2001.10.13

日本キック連盟主催興行
NKBトーナメント1回戦



石毛慎也 対 瀬尾尚弘(JK国際)

  5R判定勝ち(49-49、49-47、50-47)

3回戦時代から注目を集め、誰もが「大器」と注目する石毛慎也。しかし、その潜在能力を活かせず、5回戦に昇格してからは足踏みが続く。5回戦には2度勝っているのだが、竹末戦は非公式試合、もう一つ韓国人に勝った試合は公式記録と認められたもののタイBBTVの試合。つまり、日本の5回戦では一度も勝っていない。国内のNJKF公式試合に関して言えば、なんと3年間勝ち星無しなのだ。

5回戦上がりたてでの笛吹丈太郎戦、ノーランカーでいきなりぶつけられた狩野卓戦、KO寸前まで追いつめたがヒジで逆転された小次郎戦、いずれも互角以上の内容を見せたものの勝ちに結びつけられなかった。いくら将来を嘱望されているとは言っても、この戦績はさすがにまずい。

そして、その立場を一発逆転できる絶好のチャンスNKBトーナメント。しかし、初戦からいきなりK−Uウエルター級チャンピオンの瀬尾との対戦が組まれた。しかも、日本キック連盟興行のメインに抜擢されたのだ。

まさに、ハイリスク・ハイリターンの試合であった。

試合前、石毛には緊張の色がありありと見えた。小次郎戦は、久々の試合ということで同じように緊張していたようだったが、それが弱気につながった。だが、この日の緊張は、恐怖感と武者震い。「相手が強ければ強いほど燃える」"Born to Fight" 石毛慎也には、何よりのエネルギーだ。周囲を寄せ付けないギラギラしたオーラをまとい、入場してきた。

「今日はいいなぁ」

勝利とまではいかなくても、いい試合をしてくれることは、このとき確信できた。

ゴングが鳴った。いきなり瀬尾がローキックで攻めてきた。どちらかというと、というより完璧にスロースターターの選手だが、このいきなりの攻勢は珍しい。ローが、重い!

バチバチの打ち合いは石毛も望むところ。パンチの技術では勝る石毛のパンチがガンガン当たる。石毛もいきなりエンジン全快だ。

しかし、ここでニヤリと笑った瀬尾は、信じられない行動に出た。手をだらりと下げ、パンチをわざと受け、またニヤリと笑うのだ。おい嘘だろ! ここはオーエンジャイじゃねえぞ! グローブ8オンスだぞ!!

キックボクシングの公式戦でこんなことするヤツ見たことがない。ただ一人を除いて。。。その一人とは、東京北星ジム会長「不倒王」玉城良光。そういえば瀬尾は、格闘技通信の「好きな格闘家」欄に、いつも「玉城良光」と書いている。「平成の不倒王ここに誕生」といった趣であった。

2Rになっても、石毛の攻撃は止まらない。このラウンドから石毛はマウスピースをつけず、さらに攻撃を重ねる。パンチだけでなく、ハイキックもジャストミートする。だが、瀬尾はまたニヤリ。効いているそぶりはまったく見せない。そして、単発だが重いローを愚直に返してくる。効いてないのか? こいつは一体何なんだ!

3R。そのローに、石毛の表情が曇り出す。太股は既に変色し、明らかに効いている様が伺える。相変わらず石毛の攻撃は瀬尾の5倍10倍当たるのだが、ダメージは石毛のほうがあるように見えてくる。んんん、ちょっとヤバイ。

5R前のインターバル。石毛は吐き気を催した。かなり辛そうだ。「あと1Rだ。耐えろ!」そう言って送り出した。ポイントをとっていると確信した玉城会長からは、「遊びのつもりで相手をおちょくれ」の指示。その指示がピタリとはまり、石毛のアウトボクシングが瀬尾を翻弄する。変に逃げるとつけこまれる危険性もあったが、瀬尾ももう前へ出るガソリンが残っていないようだ。腫れ上がった石毛の脚は、なんとか破壊を免れタイムアップした。

ただ、この試合はNKBトーナメント戦。引き分けなら延長がある。「まさか」とは思ったが、相手コーナーに呑気に挨拶をしにいっている石毛を「まだ終わってないぞ!」と連れ戻した。イスに座らせて判定を待つ。

一人目。
「49−49ドロー」

おいおいマジかよ! いきなりこれだよ。ジャストミートしても、相手がにやりと笑ったらポイントにならないのか? 勘弁してくれ。石毛の目は一瞬にして死んだようになる。「延長なんてできないっすよ。もうダメです」。高野戦の自分もまったく同じことを思ったが(口には出さなかったけど)、自分のことは棚に上げて「馬鹿野郎! 相手も苦しいんだから気持ちを切るな!!」と何ともスパイスの効かない説教をする。祈るような気持ちで判定の続きを聞く。

49−47 石毛
50ー47 石毛

ホッ。石毛の顔にようやく笑顔が戻る。これがドローだったらたまったもんじゃない。腫れ上がった脚をひきずりながら、トロフィーを受け取った。試合後のインタビューにはマスコミが群がった。石毛慎也、ようやくブレイクした瞬間だ。

試合後の瀬尾選手(直接話は聞いてません。伝聞です)。
「2Rでバテた。初めてヒザで効かされた」
そんな素振りはまったく見せなかった。凄い人だなぁ。

対する石毛。
「3Rでもうロー効いちゃって、倒れたかったですよ。3Rからは意地だけっすよ」
はい。見ていてよ〜くわかりました(笑)

左太股に注目
腫れ上がった石毛の左足(試合後)

続けて、
「延長になったら、もうダメだった。体力残ってなかった」と瀬尾選手。石毛はそのとき「延長になったら棄権したい」と考えていた(笑)

結局、キックはそういう競技なのである。「自分に克てば相手にも勝てる」こんな陳腐な格言が、こんなに似合う競技はない。だからこそ、無いに等しいファイトマネーでも、がらがらの後楽園ホールでも、雑誌で付録みたいにしか扱ってもらえなくても、キックジャンキーはリングに立ってしまうのである。

誇り高きマゾどもに乾杯!!


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