GLN 宗教を読む

聖書の起源

◆神との契約を更新する
 物語の意図は、どこにあったか。それは神との契約の更新にある。 申命記によると、このシケムの契約は、 モーセの遺志によるシナイ契約の再確認であったという(申命記一一・二九−三〇、同じく二七章)。 ヨシュアはモーセにしたがって、契約を更新したのである。 同様の記録は、ヨシュア記八章三〇−三五節にもみられる。
 ヨシュアはシケムに近いエルバの山に祭壇を築き、契約確認の祭りを厳粛に執行した。 彼はモーセの書きしるした律法を、民の前で石に書き写し、それをことごとく朗読する。
モーセが命じた言葉の中で、読まなかったものは一つもなかった
 
 シケムの集会が、契約締結の祭りであり、しかもシナイ契約の更新であったことを、疑うことはできないだろう。 ヨシュアの契約は、モーセのそれの反復なのだ。 ヨシュアは、モーセのように、会衆にむかって語りかける祭司として、祭壇の前に立っていた。 彼の朗読する言葉は、神の救いと恵みについての圧縮した告知からなっており、 それは会衆の心に、過去の出来事についての記憶をよびさますこと、つまり想起にむけられている。 それは、言葉の本来の意味において、神話(ミュートス)であった。
 マルチン・ノートは、シケムの場合も、シナイの場合も、伝承は基本的に、 祭りの執行の詳細に関する忘備録であったという(M・ノート『契約の民 その法と歴史』一九六九)。 祭りの本質は、その正確な反復にあるからである。
 神話は、反復朗読されることによって、歴史性を獲得し、現実性を獲得する。 想起とは、こうした歴史化と再生作用をいうのである。

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