物語の一部となった表紙イラスト――『ななつのこ』考



 本という体裁をとった小説の表紙を飾るイラストは、実用書とかいった本のそれとはまた違った意味を持っている。小説の表紙イラストは、その小説の内容を想像するための大きなてがかりのひとつであり、それゆえに挿絵や表紙の絵を描くイラストレーターはしばしば、その小説に目をとおし、ときには作者本人と意見交換をしながら、その小説のイメージにあったイラストを描きあげていく。小説はその内容で勝負するべきものであり、挿絵や表紙イラストなどはむしろ想像力の邪魔になるだけだ、というのが私の基本的な意見であるが、加納朋子の『ななつのこ』を読んでいて、その考えを少しだけあらためる必要があると感じた。

 自分の住む町でおこった、ちょっとした事件の一部始終をファンレターと称して書き綴る駒子と、豊かな想像力をはたらかせてその事件の実像をもののみごとに披露する小説家佐伯綾乃の心あたたまる物語を描いた『ななつのこ』であるが、じつはその駒子が佐伯綾乃という作家の存在を知った一冊の本――その本のタイトルも「ななつのこ」という――を手にとる最初のきっかけとなったのは、その表紙イラストであった。
 麦藁帽子をかぶり、薄汚れたランニングシャツと半ズボンを身につけ、古い虫取り網を持ってじっとこちらを見つめている少年――豊かな田園風景をバックにしたそのイラストに、駒子はこんな感想を抱いた。そして、それがファンレターを書くことになるそもそものきっかけとなるのだ。

 それは非常に精密な絵だった。絵の中の少年は、今にも動き出し、きょとんと私を見つめそうなリアリティを持っていた。それでいて、全体にどこか幻想的とでも言うべきムードが漂っているのだ。
 不思議な絵だった。
(……懐かしい)
 わけもなく、そう思った。そして一人笑った。

 さて、私が今手にしている一冊の文庫本は、創元推理文庫版『ななつのこ』である。ここまで読んだ私は、ふと本書の中の同タイトルを持つこの文庫本の表紙イラストをあらためて確認しなければならなかった。「私もその表紙を見てみたい」――ふとそんな想いにとらわれたからだ。
 文庫本の表紙イラストは、駒子が買った本のイラストとは少し違っている。違ってはいるけど、非常にその雰囲気は似ている。上述の少年がいる。虫取り網もちゃんと持っている。だが、彼は小さな木製の橋に腰を下ろし、暮れなずむ夕焼けの空を見つめている後姿だ。虫取り網にはトンボが羽根を休め、下の川には魚の姿と、水面に映った満月がある。そして、少年の横には、おそらく年下であろう女の子が同じように腰を下ろし、両足をぶらぶらさせている。

 この女の子はいったい誰なのか? 読者はきっと、このイラストの意味に想像力をはたらかせることになるだろう。そしてその瞬間から、読者は駒子が住む物語の世界と同化する。小説の内容と、その表紙イラストが完全に一体化した――むしろ、表紙イラストそのものが小説の内容の一部と化した稀有な例ではないだろうか。

 いつだって、どこでだって、謎はすぐ近くにあったのです。

 本書がハードカバーで本を出したのか、それとも文庫本が最初だったのか、それは私にもわからない。だが、創元推理文庫版『ななつのこ』に関していうなら、謎は本書の中身だけでなく、こんな近くの、まさに読者の意表をつく表紙イラストのなかにだって存在していたのである。はたして、あなたはこの小さな謎に気がついただろうか。そして、その謎の答えをちゃんと見つけ出してあげられたであろうか。(1999.10.26)



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