パンフレットの予想記事で「選手生命を賭けた一戦」と記されたこの一戦。私はちょっと違うと感じた。
「選手生命じゃなくって、賭けるのは生命そのものだろう?」
そう思ったのだ。それほどの相手だったのだ、このヨーディーチャー。そして、私のこの認識が、決して間違いではなかったことが、数時間後証明されることになる。
試合に関して、書くことは少ない。試合前、ヌアトラニーから「ヨーディーチャーは 随分(力が)落ちている」というような報告が入った。実際、リング上で身体を見て、
松浦さんとやったときほどの肉体的な迫力は感じなかった。ちょっとたるんだ感じだ (それでもすげえ身体だが)。
しかし、試合が始まって、そんな認識は大甘だったことが判明した。とにかく速い速い。前足での左ローの鋭さは、ランバー・ソムデートのようだ。きちんとカットしないとえらいことになりそうな右ローも、2〜3発もらったか(翌日、石毛も足が痛い
と言っていた)。
しかし、そんな攻撃をなんとかしのぎ、1Rも終わりかけていた。「ヨーディーチャーはスタミナがない」との情報に望みを託していた我々としては、「よし、この調子で、
3Rくらいまでは何とかしのげ!」と思っていたそのとき。。。 石毛の右ミドル(もしくはロー)をキャッチしたヨーディーチャーは、それをさばい
て石毛のバランスを崩させた。そして、無防備の石毛の顔面めがけ、ハイキック一閃! 石毛は後頭部も激しくマットに打ち付け、痙攣状態に。即ストップを宣告された。
「運が悪い」「事故だ」などと表現した人もいるが、あれは完璧に技術。ベーシックな技術。だが、あれほどスマートにスピーディーにキックを入れたのを初めて見た。最初からわかっていたことであるが、やはり「実力差」が相当にあったということだろう。
さて、試合直後の石毛だが、すぐに意識は取り戻し会話は可能な状態に。だが、この手のKO時にはよくあることだが、試合のことはまったく覚えていない。「え? もう試合終わったんですか? え? 夢見てるみたい 本当なんですか?」と繰り返した。
そして、控え室に戻ってからも、「なんで倒されたんですか?」「何ラウンドですか? 」と、1分おきくらいに聞いてくる。一時的な意識障害というヤツで、直近のことを
すぐ忘れてしまう状態なのだ。だが、これも激しいKO負けのときにはよくあること。それほど心配はしていなかったのだが……
(これ以降のことや、こういうときの対処法、あと一部関係者への文句 などについては、別に書こうと思う。ただし、全部は書けません。あしからず)