【トレヴィル】
『パール』

川西蘭著 



 世界の終末――これまでの文明社会のすべてを破壊するカタストロフと、その後につづく荒廃した新世界を扱った物語は、漫画、映画、小説といったジャンルの別なく、けっこうな数にのぼる。あるいはそれは、さまざまな問題を抱え込んで八方ふさがりになってしまった今の世界の価値観を、どんな形でもかまわないから一度大きく変えてみたい、というある種の欲望を持つ人間の多さを示しているのかもしれない。

 本書『パール』で描かれるのは、そういったひとつの文明が崩壊した後に生まれた<ランド>と呼ばれる世界だ。そんな世界のなかで、ケンとレイはお互いに協力しあって生きている。暴力が横行し、環境汚染がすべての生き物を侵蝕する劣悪な環境で、乏しい食料をなんとか確保する――およそ生きるだけで精一杯ではあるが、旧世界の産物と思われる安全なねぐらを持つふたりは、ふたりだけで完結する、それなりにバランスのとれた世界を築いてきたと言ってもいい。

 だが、そんなふたりの生活に第三者が闖入してきたとき、そこに保たれていた微妙なバランスは崩れ、ふたりに変化することを強制する。パールと名乗る少女――銀色の髪と透けるような白い肌の、不思議な魅力を漂わせる少女との出会いは、伝染病によって女性の絶対数が圧倒的に少ない新世界に生きるケンにとって、まさに衝撃的な事件だった。
 記憶を失い、帰る場所もわからないバールに同情し、徐々に彼女に魅かれていくケン。だが、レイはなかなかパールに対する警戒心を解こうとしない。それが、たんにパールが得体の知れないよそ者だから、という理由だけではないことに、レイ自身も気づいている。パールとの出会いは、レイにとっても衝撃的な事件だったのだ。
 ケンとレイとパール――それぞれの心によぎる様々な想いや思惑。だが、物語はそんな三人のことなどおかまいなしに、より大きな運命の流れの中へと三人を巻き込んでいく。はたして、パールは何者なのか。彼女と「バンク一族」と呼ばれる存在とは、どんな関係にあるのか。そして、三人の奇妙な三角関係の行きつく先は?

 本書を読み終えて私が思うのは、ケンとレイにとって、パールは一種の通過儀礼だったのではないか、ということだった。無知から既知へ、そして子供から大人へ――物語の中でパールは神秘的であると同時に、多分にセクシュアル的でもある。パールは女としてケンを誘い、ケンは自分の中の男性的要素に徐々に目覚めていく。同じように、パールという存在はレイにとって、自分とケンとの性の違いをあらためて思い知らせる要素だった。そしてそれまでの自分――強いレイ、保護者としてのレイ――との葛藤に苦しむことになる。

「ケン」とかすれ声でレイが言った。「俺は列車に乗りたいと思う。どこか別の場所に行きたいと思う。ここは、俺たちがいる場所じゃないんだ。どこかにきっと俺たちにふさわしい場所があるはずだ」

 悩み、苦しみ、そして傷つき傷つけられて、人は成長する。そういった意味で、本書は典型的な成長物語だと言える。ケンとレイが生きる新世界<ランド>、そしてパールが導く壮大な物語を、ぜひ味わってもらいたい。(1999.04.25)

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