【河出書房新社】
『ラジオデイズ』

鈴木清剛著 



 何気ない日常を描く小説がある。このような物語を、不特定多数の読者がちゃんと読めるような小説として仕上げるのは、じつは非常に難しい。何か大きな事件を起こすことで読者の興味を引く、という手法は使えない。といって、ほんとうに何気ない日常を書いても面白くない。この手の小説では、書かれていることに対して読者がどれだけ共感してくれるかが重要になってくる。それは、読者の言いたいことをどれだけ代弁してくれるか、ということでもある。

 『ラジオデイズ』という小説は、そういう意味ではおそらく今の若者の言いたいことを充分に代弁してくれる小説のひとつに数えられる。高校を出たのち、工場ではたらくカズキのもとに、十年以上も音沙汰のなかった友人のサキヤがふらりと現れて、一週間カズキのアパートに居候する、という、ただそれだけといってしまえばそれだけの話。だが、自分が何をしたいのか見出せないカズキに、とにかく夢を持って前に進もうとするサキヤに、やりたいことと現実のギャップに悩みながらも明るく生きていくチカに、今の若者の多くは共感するものを見つけるのではないだろうか。

 起きて、働いて、飯を食って、寝て、たまに遊んだりSEXしたりする。そしてときどき考える。ほんとうにこのままでいいのだろうか、と。だが、だからといって何をすればいいのか。そもそも今の世の中で、安定した生活を捨ててまで、夢をもって生きることがほんとうに幸せなのか。夢とは何か――。おしつけがましい主張があるわけではない。むしろひかえめですらあるこの小説は、けっして今の若者(私も含めた)の持つ悩みに答えてくれるわけではない。答えてはくれないが、何か救われたような感じがする。「いいんじゃない、そのままで」と言われたような気がして。そしてまた、今日という現実を生きていこうという気になる。

 こういった小説は、後世に残るような傑作とは言えないのだろう。しばらくすると話の内容すら覚えていないだろうと思う。しかし、この小説の中のどこか一部分、どこかの一行、あるいはその雰囲気みたいなもの、そういった何かが心のなかに残るかもしれない。『ラジオデイズ』。まさに何気なくつけたラジオの、曲名も知らないけどどこか印象に残る曲のような小説だ。(1998.10.28)

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