【アスペクト】
『水夢〜swim〜』

川又千秋著 



 本書あとがきによれば、「長短硬軟そして新旧とりまぜた短編集」とある。そして「不思議小説コレクション」というサブタイトル。たしかに、読みすすめると、それが嘘ではないことがわかる。あきらかにコメディータッチのもの、ちょっとブラックが入ったもの、不思議な雰囲気のみを漂わせるもの……いろいろなショートストーリーが詰められた本書は、良いものも悪いものも、さまざまなものを収めた宝箱のようなものだと言うことができる。玉石混交とはこのことだ。

「ぼくはロボット」――ある日、自分がロボットで、だれかが電波で操縦しているんだと言い出す子供と、彼にすっかり翻弄されるその両親の話。子供の言うことが虚構と現実の境をあいまいにしていく過程に注目。
「大王を待ちながら」――ノストラダムスの大予言を題材にした、その予言の日付に関するオチがすべてのショートショート。
「路傍の罠」――原因不明のトラップが、次々と人間を空間の裂け目へと吸い込んでいく! そんなとんでもない超常現象を前にしても、これまで同じような生活をしていかなければならない人間への皮肉がこもっているような感じもする。
「地球空洞説」――「路傍の罠」とコンセプトは同じ。ただ、こちらのほうがより廃退的なイメージがある。個人的に、この世界が持つ雰囲気は好きだ。
「水夢〜swim〜」――表題作。湯船につかってうとうとしていたときに見た夢の話。良い意味で、不思議な印象のみ残る作品。
「アインシュタイン保護区の密猟者」――SFタッチのショートショート。背景設定は魅力的だが、逆に言えばそれだけのドタバタ活劇っぽい話。
「豚が翔んでいる」――意味もなく人間が変身してしまう世界での一コマ。変身保険とか、変身した人間を「処分するしかないでしょう」と平気で言うあたりがかなりブラック。
「地獄塾」――著者はおそらく、子供達が学校よりも塾で勉強しているという状況を皮肉っているのだろう。それにしても、書かれたのは1988年なのだが、あれから十年経った今でもたいした進展がないところを見ると、あながち笑ってばかりもいられないかも。
「来たれ、超人類!」――「新人類」ということばが流行した頃の話。会社の新卒採用で「超人類求む」と書いた資料をつくったら、本物の「超人類」たちが集まった、という話。
「企業戦士クレディター」――まさにショートコメディーの王道をゆく話。現実の日本のサラリーマンも、独裁政権相手にたった一人で乗りこんでいくだけのパワーがあれば、未来はもっと明るいものになるかも。
「不思議もものき探検隊」――ヤラセの秘境探検番組を撮るために南海の無人島にやってきたスタッフたちが見たものは……という話。最初の数行でラストが読めてしまう。

 こういった、登場人物よりもネタそのものが中心に置かれた短編は、ネタそのものの斬新さか、オチのうまさがその良し悪しを決める。さっき、私は本書を「宝箱」だと表現したが、読者によっては「パンドラの箱」と評するかもしれないし、最悪「ごみ袋」としか思わないかもしれない。たしかに問題はたくさんある。文章表現も拙いものが多い。だが、本書におさめられた短編のいくつかが持つ、なんとも妙な背景世界、そしてそこから漂う雰囲気を味わうことなく「駄作」と切って捨てるには、ちょっと惜しいものがあるのも事実だ。私としては、著者の今後の作品に期待したい。(1998.12.12)

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