3度目の正直もならなかった。もう、心底から認めなくてはいけないだろう。中島稔倫は、楠本勝也より強い。
NJKFフェザー級戦線で最大の台風の目であった関博司を、2度にわたって轟沈。その後、タイの王宮前興行での1RKO勝ち、交流戦で対抗王者・佐藤ツヨシを問題なくKO。もう、国内に楠本のやり残した仕事はただ一つ。二度に渡り取り損ねたNJKFフェザー級のベルトの奪取。これしかない。
王座につくは中島稔倫。相手が強ければ強いほど「相手の火を消す」持ち味を発揮。過去の対戦も、楠本の持ち味を完封の末、競り勝っている(一回は引き分け・勝者扱い)。楠本にとっては厄介この上ない相手だが、これを乗り越えないことには国内は「卒業」できない。もともとタイ志向の強い選手だけに、「打倒ムエタイ」路線を突き進みたいところだ。
リングに上がる楠本を観て、「いい気合い入ってるなぁ」。事実、気持ちのコンディションも、肉体的なコンディションも文句無しだったそうだ。これは期待できる。
試合は、蹴り合いからスタート。楠本の右ロー、左ミドルが小気味よくヒットする。しかし、中島も連打は許さず、すぐ攻撃を返す。パンチを放っても、うまく首相撲に持ち込みロック。最初のポジショニングがいいため、楠本の不利な体勢でブレイクがかかり、印象はよくない。
どちらかと言えば楠本優勢だが、ポイントまではつかない‥‥、これまでと同じ展開。個人的には、蹴りがポンポン出るときの楠本は強いと思う。ムキになって打ち合うと、あまりいい試合はしていない。特に、中島相手にムキになってパンチでいったら、思う壺だ。その心配が現実になる。だんだん思うように行かなくなったからか、焦ってパンチから突っ込む場面が増え始めた。またも、イヤな感じの首相撲というか、膠着状態が続く。
4R。組みに来る中島に楠本の右アッパーがヒットし始める。いい感じだ。このラウンドは、もしかしたらとったかもしれない。
そして、最終5R。おそらくとられたラウンドはない。が、取ったと確信できるラウンドもない。この回、とにかくポイントを押さえることが重要だ。4Rの勢いそのままに、良い感じで5R攻め続ける。「よし、このままいけば何とかなるかも‥‥」と思ったそのとき、楠本が突然ダウン。な、なんと、回転バックヒジがヒット。楠本カウント中盤で立ち上がるものの、足下がふらつき再びマットに這いつくばる。ジ・エンド。
試合後、タイ人たちは「事故だよ、事故だ!!」と楠本を慰めるが、玉城会長は「事故じゃないよ!」。この試合、興行部長として本部席で観戦していた会長。赤コーナー、大和ジムのセコンドの指示が聞こえていたという。4R、楠本が右アッパーを続けざまにヒットしたことによって、「右のガードが下がってる。ヒジが入る」というような指示を出していたそうである(事実はわからないが)。これが本当だとするならば、まさに戦略通りの一発ということになる。あっぱれである。
またも、奈落の底に落とされた楠本。試合後は「辞める」とか言い出すんじゃないかと内心ハラハラしたが、そういうことでもなさそうで一安心。巻き返しを期待するしかあるまい。
5R判定負け
(50-49、50-48,50-46)
ここ客観的な試合紹介コーナーなのだが、本人がそのように書くのは難しいので、ビデオ観ながら感想書きます。
試合前、藤原国崇選手の相手を観てると、巧いことは巧いが、力強さはない。怖さがない。この程度のタイ人なら、なんとかなるだろ……と思ったのが甘かった。やはり。
いきなりくらったラートニミットのミドルは本物の切れ味。しかも、何よりその表情。本気が満ち溢れている。柔というより豪の選手。1R、正直少しびびっていたか。。。
しかし、攻撃は入る。うん、入る。奥足への右ローは特に。「タイ人に蹴っていっても全部カットされちゃうんじゃ」なんて勝手な妄想は、やはり間違っていた。こいつだって同じ人間。「よし、やったるわい」と気を取り直したのが、1R中盤。
なかなかジャストミートな右ローが入ったのが、残り30秒。ラートニミットは「効かねえぞ!」とばかりに挑発のポーズ。ウソつけ、この野郎!
ということで、「やりかえしてやる」と即決。次に打ってきた左ミドルをわざと(!)受け、やりかえしてやりました。あの場面、ミドルが来るのを待ってたんで、スウェーしようと思えばできたんだけど、パフォーマンスやり返したいがためにわざと受けました。こういうこと言うと、「プロレスじゃないんだから、真面目にやれ!」とか怒られそうですが、これはお客さんに向けてのパフォーマンスじゃありません。純粋に勝つためです。多少ダメージにはなるかもしれないけど、気持ちで一歩もひかないこと、それを相手に示すこと、このことのほうが勝つためには大事だと思ったからです。
そして、直後に「いつか出してやろう」と思っていたバックブロー。やっぱ当たった。ドンピシャ。
会場の「タイ人強いよ!」っていう空気が、「もしかしたら、野崎行けるんじゃないか」っていう空気に変わりました。ラートニミットも、多少動揺はしたと思います。
2R。相変わらず、ローとミドルの打ち合い。軸足のローで、ラートニミットが転倒する場面もありました。タイ人が尻餅をつく場面ってのは、そんなにあるもんではありません。相変わらず、ミドルは何発も食うものの、「行けるかも?」という雰囲気は残ったままです。
3R。実は、ローが多少効いてきていました。そして中盤。右フックで足が止まっちゃったところを、ラートニミットの左ロー。ビデオで観ても、明らかに効いているところを見せてしまっています。そして、また左ロー。
「野崎ダウン寸前……」そんな趣。
「これは流れを変えなければ」。そして、頼りのバックブロー。またまたヒット。当たっちゃったよ。。。流れをまた引き戻します。ただ、やはりダメージか、徐々にペースをとられます。終盤、何発もヒジをもらい、明かな劣勢で終了。完璧にポイントをとられました。
4R。とにかく、この回取り返すしかありません。「下がっちゃダメだ」と前に出ますが、そのたびにミドルをもらい、決定打は浴びせられません。
5R。一発逆転狙っていたのですが、なんともならず。疲労もあって、攻撃も徹底できない。そこはかとなく諦めムードが漂いながら、試合終了。
50−49,50−48,50−46
という何とも奇妙なジャッジ。50−46は……ないでしょ???? 1,2は少なくともとられてないよ。。。
ただ、記者の方にも指摘されたのが、痛さや苦しさを、すぐ顔に出しちゃうこと。ラートニミット、絶対にローは効いていたはずなのに、少しもそんな顔をしない。慣れないスタイルに戸惑っていたはずなのだが、弱気な顔などついぞ観られなかった。このあたりの差か。もっと鋼鉄のハートを身につけられるよう、努力します。
あと、びっくりしたのが、攻撃が入ったこと。ローはもちろん、ヒジも2,3発いいのが入った。「タイ人にヒジなんて、もらいこそすれ入らんだろ」、これも迷信だった。つまり、わしの攻撃には確信がなかった。勝利への意欲はあったが確信はなかった。これが、結局勝てなかった原因だろう。
次は、心の底から勝ちに行く! また、強いタイ人とやりたい! やれるとこまで昇るぞ、必ず。