戦士。サフィアーンの剣術とアーダムの魔力の両方の力を備えた魔王サフィアーンは、最強と言われる「森のものの夢の石室」の守護神である竜を打ち倒すほどの無敵の存在と化した。

火縄(マスケット)銃 まさかこの近代兵器の存在が、『アラビアの夜の種族』の壮大なるギミックの一手段となろうとは……。

マムルーク エジプトにおける奴隷を意味する言葉だが、奴隷というよりも徹底的に英才教育を施された「エリート」という言葉のほうがしっくりとくる。かつて奴隷階級であった彼等が打ちたてた「マムルーク朝」はあまりにも有名だが、その支配権がオスマン・トルコに移ってからも、その財力と軍事力をもってエジプトを実質的に支配している。「マムルーク」という言葉には、その支配階級に属する首長を指すときと、それが所有する奴隷を指すときの二種類があるようだ。

ムラード・ベイ エジプトを実質的に支配している23人のベイ(知事)のひとりで、エジフト内閣での首位。勇猛果敢で武力に秀でる肥満体だが、読み書きのできないまったくの文盲。フランス革命軍の侵攻のさいには真っ先に騎馬部隊を召集、自身も出撃するが、敵の近代兵器の前に成すすべもなく敗走させられることになる。
●「や」行(ya)
夢の石室 ゾハルの最下層にある「大地の子宮」を取り巻く四つの石の部屋。それぞれが寸分の狂いなく東西南北に配置されており、それぞれの石室は「守護者」によって守られている。それぞれ「森のものの夢の石室」「海のものの夢の石室」「きのうの夢の石室」「あすの夢の石室」と呼ばれる。蛇のジンニーアはその石室を邪宗信仰のために利用していたが、実際は石室の守護者が守っていたのはジンニーアではなく、ジンニーアの封印である。
●「ら」行(ra)
霊剣 サブル王家に伝わる三種の王の証しのひとつ。正統な王にのみ従う鬼神の力を秘めた宝剣で、四代目サブル王の命により、16歳になったサフィアーンを遠い山頂に連れ出して、彼が王家の血をひくものであることを伝えるが、サフィアーンがうっかり鬼神を霊剣に戻してしまったため、歩いてサブルまで戻らなければならなくなる羽目になる。
●「わ」行(wa)
災厄の書 読む者を虜にし、最終的には「特別な関係」におちいらせると言われる、稀代の物語集。あまりに物語の世界にのめり込み、それ以外のいっさいの出来事に関心をなくしてしまうため、かつては支配者の暗殺に用いられたとも言われている。読むだけでなく、写本作業や翻訳作業をおこなう者に対しても同様の魔力をふるうため、世界にただ1冊しか存在を許さない、強大な魔力をもつ書物であるが、アイユーブはこの書物をフランス語に翻訳し、ナポレオンに献上することで彼の軍隊を壊滅させるという奇想天外な進言を主人に行なう。
実際はアイユーブによるでまかせであったわけだが、ズームルッドの語りを書家が浄書することでこの世に生を受けた書物が、現実にイスマーイール・ベイを「特別な関係」におちいらせたことを考えれば、それは間違いなく「災厄の書」だと言えるだろう。

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