2RTKO勝ち
小野瀬邦英を破り、一躍スターダムの入り口のドアを叩いた石毛。「さあ、ここから」
といったところだが、そこから試練が始まった。対強豪タイ人2連戦。いずれも2R 開始のゴングさえ聞けなかった。「小野瀬を破った男」の価値は、急落しはじめた。
スポーツにおいて「強さ」とは相対的なものであることが多い。とくに格闘技は、その傾向が顕著だ。A選手相手だとあんなに強かった選手が、B選手相手だとあんなに弱々しい……そんな例はいくつもあるだろう。特にキックの世界は、ムエタイという巨大な壁が存在する。日本人相手だと、無茶苦茶強い選手が、タイ人相手に何もできない、というシーンは、これまで何度も繰り返されてきた。ムエタイが「相手の持ち味を消す」ことに長けた競技ということもあるし、そもそもレベルが違い過ぎるということもある。
しかし、世間は冷たい。そんなことはわからない。「チャンピオンなのに何で1Rで負けちゃうの?」そういう反応が、一般客の反応だ。そして、そういう人たちを認めさせない限り、スターダムにはのしあがれない。
「次負けたらどうしよう?」というときに組まれたのが、初防衛戦。負けたら、今まで築き上げたものを全部奪われてしまう背水の陣。また「スター候補」として浮上するためには、勝つにも内容が問われる。また、何ともシビアな一戦となった。石毛がガウンやトランクスに好んで入れる「Dead
or Alive」まさにそんな一戦だった。
対戦相手のシャークとは、オーエンジャイで手合わせしている間柄。お互い手の内は知り尽くしている。策を練ってきたのは、シャークだった。序盤からとにかくロー一辺倒。通常とはまったく違うスタイルに戸惑う石毛。どんどん前に出てローを打ってくるシャークに、下がってしまう。
これは、ローの選手にとって思うつぼ。相手は重心を思いきり乗せて蹴ることができる。蹴る側の重心が後ろに残っている状態からなら、強いローは来ないからだ。北星セコンド陣は「下がるな」「ローにはローを返せ」と声を送る。試合後チャモアペットトレーナーが「ロー痛いはずなのに、まったく心がひるまなかった」と誉めていたが、それほどシビアな攻撃だった。
石毛は、1R中盤から、左ミドルを軸に押し返す。前進が弱まってきたところに、左フックで怯ませヒジ一閃。早くも流血のシャーク。しかも、傷はかなり深い。この瞬間から、流れが逆流した。
先ほどまでのローの荒らしは止み、完全に石毛のペース。パンチ、ミドル、ヒザが、次々とシャークを襲う。1R中には仕留められなかったが、2Rに入ってもペースは変わらない。流血はひどくなる一方。レフェリーはストップを宣告した。
試合後は「K−1出撃」をアピールした石毛。同年代でライバル視している佐藤嘉洋との対決を日頃から熱望している石毛だが、う〜ん、この試合はキックルールでなくっちゃ意味がねえ!と思っているのはわしだけだろうか?
次戦は「日本人は興味ない」とのこと。雑誌上でも「NKBウエルターで一番手強いのは、自分のジムの石黒」とのコメントを残している。タイを含めた国際戦となる予定だ。個人的にはK-1参戦を視野に入れ、ヨーロッパ勢との対戦がいいのではないかと思う。十分に名をあげて「打倒ムエタイ」にうってでてほしい。それからでないと、観客がついてきてくれない。
名取(負け)の試合は省略。すまん。
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