【青空文庫/ポット出版/???】
『スレイヴ』

畑仲哲雄著 



 もし、これを読んでいるあなたが本書を読もうと思うなら、もっともてっとり早いのは、ここをクリックすることだ。そう、本書『スレイヴ』は基本的に電子データの形で存在する作品、しかも驚くべきことに、著者が著作権の一部を放棄し、無断複写・改編を許可するという前代未聞のとり決めをおこなったうえで、あえてネット上でその全文を公開した作品である。もちろん、パソコンを使って読む限り、料金は無料(ただし、ドネーション小説として郵便為替か切手による寄付金をお願いしている)である。
 本書の詳しい内容については、すでに書評ホームページの「書評パンチ」のコラム(出版業界の常識を打ち破った小説『スレイヴ』に注目! 多村栄輝著 現在はぺーじなし)に掲載されているのでここではあまり多くは書かないが、この小説の本質は、コピーすることの可能性にあるのではないかと私は考える。

 本書は、亀井という中小企業のサラリーマンが「スレイヴ」という名の手のひらパソコンを手に入れることで物語がはじまる。このスレイヴというパソコン、実はエディターから辞書から通信ソフトから、すべてが違法コピーでつくられた代物なのである(そもそもOSがM−AME−DOS、マネドス、真似どすと来ているから、笑える)。だが、その性能はWindowsやMacなどと同等以上でありながら、いろいろな機能がボタン一発で起動できて便利であるうえに、コンパクトで安いという、あらゆるOSの良いところをすべて詰めこんだという優れものなのである。

 違法コピーは著作権違反であり、犯罪であることは事実である。だが、「原著作権者よりそれを管理する企業の権益を守るために運用される場面ばかりが目につ(「スレイヴ」脚注より抜粋)」く現状において、あきらかに消費者にとって便利な設計になっているはずの手のひらパソコン「スレイヴ」は、いったいどういう立場にあるのだろう。いや、そもそも人間という生物が、父親と母親の遺伝子という情報をコピーし、それを組み合わせて子孫に伝達していく性質のものであることを考えたとき、そして地球の生命がそのことによって多様化していったという事実を考えたとき、違法コピーという言葉はなんとも胡散臭い響きを持ってくる。人々があらゆる情報を共有し、その情報を積極的に改良し、よりよいものを生み出すこと――その第一段階にあるコピーという行為が、そうした進化の可能性を持っていることも、また事実なのである。

 本書の著者は、本書『スレイヴ』の無断複写・改編を許可している。むしろ、それを望んでいると言ってもいい。それは、多くの人にコピーされ、書きなおされることによって、本書が今以上に良い作品に進化する可能性を大事にしたい、という想いがあってのことなのだろう。それはたったひとつの物語、たったひとつの結末しか用意されないこれまでの小説の形を打ち崩すことにもつながる。

 新しいもの、新しい試みは、えてして他人の目には奇妙なものとして映るものである。本書も、そして著者の考えもそうとうに変だ。だが、こういった考えを持つ人が多く集まれば、あるいは未来はもっと良い方向に向かうのではないだろうか。そんな可能性を持つ本書『スレイヴ』を、ぜひ一度読んでみてほしい。(1999.02.26)
『スレイヴ』が読めるホームページ
Tetsuo Hatanaka's Homepage(畑仲哲雄)
青空文庫

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