第0回 八甲田山事件のための予備知識

【 ストーリー 】──────────────────────────
──────────────────────────────組織と階級

<陸軍組織編成>
          [第2軍]
           ┃
         [第8師団] 参謀長 中村大佐
           ┃
         [第4旅団] 旅団長 友田少将
           ┃
  ┏━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┓
  ┃                  ┃
[第5連隊] 連隊長 津村中佐    [第31連隊] 連隊長 児島大佐
  ┃                  ┃
[第2大隊] 大隊長 山田少佐     [第1大隊] 大隊長 門間少佐
  ┃                  ┃
[第5中隊] 中隊長 神田大尉     [第2中隊] 中隊長 徳島大尉
 煩雑さを避けるため、映画に関連する組織と人物だけを表示しています。



<陸軍階級序列>

総称    階級   役職   配下人員

    ┏━[大将]  軍司令官 数万人
将 官━╋━[中将]  師団長  10000人
    ┗━[少将]  旅団長  5000人

    ┏━[大佐]  連隊長  2000人
佐 官━╋━[中佐]  大隊長  800人
    ┗━[少佐]  大隊長  800人

    ┏━[大尉]  中隊長  200人
尉 官━╋━[中尉]  小隊長  50人
    ┗━[少尉]  小隊長  50人

准士官━━━[特務曹長]

    ┏━[曹長]  小隊長  50人
下士官━╋━[軍曹]  分隊長  10〜20人
    ┗━[伍長]  分隊長  10〜20人

    ┏━[上等兵] (以下、役職・配下なし)
  兵━╋━[一等兵]
    ┗━[二等兵]

【 アナリシス 】──────────────────────────
─────────────────────────────職能資格制度

◆陸軍は、明治初期にドイツの軍制を模範として制度を取り入れました。階級
呼称は律令制の官職に順じて命名されています。
 階級と役職はこのようにきっちりリンクしているわけではなく、大体の目安
に過ぎません。配下の人員についても同様です。

 後のストーリーを理解するために重要なポイントだけ押さえておきましょう。

○ 少尉以上を士官または将校と言う。
○ 特務曹長も准士官として士官扱い。
○ ノンキャリアの多くは准士官まで。
○ キャリア組は少尉から。
○ 見習士官は階級にはないが、兵学校卒の少尉候補生のことで、エリートの
 スタート地点。
○ 下士官以上が自ら職務として軍人を選択したもの、兵は召集され兵役を担
 わされたもの。

 これらが、後のストーリーに出てくる隊員構成に重要なポイントになります。

 ちなみに、「鬼軍曹」という言葉から、軍曹は威張り散らしているイメージ
がありますが、階級の序列ではかなり下位に位置しているのが分かります。軍
曹は新米一等兵の教育訓練を任されることが多く、その厳しさから「鬼軍曹」
の呼び名が生まれたようです。

◆軍隊には、職位と階級という2本立ての序列があるのが特徴的です。
 職位というのは、連隊長とか大隊長というもので、役職のポジションを表し
ます。階級というのは、大佐とか大尉とかいうもので、個人のポジションを表
します。
 軍隊は特に序列を重視する組織なので、役職とは別に一元化された階級で
きっちり上下関係を明示する必要があるのでしょう。
 たとえば、第8師団参謀長と第4旅団長、役職名だけだとどちらが偉いのか
分かりにくいのですが、参謀長は中村大佐、旅団長は友田少将という階級が分
かれば、序列は一目瞭然ですね。

◆これは、現在の企業における「職能資格制度」とよく似ています。
 職能資格制度とは、職務遂行能力に基づく、従業員の処遇・序列の制度。部
長とか課長とかいう職位による昇進体系とは別に、参事とか主事とかいう職能
資格による資格体系からなり、能力主義人事の一種です。
 なぜ、職能資格制度が注目されるようになったか。
 その原因は、中高年層の増大にあります。

安定成長期に入り組織が拡大しない。
↓
高度成長期に採用した団塊の世代が分厚い中高年層を形成している。
↓
ポスト不足が起きる。
↓
昇進の可能性を失った者のモラール低下。
↓
組織活力の沈滞。
↓
年功賃金による人件費の割高感増大。

 職能資格制度のねらいは、年功的人事から能力主義人事へ転換することと、
従業員にインセンティブを与えることです。
 インセンティブを与えるというのは、ポスト不足で昇進の可能性がなくなっ
たとしても、多段階の職能資格を設けることで、「昇格」する可能性を示し、
従業員のやる気を引き出すということです。
 この職能資格制度も、現実には運用が難しく、近頃はその限界が指摘されて
います。
  
◆また、役職名と階級名の使い方について触れておきましょう。
 上官が部下を呼ぶときは、「神田大尉」というように、「名前+階級名」で
呼びます。逆に、部下が上官を呼ぶときは、「中隊長殿」というように、「役
職名+殿」で呼びます。
 映画の中で、いろんな呼び方をされるので、それが誰のことを言っているの
か注意しないと混乱してしまうことがあります。
 軍隊のような典型的なピラミッド組織では、ある人にとって上官は必ず1人
しかいないので、名前を呼ぶ必要がなく、役職名だけで足りるわけです。ある
いは、目上の人を名前で呼ぶというのは畏れ多いという感覚が日本の文化にあ
るためかもしれません。
 逆に、部下の方は、大抵、複数いるので、名前を呼ぶ必要があります。その
時、「神田中隊長」ではなく、「神田大尉」となります。会社組織で「山田部
長」「神田課長」と呼ぶように、「神田中隊長」という呼び方でもいいような
気がしますが、そのような言い方は出てきません。「中隊長」というのは、組
織のポジションを表す標識なので、個人名を呼ぶときには個人の序列を表す階
級名をつけるという習わしなのでしょうか。