******************************************************
『第278回読書会レジュメ「内面の旅路」2(「T.落し穴」)』
『ロマンロランをめぐる人々−アインシュタイン−』
『ロマンロランをめぐる人々−今江祥智先生−』
『ロマンロランをめぐる人々−新村猛先生−』
発表者 黒柳大造さん
******************************************************

 1.「内面の旅路」第278回読書会レジュメ「内面の旅路」2(「T.落し穴」)(2009.7.25)  
ロラン幼年期の自己の確立/精神的独立の過程(の萌芽)である家族の束縛(陥落)からの離脱、カトリック信仰の束縛(陥落)からの離脱の記録が記されている。
この2つの「離脱」は本質的に同一のもので、両者は相似形/同心円の関係となっていると考えられる。また、教会を「家族」の次段階の精神的共同体と位置づければ、ロラン幼年期の自己の確立/精神的独立の進行/発展過程ともいうことができると考えられる。

------------------------------------------------------------------

「家族の束縛(陥落)」     →(離脱)→「独立した人間の精神」への信頼

「カトリック信仰の束縛(陥落)」→(離脱)→「独立した人間の精神」への信頼

------------------------------------------------------------------

(1)「家族の束縛(陥落)」とそこからの離脱について
家族の束縛(陥落)
→子供の死を恐れるロランの母の眼差しに始まるロラン幼年期の精神的抑圧。
・圧迫されている自分の胸:病弱なロラン自身
・不祥な死の環:幼くして亡くなった妹から連想される死への恐怖
・旧い家:閉鎖的な幼年期の住居に象徴される閉塞感
      ↓
     (離脱)
      ↓
死の直前に妹の見せた人間的な「憐みの心」(コンパッション)
=独立した人間の精神(の間での意志の交流)

(2)「カトリック信仰の束縛(陥落)」とそこからの離脱について
カトリック信仰の束縛(陥落)
→ロランは伝統的カトリック信仰のことを「教会の神」「サンマルタンの鎹で緊めつけられている尖弓形の『囚われ』の中にうずくまっている『主』」(ともにP293)と表現している。
    ↓
   (離脱)
    ↓
「自由無礎な神」「私の求め聴いた神は・・・鐘の歌の中にいた。そして大気の中にいた。」
=(歌(音楽)に感動し、大気を吸って、日々、力強く生きている人々が持っている)独立した人間の精神

○「ハムレット」の引用(P294)について
ロランは本引用によって、自分自身を精神的に束縛しているものを「牢獄」と位置づけ、自分自身の思索を深めることによってその精神的束縛(牢獄)から脱することを「おお神よ。私は胡桃の殻の中にとじこもって、そして自分自身を、無限の一空間の王としてみなす」と表現しているのではないかと考える。
   ↓
自分自身の思索を深めることをもって自分自身の精神の独立を確立する姿勢はこのままロランの生き方の姿勢のつながっているのではないか?
また、本章において「家族の束縛(陥落)」「カトリック信仰の束縛(陥落)」から離脱した方法もまたこの姿勢と共通すると考えられる。


○「鏡の中のグラチアの姿が見えてくる場面」に見られるこの照覚の反響的な思い出について(P296)

「・・・彼が見たただ一つのもの―それは、彼女の同情深い微笑の神々しい善良さだった。」(全集第3巻P448-449)
     ↓
ロランがここで見たものは
・小学校時代に出会い、数週間後に亡くなった少女
・目の前に現れたグラチア
2人は、ロランにとって「独立した精神」の持ち主という点で共通している。そして、ロランの現状を人間的な「憐みの心」(コンパッション)で受けとめている。
これは幼くして亡くなった妹とも本質的な点において共通しており、そのため「照覚の反響的な思い出」と表現されているのではないか?

(以上)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





読書会補助資料1(2009.7.25)
ロマン・ロランをめぐる人々 ―アインシュタイン―

高名な物理学者で平和活動でも有名なアインシュタインとロランとの関係を紹介します。本資料は読書会のテキストである「内面の旅路」の「序曲(プレリュード)」においてアインシュタインの考えが引用されている(*1)ことより、ロランとアインシュタインの関係を紹介して「内面の旅路」への理解をサポートするためのものです。

(*1)「われわれの宇宙の存在は、アインシュタインの考えによれば、自分自身の尾を咬む永遠性の蛇みたいなものである。そしてもしも各人がこの宇宙存在に、好意と視線とを与えることをのぞむなら、前方へ放たれる光線が[各人の]背後から[その人の]内的視力へ戻ってくることをわれわれは知っているではないか?・・・」(P279)


1.アインシュタインとは?
 アルベルト・アインシュタイン(1879年〜1955年)はドイツ生まれのユダヤ人の物理学者。1916年に一般相対性理論を完成。1921年、ノーベル物理学賞受賞。第二次世界大戦前は欧州の各大学で研究をするが、1933年、ナチスの台頭により米国へ亡命。以降はプリンストン高等研究所を中心に活動。1939年には米国による原爆開発を当時の米国大統領ルーズベルトに促す「ルーズベルト大統領への書簡」に署名。第二次世界大戦前から平和活動でも有名(詳しくは2項参照)。第二次世界大戦後は世界政府創設運動にも取り組む。


2.アインシュタインの平和思想・平和活動
アインシュタインの平和思想は第一次世界大戦後に兵役拒否論からスタート。ロマン・ロランの平和思想にも共鳴。しかし、ナチスドイツの台頭により、第二次世界大戦前には武力容認に方向転換(国際警察軍の創設、ナチスによる原爆開発を防ぐための米国による原爆開発の支持、など)した。しかし、第二次世界大戦後は再び原水爆禁止、世界連邦政府創設支持、兵役拒否などを支持・主張している。

○アインシュタインの平和活動・年譜(主なもの)
 1914.8 親しいオランダの物理学者パウル・エーレンフィストへの書簡の中で自分の平和思想を記述。これがアインシュタインの平和思想に関する最初の記録。
 1914.10「ニコライ‐アインシュタイン宣言」(「ヨーロッパ人への宣言」)に署名。これは、直前に表明されたドイツ政府による「文明世界への宣言」に対抗するもの。
 1919.6 ロマン・ロラン起草の「精神の独立宣言」に署名。
 1921.1 チェコのマサリク大統領をノーベル平和賞に推薦。
 1928後半 兵役拒否の主張を固める。
 1930.12 2パーセント演説。(2%の者が兵役拒否をすれば影響力大であるという内容。)米国で大きな反響を呼ぶ。(2%バッジ流行)
 1933.7 兵役拒否論を変更。(軍隊廃止よりも超国家的軍隊組織設立を支持。ナチ圧政下ではヨーロッパ文明保護のため兵役に就くことを支持。)
 (1939.8 「ルーズベルト大統領への書簡」に署名)
 1945.11 世界政府創設の実際案発表。
 1945.12ノーベル記念晩餐会演説「戦争に勝ちましたが、平和は得られません。」
 1946.5 原子科学者緊急委員会議長。以降、原水爆反対運動に献身。
 1947.8 世界連邦政府世界運動国際会議へ挨拶を送る。同会議で計画された「世界憲法制定議会」ならびに憲章を支持。
 1954.10-11 ハマーショルド国連事務総長と「我々の文明にとって崩壊に代わる唯一の代替物(諸国の主権を尊重する世界組織)」に関する書簡を交換。
 1955.4 「ラッセル‐アインシュタイン宣言」に署名。核兵器廃絶を世界各国に訴える。
(アインシュタインはこの1週間後に死去)



3.ロランとアインシュタインの関係
ロランとアインシュタインは、アインシュタインが兵役拒否思想を主張していた1920年代末までは良好であったが、1930年代前半より齟齬が生じ始め、アインシュタインが武力による平和維持を肯定する方向転換をした1933年には決定的な意見の相違が明確になる。
以降、アインシュタインは米国で「ルーズベルト大統領への書簡」等の武力による平和維持を肯定の活動を活発にするのに対してロランの社会的な発言は第一次世界大戦時と比較すると(ソ連関係を除けば)減少し執筆活動も芸術関係が中心となる。その後、ロランの死去により両者は和解するには至らなかった。

 1915.3アインシュタインはそれ以前に面識の無いロランに手紙を送りロランの平和思想への共鳴を伝える。(ア平書1:P15)
 1916.9アインシュタインはスイスにロランを訪問。(ア平書1:P17)
 1917.8ロランとアインシュタインは書簡を交わす。ニコライ著「戦争の生物学」などが話題となる。(ア平書1: P23)
 1919.6 アインシュタインはロラン起草の「精神の独立宣言」に署名。(ア平書1:P34)
 1922.4 ロランとアインシュタインは書簡を交わす。この中でロランは新しい自由主義雑誌「クラルテ」をアインシュタインに説明。
    (後日、アインシュタインはバルビュスに依頼により「クラルテ」に寄稿。)(ア平書1:P56)
 1926.1ロラン60歳を記念する「友達の本」にアインシュタイン寄稿 (ア平書1:P89)
 1930.9 ロランはアインシュタインにタゴール70歳の記念にささげる「ゴールドン。ブック」への寄稿を依頼。(アインシュタインはこれを受諾)(ア平書1:P123)
 1930.10 ロランとアインシュタインは「若者の徴兵と軍事訓練反対の宣言」に署名。
 1931.2 ロランアインシュタインの2パーセント兵役拒否論を肯定するも実効性には疑問を表明(英国・世界戦争反対抵抗者連盟ブラウン名誉理事長への書簡)(ア平書1:P131)
 1932.5 統合平和委員会ジュネーブ会議記者会見において、ロランはアインシュタインが科学の領域以外では実際的でないことを批判。(ア平書1:P190 )
 1933.9 ロランはアインシュタインの武力肯定への方向転換を日記の中で批判。(ア平書2:P282)
 1936.4 アインシュタインは知人への手紙の中でロランの「革命によって平和を」に対して「その本をかなり読んでみましたが、事柄の本質上、親近感を見出しえませんでした。・・・」との評価を与える。(ア平書2:P323)

(注)ア平書(No)・・・アインシュタイン平和書簡(巻数)



<参考文献>
「アインシュタイン平和書簡(全3巻)」(ネーサン,ノーデン編:みすず書房1974〜77年)
「アインシュタイン選集(第3巻)」(共立出版 1972年)
「湯川秀樹とアインシュタイン」(田中正・著:岩波書店2008年)

(以上)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




読書会補助資料2(2009.7.25)
ロマン・ロランをめぐる人々 ―今江祥智先生―

ロマン・ロラン研究所とも関係の深い児童文学者・今江祥智先生について紹介します。今江先生の著作「私の彼氏」には本日の読書会テキスト「内面の旅路」が登場します。

1.今江祥智先生とは?
 1932年生まれ。児童文学作家。前・ロマン・ロラン研究所理事。
 <主な著書>
 「ぼんぼん(全1冊)」(理論社)
  ・・・「ぼんぼん」「兄貴」「おれたちのおふくろ」「牧歌」を合本
 「優しさごっこ」(理論社・新潮社)
 「冬の光」(理論社・新潮社)
 「雲を笑い飛ばして」(理論社)
 「私の彼氏」(新潮社)
 「山の向こうは青い海だった」(理論社・角川書店)
 「ひげがあろうがなかろうが」(解放出版社)
 「幸福の擁護」(みすず書房)
 「今江祥智の本(全36巻)」「同・童話館(全17巻)」(ともに理論社)
                              他多数

2.ロランとのかかわり
同志社大学在学中にロマン・ロラン研究会を設立。顧問にはフランス文学者・新村猛氏、会員には後の福音館書店社長の松居直先生などがいた。児童文学作家となってからは、自身の作品中でロランを扱ったり、またロランの作品から引用をする機会多数。
ロマン・ロラン研究所・前理事長の尾埜善司先生との交遊(同志社大学ロラン展がきかっけ)も深い。


3.ロランについての考え方
ロランに関する研究論文はないが、児童文学作品中にたびたびロランを引用している。また、宮本正清先生、新村猛先生や松居直先生、尾埜善司先生、・・・等とのロランを通じての出会いについても紹介する文章多数。
なお、今江先生の作品にはロランのみでなく、ルイ・アラゴン等のフランス作家やイブ・モンタン等のフランス歌手などフランス芸術全般、またケストナー等のフランス以外の国々の作家、などの影響が見られる。

○ロマン・ロランに触れられている今江先生の主な著書
(1)小説「私の彼氏」
主要登場人物の一人である沢柳が少年時代の初恋相手・有子を回想する際に、ロランの「内面の旅路」が登場する。沢柳にとって有子の登場する回想は沢柳にとっての「内面の旅路」と位置づけられるのではないかと考えられる。

(2)児童文学作品「雲を笑いとばして」
本作品の第2章の章名が「オマン・オロン」。ここで「オマン・オロン」とは「ロマン・ロラン」のこと。本作品の主要登場人物「古山先生」は今江先生のロランに関する「先生」である新村猛先生がモデル。ロランの名前をタイトルとした本章において、今江先生はロランに関する自身の経験を登場人物達に再体験させている。

(3)評論集「幸福の擁護」
今江氏は自分自身のロラン史を本書の中の各所で紹介している。ロランを通して出会った人々(新村猛先生、松居直先生など)、ロラン研究会、ロラン作品の思い出など。

(4)エッセイ集「私の寄港地」
(125「タイムトンネル」,126 「タイムトンネル、また」,136「手紙と部屋と」,・・・等)
学生時代における宮本正清先生、片山敏彦先生、蛯原徳夫先生、新村先生、松居先生、尾埜先生、鈴木寿太郎氏(今江氏の名古屋時代の知人)、・・・、等の交流のエピソードが紹介されている。また、同志社大学ロラン研究会の読書会(at進々堂)、同・ロラン展、宮本正清先生宅から盗難されたロラン原書発見事件などのエピソードも興味深い。


<上記以外の今江先生とロランに関する資料>
(1)ユニテNo.21における今江先生の寄稿「いま、ロマン・ロランを語る」
(2)ユニテNo.21における尾埜先生の寄稿「いま、ロマン・ロランを語る」
(3)同志社時報第68号「ああ、ロマン・ロラン‐私の学生時代‐」(今江祥智)
(4)「新村猛著作集」(三一書房)第1巻 解説(今江祥智)



(以上)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




読書会補助資料3(2009.7.25)
ロマン・ロランをめぐる人々 ―新村猛先生―

フランス文学者、ロラン研究家で、今江祥智先生のロマン・ロランについての「先生」にあたる新村猛先生について紹介します。

1.新村猛先生とは?
 1905年〜1992年。フランス文学者。名古屋大学、同志社大学教授、橘女子大学学長。
 戦前は雑誌「世界文化」などに参加。戦後はロランをはじめとするフランス文学研究に取り組み著書多数。文学研究関係から時事問題まで幅広く発言・執筆。その著書や論説、記事は「新村猛著作集(全3巻)」(三一書房)にまとめられている。
 戦前の不当逮捕・拘束などの経験から、新村先生の思索は政治思想/理論と実際の政策/政治活動を混同せず、明確に考察対象・範囲を区分・整理した論理性・客観性が特徴。
 父親は国文学者の新村出氏。その関係で、新村猛先生自身も「広辞苑」の編集にかかわっている。またロランに関して今江祥智先生の「先生」にあたり、今江氏の作品「雲を笑い飛ばして」の登場人物「古山先生」は新村先生をモデルとしている。

 <主な著書>
 「フランス文学研究序説」(1954年 ミネルヴァ書房)
「ロマン・ロラン」(1958年 岩波新書)
 「国際ファシズム文化運動フランス編」(1948年 三一書房)
 「新村猛著作集(全3巻)」(1995年 三一書房)・・・各巻にロランに関する論文・翻訳・記事を収録  他多数

2.ロランとのかかわり
 京都大学文学部在学中の1932年、
  ・アムステルダムで開催された世界反戦・反ファシズム大会へのロランの参加。
  (ロランは同会議の共同議長をつとめた。)
   ・雑誌「ヨーロッパ」のゲーテ特集号にロランが寄稿したロラン論
の2つをきっかけにロランに傾倒。また1934年のレーニンの「トルストイ論」に対するロランの評釈にも影響される。以降、著書や新聞・雑誌記への寄稿などでロランについて幅広く紹介。みすず書房「ロマン・ロラン全集」翻訳(「闘争の15年」)にも参加。今江祥智先生が同志社大学在学中に設立したロマン・ロラン研究会を顧問として指導。

?
3.ロランについての考え方
 新村先生のロラン論は「ロランの同時代の政治/社会情勢の中での位置づけ」を押さえた内容になっていることがその特徴として挙げられる。そのため(ロランの作品やロランという一人の作家からの視点に閉じない)広い視野からのロラン像が浮かび上がってくる。具体的には、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけてのフランスやヨーロッパの政治/社会情勢(ナチスの台頭、フランスの人民政府、スペイン動乱等)、当時活躍した作家達(アラゴンやバルビュス、ゲーノ、ジッド等)の言動(文化擁護国際作家会議、国際ペンクラブ大会、等)や編集に参加した言論誌(「ヨーロッパ」「新フランス評論」「コミューヌ」等)の動向などが詳しく述べられている。
 また個々のロラン作品への考察にもその視点は反映されており、とくに「魅せられたる魂」のに対する分析・評価は非常に重要であると考える。((3)参照)


(1)ロランと同時代のフランスの作家・思想家の位置づけは次の通り。
  ●個人主義的傾向
   ○個人主義・・・ジッドなど
   ○無政府主義・・・マルローなど
   ○カトリック主義・・・モーリアック、マリタンなど
  ●共産主義的傾向
   バルビュス、アラゴン、ブロック、エリュアールなど
  なお、個人主義的傾向の人々、共産主義的傾向の人々ともに共通してヒューマニスティックであり反ファシズムの立場であった。(ただし々の政治的事件に対する見解は様々)
  また、上記の人々とは別に、人間性に対するゆるぎない信頼‐西欧デモクラシーの根底に存する理性信仰に支えられた本質的ヒューマニストとして、アルコス、デュアメル、ロマンなどがいて、それらはゲエノ、カスーに引き継がれる。
  そしてこれら本質的ヒューマニストの作家達の上にあたかもそびえたっていたのがロランである。(新村猛著作集第3巻P62)

(2)ロランがその創刊に参画し、アルコスとバザルジェット→ゲエノ→カスー→アブラアムと編集長が引き継がれていった雑誌「ヨーロッパ」の変遷を追うことによって、ロランの思想が次世代の思想家・言論人に引き継がれていく歴史を、その思想・主張の普遍性/変化の両面とともに把握、解説している。(新村猛著作集第2巻P285)

(3)フランス知識層において「魅せられたる魂」の評価が「ジャン・クリストフ」と比較して低くなっているのは適切ではない。
  「魅せられたる魂」を深く理解し、正しく評価するには「魅せられたる魂」と「ジャン・クリストフ」の両方をあわせて読む必要がある。(新村猛著作集第2巻P214)

  →ロランの二つの面が「ジャン・クリストフ」では主役のクリストフと脇役のオリヴィエによって、「魅せられたる魂」では主役のアンネットと脇役のマルク、アーシャなどによって表現されている。

  (A)登場人物達が体現する「政治」「民族」
    ●ジャン・クリストフ
       クリストフ・・・ ドイツを象徴
       オリヴィエ・・・ フランスを象徴
        ↓↑
    ●魅せられたる魂
       アンネットとマルク・・・ 西欧諸国を象徴
       アーシャ     ・・・ソビエト・ロシアを象徴

   (B)登場人物達が体現する「人間像」
    ●ジャン・クリストフ
       クリストフ・・・ロランが<こうあるべきだと考えた>人間の形象
       オリヴィエ・・・<現にこうある>自分(=ロラン)という人間の形象
        ↓↑
    ●魅せられたる魂
       アンネット・・・<こうあるべきだと考えた>女性の形象、いわばロランの理想の女性像
       マルク  ・・・社会と個人の対立という問題で悩むロランの個人主義者の側面


4.その他
 ロランを通してベートーヴェンの音楽に傾倒。その様子は今江先生の著作「雲を笑い飛ばして」の古山先生の音楽好きにも反映されている。(「読書会補助資料2(2009.7.25) ロマン・ロランをめぐる人々―今江祥智先生―」参照)


(以上)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆