試験を受けたD君
D君は、ある会社に勤めていますが、付き合っている女性は居ません。
というより女性とお付き合いした経験はないようです。
ある年の12月の末頃、銅座の とあるバーに飲みに来たD君。(もちろん一人で)
店の人にこう言いました。
「来年、 年明けてすぐに、試験があるんだ」
「何の試験?」
「会社で、どうしても、ある資格をとれっていうんだ」
「そう・・・むずかしいの?」
「結構ね・・・」
「がんばって」
「ありがとう。発表が2月14日だから合格したら、ここに飲みに来るよ。
落ちたら家で一人寂しく飲むから・・・
だから来なかったら不合格だったと思っていいよ。」
年末年始の忙しさでその店のバーテンダーは、すっかりこの事を忘れていました。
2月14日・・・「あ、今日はD君の合格発表の日だ」
日めくりカレンダーを破りながら、彼は去年の暮れの事を思い出したのでした。
しかし、仕事に入って、忙しくなって来ると、
この事は、彼の頭に中から消え去っていました。
11時を少し回った頃、店の扉が開き、チリンチリンと、
ドアに付けた鈴の音とともに入って来たのはD君でした。
「ほ〜!合格したんだ・・・」
バーテンダーは、D君にオシボリを出しながら、
「今日発表だったんだろう?」
「うん」
「で?」
「だめだった!」
「・・・・・・?」
「落ちた」
(落ちたら来ないって言ってなかったっけ?ま・・いいけど・・・)と不審に思いながらも
バーテンダーは、D君にバーボンのオンザロックを出すのでした。
しばらくたってD君がポケットから何か出しました。
よく見ると、小さなお菓子の包みのようです。
「へっへっへっ・・・今日、会社の女の子にチョコレートをもらっちゃってさ〜」
とDくん。
バーテンダーには全てが理解できました。
D君は試験には落ちましたが、生まれてはじめて、バレンタインデーに
女の子からチョコレートをもらったのが嬉しくてたまらなかったのでしょう。
それを見せびらかすために、わざわざ銅座まで出て来たのです。
試験に落ちたのに・・・
11時回ってから来たということは、このバーに来る前に
すでに数軒の店で見せびらかしてきたのでしょう。
バーテンダーは、得意げなD君を見ながら心の中でつぶやいたのでした。
(その包み、どう見ても義理だぞ・・・D君・・・・しかもたったひとつ・・・)