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   ☆ 上橋菜穂子 講演会 〜自作のファンタジ−とアボリジニを語る〜 ☆                               

                                2001年1月20日   三芳町立中央図書館にて

 『守人シリ−ズ』の作者である上橋さん。「バルサのように強そうな人」と勝手にイメ−ジしていたけど、第一印象は「やさしそうな普通の人だ〜」と思いました。

 東京で生まれた上橋さんの子供時代は、体が小さく、弱い子供で、風邪をひいて病院に通い、行った病院でまた病気をもらってくる・・・の繰り返しだったそうです。
物語との出会いはおばあちゃん。たくさん昔話を聞かせてくれた。それは地方で語り継がれたようなお話で、とても話好きで上手だった。時には平家の落ち武者の幽霊の話などもあって、怖かったけど、楽しかった。
また、おばあちゃんは柔術の師範だったおじいちゃんの話もしてくれて、小さい体の人が大きな体の若者に勝てるのが格好いいと武術や格闘技が大好きになった。自分でも格闘技や武術がやりたかったけど、九州生まれの父に反対され、出来なかった。中学の頃には、リストバンド式の重りをつけて、こっそり鍛えていたこともあったそうです。(色白で小柄な上橋さんからは想像できないけど)

 児童文学では、中学の時に出会ったロ−ズマリ−・サトクリフが大好きで、作者が「女の人で、しかも体が不自由」だと知ったときには、「体が不自由なのに、草のにおいや、夜露の冷たさなどが、まるでそこにいるかのように、伝わってくる文章がかける」ことに感動したそうです。その他にも『指輪物語』や『ナルニア国物語』なども大好きだった。
 ある時、『グリ−ンノウ』の作者ボストン婦人に手紙をだした。(英語が苦手だったので、帰国子女の友達に代筆してもらった)そこに、「私はいつか必ず作家になりたい」と書いた。しばらくしてボストン婦人から「夢は持ちつづけていれば、きっとかなう」という返事が来た。また、「あなたは英語が上手ですね」とも・・・・

 マンガ家になりたかったけど、父がプロの画家で、マンガを軽蔑していたので、隠れてこっそりと練習していたこともあったそうです。(またまた、こっそり・・・・)

 大学は史学科。ところがそこで文化人類学にはまってしまった。修士課程では沖縄地方の巫女さんのことなどをやっていたそうです。(沖縄の巫女といえば、「パガ−ジマヌパナス」や「レキオス」だ!と思った私)またその後いろいろなきっかけでアボリジニと出会います。


------オリンピックの聖火の点灯のビデオやスライドを観ながらアボリジニについての話-------

 アボリジニは5万年前からオ−ストラリアにすんでいた。いっぽう白人は200年くらい。
それなのに、白人はアボリジニを野蛮だと人間扱いすらしなかった。
アボリジニを人間としてみとめるようになったのは、ここ30年くらいのこと。
(このあたりのお話は、私自身に知識がなく、うまくまとめられないので、上橋さんの著書「隣のアボリジニ」を読んでください。)

 スライドでは、エミュ−の解体の過程などを見ました。カンガル−、ゴアナ(大トカゲ)はおいしかったけど、エミュ−はまずかったそうです。ゴアナは食べてみたいな〜
(普通のキッチンにボ−ルに入って料理されるのを待つカンガル−のしっぽ、とか、体調1m近いおおとかげを持っている上橋さん、とかエミュ−が羽根をむしられ、内臓をだされ、丸焼きされる過程とか・・・・アボリジニの方々など、興味深い、楽しいスライドでした。)

 アボリジニについては、全然知識がないので、今度是非、「隣のアボリジニ」読んでみなければ、と思っています。

 また、本の話にもどって・・・・
「月の森に、カミよ眠れ」を書いたころはテ−マがしっかりあって、それについて書きたい、と思っていたけど、しだいに物語で楽しみたい、と考えかたが変わってきた。アボリジニを例にとっても、人はどこで生まれたか、誰の元に生まれたか、で人生が変わってしまう、出だしから不公平なものだし、努力すれば必ず報われるというものでもない。それでも、そんな自分の不幸を乗り越えて、自分より小さい者を守るという気持ちを持つということを、バルサに託した。また、イギリスの児童文学の影響から、「世界があって、その世界が肌で感じられるような物語」を書きたいとも思うようになった。
 レンタルビデオの予告で「バスが止まって、中年のおばさんが男の子の手をひいてタタタッと駆けて行く」という場面を見て「中年のおばさんが男の子を守る話」のイメ−ジができた。また、格闘技や武術が好きなので、中年のおばさんが槍を振り回すというイメ−ジもあってそれがバルサになった。あとは主人公が動き出すのを待つだけ。こうして『精霊の守人』はわりと安産で生まれた。
『闇の守人』『夢の守人』はなかなかイメ−ジが浮かばなくて苦労したそうです。
今後の予定は、チャグムが主人公の物語が、たぶん今年中にでるとのこと(もう書きあがっているそうです)

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質問タイム

 
Q・先生は食べるのがお好きなんですか?

 A・自分でも食べるのは好きだし、そういうシ−ンを読むのも好き。日本の児童文学では残念なことに、食べるシ−ンが少ないように思うので、意識して書いてます。

 Q・最近小6の子供が「なんのために生きているの?」と聞きます。
  先生ならどう答えますか?

 A・私も小学6年くらいから、大学くらいまで、よく虚しいと感じていました。
  何故、虚しいと思ってしますうのか、それは価値があると思っているものが間違っているからだと思う。
  たとえば、明日自分が死んでしまったら何も残らない、と思うと虚しくなる。でも、何かを残すこと、に価値があるのではなく、毎日を暮  らしていることにこそ価値がある。 ○○をしてうれしい、楽しい、ということが生きていることだと思います。
  でも、答えは人から貰ってはいけない。自分で考えて、ズレてきたら修正するもの。
 
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 まだ、いろいろな質問があったのですが、ちゃんとメモをとっていなかったのでこれだけ・・・・

 お話を伺ったあとの印象は「穏やかな声でわかりやすい言葉で話す、さすが先生をしてらっしゃる方だ」ということ。今回は小学生も聞きにきていたので、それを意識なさったのでしょうか。また見た目は小柄で色白でやさしそうですが、弱弱しいわけではなく、芯の強いしっかりした方でした。このあたりはバルサに通じる部分かもしれません。(強さがないと、ひとりでオ−ストラリアに行ったり、おおとかげやカンガル−を食べたりできないですものね)
漫画もお好きだったようなので、どんな漫画を読んでいたのか、お聞きしてみればよかったな〜と今ごろになって思います。
頭の中で映像、絵としてイメ−ジしやすい文章は「まず、あるイメ−ジがあってそれをふくらませると、物語はむこうからやってくる」という作品の書き方と、漫画家を志して練習していたことで、「物語を絵で表現する」ことに慣れていることからきているのかな、と思います。
とても和やかで、楽しいあっという間の2時間でした。
最後に『闇の守人』にサインまでしていただきました。うれしい!

 私のレポ−トでは、様子がうまく伝えられませんでしたが、上橋菜穂子さんはとてもステキな方でした。


<著作紹介>
  「精霊の木」 金成泰三 絵  偕成社  1989年
  「月の森に、カミよ眠れ」 金成泰三 絵 偕成社 1991年
  「月の森に、カミよ眠れ」 (偕成社文庫) 金成泰三 絵 偕成社 2000年
  「精霊の守人」 二木真希子 絵 偕成社 1996年
  「闇の守人」  ニ木真希子 絵 偕成社 1999年
  「夢の守人」 ニ木真希子 絵  偕成社 2000年
  「隣のアボリジニ」(筑摩プリマ−ブックス) 筑摩書房 2000年