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それは一昨年の秋のことでした。旧友たちが集って、お酒をいただきながら、いつものように楽しい刻をすごしていました。
突然、仲間の一人である今藤政太郎(三味線奏者、作曲家)さんが、「今度の演目の一つに、『ピエールとリュース』をやりますから」と発言がありました。みんなポカンとしていました。私も、ロマン・ロランの『ピエールとリュース』? 邦楽とロラン? 一瞬の戸惑いの後は、すぐ期待へと思いは変わりました。常に人間愛をベースに挑戦し続け、進化し続ける人、政太郎さんならこういうこともあるのかと。彼との距離が急にぐっと近くなり、うれしくなったのを憶えています。「私、十数年来、ロラン研究所の読書会のメンバーなんです。」という話しをしたことから、翻訳者故宮本正清先生夫人ヱイ子さんへの紹介を依頼されました。みすず書房へのコンタクトはすでに終わっていたのですが、研究所の存在を知り大喜びでした。
そして実現したのが、昨年十二月のリサイタルでした。雨の激しい夜、東京の紀尾井ホール(洋楽専門のホール)での演奏会。
吉行和子さんの朗読、箏、十七弦、笙、笛、コーラスなどで構成された『ピエールとリュース』。何とも不思議な温かい雰囲気の中に、戦争の残酷さを表現するというメッセージは十分受け止めることができました。我がことのようにどきどきして、満たされた時空を共有でき、生涯の最もいい思い出になりました。
次は、私達研究所の朗読会のお話です。ロラン研究所設立35周年記念の一環としての〈歌と朗読の会〉をもたせていただきました。初挑戦の朗読は村田まち子先生のご指導をいただき、五人のメンバーが心を一つにして取り組みました。陰で支えて下さった方も含めて、力を合わせて一つのものを創り上げることが、こんなにも感動的なことなのか、創造の歓びの片鱗を体験できたことに感謝しています。
お聴き下さった皆様の心にも、つらさやむごさよりも、温かい心が広がりますようにと祈りにも似た魂で挑戦した朗読会でした。
平和を希求することを生涯の目標として、ロランの魂を具現化する行動の一つとして、又チャンスが与えられれば挑戦したいものです。
最後に、最高の芸術家今藤政太郎さんにも讃辞とエールを送ります。自分を磨くことを忘れない彼の未来には、東山魁夷の「道」の絵が重なります。終わりのない一筋の道(芸の道)が輝いてみえます。
朗読をご静聴下さった皆様にも心より御礼申し上げます。
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