* 武士の教育および訓練 武士の教育において守るべき第一の点は品性を建つるにあり、思慮、知識、弁論等知的才能は 重んぜられなかった。美的のたしなみが武士の教育上重要なる役割を占めたことは、前に述べた。 それは教養ある人に不可欠ではあったが、武士の訓練上本質的というよりもむしろ付属物であった。 知的優秀はもちろん貴ばれた。しかしながら知性を表現するために用いられたる「知」という語は、 主として叡智を意味したのであって、知識には極めて付随的地位が与えられたに過ぎない。 武士道の骨組を支えたる鼎足は智仁勇であると称せられた。武士は本質的に行動の人であった。 学問は彼の活動の範囲外にあった。彼は武士の職分に関係する限りにおいて、これを利用した。 宗教と神学とは僧侶に任され、武士は勇気を養うに役立つ限りにおいてこれに携わったに過ぎない。 イギリスの一詩人の歌えると同じく、武士は「人を救うは信仰箇条でなく、 信仰箇条を正当化するは人である」ことを信じた。哲学と文学とは彼の知育の主要部分を形成した。 しかしながらこれらの学修においてさえ、彼の求めたるものは客観的真理ではなかった − 文学は主として消閑(しょうかん)の娯楽としてこれを修め、哲学は軍事的もしくは政治的問題の 解明のためか、しからざれば品性を作る上の実際的助けとして学ばれたのである。 …… |
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