八方美人でない随筆

2005年に読んだ本のベスト10

 やっぱり今年もこれで締めくくろうかと思います。「超・八方美人なベスト」とは別に、本選びの参考などになれば幸いです。

 2005年に読んだ本のベスト10(一応同不順)

『ニューヨーク』(ベヴァリー・スワーリング著 集英社)
 新天地アメリカ大陸で何代にもわたって繰り広げられる壮大な人間ドラマは、文句なしの面白さだった。

『その名にちなんで』(ジュンパ・ラヒリ著 新潮社)
 異なる文化、異なる世代という縦横の糸で編み上げられていく静かな物語は、今でも独特の印象を心に残している。

『第三の時効』(横山秀夫著 集英社)
 刑事が心底カッコイイ! と感じたのは、本書がはじめてでした。

『Think 夜に猫が身をひそめるところ』/『Bolero 世界でいちばん幸せな屋上』(吉田音著 筑摩書房)
 書評することが野暮になりそうな雰囲気を持つ作品。とくに『Bolero〜』に出てくるレコード屋のエピソードは秀逸。

『探偵術教えます』(パーシヴァル・ワイルド著 晶文社)
 ピーター・モーガンと「主任警部」の絶妙なボケとツッコミは爆笑必至です。

『ベルカ、吠えないのか?』(古川日出男著 文藝春秋)
 「イヌ、イヌよ、お前たちはどこにいる?」

『神の名のもとに』(メアリー・W・ウォーカー著 講談社)
 モリー・ケイツもよかったが、何よりウォルター・デミングが子どもたちに語る「ジャクソンビル」の顛末に泣いた。

『蚊トンボ白鬚の冒険』(藤原伊織著 講談社)
 蚊トンボなのに妙に人間臭いところのある「白鬚」のキャラクターが秀逸。

『退屈姫君伝』(米村圭伍著 新潮社)
 めだか姫はイイ! そしてお仙ちゃんはもっとイイ!

『れんげ野原のまんなかで』(森谷明子著 東京創元社)
 図書館への愛が感じられる作品。子どもやお年寄りへのさりげない優しさも好印象。

 次点

『告白』(町田康著 中央公論新社)
 個人的にあまり合わなかったが、それでもこの作品のやろうとしていることの凄さは変わらない。

『となり町戦争』(三崎亜記著 集英社)
 まさか、こんな形で「戦争」というリアルが書けるとは!

私と読書とこたつ

 私が冬に読書するときは、こたつに入って寝転んで読書、というスタイルが確立されていた。二年前に読書スタンドを手に入れてからは、布団のなかで仰向けになって読書、というスタイルも加わることになったが、とくに休日に、気軽に本に手をのばすような場合は、こたつで寝転んで読書、というパターンが今もけっこう多い。

 そんな私の楽しい読書ライフを支えてくれたこたつが、ついに故障してしまった。

 よくよく考えてみれば、学生のときからずっと使いつづけてきた年代もの(91年生産)のこたつで、それなりに愛着もあったのだが、昨日の昼間までは普通に使えていたのに、ふと燃え尽きたかのようにヒーターが効かなくなってしまったのだ。スイッチを入れてもファンが回るだけ。いろいろ試してみたが、結果は同じ。

 今日、サービスセンターに連絡をとり、故障内容を話したところ、「交換部品のひとつがすでに生産中止となり、必ずしも修理ができるとは保障できない」と言われ、仕方なく新しいこたつを買おうと決意。

 ・・・で、先程某電化製品店から帰ってきた私が手にしているのは、じつはこたつではなく、電気カーペットだったりする。

 主な理由は、以下の通り。

1.思ったほどいいこたつが売っていない。
2.どうやら今の時代はこたつより、電気カーペットのほうが主流になりつつあるらしい。
3.新しいこたつを買うと、古いこたつは粗大ゴミとして始末しなければならず、その手続きが面倒。
4.安いうえに持ち運びもラク(これ重要)。

 というわけで、壊れたこたつはそのまま普通のテーブルとして使いつつ、電気カーペットを床に敷いて使うことになった。よくよく考えてみれば、上から温めるか下から温めるかの違いだけなのに、なんで今までこたつにこだわっていたんだろう。
 買った電気カーペットは二畳分のもので、温度調整はもちろん、左右どちらかだけを温める切り替えもできる、値段のわりには優れもので、今のところ壊れたこたつ+こたつ布団+電気カーペットという組み合わせと、普通のこたつとさほど違いなく使えている。

 今までお世話になってきたこたつは、もうこたつとしての機能は失われてしまったが、普通のテーブルとしても、また電気カーペットとの併用でこたつとしてもまだまだ現役で使えることがわかって、ちょっと嬉しくなった。

 これからも読書する私をしっかりと受け止めてほしいところだ。(2005.12.10)

PS2専用ゲーム「THE鑑識官」

 少し前に、もろやんさんのサイト「ぐうたら雑記館」で話題になった「THE鑑識官」(コンシューマー機「プレイステーション2」専用ソフト「SIMPLE2000」シリーズのひとつ)というゲームをプレイし、ようやくクリアすることができた。

 プレイヤーは半民半官の鑑識専門組織として、おそらく法人扱いとなっている科学捜査研究所(通所「科研」)に就職が決まったばかりの新米鑑識捜査官「江波識子」となって、警察や民間から次々と舞い込む事件や依頼を解決していくという推理アドベンチャーゲームで、基本的に現場へ行ってさまざまな物証を集めてくるパートと、集めた物証を科研に所属するそれぞれの専門課の人(化学課、物理課、指紋課など)に鑑定してもらい、それまで見えてこなかった情報を取得するパート、そして集まった情報から事件の真相を推理するというパートの3つで構成されている。

 ゲームシステムの特長や難易度のバランスといった部分は、おそらくゲーム紹介サイトや攻略サイトなどでも取り上げられているだろうから、ここではあまり多くは触れないが、小説があくまで作中に登場する主人公の物語であるのに対して、ゲームではプレイヤーと主人公は非常に近い立場にあり、自分がある程度考えて主人公を操作しないかぎり、ゲームが進んでいかないという特徴がある。ゆえに、ゲームを楽しむためには、プレイヤーがどれだけ自分の分身であるゲーム中の主人公と同一化することができるか、言い換えれば、どれだけ主人公を好きになれるか、というのが重要なポイントのひとつだと考えているのだが、この「THE鑑識官」というゲームに関しては、主人公に「新米の」鑑識捜査官という設定を与えることで、奇しくもそのポイントを高くすることに成功している。

 その点を一番強く感じるのが、現場から得た物証を各専門課に回して鑑定してもらうというパートで、ゲームの最初に一応、どこの課がどんな物証の担当であるかの説明をひと通り受けるのだが、まだゲームのシステムに慣れていないプレイヤーは、次々と出てくる物証に対して、どこに鑑定してもらえばいいのかの判断におおいに迷ったりする。なにしろ専門課は「法医」「指紋」「科学」「物理」「情報」「生物」「交通」の七つもあり、悩んだ末に物証を回してみると、「ウチではあつかえない」「専門外だ」と突っ返されることもしばしば。こうした判断ミスは、もちろんプレイヤーの判断ミスであるのだが、同時にそれは、いかにも新米鑑識捜査官である江波識子というキャラクターがしでかしそうなミスでもあるのだ(ちなみに、江波識子は警察学校を卒業しているという設定であるが、学校で学んだことと現場で学ぶこととが大きく異なるというのも、現実世界でよくありうることである)。

 しかし、全部で10のシナリオで構成されているこのゲームをひとつずつクリアしていくうちに、プレイヤーのほうも徐々にコツをつかんできて、ミスなく鑑識に回すことができるようになる。どころか、あえて違う課に回してみて、その反応を楽しんだりすることさえしてしまう。もちろん、ゲームのなかでは主人公もまた、いくつかの事件を担当することによって経験を積んできたはずであるのだが、ことこのゲームに関して言えば、ゲームを続けていくことで、自身の成長と主人公の成長を、数値やパラメータといったものではない部分で共有している、と思わせてしまうところがあるのだ。そしてそれは、否応なくゲームの主人公への愛着へと変わっていく。

 この「THE鑑識官」というゲームには、ゲーム中の登場人物とそれぞれのシナリオが密接にかかわっている部分が非常に多い。たとえば、全シナリオを通して江波識子に推理の助言をしてくれるご先祖様、江戸時代に同心だったという「江波査之介」は、同時にプレイヤーにとっても推理の筋道を指し示す役割を担ってくれるし、また「江戸の闇」というシナリオでは、彼が江戸時代に解決できなかった事件を、資料館の物証などから推理していくという点で、物語に大きくかかわってくる。また、江波家に長く住んでいる怪しい猫の「鑑太」は、いっけん物語をかき回すトラブルメーカーでありながら、じつは物語をしかるべきハッピーエンドに導くために必要不可欠なはたらきをするキャラクターでもある。そのほかにも、シナリオを進めていくことによって、各課の担当者や、よく主人公と組んで事件を捜査する女刑事「寒川怜」といった人物の意外な一面を知ることができる、ということが多く、こうした要素が、これらの登場人物をたんなるシステムのひとつとしてではなく、たしかな個性をもつ人間としてプレイヤーに認識させるのに一役買っているのは間違いない。とくに、このゲームの最後に来るシナリオ「歪んだ正義(後編)」では、それまでほとんど捜査に顔を出すことなく、ミスをした主人公を叱り飛ばすだけの存在だった所長や、最初のシナリオ以降、ほとんど出番のなかった識子の叔母である江波警視正といったキャラクターがカッコイイところを見せる場面があり、シナリオ自身も最後を飾るにふさわしい――それこそ、よくできた連作短編集の最後の章を思わせるような、高いクオリティーを見せてくれる。

 本ゲームはたしかにプレイヤーに推理をさせることで遊んでもらう推理アドベンチャーであり、それゆえに推理の部分が本ゲームの中心であることはたしかだが、そのひとクセもふたクセもある登場人物たちの、それぞれに隠された側面を知っていく、という意味でも、またゲームシナリオそのものに仕組まれた謎を追っていく、という意味でも充分にプレイヤーを楽しませてくれるゲームである。(2005.11.03)

夏バテに負けない読書

 みなさん、読書してますか?

 いよいよ夏本番を思わせるような暑い日々がつづいていますが、連日のように30度をこえる真夏日の前に早くも夏バテぎみ、読書もなかなか思うようにはかどらない、と嘆いていらっしゃる読書家も多いのではないでしょうか。
 夏の暑い季節において、いかに快適な読書空間を確保できるかが読書家にとっては大きな課題のひとつとなるわけですが、皆さんはどんな対策をとっていらっしゃるだろうか。

1.自室のクーラーをつける? 電気代が馬鹿になりません。
2.クーラーのきいた図書館に行く? とくに夏休みのあいだは、よほど朝早くに行かないとすぐに満室になってしまいます。
3.同じくクーラーのきいた電車の中? 時間的制約が大きく、また近くに電車の通っていない人にはしょせんは絵空事。
4.喫茶店とかは? お金がかかるうえに、周囲の雰囲気が長居をさせてくれません。
5.公園の木陰? この時期はとくに薮蚊がいる場合が多く、あまり読書に適した場所とはなりえません。
6.怖い本を読む? 読む対象が限定されてしまうのは、読書家としては致命的です。

 こうして考えてみると、夏の暑さというのは予想以上の難敵なのですが、皆さんご安心ください。どんなに外の気温が上昇しようと、それとは無関係に快適な夏の読書を楽しむことができる画期的かつ非常に単純な方法が、ひとつだけあります。

それは、早起きすること

 どんなに日中に気温があがっても、また熱帯夜がどれだけつづいても、夜明け前という時間帯は一日のうちでも気温がもっとも下がるのです。このもっとも涼しい時間帯を利用しない手はありません。読書家の皆さん、夏のあいだは早朝読書を心がけるようにしましょう。

 早朝であれば、何かとうるさい電話でのキャッチセールスや訪問販売人もやってきません。どれだけ夜遅くまで騒いでいる人も、さすがに早朝まで騒がしいなどということはありません。まさに読書にうってつけの静謐が、あなたを待っています。そして、朝早くに起きることができれば、会社や学校に遅れるという心配も無用、時間的余裕があるので、落ち着いた一日をはじめることができるうえに、クーラーも使う必要がないので経済的で、地球にもやさしい。そして朝日を浴びれば心も体もリフレッシュされ、健康促進にもつながります。良いことづくしじゃないですか。

 ただし、早朝の気温がいかに過ごしやすいからといって、読書の途中で二度寝してしまったあげく、気がついたらとんでもない時間になっていた、ということになっても、当方ではいっさい責任は負いませんのであしからず。(2005.07.23)

Book Baton

 銀のお匙亭別館のしまさんから「Book Baton」が回ってきました。とりあえず、バトンを渡されていることに気がついてよかったです(笑)。

 ところで、バトンが誰に渡されているのかは、その方のサイトやブログを見ないかぎりわからない仕組みなんですね。

■Book reading right now (今読んでいる本)
『ベルカ、吠えないのか?』(古川日出男著 文藝春秋 2005/07/04時点)
 私のお気に入りの作家のひとり。この方の作品には、常に「物語の拡散と変容」という一貫したテーマがあるのですが、今回の物語は犬たちの繁殖と環境適応という形のなかに、「物語の拡散と変容」をかけて語っていくという手法を見せています。

■The last book I bought (最後に買った本)
『時の渚』(笹本稜平著 文藝春秋)
 第18回サントリーミステリー大賞受賞作。重い過去をひきずった私立探偵が登場する、ハードボイルド色が強い作品。DNA鑑定が事件の冤罪防止にひと役買っているという事実を知ったのも、この作品からでした。

■Five novelists(or writers) I read a lot, or that mean a lot to me
(よく読む、または特別な思い入れのある5人の作家、または小説家)
 スミマセン、このあたりの質問は、じつは本好きへの100の質問の035番と完全に被ってしまったので、今回は省略します。気になる方は100質のほうを参照してください。

■Five books  I read a lot, or that mean a lot to me
(よく読む、または特別な思い入れのある5冊の本)
 これもじつは「超・八方美人なベスト」と重なる部分が多いので、今回はベストには入っていないけど、どこか思い入れのある本ということでチョイスします。

『王妃の離婚』(佐藤賢一著 集英社)
 圧倒的に国王側に有利に進んでいく離婚裁判をひっくり返すべく、颯爽と王妃の弁護にやってくるフランソワのシーンは、今もけっこう印象に残っています。

『背教者ユリアヌス』(辻邦生著 中央公論新社)
 ユリアヌスが語る「正義=自由」という強い信念は、読んだそのときよりも、後でその意味を思い返すことで、徐々に心に染みわたるものがあることに気がつきました。

『葬送』(平野啓一郎著 新潮社)
 音楽家のショパンと画家のドラクロワ、ふたりの天才に宿された天才という「怪物」ゆえの苦悩と、しかしそれゆえにこそ生み出される芸術のこの上ない美しさには、心打たれるものがあります。

『ペイ・フォワード』(キャサリン・ライアン・ハイド著 角川書店)
 「世界を変える」という大それたことが、こんな簡単な仕組みで達成できるのだと気づかされた一冊。

『文体練習』(レーモン・クノー著 朝日出版社)
物語の内容ではなく、純粋に文章表現で読み手を引き込んでしまう、おそらく唯一の本。

■Five people to whom I'm passing the baton(バトンを渡す 5 名)
ええっと、あたりまえのことなんですが、バトンを誰に回すか(あるいは回さないか)が、バトンの送り手となった私の自由意志であるのと同じように、差し出したバトンを受けとる受けとらないの選択もまた、バトンの受け手として選んだ相手の自由意志であり、私はこのふたつの「自由意志」を最大限尊重するし、その選択いかんが現状の関係にまったく何の影響もおよぼさないことを、あらかじめここに宣言しておきます。

というわけで、バトンはyuiさんとセージュさんに。もしご迷惑でなければ。(2005.07.05)

 

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