【中央文化出版】
『巌流島十八本笑負』

寒来光一著 



一方美人男
(以後いっちゃん)
いっちゃんでぇーす!
八方美人男
(以後はっちゃん)
はっちゃんでぇーす!
いっちゃん 二人合わせて。
いっちゃん・はっちゃん 「いっちゃん・はっちゃん」でぇーす!!
いっちゃん 今、出版業界も不況やなんや言うてますけど、本屋に行くとけっこうお客さんはいてはるし、本かてぎょうさん置かれてるやないですか。
はっちゃん そうやな、あんなぎょうさんな本、いくら本好きなぼくでも全部読むのは無理やな。
いっちゃん 全部読むつもりでおったんかい! そもそも買えるだけの金もないやろが。
はっちゃん そうやねん、それが問題や。ぎょうさん金稼げれば、わざわざ毎日本屋で立ち読みなんてメンドーなことせんでもええねんけどな。
いっちゃん やな客やな。毎日立ち読みかい。
はっちゃん 失礼な。金がないからこそ、本当に良いと思う本だけ買いたいやん。最近はタイトルや表紙と内容の格差が大きい本も多いやろ。立ち読みで中身をたしかめてみるのは客として当然の心理やで。
いっちゃん まあ、それはそうやな。化粧品かて「お試し期間」とかあるくらいやからな。
はっちゃん このあいだの本なんか、タイトルどおりなのが、ほんの1、2ページだけなんやで。まったく客をバカにしとるやろ。
いっちゃん そうなんか。で、なんていう本や。
はっちゃん 『天使の微笑み――○×ヘアヌード写真集』
いっちゃん ヘアヌード写真集かい!
はっちゃん しかもその本、ビニールがけしてあって中身が見れんようなっとるんや。しょうがないから、店員呼んで、「中身見せてくれ」言うて、やっと立ち読みしたんやで。
いっちゃん しかも立ち読みしたんかい!
はっちゃん いや、最初から買うつもりやったけどね。
いっちゃん そんならわざわざ立ち読みする必要もないやろ。
はっちゃん それで、ホラ、こういう写真集って、レジに持っていくとき、ちょっと恥ずかしいやないか。
いっちゃん 店員呼びつけて、ビニールはがしてもらうほうが、よっぽど恥ずかしいちゃうんか?
はっちゃん まあ、それはそれや。それで、写真集を買うときは、その表紙をほかの客から見えんようにするために、他にも本を買うたりするんやけどな。
いっちゃん ああ、その心理はぼくにもわかりますわ。なんとなくやましい気分になるもんやからな。
はっちゃん それでぼくも適当な本、何冊かダミーで買うたんやけどな、そのなかに思いがけず面白い本があったんや。
いっちゃん 今度はなんやねん。SM写真集か?
はっちゃん 『巌流島十八本笑負』言うねん。
いっちゃん おっ、剣豪小説か?
はっちゃん いや、漫才台本集や。
いっちゃん なんや、まぎらわしいタイトルやな。
はっちゃん 「笑負」の「笑」は、勝ち負けの「勝」やのうて、お笑いの「笑」や。つまり、ライバル同士やった宮本武蔵と佐々木小次郎が「むさし・コジロー」としてコンビを結成、読み手を爆笑の渦に巻き込んでしまおうという、まあそんな本やねん。
いっちゃん ようするに「読む漫才」ちゅうことやな。まあ、これまでにない、斬新な試みなのは認めるけど、じっさい、そんなんで笑いをとれるんかいな。
はっちゃん その点は心配せんでもええで。なんとこの本のあとがきには、本書の「正しい読み方」が3つのポイントにわけて紹介されててな、誰でも絶対笑えるようになってるねん。親切な本やろ。
いっちゃん 読むのにコツがいるっちゅうことか。
はっちゃん もちろん、普通に読んでも問題ない。ぼくみたいにお笑いのために生まれたような人間なら、それだけで充分楽しめる内容になってるからな。
いっちゃん アホらし! で、その3つのポイントって、何やねん?
はっちゃん まず最初のポイントは、「繰り返して読む」。ようするに、「読んでもよう分からん」などと弱音を吐く暇があったら、何度でも読む努力せえ、ちゅうことやな。
いっちゃん なんや、きみが言うとずいぶんゴーマンに聞こえるな。まあ、でも地道な努力が大切なんは一理あると思うけど。
はっちゃん そう、小さいころからコツコツとためてきた積読本が、今ではすっかりきみの部屋を占領してしまうようなもんや。
いっちゃん よけいなお世話や!
はっちゃん ふたつ目のポイントは「声に出して読む」。
いっちゃん まあこれは基本やろ。もともと漫才ちゅうのは、耳で聞くもんやからな。
はっちゃん セリフは棒読みではなく、身振り手振りで感情を込めながら読む、とあるな。
いっちゃん ほう、具体的やな。
はっちゃん 感情を込めると言っても、「つまらん!」という感情のままに本書を放り投げたり、壁にぶつけたり、あまつさえ燃やしたり、ヤクザの顔に叩きつけたりする必要はありません。
いっちゃん 誰がするか! 危ないわ!
はっちゃん そして最後が「笑ってから読む」。
いっちゃん ちょっと待て。「読んでから笑う」の間違いやないか?
はっちゃん きみ、それは本書に「笑わせてもらおう」ちゅう甘えやな。そんな構えた態度やと、笑える話も笑えへんで。
いっちゃん ホンマかいな。
はっちゃん この本の一番大切なとこは、「とにかく笑え」と主張しとるとこや。どんなに現実が厳しくとも、いつも心に太陽を、顔に笑いを浮かべていれば、必ず幸せはやってくる。笑いは人を救うんや。なんとも立派な志やないか。
いっちゃん たしかに、怒ってはる人を見るよりも、笑てはる人を見るほうが、こっちも気分がええもんや。何気ないことかもしらんが、案外、大切なことなんやろな。
はっちゃん そこまでわかれば話は早いわ。きみのぶんも買うてきたから、さっそく実践してみよ。ぼくがボケ役するさかい、きみはツッコミ役な。
いっちゃん ぼくの分まで買うてきたんか。用意周到やな。しかしこれ、声出して読まなあかんのか?
はっちゃん 何をいまさら。お互い、心の中まで愛し合った仲やないか。
いっちゃん なんでやねん! 気色悪いこと言わんといてんか!
はっちゃん 笑いを笑うヤツは、笑いに泣くで!
いっちゃん 何言うとるか、ワケわからんわ!
ああわかった、やりましょう。もう何でもやったるわ。
はっちゃん そう言うと思うてたで。じゃあさっそく……ああっ! しもうた!
いっちゃん どうしたんや! 急に大声出して。
はっちゃん この本買うことに気をとられてて、かんじんのヘアヌード写真集買うてくるの忘れてた! なんてこっちゃ! 泣きたくなってきたわ。
いっちゃん もう、ええわ!!(2004.02.10)

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