NJKF "VORTEX X〜旋風〜"
2003年11月9日(日) 東京・後楽園ホール

後編。


桜井洋平がタイの上の階級の現役王者に挑むという歴史的一戦は、二つの問題が浮き彫りになった。「体重」と「判定」である。

詳しくは「BOUT REVIEW」のレポートに載っているが、王者マンコムは、なんと68kgで来日(本来60kg契約)。「ウエルター契約だと聞いていた」(と私は聞いた)らしいというからあきれる。結局、65kg弱までしか落ちず、その体重でのグローブハンデ戦となった。「メインは中止」ってわけにはいくまい。

以前も同じようなことがあったため、NJKFは来日後のタイ人の体重・体調管理には相当気を使っている。3日前には来日させ、すぐに強制的に体重を測定。契約体重は絶対守らせる。でも、8kgオーバーで来られては。。。。

タイの国民性といえばそれまでだが、やはり契約方法に欠陥があると判断されても仕方ないだろう。スタッフの質と量には制限があるし、予算も限られている。しかし、改善しないと、お客様商売としての責任が問われる。なんらかの対策を練る必要があるだろう。

で、試合である。とりあえず体重のことは忘れて振り返ってみる。

隣の席には中島稔倫さん。「練習してるんすか?」と聞くと「汗くらいはかかんとね」と微妙な返答。

ま、それはおいておいて。

1R 桜井いつものように積極的に仕掛けていく。懐の深いマンコンに対し、ミドルから右ストレート、いきない飛び込んで右ストレート。「遠い距離(キックボクシングの間合い)から強いパンチを打てるのが桜井の持ち味やね」と中島さん。「大月くんもそうっすね」と答えると「そうなんよ!」と、、、こういう会話は楽しい。

しかし、バンタム時代は驚異的なリーチを誇った桜井だが、ライトに上げれば特別な体格ではない。数発ヒットするも、マンコン、がっちり受け止めミドルを返す

   10対10イーブン。

2R 展開に変わりなし。桜井元気よく飛び込んでいくが、マンコン、クリーンヒットを許さない。防御における手の使い方は、チャモアペットさんのそれにそっくり。サウスポーの選手のよいお手本だ。

   10対10イーブン。

3R 予想通りマンコンが動き出す。間合いを完全に見切り、以降危ない場面は皆無。ミドルを返す回数も徐々に増えてくる。

   10対10イーブンだが、
   0.5をつけられるならリングジェネラルシップを
   評価して10対9.5でマンコン。

4R ムエタイでは勝負のラウンドなだけに、マンコンの攻撃が激しさを増す。左ミドルからパンチもヒット。ダメージを与えるものではないが、ヒット数で明らかにマンコンが上回る。主導権は圧倒的にマンコン。

   10−9マンコン。

5R マンコン流すこともなく4Rと同じような展開。桜井気合いを入れて突進するも、マンコン闘牛士のように交わす。横にいる中島稔倫氏「マジックみたいだなぁ」とうっとり。ヒザを入れる場面も数度。

    10ー9マンコン。

個人的採点では50−48(47.5)でマンコン。おそらく桜井にはほとんどダメージはないだろうが、数多くミドルをもらっており、勝敗をつけるための採点であるならばマンコンにつけざるをえない。

しかし、というか予想通りというか、ジャッジは三人とも50−50のドロー。「ダメージ重視」に偏重してしまって、僅差の判定をくだせないような気がする。学生キックの優先判定のほうが数段マシである。

一応NJKFのルールブックには、判定基準についてはこう記されている(今はNKBに準じているので、多少違うかも)。
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試合の得点はつぎの4項目を基準として評価、採点される。
1 クリーン・エフェクティブ・ヒット
  (正確なパンチ、蹴り、ヒジ打ち、ヒザ蹴り、
   による 的確にして有効なる加撃。
   有効であるかないかは、
   主として相手に与えたダメージに基づいて判定される)
2 アグレッシブ
  (攻撃的であること。ただし加撃をともなわない
   単なる乱暴な突進は攻撃とは認められない)
3 ディフェンス
   (巧みに相手の攻撃を無効ならしめるような防御。
    ただし攻撃と結びつかない
    単なる防御のための防御は採点されない)
4 リング・ゼネラルシップ
   (試合態度が堂々としてかつスポーツマンライクであり、
    戦術、戦法的に相手に優れ、巧みな試合運びによって
    相手を自己のペースにもっていくこと)
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実は、これはほぼボクシングの丸写しだ。だから、キックの実状に合っていない。頭部へのパンチの「ダメージ」はある程度目に見えるが、キックやヒザのそれは目に見えない。

一応NKB発足のときに、パンチもキックも同等と判定すると聞いた記憶がある。ならば、マンコンの左ミドルは、少なくともジャブと同等には判断すべきである。おそらく1R中、ジャブが10発クリーンヒットし、相手の攻撃をもらわなければ、ポイントはつく。でも、ミドル10発はつかない。

そもそもミドルやローのダメージを、どう判断するのか。一流選手は、まず「痛みは顔に出さない」。

だから0.5ポイント制。

●数多くヒットはしており、しかも試合を支配しているが、相手にダメージを与えるまでには至らないときには0.5ポイント。

●明らかにダメージを与えたときは1ポイント。ダウンに対しても1ポイント。

●明らかにダメージがあるダウンの場合は+1ポイント。

こうしたほうが、実情に即している気がするがどうだろう?マンコンは自分の試合をした。完璧なまでにした。なのに、後になって「あんたのスタイルじゃダメ」って判定された。なら、最初から呼ぶなよ!である。最初から、ああいうスタイルだということはわかってるはずである。少なくとも「採点基準4」の「リングジェネラルシップ」は完全にマンコンである。

全日本キックは、きちんとタイ人を吟味し、日本向けのタイ人を連れてくる。サムゴーしかりゴーンピポップしかり。

せめてタイ人に日本の採点法をきちんと説明し、KOしたらファイトマネー5万円+くらいの契約にしないと、また素人には理解不能の試合が続く。