石毛慎也対フィクリ・ティアルティ プレビュー 現在のキックボクシング界、とくにウエルター級(66.88kg)以上のキックボクシングにおいては、K−1を抜きに語ることはできなくなってきている。K−1とキックは似て非なるものなのに、それを一緒に扱うからタチが悪い。分裂ばかりでわかりにくい世界が、よりわかりにくくなってしまっている。 現在のキックボクシング・ウエルター級という階級で、国内最強は佐藤嘉洋だろう。難攻不落ムエタイの、重量級最強といわれるガオランに勝ったのは見事という他はない。その他の猛者たちもことごとく退けており、国内のみならず世界最強の声も聞かれそうだ。 しかし、世間は最強とみなさない。魔裟斗がいるじゃないか?と、何年もキックボクシングの試合をしていない、K−1最強の男との比較を強いるのである。ガオランに勝ってさえ白黒ページでしか扱ってもらえないキック界最強の男は、"挑戦者"として違うルールのリングに上がらなければ認められないのか。なんとも可哀想なこった。 可哀想といえば、石毛慎也も同じである。 小野瀬邦英という賞金首を獲ってNKBチャンピオンになったにも関わらず、チャンピオンという自負心を満たすような環境にはならない。周囲はおだててくれるけど、だからといってキックで食えるわけではない。一生涯保障されるような名声を得られるわけもない。それは防衛しても変わらない。「NKBランカーで一番強いのは同じジムの石黒」(本人談)という状況下では、燃える材料もない。結局、「K−1に出たい」、そんな発言となる。 K−1という極めてエンターテイメント性の高い興行においては、緻密な技術戦よりも派手な乱打戦が好まれる。そうした事情を考慮してか(してねえと思うが)、石毛慎也の国際戦の相手はオランダ人となった。しかも、ヒジなしルールでの試合だ。相手の持ち味を殺してしまうムエタイとの対戦よりも、比較的好戦的なオランダ人との対戦は、自分が「K−1のリングで魅力的な存在になりうる」ことをアピールする絶好のチャンスである。しかし、このオランダ人、とんでもないヤツだった。 フィクリ・ティアルティ。 先述の「もしかして世界最強?」の佐藤嘉洋を昨年11月に下している「オランダ中量級最強の男」。この手のフレーズは何度も聞いたことがあるような気がするが、「オランダ」「ウエルター級」「キックボクシング」という条件下では、この男が最強であることは間違いないようだ。バレンティーニ、ソアレス、エリクソンそして佐藤嘉洋という錚々たる面子を下してきていることからも、その実力に偽りがないことがわかる。「もしかして世界最強?」の佐藤嘉洋に勝っているのだから、こいつこそ「もしかして世界最強?」なのかもしれない。 2分ほどのダイジェストビデオを見たが、離れた距離からは柔らかい動きからの左パンチ→ローの動き。「をを! オランダ流対角線コンビネーション!」と唸ったが、この選手はここから首相撲へ持ち込む。相撲でいう「もろ差し」の体制で相手をコントロールし、最終的に鋭角なヒザで相手を追い込んでいく。そんなタイプに思えた。やってみないと強さはわからないタイプだろうか? 当初は、もろ差しを仕掛けてくる(=顔面ガードが空いている)ということから、カウンターのヒジうちが得意な石毛にはヒジなしは不利かな?とも思ったが、佐藤嘉洋曰く「石毛有利」。なんでもセオリー無視のヒジが最大の武器であるらしく、それが禁止なのは大きいのだという。 まあ、こういった感じのフィクリであるが、その強さが世間的に知られているわけではない。ベンローイを完封しても佐藤嘉洋の評価が上がらなかったように(むしろ酷評された)、フィクリに勝って石毛の評価が跳ね上がることは考えにくい。しかも、フィクリは前に出て組んでくる。わかりづらい試合になることも考えられる。また、未知の強豪はしょせん未知の強豪。石毛が勝っても「フィクリって大したことなかったね」で終わりである。まだ「過去の遺物」みたいな元ビッグネームとやったほうがメリットがある。酷な(下手な)マッチメークである。 そこで、問われるのは内容である。観客を熱狂させてのKO勝利。石毛慎也のタレント性をアピールしなければ、評価も上がらないし、K−1も遠のいてしまう。 ムエタイランカー |