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『ボクはハコネコ』
−箱根オフ会参加記念書評−

キャラクター・デザイン:池田有里/文:池田ヨシサト 



ハコネコ表紙 たとえば、「幸せになりたい」というのは誰もが一度は思い描く願いだ。でも、幸せはいったいどこにあるのだろうか。いや、そもそも幸せとは何なのだろう。そんなものが、本当に存在するのだろうか? 誰もが自分に自信を失い、先の見えない未来に、ふと気がつくと暗鬱なため息をついてしまうこの時代――たしかに、今の世の中は、素直に何かを信じることができにくい時代だと言うことができるだろう。でも、だからって、いつまでも「幸せになれない」なんて考えているのはナンセンスだ。

 もし、この書評を読んでいる人の中で、まだ自分の手で幸せをつかみたい、という積極的な心を持っている人がいたら、一度は箱根に足を運んでみるのもいいかもしれない。「21世紀の幸福を招く絵本」である本書『ボクはハコネコ』は、箱根に行った人だけが手にすることができる、夢いっぱいの絵本なのだ。

 本書に登場する、ちょっと特徴のある猫は、花ばかりを描いている芸術家の飼い猫である。「まだ名前はない」、とのことだが、そのタイトルからもわかるように、その猫は、一面に花が描かれた箱から首と手足を出している、まさに「ハコネコ」としか形容のしようのない姿をしている。しかも、その移動可能な猫小屋が、その猫にとってはお気に入りだという。どのページも一面の花で覆い尽くされたなか、花の絵だけが描かれた箱にピタリと収まっているハコネコ君――その笑顔は、くやしいが本当に幸せそうに見えてくる。

 ハコネコ君も、その飼い主である「ハッピー・アーチスト」も、いつも夢を描いている。そして、ことあるごとに、自分が「ハッピー」だと思っている。「二十一世紀の花咲爺になりたい」という芸術家の夢、そして「二十一世紀の幸福招き猫になりたい」というハコネコの夢――その想いを、幼稚な夢だと笑い飛ばすのは簡単だ。だが、心の作用は不思議なもので、いつも心が明るい人は、その周囲にいる人をも明るい気持ちにさせる力がある。そして、ハコネコは知っているのだ。いつも花ばかり描いている自分の主人のまわりに、いつも春の風が吹いていることを。

 きっとこの猫は、「ハッピー・アーチスト」の明るくやさしい心をそのまま受けとめて育ったのだろう。主人のハッピーの象徴である花でいっぱいの箱で身を包んだハコネコは、そのまま主人の愛そのものに包まれているも同然なのだから。そしてそのとき、ハコネコはすでに「幸福招き猫」になっているのだ。厳しい現実に打ちのめされ、顔では笑っていながら、心のどこかでねじれた気持ちを抱えて、純粋に幸せを信じることのできなくなった私たちにとって、その絶対の信頼に成り立つ幸福感は、なんと眩しく映ることだろう!

 そうなんだよ、心は磁石と同じで、心が明るく、安らぎを保つなかで、積極的に努力を重ねているならば、それだけの幸福を引き寄せてしまう力があるということ。

「ハッピー・アーチスト」が描く夢いっぱいの花に身を包んだ、夢を招くことができる世界でただ一匹の「ハコネコ」が、箱根にはたしかにいる。(2001.01.22)


入手方法:箱根登山鉄道「強羅駅」前にある土産屋さんで、「『ボクはハコネコ』ください」と言おう。