【文藝春秋】
『くっすん大黒』

町田康著 
第19回野間文芸新人賞受賞作 



 ぎゃはははははははは、うはははははははは、ひー、ひー、く、苦しい、ひひひ。
 ……あ、これは失礼した。いやー、小説を読んで大爆笑してしまったのは、いったい何年ぶりだろう。何がおかしいって、冒頭にいきなり「おおブレネリ、あなたのおうちは何処?」と歌い出して、「ほーとランランラン」ときて、「やほほ」と終わったかと思うと、また「おおブレネリ……」と歌い出すのだ。そしてそんな自分を阿呆かと分析したりしている。笑わないでいられるほうがどうかしている。

 私が今持っているハードカバーの本書『くっすん大黒』には、表題作のほか『河原のアパラ』という作品のふたつが収録されている(ちなみに上述の「ほーとランランラン」は『河原のアパラ』の冒頭である)。で、内容はというと……そもそも内容と呼べるようなものがあるのかどうかも疑問なのだが、ともかく、うだつのあがらない怠け者の貧乏人が、じつにどうでもいいような事柄にとらわれて苦心したり、とりとめもない妄想を膨らませたり、わけのわからない人たちにとんでもない目にあわされたりするという、ただそれだけと言えばそれだけの話なのである。
 たとえば『くっすん大黒』では、本人いわく「腐れ大黒」の置物が出てくるが、どうにもバランスが悪いらしく、何回起こしてもいつの間にか倒れてしまう。本人はこれが気になってしょうがない。そのうち我慢できなくなって捨てようと思うのだが、さて不燃ゴミなのか粗大ゴミなのかが気になってしまう。そもそもこんなものを捨てて、これを見た者がどう思うかまで考えてしまい、どうにもうまくいかない……。

 ……本当にどうでもいいような内容だな、こりゃ。だが、そんな登場人物の様子がいかにも人間味にあふれていて、思わず笑いを漏らしてしまう。
 地の文と会話文、情景描写と心理描写、さまざまな種類の文章を明確に区切ることなく、すべてを同じような調子で流していく、書き言葉というよりも話し言葉に近い文章、「コカカカーカコカカー」「チャッチャッチャッ」「りゃあーん、りゃあーん」といった擬声語、そして「げらげらげら」「おほほほほほほほほ」「ふん」「ぎゃああ」などの、懐古的な直接語。こういった要素をうまく組み合わせた本書を読んでいると、小説というよりも、漫才師か落語家の話をそのまま文章に写しとったものを読んでいるかのような気分になる。

 あきらかに普通の人間とは違う、魅力的なキャラクター、普通に生活していてはけっして起こりそうもない大事件、そして波瀾に満ちたストーリー展開……こういった物語は、面白いのが当たり前である。だが、どこにでもいそうな平凡な人間の、ぜんぜん爽やかでもない行動を題材にしながら、ここまで愉快な物語に仕上がっている作品も珍しい。しかも、著者の町田康は大阪生まれのパンク歌手だそうだ。彼がこのまま作品を出しつづけるとして、彼の書く文章がこれからどのような変化を見せることになるか、個人的にとても興味深いところである。(1999.01.19)

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