八方美人でない随筆


2009年に読んだ本のベスト10

 今年は「ブッククロッシング」との出会いという大きなイベントがあったものの、読んだ本にかんしては例年と比べると不作だったように思えます。「八方美人なベスト」も、けっきょく今年は更新なしという状況・・・。

 とはいえ、今年のベストがまったく選べないということではありません。今年も例年どおり、この企画で締めくくりです。

 2009年に読んだ本のベスト10(一応同不順)

『告白』(湊かなえ著 双葉社)
なんとも後味の悪くなる話であるにもかかわらず、読まずにはいられない圧倒的な迫力をもつ作品。第五回本屋大賞受賞作ということで有名になったが、まさか本書が受賞するとは思わんかった。

『フェルマータ』(ニコルソン・ベイカー著 白水社)
時間を止めるという最強の能力と、その能力をなんともアホらしいことにしか使わない主人公のギャップとがなんとも微笑ましい作品。

『悼む人』(天童荒太著 文藝春秋)
話のうまさもさることながら、いっけんありえなさそうなキャラクター設定を、きわめてリアリティ溢れる存在として浮かび上がらせたその筆致が見事な一冊。

『モンテ・クリスト伯』(アレクサンドル・デュマ著 岩波書店)
全七巻という長さを感じさせない圧倒的な面白さ。復讐に生きながらも、いっぽうで復讐鬼になりきれない主人公の葛藤など、読みどころはてんこ盛りです。

『トゥデイ』(安田賢司著 新風舎)
これまでの「タイムトラベル」の概念を一新させるそのアイディアに脱帽。今年一番のインパクトを与えられた作品。

『マイクロソフトでは出会えなかった天職』(ジョン・ウッド著 ランダムハウス講談社)
ノンフィクションではこの作品が一番印象に残った。世界を変えていくための尽きない情熱もさることながら、かつて勤めていたマイクロソフトでの経験をちゃっかり活用しているところがなんとも心憎い。

『ねたあとに』(長嶋有著 朝日新聞出版)
これぞまさに「その人」でなければ書けない小説の代表格。ただ避暑地の別荘で退屈しのぎにいろいろな遊びをするというだけの話なのに、なぜこんなにも面白いのだろう。

『雷電本紀』(飯嶋和一著 小学館)
江戸時代の伝説的相撲人「雷電」の生涯を書いた作品。本人の意思とは無関係に、彼に大きな期待と希望を持たざるを得なかった弱き者たちの無言の叫びがむしろ痛々しい。

『1000の小説とバックベアード』(佐藤友哉著 新潮社)
「ごめんなさい舐めてました」作家パート1。小説というものへの並々ならぬ思い入れが、物語のなかに溢れかえっている、奇跡的な作品。

『重力ピエロ』(伊坂幸太郎著 新潮社)
「ごめんなさい舐めてました」作家パート2。人間の強い思いが、ときに圧倒的な現実をも覆すということを、力強い筆致で示してみせた一冊。

 次点

『西城秀樹のおかげです』(森奈津子著 早川書房)
タイトルのインパクトもさることながら、SF、コメディー、エロと三拍子揃った、馬鹿馬鹿しくも面白いアブノーマル至上主義小説。

「読書初心者」に何を勧めるべきなのか

「忙しくて」本読めぬ30代 4人に1人「1カ月0冊」(asahi.com 出版ニュース/2009年10月21日)

 上記リンク先にある朝日新聞の記事によると、1ヶ月に1冊も本を読まない人が、どの世代にも4分の1はいて、その理由として「仕事、家事、勉強が忙しくて時間がない」が3割、「読みたい本がない、何を読んでいいかわからない」が2割という調査結果が出ている。

 こうした回答が返ってくるということは、少なくとも「本を読みたい」という意思がまったくないというわけではない、と考えることもできるのだが、ではこうした事情を抱える人たちに本を読んでもらうためには、どのような本を勧めるべきなのだろうか。

 たとえば「時間がない」という人に対しては、わりと簡単に答えは出てくる。できるだけ短い時間で手軽に読み終えることができる本、ということになる。良くも悪くもあまり頭を使わずにスラスラと読める娯楽本やエッセイ、あるいは短編集やアンソロジーなど、読書の間隔が空いても再読に支障をきたさない本などがいいだろう。問題なのは、「読みたい本がない」という人たちである。彼らは読みたい本を普段から探していて、それでも「読みたい本がない」という結論を出しているのか、あるいはただ単に「読みたい本を探すのが面倒くさい」とか、「手っ取り早く本を探す手段がない」とかいうことなのか、上記記事だけでは判断がつかないのだ。

 自分が読みたい本がわからない、あるいは読みたい本の探し方がわからない、というのは、それだけ本と接する機会が少なかったということで、「読書初心者」であるととりあえず定義してみる。だが、そんな彼らの読書への意欲を損なわないような本となると、けっきょくのところ、「時間がない」人に対する本と似たり寄ったりということになってしまう。ようするに、スラスラ読めて、誰が読んでもそこそこ面白い、さらにさほどページ数も多くないという、無難な本だ。そしてなぜそんな結論になってしまうのかと言えば、おそらく彼ら「読書初心者」は、読書に興味はあるものの、面白くない本や、よくわからない本を手にすることで、貴重な自分の時間を無駄にしたくないのではないか、という勘ぐりをしてしまうからに他ならない。

 そのときそのときの自分のフィーリングに合うような本を探す、というのは、簡単なようでいて難しい。それができるようになれば、その人はもう立派な読書人だと言えるだろう。だから、「読みたい本がない」なんていう人に対しては、「なんでもいいからとにかく乱読してみろよ」と言いたくなってしまうのだが、そんなふうに突き放して、けっきょく読書から離れてしまっては本末転倒だ。だからこそ「読書初心者」に本を勧めるのは難しいものがある。

 先日、2冊の本を読了した。ひとつは飯嶋和一の『雷電本紀』、もうひとつは川上健一の『ららのいた夏』。前者は江戸時代に活躍した伝説的相撲人、雷電の生涯を描いたもの、後者は陸上長距離の才能をもつ女子高生の活躍を描いたもので、いずれもある意味でスポーツ小説というくくりにすることができるが、いずれの作品も読んだ方であれば、このふたつの作品を一緒にすることに、かなり無理があると感じるかもしれない。じつは、私もそう思っている。

 上記2作品のうち、どちらを「読者初心者」に勧めるかということであれば、私は迷うことなく『ららのいた夏』を選ぶ。なぜならこの本は、まさに「スラスラ読めて、誰が読んでもそこそこ面白い」「無難な本」の見本のような内容であるからだ。では、『雷電本紀』は面白くないのかといえば、けっしてそんなことはない。むしろ私が今年読んだなかでは、間違いなくベスト入りする傑作である。だが、少なくともスラスラ読めるような本ではないし、また著者独特のテーマ性や文体のクセなどがあって、誰にでも受け入れられるたぐいの本というわけでもないのだ。しかしながら、一度その世界に入り込んでしまえば、無双の相撲人雷電の生きざまが読み手の魂を震わせ、興奮させられるだけのものを、たしかにもっている。

『雷電本紀』と『ららのいた夏』、どちらが面白いとか、優れているとかいったものはない。ただ、「読書初心者」であるという理由だけで、『雷電本紀』のような、クセはあるけど歯ごたえのある作品をあえて外すというようなことは、できればしたくはないし、むしろそうした作品にこそがっつりと取り組んで、読書の幅を広げてほしいとも思うのだが、どんなものだろう。(2009.11.02)


ブッククロッシングゾーンをめぐってみた(その5)

 ひとつはっきりさせておかなければいけないことですが、私はべつに「飲んべえ」というわけじゃないんですよ。お酒はけっして強いほうじゃないし、アルコールが入るとすぐ顔に出てしまうくらいで、たいして飲めるクチじゃないんです。

 でもね、ブッククロッシングゾーンを置いてくれている店舗があると聞けば、ゾーンをいろいろ巡ってみようと思っている私としては、やはり行かざるを得ないですよね。そしてその店が、ビールとかカクテルとか、そういう大人の飲み物を提供するところだとすれば、礼儀として注文せざるを得ないですよね。

 というわけで、池袋駅西口にあるふたつのブッククロッシングゾーンは、どちらも午後5時から営業の、気軽にアルコールを楽しむことのできるハプだったりします。

 まずはHUB池袋西口店。チェーン展開しているイングリッシュ形式のパブで、私の住んでいるところにも最近できたのですが、ゾーンがあるのは池袋西口店だけです。


JR池袋西口を出てすぐ左側にある通りを進んで・・・


少し進むと右手にあります


 店内はけっこう広くて、カウンターのほかにもテーブル席がいくつも用意されていました。ちなみにブッククロッシングゾーンは、店内奥のカウンターの左端に設置されています。


 メニューとしては、各種ビール、ワイン、ウィスキー、カクテルのほかに、軽食やおつまみも注文できます。料金は前払い制。カウンターで飲み物を注文して席に着く、という形式です。トマトベースのビールや、マンゴー味のビールといったものもありました。


 次にCAMDENTOWN。こちらもイングリッシュ形式のパブで、今度は池袋西口を出てすぐ右側の通りにあります。


 こちらは店内こそ広くはないですが、いかにも落ち着いてアルコールを楽しむ大人の雰囲気が漂っています。ひとり黙って本を読みたい方向きのパブです。


 ブッククロッシングゾーンは、入ってすぐ右側のカウンター席のところにあります。お店の方とも少し話をすることができたのですが、けっこういろんな人が本を持っていったり、また持ち込んだりしているそうです。

 世界各国のビールが楽しめるほか、カクテルや簡単なフードなんかも注文することができます。そしてここでは、メニュー内のカクテルについて、午後7時まで全品半額というハッピーアワーが毎日実施されていました。

 というわけで、ここ数日はけっこう酔っ払っている状態だったりするのですが、べつにお酒が飲みたいから行くんじゃなくて、ブッククロッシングゾーンがあるから行ってるんですよ。ホントですよ。(2009.08.06)

ブッククロッシングゾーンをめぐってみた(その4)

 東京都中目黒にあるCOW BOOKSは、ブッククロッシング・ゾーンを日本で最初に設置したということで、以前から行ってみたいと思っていた場所のひとつでした。

 東急東横線の中目黒駅から歩いて10分くらい。大通りから横道にそれたところにある川沿いの道にある古本屋です。13:00〜21:00まで営業。月曜定休。


 店舗はけっして広くはありませんが、どこかのバーのような落ち着いた雰囲気があるようで、しかし店内の四方に電光掲示板がグルグル回っていたりと、なかなかに不思議な空間が演出されています。

 棚に並べられた本は、古本が雑多に並べられているという感じではなく、お店側のこだわりをうかがわせるようなチョイスが感じられます。まるで、売り物というよりは、何かの展示品のような印象さえあります。

 ブッククロッシング・ゾーンは店舗奥の木製の箱に収められていました。


 お店の中央にはテーブルがあり、雑貨物などが売り物として置かれていますが、そこでコーヒーを注文してくつろぐこともできます。本屋とブッククロッシングというのは、個人的に珍しい取り合わせとか思ったのですが、話を聞くと、売り物にならないような本を置いたり、その本を読むためにお客さんがやってきたすることもあるそうです。

 単純に本を売る、ということだけを目指しているのではない、独自のこだわりをもつ本屋ということで、それだけでも一度立ち寄ってみる価値はあるかもしれません。(2009.07.27)

ブッククロッシングゾーンをめぐってみた(その3)

 東京都の渋谷区界隈には、とくにブッククロッシングゾーンが多くなっていて、なかなか面白いことになっています。

 まずはNADAR。ここは、写真作品を発表するギャラリーや写真好きな人たちが集まるサロンとしてのスペースを提供しています。


 二週間くらいをサイクルとして、写真の展示会や発表会、また写真教室などが随時催されています。入場無料。

 ブッククロッシングゾーンは、じっさいにはNADARのなかにあるのではなく、ビルのエレベータ脇に置かれています。


二階で降りたすぐ左側にゾーンが

 スタッフの方のひとりにお話を聞くことができました。彼はもともと本が好きなのですが、読み終えると誰かにやってしまうことが多かったらしく、そういう部分でブッククロッシングの活動とマッチするものがあったそうです。
 ゾーンそのものは小さいですが、いずれ本が増えるようなことがあれば、もう少し考えないといけないですね、と答えていました。


 次にLav。「セミオーガニック」をコンセプトに、ちょっと身体にいい飲み物や料理を提供してくれます。


 ブッククロッシングゾーンはお店の外。けっこう雨風に厳しい場所のように思えるのですが、それも店長の「信念」らしいです。じっさいには屋根があるので問題ないそうですが、ブッククロッシングの看板が風で飛ばされる、なんてこともよくあるそうです。

 お店のなかには、「日記」をテーマにした別の本棚があったりして、そういうところへのこだわりの強さがうかがえます。ちなみに、右下の画像の料理は「ガレット・コンプレット」、ピザのようなクレープを想像してください。


 まだ原宿や中目黒あたりにもゾーンはあるのですが、それはまた次の機会に。(2009.07.05)


 

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