【バジリコ】
『へんないきもの』

早川いくを著 



 まさにそのタイトルどおり、変な生物大集合という本である。小学生を対象としたカラー図鑑のように、その生物の名前とイラスト(ただし白黒)、そしてその生物のどの部分が「へんないきもの」なのかを解説する文章によって構成されており、そんなふうにしてとりあげられた生物の数は、じつに60種を超える。よくぞここまで珍種・怪種を集めてきたものだと感心することしきりであるが、その内容をよくよく読んでいくと、本書がただたんに「へんないきもの」ばかりを集めた図鑑のような本をつくりたかったわけではない、ということがわかってくる。

 その前に、本書に収められている「へんないきもの」の、珍妙さかげんの基準についてちょっと語っておこうと思う。まず最初の基準として、その姿かたちが奇妙奇天烈なもの、というのがある。まるで特撮映画に登場する宇宙怪獣のような、不気味でもあり、また見方によってはユーモラスでもある形体をした生き物たちである。便所すっぽんに春巻きをくっつけたような姿をした、ウミウシの仲間であるムカデメリベや、まるで大口をあけて笑っているかのようなオオグチボヤ、頭の上に奇妙なこぶをくっつけたヨツコブツノゼミ、ほとんど足だけの生き物であるウミグモなどがこれに該当する。

 次に、その姿かたちもそうであるが、それ以上に奇怪な行動をとる生き物、というのがある。まるで忍者のごとく迫真の「死んだフリ」を披露するオポッサムや、タコのくせにカニやウミヘビなどの形態模写をおこなうミミックオクトパス、クモはクモでも巨大な単眼をもち、クモの糸で投網をつくって獲物をとらえるメダマグモ、あるいは体内に海水をため、ジェット噴射させることで海上へと跳躍するトビイカなど、それまでの常識を覆してしまうビックリドッキリな大道芸人たちの姿がそこにはある。

 また、その種そのものが奇怪というわけではないのだが、おそらく突然変異か何かで「へんないきもの」として登録されてしまった生き物たちもいる。足が80本以上もあるタコや、甲羅に「ピースマーク」の模様がついてしまったヒライソガニ、なぜか全身が鉄板で装甲されている巻き貝などがこれに該当する。

 ほかにもその生態自体が奇妙なもの、科学者も真っ青な化学反応を武器にするものなどなど、じつにさまざまな「へんないきもの」たちが紹介されている。なかには「創作じゃないのか」としか思えない生き物たちもいるのだが、驚くべきことにこれらはすべて実在する、あるいは過去に実在した生き物たちである。この事実のほうこそが、あるいは驚くべきことなのかもしれない。じっさい、その解説文を読んでいても、なぜこのような形態をしているのか、なぜこんな奇妙な行動をとるのか、詳しいことはわかっていない、という文句に何度もぶつかることになるのだが、そんな彼らの姿を見ていると、いくら科学技術を発展させ、まるでこの地球の頂点に立っているかのごとくふるまっている私たち人間とて、この驚異の大自然のまえにはまだまだ暗中模索のちっぽけな存在でしかない、ということをあらためて思い知らされる。

 そう、本書に収められている「へんないきもの」たちをつうじて見えてくるのは、じつは私たち人間の姿――おそらく、この地球上でもっとも珍妙であり、またユーモラスでも不気味でも多種多様な生き物でもある人間の姿であり、言ってみれば本書は私たち人間を映し出す、きわめて奇怪な鏡としての役割をもっているのだ。本書の解説文は、多分にそうした皮肉めいた雰囲気に満ちているし、たしかに死肉をあさるメクラウナギの皮で高級革製品をつくってみたり、まるでエイリアンのような姿のワラスボの干物を「珍味」だと食したりするのは、人間だけだろう。

 そして、そのきわめつけとも言えるものが、「かわいい」という感情である。一時期、アゴヒゲアザラシがどこかの河に出現したのを期に「タマちゃん」などと名づけ、まるでアイドルのようにファンやカメラマンが殺到し、連日のようにニュースで報道したあげく、どこかの市が住民票を出す出さないの騒ぎにまでなったことを考えれば、本書にも指摘してあるとおり、この「かわいい」という感情が一筋縄ではいかない代物であることはおわかりのことと思う。本書のなかに収められているプレーリードッグやラッコ、アイアイといった生き物たちは、いっけんすると「へんないきもの」というにはあまりにメジャーな存在であるように思えるが、その解説文を読めば、なぜこれらの生き物が本書に名を連ねているのか一目瞭然だろう。そのかわいらしい立ち居ぶるまいとは裏腹に、他の巣穴を襲撃して子どもを食い殺したり、同じ巣穴どおしで壮絶な抗争を繰り広げているプレーリードッグ、仰向けに泳ぐ様子のかわいらしさとは裏腹に、北海道で養殖していたウニ4トンを食い尽くしてしまったラッコ、そしてその童謡のかわいらしい振舞いとは裏腹に、異様に長いかぎ爪で芋虫を引っかきだしでむさぼり食う夜行性のアイアイ――自然界での生きるそれらの生き物は、私たち人間が安易に「かわいい」などと称するにはあまりに生々しい生存競争にあけくれているのだ。

 この奇怪な地球上の生物たちの存在が、はたして進化論のなせるわざなのか、それとも「モノリス」のような何かの力の介入の結果なのか――そんな深い命題にも踏み込んでいるようにも見えるが、けっきょくのところ本書が言いたかったのは、そんな本を興味深く読んでいるあなたたち読者のほうがよっぽど「へんないきもの」だよ、ということではなかろうか。(2004.11.10)

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