【洋泉社】
『この業界・企業でこの「採用テスト」が使われている!』

SPIノートの会編集 



 私が就職活動をしていたのは今から5年くらい前のことであるが、当時、私はどの業界に進みたいか、といった展望もないまま、いろいろな業界のいろいろな会社のセミナーや採用試験を次々と受けていった記憶がある。全部で100社近くにはなっただろうか、結果として内定が出たのは1社のみで、そこが今も私が勤めている会社となっているが、今の会社に入社できたことは、私の人生においても大きなプラスとなっている、という確信がある。

 ところで、SPIと呼ばれる採用テストがあるのをご存知だろうか。就職活動中の私もまた、何度かこの手のテストに遭遇し、対策本のたぐいも買いこんで勉強していた代物であるが、当時は隆盛を極めていたこのSPI、今ではどうやら以前ほど大きな権威を誇っていない、というのが実情のようである。

 本書『この業界・企業でこの「採用テスト」が使われている!』は、言わば就職対策本に分類される本である。だが、黄色と黒の、工事現場を思わせるようなカバーに、しりあがり寿のイラスト、さらには立ち読みができないよう、その内容の大部分が袋とじになっている、という、ある意味で型破りな本書の装丁に、他の就職対策本にはない、作り手たちの「こだわり」を強烈に感じたのは間違いない。

 私は今、就職活動をしているわけではないし、またその手の知識について明るいわけでもない。この本を書評するにあたって、本書が本当に就職活動における大きな戦力となりうるものかどうか、という実質的な評価をくだすことはできない。その点をあらかじめことわっておいたうえで、あくまでひとつの「読み物」として本書をとらえ、また評価することは可能だろうと思い、本来は小説かノンフィクションに限っていた方針を曲げ、本書のリクエストに応じることにした。

 どうやら本書によると、採用テストにSPIを用いているのは、全体の50パーセント程度であり、残りはそれ以外の採用テストや、あるいは企業独自のテストを用いているらしい。SPI対策の本が市場に溢れ、誰もが高得点をとれるようになった、という事情もあるだろうが、「SPIを押さえておけば採用テストはほぼ問題ない」と言われてきた、私が就職活動をしていた頃とは、企業側の採用方針もずいぶん変化してきたものである。

 それだけ、企業側も本当に役に立つ人材を手に入れようと必死だ、ということなのだろう。なかなか底の見えない不景気がつづく今の世の中で、いかに会社にとって有益な人材を確保するか――考えてみれば、その人がどのような能力を持っているのか、あるいはその人がどのような性格の持ち主なのか、テストを受けさせるだけで本当にわかるのであれば、企業にとってこれほどありがたいものはないだろう。

 企業側がより良いと考える新しい採用テストを導入し、その採用テストをいかに攻略すべきか、という対策本が出版されていく――まるで、インターネットにおけるウィルスとワクチンソフトのようないたちごっこを繰り広げる両者であるが、そもそも受験などと異なり、その人の能力や性格を測るものであるはずの採用テストであるにもかかわらず、なぜ「対策本」などというものが存在するのだろうか。そのテストの結果が、採用後も配属や昇進の要素として大きな影響をおよぼすものであることを考えたとき、ありのままの姿勢でテストに臨んだほうが、適性のない会社に採用されてしまったり、能力もないのに見当はずれの部署に配属されたりして苦労することもないのに、と思うのが普通ではないのか。

 これは、本書にかぎったことではないが、はっきり言ってしまえば、就職対策本の根底にあるのは、「採用テストの精度など、あまりアテにならない」というスタンスである。本書においてはその傾向がとくに顕著で、SPIの性格テストの項目などでは「しっかり裏技をマスターして、回答をコントロールしましょう」とまで言い切っている。これはある意味、詐欺行為のようなものであるが、それを理不尽だとするなら、たった一回の採用テストでその人の能力や性格を決定してしまい、あまつさえ足切りの材料にしてしまう企業側のほうこそ理不尽ではないのか、という考えが、就職対策本のなかにあることはたしかだ。
 もし本当に、その人が目指す企業なり業界なりがあったとして、たかが採用テストの結果でその道が閉ざされてしまうのであれば、それは仮に、適性のない企業や部署に配属されることよりも不幸なことではないか――本書の袋とじのなかに込められているマル秘情報は、何より「やる気」と「夢」を抱いて就職活動に臨んでいる人への、熱いエールなのだ。だからこそ、本書のなかにある例題は、ただその解答法を教えるだけでなく、なぜこのような問題を出すのか、企業側の意図についてもきちんと説明しているのである。

 人はどんな逆境に立たされても、自分なりの「夢」を心に抱いているかぎり、大抵のことは乗り越えることができるものである。それは、たとえ自分の性格や能力を偽ってでも、自分の望む職場を手に入れさえすれば、あとは本人の努力次第でどうにでもなる、ということでもある。人は常に同じわけではなく、その気になればいくらでも変わっていけるものなのだ、という信念――本書の存在は、「就職対策本」という実用書のなかに、たしかにひとつの物語があることを教えてくれた本でもあった。(2002.05.09)

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