日本官能小説研究会  −官能小説至上宣言−
−偉大なるエロスのために−


 言葉の力のみを用いて、もうひとつの世界を作り出すのが小説という表現方法であるとすれば、官能小説とは、いわば言葉の力でいかに男たちを勃起させることができるか、という点に特化した文芸ジャンルであり、そこには他のジャンルの追随を許さない独自の奥深さがあり、人類の神秘ともっとも拮抗した領域に達しているとさえ言うことができる。

 どうやったら世の男たちの性的興奮を触発することができるのか――ここでまずはっきりさせておかなければならないのは、人間のエロスの力というのはけっして侮れない、ということである。エロスを笑うものは、エロスに泣くのである。それは人間の生存の根源にかかわる力であり、食欲や睡眠欲と同じように、男であれ女であれおよそ人間として生きていくうえで、けっして避けては通れない問題でもある。娼婦が世界最古の職業だと言われるように、官能小説もまた、他のジャンルとは比べものにならないほどの歴史があり、そこには人間という生き物のもっとも本質的な部分――人によっては目を背けたくなるような部分に、怖れず触れていこうとする矜持がある。

 たとえば、ヌード写真集がある。これは言うまでもなく女性の裸の写真が載っている本であるが、ただたんに若くてきれいな女性が裸で立っていれば、すべての男が欲情する、というわけではない。本当に良いヌード写真集というのは、男を欲情させるのではなく、むしろ女性の体の美しさを強調するという意味で、ある種の芸術にもなりうるものである。そして、男を欲情させる写真集というのは、どこまできわどいものであるかというよりも、一枚の写真からどれだけの想像力を男たちにかきたてることができるのか、という点にこそある。だからこそ、エロスを感じさせる写真集は、たとえヌード写真が一枚もなかったとしても充分に煽情的なのだ。

 ましてや官能小説の武器はただひとつ、言葉のみである。言葉の力だけで男性たちを欲情させなければならないのである。当然のことながら、読者の想像力をいかにたくましくさせるか、という点に力を注がざるを得なくなる。だからこそ、官能小説の世界では、驚くほど多くのシチュエーションが生み出され、エロスをより喚起させるためにさまざまな物語を用意する。およそ、その世界だけで通用する特殊な単語(肉棒、蜜壷、愛液など)がこれほどまでに発達しているジャンルは、官能小説だけである。そういう意味では、官能小説の世界はファンタジー以上にファンタジックな世界を生み出しているとも言える。

 人間のもつあらゆる感情、喜びや悲しみ、怒り、恐怖といったさまざまな情操が渦巻き、その生々しい感情をお互いの肉体を通じて映し出そうとするエロスの世界――官能小説とは、そうした人間のあらゆる感情や、人と人とのあいだで生じる関係性のなかでも、もっとも情熱的で、もっとも醜く、しかし時にもっとも感動的で、そしてもっとも孤独で物悲しいものを、貪欲に飲み込んでいくことを宿命づけられた分野である。誤解を恐れずに言うなら、官能小説こそ究極の人間ドラマを描き出しているのである。私はこの豊かな世界に魅せられたひとりの男として、その生涯をかけて研究すべき価値が官能小説のなかにはあると確信している。

 官能小説の世界には、人間を知るためにもっとも貴重な宝石が、まだまだたくさん残されているのだ。



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